6月28日(月)

 ベルリン国立歌劇場のフリードリヒは、最初変な奴だと思ったけれど、仕事はマリーやヴィーデブッシュなんかより良く出来る。ピアノもそこそこ弾く。彼が練習をつける時は、まるでディスクジョッキーのようにベラベラとしゃべりまくり、みんなに考える間を与えず、ぐいぐい自分のペースに持っていく。いわゆる超はったりかまし屋だけれど、意外とみんなの気持ちをつかんでいる。日本ではどちらかというと嫌われてしまうタイプだ。こういう違いが面白いなあ。

 「さまよえるオランダ人」の亡霊達の初心者稽古を、僕がピアノを弾きながら一人でつけていたら、女声合唱の練習を終えてきたマリーが突然乱入してきた。あと一回通しして終わるところだったのに、「続きを私がやる!」と言って、強引に僕にピアノを弾かせて稽古をつけ始めた。時間が過ぎても終わらないので、事務局のハイトブリンクさんが「もう止めろ!」と怒鳴り込んできた。マリーは何となく僕の事が面白くないんだろうなあ。1年目なのにでしゃばって、なんて思ってるのかもしれない。ふん、なにさ!

 本舞台では、第二幕「喧嘩の合唱」の練習。僕は舞台下手側のザックスの仕事部屋のセットの裏側に居る。この場面では、合唱団の半数が表舞台で激しい動きをしながら歌い、あとの半数は裏で動かないで歌っている。こちらサイドは表舞台の人達のフォローだ。フリードリヒがやるのを僕は横で見ている。ワーグナーの全ての合唱曲の中で最も難しいといわれるこの個所だが、それにしても信じられないくらいぐちゃぐちゃで気が狂いそうになる。どうして?と思ってあたりを見回すと、背景にスライドを映す為の巨大なスクリーンが舞台後方を覆っている。そのスクリーンが球形に曲がって我々を包み込んでいるために、音が乱反射して舞台上をグルグルまわっているのだ。バラッチが何度も止めて注意をしたとて何の効き目もない。ピアノとも合っていなければ団員同士でもいっこうに合ってこない。そのうち「ようし、今のが一番良かった!では練習終了。」だって。「はあ?」って感じだ。

 休憩の時に合唱小練習場でピアノをさらっていたら、サンドラというアメリカ人のソプラノが入ってきた。
 「友達が練習場所がなくて困っているのだけど、ちょっと場所を空けてくれないかしら?」
と言う。彼女の後ろを見ると、どこかで見たことのある顔がある。
 「友達のシェリル・ストゥーダーよ。こちらはヒロ、すごく優秀な合唱アシスタントよ。」
 「よろしく!こんな風にしてお知り合いになれるとは思わなかったなあ。僕はアバド指揮のウィーン国立歌劇場のレーザーディスクであなたの伯爵夫人を見てから以来のファンですよ。」
 「まあ、うれしい!」
その後いろんな話をしてすっかり仲良くなった。最初はドイツ語で話していたはずが、気がついてみると英語になっていた。ここにいるとこんな風に何気なくいろんな人と友達になれちゃう。バイロイトってなんて素晴らしい所なんだろう!

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