バイロイトの日本人

 今日では、世界中何処に行っても日本人の居ない所はない。ここバイロイトにも何人かの日本人が居る。まず指揮者の岡本和之君を紹介しよう。岡本君は、東京芸術大学指揮科を出たエリートだ。この夏までダルムシュタット歌劇場で働いていたが、今秋からレーゲンスブルク歌劇場の第一カペルマイスターに昇進し、もうすぐ引越しをする。彼がドイツに来る前によく僕とは一緒に仕事をしていた。日生劇場での「トリスタンとイゾルデ」で、共にペーター・シュナイダーのアシスタントを務めた時などは、シュナイダーや他のバイロイト歌手達に、「君たち、このままでもう立派にバイロイトで仕事が出来るよ。」と言われ、二人で胸を熱くしたものだった。それがこうして本当にバイロイトで再会出来るとは不思議な気がする。彼は7月31日までの前期だけの契約で、アシスタントコンダクターとして来ている。

 次に紹介するのはソプラノの井垣朋子さん。彼女は唯一の日本人合唱団員である。偶然な事に彼女は岡本君と芸大時代の同級生だという。学部を卒業してすぐにドイツに渡り、もう長くケルンの歌劇場で合唱団員として働いている。バイロイトへは今年で3年目だ。

 オーケストラには、真峯さんというヴァイオリニストがもう何十年も前から居る。ベルリンのドイツ歌劇場に務めている彼は、僕がベルリンに留学していた80年代の初めにはもうバイロイトに来ていたのだ。彼はよく「ここのオケで弾くと、まわりが凄い音を出すので自分の音が聞こえなくて困る。」と言っている。確かにここのオケの弦楽器の重量感はハンパじゃない。

 オーケストラの正規メンバーではないのだが、エキストラ・トランペットには、昨年も一緒にフランケン料理を食べに行った武内さんが居る。今年はまだ来ていないが、7月に入ったら顔を見せるだろう。

 僕の知っている限りではこの4人が全て。僕を入れて5人が、今年のバイロイト劇場で働く事になる。あ、そうそう。「トリスタンとイゾルデ」の衣裳を、あの有名な山本耀司さんが担当していたっけ。会った事ないけど。すると6人だ。

 働いているという訳ではないが、決して忘れてはいけないのは花田夏枝さんの存在だ。二年前、新国立劇場での「ローエングリン」の立ち稽古の時、通訳としてあのフランケンなまりの強いヴォルフガング・ワーグナー氏の言葉を一語漏らさず訳すのに、一同舌を巻いたものだった。それもそのはずで、彼女はプライベートな意味でもワーグナー家と親密なのだ。特に夫人のグートルン・ワーグナーと仲が良く、日本人でバイロイト劇場に顔パスで入れるのは花田さんぐらいだろう。彼女はちょうど夫人がヴォルフガング・ワーグナー氏と再婚した頃、バイロイトに合唱団員として入ってきた。夫人が言うのには、当時新米同士でお互い助け合ったのだそうだ。
花田さんの戸籍上の名前は、Natsue von Stegman(ナツエ・フォン・シュテークマン)と言って、ギムナジウム(高校)教師をしているシュテークマン氏の夫人であり、今年も演出助手でバイロイトに来ているマティアス・フォン・シュテークマンのお母さんでもある。住まいはミュンヘンにあって、何かというとひょこっとバイロイトに現れる。

 バイロイトの日本人といえば、古くはソプラノの河原洋子さんや、指揮者の飯守泰次郎さんを思い出す。最近では演出助手の高島勲さんの活躍が、我々の記憶に新しい。共通しているのは、みんな優秀で、ここの人達に好印象を残していることだ。それらの人達の末席に連なっている僕も、先人たちに負けないよう頑張ろうと思う。

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