7月2日(金)

 今日は一日「さまよえるオランダ人」の立ち稽古。昨年すっかり感心してしまったディーター・ドルンの演出だ。彼の才能は外側から見ていても良く分かったけれど、こうしてスタッフの一員となってじっくり見ていると、実に驚くべき人物である事を再認識する。彼は自分でアクションをしながら能率よく合唱団をうごかしてゆく。彼のアクション自体も素晴らしくしなやかなのだが、彼の横にはさらにアクションの専門家がいて、こんな動きの時は何処にどのように力をいれるのか、あるいは何処の力を抜くべきなのかを丁寧に説明している。無駄のないテンポ感のある練習場だ。合唱団員達もこういう風に指導されると、すべてのシーン、すべての動きに納得がいって精神的にとても気持ちよく仕事をしている。先日知り合いになったシェリル・ストゥーダがゼンタを歌っている。稽古の合間にペットボトルの水をガブガブ飲みながら、その太い体をゆすって演技する。やっぱりかなり吠えている。少し力を抜けば本当に美声なのに。
 第三幕の亡霊の合唱の所では、少し離れた所でマリーが団員を集めて、アシスタントコンダクターの指揮を中継して振っている。その振る姿が物凄い。ありったけの力を振り絞って大ぶりをしている。今にもそのまま心臓発作で倒れるんじゃないかと心配してしまうほどだ。マリーそのものが亡霊のようだ。一人で笑いをこらえていたら、ふと井垣さんと目が合ってしまった。彼女も笑っている。
 下手でフォローしている僕の指揮が分かりやすいとみんな言いに来てくれる。僕がずっとハシゴの上で振っているので「怖くないの?」と聞いてくる女の子もいる。一人の初心者団員などは、僕の乗っているハシゴを揺すりながら「お前の指揮、凄いぞ!凄いぞ!」と叫んでいる。あぶねぇんだよう、どうでもいいけど。
 練習が終わって出口でマリーに会った。「君は今日一日ハシゴのうえのオランダ人だったね。」だってさ。「あなたは心臓発作直前の亡霊でしたね。」と喉元まで出たけれど必死でこらえた。

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