7月10日(土)

 京都のワグネリアンの錦職(きんしょく)さんからマイゼルス・ヴァイス・ビールが届いた。これはバイロイトの地ビールなのだ。丁度バイロイトを恋しく思っていたところなのでめちゃめちゃ嬉しい!
ヴァイス・ビールとは直訳すると白ビール。この地方では小麦ビール(一般的にはヴァイツェン・ビールと言う)のことをこう呼ぶ。夏にはなんと言っても喉ごしの良い小麦ビールさ。昨年のドイツはとても暑かったので、僕は毎晩このビールを飲んでいた。ああ、なつかしい!この味!酵母が生きているんだよ。僕の瞼の奥にはバイロイトの爽やかな夏空が浮かんでいた。
折しもアルトの小山由美さんからメールが届いた。
「三澤さんのいないバイロイトなんてつまんない!」
嬉しいね。まだバイロイトの仲間達から忘れられてないね。

 錦職さんは、毎年バイロイトに出没しているバリバリのワグネリアンだ。日本ワーグナー協会ではじれったいので、直接ドイツのワーグナー友の会に入っている。いつもチケットを持たずにバイロイトに来るのだが、いろんな手を使って毎年当然のように切符を手に入れ、公演を見ていく不思議な人だ。奥さんは京都でイゾルデという料理屋を経営している。この店にはバイロイト祝祭合唱団指揮者エバハルト・フリードリヒも来た事がある。って、ゆーか、僕が送り込んだんだけど。
フリードリヒがベルリン国立歌劇場と来日した際、京都に行ってみたいと言うので、錦職さんを紹介したんだ。イゾルデでみんなと楽しく語り合った後、祇園に連れて行ってもらってベロンベロンに酔っぱらったらしい。でもとても喜んでいた。特に舞妓さん達の白塗り化粧にある種の人工美を感じたと、他のドイツ人達相手に得意になってウンチクを述べていたっけ。

 錦職さんはその後、ワグネリアンなのに浮気にも昨年京都ヴェルディ協会なるものを立ち上げ、僕はおかげで「ワーグナーとヴェルディ」というタイトルの講演会をしなければならなかった。ワーグナーとヴェルディなんて、両者ともそれぞれの方法でドラマと音楽との接点を追求したという点では一致しているものの、その他にはほとんど何の共通点も見いだせないほど作風も美学も違うので、講演の準備には実に苦労した。
でも、
「ワーグナーとヴェルディに共通点を見出そうなんて、あんた達バッカじゃない?」
と言うわけにもいかず、いろいろ屁理屈をつけてその場を乗りきったよ。多分最後はワーグナー礼賛になっていたよなあ。ああ、今思い出しても冷や汗が出る。ヴェルディ・マニアの人は気を悪くしたかな。ごめんなさいね。でも誤解しないで下さい。僕は両方好きなのです。ワグネリアンなのは若い時からだけど、ヴェルディのドラマに向かう率直さはたまりません。

 昨晩家に帰ると、娘二人が自作ミュージカル「ナディーヌ」の「大都会」というナンバーを練習していた。変拍子のところが合わなくて二人でお互いのリズム感の悪さを言い合っていたが、聴いてみたら二人とも違っていた。あちゃーっ!ヤバイね。これから特訓だな。
 上の娘は試験でプリミエ・プリ(一等賞)を取ったばかりなのでゴキゲンでパリから帰国したが、僕の曲は、バルトークあり、ラヴェルあり、ジャズあり、民族音楽やシャンソンありで作風の多様さについていけず、すっかりあせっている。
「パパの曲って、なんでこんなにぐちゃぐちゃにいろんなものが混じっているの?」
だってさ。
そう考えると僕のファンになる人も大変だなと思う。僕のバッハに惹かれてファンになってくれた人に、僕の「ドクター・タンタンのラップ」や「妖精サンバ」を理解してくれとはとても言えないもんな。僕が鈴木雅明さんのようにバロック一筋だったりすると分かりやすいんだがね。バッハ・ファンの中には、僕がオペラをやっていることすら許せないという人がいるだろうし、いても当然だと思う。そんな人に、主人公二人の別れのシーンに「愛のレクィエム」なんて題名をつけたりしたのがバレたら、
「あんた、レクィエムというものをどう思っているの?」
と激しく怒られそうです。

 でも、その方達には申し訳ないと思うけど、僕の中では全てが同居しているのです。僕はただクリエイティブな芸術や音楽が欲しいのです。
現代では、みんなただクォリティばかり求めて、創造性がおろそかになっています。僕は常に「無からなにかを新しく創造」したい。
ジャズはそんな僕に「築かれた典型」を拒否し破壊して、真の創造に向かう勇気を与えてくれるのです。

 さて、来週月曜日からは、子供オペラ「ジークフリートの冒険」の立ち稽古が始まる。カルメンの鑑賞教室は月曜日から金曜日まで毎日13時から開演。その間を縫って「ナディーヌ」もやる。いよいよ僕のスケジュールは人生最大の怒濤のような超多忙に突入するのだ。こうなったら体力勝負だ。国立「ナディーヌ」が無事幕が開き、「ジークフリートの冒険」が成功したら、僕は自分で自分を褒めてあげたい。みなさんも応援して下さいね。

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