7月3日(土)

 「ファルスタッフ」が終わった。実に楽しい舞台で名残惜しい。悲劇作家ヴェルディが80歳にしてこのようなバイタリティに溢れた喜劇を書くのも凄いし、その喜劇はロッシーニなどと違って、やっぱりヴェルディだけあって人生の機微というか、なんかあるなあ。それより、「マクベス」、「ファルスタッフ」と続いてみると、つくづくシェークスピアは偉大だなと思う。シェークスピアに関しては、いろいろ言いたいことがあるが、またいつかゆっくり書こう。

 指揮者のダン・エッティンガーは33歳という若さだけれど、ただものではない。舞台上で何が起こっても動じないし、一筋縄でいかないベテラン歌手達とのつきあい方、駆け引きもとても上手だ。とにかくあの歳で自己を確立していて迷いがない。彼はこれから飛ぶ鳥を落とす勢いでヨーロッパ音楽界に躍り出て来るだろう。楽しみな人材です。新国立劇場にはまた来年「コシ・ファン・トゥッテ」で来るよ。

 巷では、ノヴォ・シーズンのイタリア・オペラにイタリア人歌手がいないのを否定的に見る風潮がなくもないが、少なくとも「ファルスタッフ」に関しては、僕は今回のキャスティングはこれで悪くなかったと思う。イギリスの物語だからね。ミラーの演出からも英国風(あるいはオランダ風)の雰囲気が出ていて格調高かった。舞台美術も写実のようでいながら、ちょっとおしゃれにシュールが入っていたりして、ギャグをかましても決して下品にならず、後味が実に良い。
ヴァイクルのファルスタッフはハンス・ザックスみたいだった。一般的にはもっとアホっぽいキャラが望まれるんだろうが、これもありではないかな。

 ちょっと臨時収入があったので、スコア作成に使っている自作パソコンの音をもうちょっと良くしようと思って、かねてから密かにねらっていたボーズのスピーカーを買った。ついでにサウンド・カードも増設してみた。自作パソコンって、メーカー品よりほらこんなにお得なんだよ、と家内には強調しているけれど、実際にはこんな風にちょっとずつ増設を重ねていく内に、あれれ、あんまし変わんねえや、という展開になるもんですねえ。これは家内には内緒です。
でも、お金出しただけの価値はあったね。これまで使っていたEDIROLのスピーカーを後ろに置いて4チャンネルにしてサラウンドして喜んだりして、夜中に家族に「うるせえぞう!」と怒られたりしてもめげずに、パソコンらしからぬ音に酔っています。でもこうなるとFinaleで音符書くのが、プレイバックの音を聴く為の手段みたいになって、少し書いては音を聴いて「うひひひ!」と喜んでいるので、最近スコアがいっこうに進みません。誰かこんな僕をなんとかしてください!

 夜中にコルトレーンのバラードを聴く。なんともいえないリリシズムだ。器用な音楽家ではないので、口当たりの良い甘さに欠けるが、まるで無愛想な職人がふと微笑んだ時のように、にじみ出てくるやさしさが胸を打つ。

 僕が最も尊敬する音楽家はマイルス・デイビスである。マイルスに関しては言いたいことは山ほどあるが、ここはブラームス関係のホームページなので、あまり深入りはしない。でも、もうちょっとだけしゃべる。(おいおい、いっこうにブラームスが現れませんね。ブラームスを期待してアクセスした方、ごめんね。)
マイルスが他のジャズメン達と一番違うところは、彼のソロがソロとして完結しないところにある。彼はソロを途中で放り出し、他のプレイヤーに投げる。するとバンド全体が「おっとっと!」とそれを受けて発展させる。受けられないプレイヤーは失格だ。だからマイルスのバンドは普通じゃない。インスピレーションとコミュニケーションに満ちている。このふたつこそがね、演奏の原点なんだ。このふたつがない演奏が世の中に多すぎるだろう。だからクラシックは駄目なんだ。
こうやってマイルスは新米のプレイヤーも育てる。ファンタジーのキャッチボールをしながら、ひとつひとつ教えていく。口で教えるのではない。何も言わなくても分かるのだ。

 コルトレーンがマイルスのバンドに入った当時は、「あんなヘタクソなサックスはすぐクビにしろ!」とみんなに言われたそうだが、マイルスは本当に人を見る眼があるな。
 コルトレーンのハーフトーンによるささやくような響き。これはマイルスから盗んだものに違いない。ゾクゾクするほど美しい。

 甘さを排除したところに真のリリシズムがある。マイルスもコルトレーンも僕にそれを教えてくれた。あ、そういう意味ではバッハのゆっくりな曲もそうだね。厳しい故に美しい。じゃあ、ブラームスはあ?
う、うん・・・まあ・・・。第三交響曲の第三楽章なんか好きなんだけどね・・・。
甘いね。
あっ!
駄目だよ。そんなこと言っちゃあ!
ブラームスの事は一度ゆっくり書くからね。(今日はゆっくり書きたい人が多いですね。)

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