6月26日(土)

 塔のモニターテレビから見ているだけだが、バレンボイムの棒は実に音楽的だ。図形が美しいとか、振る姿がエレガントだとかいうわけではないけれど、彼も天性の音楽家だと思う。見ていて結構テクニックを盗めるし、フレーズの作り方など影響を受けそうだ。

 今日は第三幕歌合戦の場面のオーケストラ付舞台稽古だ。本舞台での練習は、ピアノの時とオーケストラの時とでは雰囲気がまるで違う。ここのオーケストラは本当に素晴らしい。音の充実感はあるし、ファンタジーに溢れていて、欲しい時に欲しい音色を出してくれる。そのオケのサウンドが、舞台下に隠れたピットから立ち上がってきて、劇場全体を包み込む時、ワーグナーが楽劇という総合芸術で何を表現したかったのか理解出来る気がする。音楽だけでも、演劇だけでも成し得なかった新しい表現空間を創造したかったのだ。

 合唱団員達の顔つきもオーケストラが入ると変わってくる。ピアノ稽古だといかにも練習という感じで段取りを追っているだけだったのが、オケの音が劇的空間を作り出すと、とたんに彼等の演技が光り輝いてくるように感じられる。彼等のそうした感性もまさに一流のプロの証といえるが、ワーグナーの音楽の空間への支配力もそれだけ凄いんだろうと思う。

 ワルターを歌っているのは、昨年第三幕でキャンセルしまくったペーター・ザイフェルトだ。今年はこの録画の為だけにやって来た。録画だからスタミナ配分の心配がないというわけか?本公演は全てロバート・ディーン・スミスにやらせて、それじゃいいとこどりじゃないの。昨年よりは少し声の調子はいいみたいだけれど・・・・。

 練習が終わってふと客席を見たら花田夏枝さんが居る。バラッチと親しそうに話しているので、挨拶をしに行った。花田さんったら、僕の居る前で「三澤さん、どうですか?」なんて聞くからハラハラしてしまった。でもバラッチはすかさず「Phantastisch!(素晴らしい)」と答えてくれた。バラッチは、練習の時は誉めもけなしもしない人なので、自分の事をどう思っているのか気になっていただけに彼の言葉は僕を天にも上らせた。バラッチが去ってから花田さんは僕の方に向き直って、
 「あなた!よかったじゃないの、バラッチに気に入ってもらえて!」と嬉しそうに言ってくれた。

6月27日(日)

 マイスタージンガー第三幕歌合戦の録画撮りが、12時〜13時15分と、19時〜20時30分の二回にわたって行われた。その間をぬって3時15分から合唱練習場でバラッチの音楽稽古。僕が弾く。「さまよえるオランダ人」をざっと通して、「ローエングリン」の第三幕をやった。

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