マクベスと「だるまさんがころんだ」

今日で「マクベス」が終わった。聴衆の入りがいまひとつだったのは残念だけれど、内容はかなり良かったと思う。カルロス・アルヴァレスのマクベスは文句なしに素晴らしかった。いい男だね、彼は。性格もいいよ。
指揮者のフリッツァは、合唱団員が本番中自分の方を見てくれないのが最後まで気にくわなかったようだ。オペラなんだから仕方ないじゃない。公演中、彼が何度も後ろを振り返るので、お客さん達みんなびっくりしていたな。つまり客席の後ろの監督室でモニターをみながら赤いペンライトで指揮をしている僕をチェックしているというわけ。このランプのお陰で結果的に合っているんだからいいだろうと思うが、合唱団員が僕を中心にまとまっているのが妬ましいんだ。とにかく自分が一番でないと気が済まない。

「刺客の男声合唱」では、一度、本指揮だけ見させて合った事があり、「ここだけは振るな」と彼から言われていた。だけどマエストロの棒は初日以来どんどん自分に酔ってきて、打点が分からなくなり、僕のフォローがなければとうてい合うのは不可能になってきた。だから僕は彼に内緒で振り始めた。
彼に「もっとはっきり振ってくれ!」と要求しても良かったのだが、音楽的にはとても良い棒になっていたので、僕が言う事によって、ただ拍を刻むだけの棒に彼が戻ってしまったら残念だと思ったのだ。
しかし彼は、そんな僕の心遣いなどは知るよしもなく、公演中、僕が振ってないだろうなと何度も振り返る。その度に僕は赤ランプを「おっとっとっと!」と隠す。
終わってから彼は僕に聞く。
「振ってなかっただろうな?」
「ヤだなあ、振るわけないじゃない。」
合唱団員達は面白がって、
「三澤さん、子供の時『だるまさんがころんだ』上手だったでしょう?」
なんて聞いてくる。
今日の千穐楽では、もう振り向かないだろうと思っていたら、いきなし猛スピードで振り向いた。
「あっ!」
と思った瞬間には見られていた。彼もあっけにとられて5秒くらい後ろを向きながら指揮をしていた。
「もういいや、今日でおしまいだし。」
案の定、カーテン・コールが終わってから、彼は僕と目を合わせてくれない。「この裏切り者め!」と思っているんだろうな。結局、きちんとした挨拶をしないで別れてきてしまった。
楽屋口で何人かのファンにサインをせがまれた時、一人の上品そうな婦人が、
「あの今日初めて気がつきましたけど、後ろで赤いライトで振ってらっしゃるのが三澤先生なのですか?」
と聞いてきた。みんな指揮者につられて後ろを見たんだな。

でもフリッツァは、人間的には偉大とはとても言えないどころか、かなり子供っぽい変な奴だけど、指揮者としては素晴らしい。聴衆も彼に怒濤のようなブラボーを浴びせていた。
東響はピットの中から味な事をしていた。カーテン・コールの時に、各々の譜面台に大きくBRAVO!とかHow about Bier?とか書いた紙を置いて、舞台上の我々に見えるようにかざしてくれたのである。やるね、東響!みんなとっても喜んでいたよ。


【事務局注】 2005.01.30の記事から抜粋。戻るときはブラウザの『戻る』ボタンで戻ってください。


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