初鹿野君、本選進出おめでとう!

バイロイトからの電話
 ジーパンのポケットが震えている。携帯のマナーモードだ。出ようとしたら切れてしまった。着信番号を見ると49から始まっている。
「あれれ?」
不思議に思っていると、またブルブルと来た。
「先生!僕です。初鹿野です。」
いきなり割れるようなバリトンの声。
「おう!お前、ドイツからかけているのか?」
「受かりました。先生のお陰です!」
「なぬ?では本選に行くのか?」
「来年一月にヴェネチアに行きます。」
「本当か?やったなあ!」
「これから、先生がホームページで書いていたソーセージを食べに、ニュルンベルクに行きます。」
「あははは、お前ねえ、僕の更新原稿なんかのんびり見ている場合ではなかったろうが。」「いろいろためになってます。」
「嘘つけ。ま、とりあえずおめでとう!」
「ありがとうございます。真っ先に先生にお知らせしようと思って。」

 電話はバイロイトからだった。国際ワーグナー・コンクールがバイロイトで開催されているので気になっていた。日本ワーグナー協会からも代表としてアルトの三輪陽子さんが参加していた。その日本予選の審査員を僕が担当した話は、以前の「今日この頃」で書いたことがある。
 あの頃、僕からそのコンクールの情報を知ったカールスルーエに留学中の初鹿野剛君も、ドイツ国内から申し込み、コンクールを受けていた。その彼が見事合 格し、ヴェネチアで開かれる本選に進むというのだ。あーあ、こんな時にどうして僕はバイロイトにいないのだ!
 三輪さんは、残念ながら本選には進めなかったらしいが、もし僕が現地にいたら、そんな結果はともかく、終わった後、一緒にいろんなおいしいところに連れて行って、「お疲れ会」をして盛り上がったのにな。

朝日新聞の上坂さん
 今年のバイロイトは、大植さんが指揮する「トリスタンとイゾルデ」のお陰で、日本でもテレビ、新聞で随分取り上げられている。朝日新聞の文化部の記者、上坂樹さんも大植さんを取材する為にバイロイト入りした。上坂さんは、かつて朝日新聞の夕刊に、僕のドイツ・レクィエムの記事を大きく載せてくれた人だ。 彼は今回、大植さんだけでなく合唱団や劇場そのものの記事も書きたいと言って、出発直前、僕にコンタクトを求めてきた。
 僕は、現地の通訳を紹介したり、祝祭合唱団などに関する予備知識をいろいろ教えてやった。

 先日3回に分けて朝日新聞の夕刊に上坂さんの記事が載った。読んでみて、「上坂さん、頑張ったな!」と思った。現地で取材しなければ絶対に書けない素晴らしい記事が書けている。同時に、自分で言うのもなんだけど、僕の予備知識が随分役立っていて、それと実際の自分の体験とがうまく融合していた。

大植さん
 大植さんに関して、僕もいろいろ意見を求められる。全然面識はないんだけど、もし僕がバイロイトにいたらすぐに話しかけていっただろうし、今頃応援しているだろう。テレビ番組を見た限りで言うと、とても情熱的でパッションのある人だと思った。人をぐんぐん惹きつける力があるのは疑う余地がない。
 でも、一つだけ心配なことがあった。バイロイト祝祭管弦楽団というのは、何もしなくてもどんどん自分で音を出すオケだ。基本的に弾き過ぎてしまうオケだと言ってもいい。レヴァインをはじめ、バレンボイム、シノポリ、ティーレマンなど、誰も決して大振りしなかったのは、むしろこのオケの前では、みんなが弾き過ぎないようにバランスに留意して、センシティブでデリケートな音楽を作ろうとしていたからだ。
 それに対して、あのように情熱的に指揮をしたならば、他のオケはいざ知らずどうなんだろうな?楽員達はきっと喜んでどこまでも大きく演奏し、もしかしたら収拾がつかなくなってしまう可能性だってある。でも、僕は自分で本番を聴いていないので、想像だけでものを言うのはやめとこう。

年刊ワーグナー・フォーラム
 話がそれついでに、もうひとつそれるのを許してもらいたい。日本ワーグナー協会が一年に一度だけ出す研究雑誌「年刊ワーグナー・フォーラム」が発刊されて店頭に並んでいる。そこに僕の論文が載っている。今回の特集は「響き」。僕は偉大なる合唱指揮者ノルベルト・バラッチと、彼が作り出す祝祭合唱団の男声合唱の響きの秘密に迫ってみた。合唱をやる人は必読、なんちゃって。でも興味のある方はどうぞ買って読んで下さいね。

