巨石群にUFO飛来!?

 ウルフ・シルマーが来日し、「エレクトラ」の音楽練習が始まった。彼は、昨年のノヴォラツスキー芸術監督就任後、初の公演である「フィガロの結婚」を指揮し、その手堅いカペルマイスターぶりを発揮したのが記憶に新しい。
 しかしヨーロッパではシルマーというとむしろリヒャルト・シュトラウス指揮者として、それもとりわけ「エレクトラ」振りとして名高い。何故なら彼は若い時、ウィーン国立歌劇場でロリン・マゼールに見いだされ、彼の元で「エレクトラ」の副指揮者を務めている時に、代役で急遽「エレクトラ」を振ることとなり、それが彼の出世街道の始まりだったのだ。
 ちなみに、その頃一緒に将来に夢を託しながら、ウィーンで演出助手をしていたのが、我らがノヴォちゃんことノヴォラツスキーというわけだ。

 そういえば、(話は早くも脱線するが)ノヴォちゃんは最近僕のことをフランツと呼ぶ。僕が一時髪の毛を後ろで縛っていた時、
「お前はヴォルフガング(モーツァルト)よりフランツ(リスト)のヘヤースタイルの方がいいよ。」
と言ったので、僕が、
「僕のカトリック洗礼名はフランツ(アシジの聖フランシスコ)と言うんだぜ。」と答えたら、
「決めた!これからお前をフランツと呼ぼう!」
と彼は勝手に決めてしまったのだ。

 シルマーは歌手達をひとりひとり呼び、自分でピアノを弾きながら練習をつけていく。「エレクトラ」を知り尽くしている彼の歌手への指摘や助言は全て適切なので、あのベテラン歌手のカラン・アームストロングなどでも、驚くほど従順に従っている。フレージング、ブレスの位置、表現のアプローチ、そしてドイツ語の発音に関しても、ひとつひとつ丁寧に掘り起こしていき、解決していく。
「凄いな、シルマーのシュトラウスは。」
と、思わずノヴォちゃんに言ったら、
「な、ウィーンには小澤なんかよりもっとオペラのことを知っている指揮者が沢山いるってことよ。」
だって。
 こんなに素晴らしいシルマーだって、そんなに超有名人というわけでもないだろう。バイロイトなどでも経験しているけれど、こういう人材がヨーロッパにはうようよいるんだ。凄いな、やっぱりヨーロッパの懐の広さよ!まだまだ、我々が学ばなければならない事は山ほどあるよ。ナメたらあかんぜよ。ヨーロッパ!

 さて、せっかく「エレクトラ」のプロジェクトが始まったというのに、僕は全てを音楽ヘッド・コーチの岡本君に任せて、本格的秋休みに入る。
 実は皆さんがこれを読む頃、僕はパリにいる。仕事ではありません。バカンス。次の更新原稿はパリから送るからね。滞在はわずか一週間で娘の所に居候。25日(月)には日本に帰ってきて26日には午後から新国立劇場に出勤し、夜は東響コーラスの練習に出る。

 どうやら僕は時々ヨーロッパの空気を吸わないと駄目らしいのだ。今年の夏もずっと日本にいたから、自分の音楽がなにか違うものになってしまった感じがする。なんだろうな?国産レモンが限りなくカボスや柚子に似てくるような、そんな似て非なるものになってくるような感じがするんだ。気のせいかとも思うがそうでもないような気もする。
 オペラ・バスチーユで「ナクソス島のアリアドネ」を見ることは決まっているけれど、あとは仕事を離れてのんびりするの。
 最初はそれでもいろいろ考えていたんだ。ヨーロッパ滞在中にベルリンに飛んで、バイロイトの合唱指揮者でベルリン国立歌劇場合唱指揮者のフリードリヒに会ったり、合唱団の練習を見学させてもらったり、ベルリン・フィルの演奏会に行こうかとかね。それでいろいろ連絡取ったりインターネットとか調べたりしていたんだけれど、演奏会や練習日のスケジュールがうまくマッチしなかったりして悩んでいた。
 そうこうしている内に、これはきっと、そういうことをしにヨーロッパに行くのではないんだよ、と天が僕に語っているのかな、という気がしてきた。
 僕はとても直感的な人間だから、ふと気づいたら即決断する。僕の愛知芸大の教え子で、現在ベルリン国立歌劇場合唱団員に夫婦してなっている木下基樹君、美穂さんの家に泊めてもらう事になっていたけれど、
「ごめん!やっぱりベルリンに行くのやめる。」
と言ったら彼等もフリードリヒもドドドッ!とズッコケて、めちゃめちゃがっかりしていた。お騒がせしてごめんなさい!

 さて僕はその代わり、娘と二人でモン・サン・ミッシェルと、古代の巨石群があるカルナックに行くことに決めた。
 カルナックにはずっと行きたかった。ケルト民族が先史時代に作り上げた謎の巨石群。いいなあ、ゾクゾクっとするね。ああいう場所に行くと、僕ってとたんに精神が研ぎ澄まされてとても霊的になるんだ。
 レンタ・サイクルを借りてあたりをぐるぐる回り、石の上で瞑想してみようとか思ってる。巨石群の成立に関しては、太陽信仰の宗教儀式に使ったとか、はたまた宇宙人説まであるので、瞑想中にUFOが現れる可能性もあるな。僕たち親子をさらっていったらどうしよう。次の更新原稿はアンドロメダ星雲からお送り します、なんちゃってね。
 娘の志保は子供の頃から霊感が強く、いろんなものを見るので、かなりあぶねー旅になるかも知れません。変な家族でしょう。

 とにかく今自分の内面は、文明の中に行くよりも、むしろこうしたアプローチを渇望しているようだ。僕は元来、自己の内へ内へと向かうことでインスピレーションを得、自然の中で啓示を受けるタイプなのだ。内なる声はこう語っているように思える。
「日本を離れて魂の充電をしなさい。自然の中で啓示を受けなさい。」
 そんなわけで、少しの間日本を離れます。来週のフランス紀行を楽しみにね。
ダッ、ダッ、ダッ、ダダダ、ダッ、ユッ、フォー!

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