初鹿野君との共演
 初鹿野君の話に戻ろう。彼は、これから僕が指揮する演奏会に立て続けに出演する。9月25日の浜松バッハ研究会「マタイ受難曲」演奏会でバスのソロを歌い、12月には、モーツァルト200合唱団のモーツァルト版メサイアで三輪さんと共演し、志木第九の会のメンデルスゾーン作曲「エリア」演奏会でもエリア役として出演する。つまりこの何ヶ月の間に僕と共演する最も頻繁なソリストだ。

 頭や体のでかさと、独特のおっさんぽい風貌と、妙な慇懃さを持つ話し方で、周りからかなり妙な奴と思われているけど、中身は素直でよい奴だ。でも、よかったね。若い人達が頑張ってチャンスを掴んでいくのを見るのは本当に嬉しい。本選、是非頑張って欲しい。

練習に明け暮れ
 今週はとにかく練習に明け暮れた。二時から五時で「マイスタージンガー」、六時からは「アンドレア・シェニエ」。二週間かかってやっと「マイスタージンガー」が形になってきた。あとは暗譜だけ。でも火曜日の夜はマエストロ音楽稽古で、次の日から立ち稽古が始まる。
 僕はみんなに、
「月曜日の最後の練習では、みんなが暗譜したかどうかのチェックを行います。」
と脅して帰ってきた。まだ目が離せない。練習を時々のぞきに来ているノヴォラツスキー芸術監督は、
「素晴らしい出来じゃないか。」
と褒めてくれているが・・・・。

 一方、まだまだ先の「アンドレア・シェニエ」の方が先に覚えてしまっている感じだ。ワーグナーから比べると、どんな音楽も単純に思えるものだ。でも僕は、この「アンドレア・シェニエ」という作品はとても良い作品だと思っている。どうしてもっと有名にならないのか不思議だ。舞台がフランス革命というのも いいし、物語の展開も説得力がある。
 特に僕はジェラールという役にとても共感する。オペラ歌手になったら一番やりたい役は、「ドン・カルロ」のロドリーゴと、このジェラールだな。男らしいところが好きなんだ。第三幕ラストで、つかの間シェニエと心が通じ合う。うう、泣かせるねえ。

見え過ぎちゃって困るの、スケルトン
 ところで、僕のパソコン「ドクター」は秘かにヴァージョン・アップしている。いや、正確に言うと性能はほとんど変わらないので、ヴァージョン・アップと言うべきかどうか迷うところだが、実は装いが変わったんだ。モデル・チェンジと言うべきか。
 前から欲しいなあと思っていた新しいケースを買った。「蝶々夫人」「ジークフリートの冒険」と頑張った自分へのご褒美。
 妻はあきれている。
「とかなんとか言っちゃって、あなたパソコンに一体いくらかかっているのよ?最初、自作は安いと言っていたのは誰だっけ。」
「まあ、音楽以外の道楽といったらこのくらいしかないじゃない。」
「この間もパソコンをうちわで扇いでいたかと思ったら三万円損したくせに。」
こうした妻の容赦ない攻撃を覚悟してまで購入したケースとは・・・・?

 それはアクリル製の淡いグリーンの透明ケース。つまりパソコンの中身が全て見える、夏にふさわしい清涼スケルトン。いいと思わない?
でも苦労してパーツを全部入れ替えて、冷静に見てみると、思ったほどきれいではないのでがっかりした。なんだか電源ユニットから出るコードや、各ドライブから出るインターフェースがぐちゃぐちゃとからみあっていて、見通しが悪いったらありゃしない。僕の配線の仕方が下手というのもあるんだけど。
 特にマザー・ボードはもっとよく見せたかったんだけどな。

「うーん、なんて美しい!」
ある時、僕がマザー・ボードを見ながらつぶやくと、妻が冷たく言う。
「どこが?」
「この美がわからないのかい?これはストラヴィンスキーの『春の祭典』のスコアと一緒だよ。要するに機能美なのだ。」
「ふーん・・・・。」
その機能美の化身であるマザー・ボードも、今やコードの奥に追いやられ、その姿を誇示することも出来ずにいる。残念!!

 でもこのオウルテック社のケース、スケルトンだけが特徴ではない。なんでも「最優秀パーツ賞受賞」とか書いてあったよ。本当かな?ちょっと高めだけあって確かに使い勝手はとても良い。重量があって作りもしっかりしているので、ドライブが共鳴してしまうこともないし、風まわりが良いので、発熱が激しいプレスコット・コアのCPUもおりこうさんして動いている。
 まあ、そうでも思わないとやってらんねえや。とどのつまりはちょっとした自慢マシンなのです。ね、見て見て!でも見え過ぎちゃって困るかしら?

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