「ジークフリートの冒険」ウィーンから逆輸入成功

 はっきり言って、昨年の夏にあんなに大変な思いで編曲をし、ウィーン国立歌劇場に送ってからというもの、パソコンのFINALEファイルも開く気も起きなかったし、ウィーンからは、何とも言って来なかったまま初日の幕が開いてしまったので、楽譜を検証する間もないまま、オーケストラ練習に突入した。
 まあ、予想していたんだけど、あっちこっちに小さい間違いがあって、これでよくウィーンでは上演したなあと、我が事ながらひとごとのように呆れた。ウィーンの公演を指揮しているのは、バイロイトでも一緒に仕事していてよく知っている指揮者、シュプリンガーだったから、
「全く、ヒロったら!」
と笑いながら直してくれていたのだろう。

今回、自分でオケ練習をしてみて、あらら、クレッシェンド抜けているじゃないの、とか、音が違っているじゃないのと、自分で体験していろいろ思った。
通常なら、
「なんだこの楽譜は!使い物にならないじゃないか!」
と怒るところだが、自分の仕業なので、どこにも怒りをぶつけられない。って、ゆーか、オケのメンバーが、
「三澤さん、これってさあ・・・。」
と言ってくる度に、心臓がバクバクいうよ。

 こういう楽譜の検証という事になると、我が新国立劇場の専属音楽スタッフ城谷正博(じょうや まさひろ)君の右に出る者はいない。芸大作曲家を出てから指揮科に進んだ彼は、スコアを読む力がずば抜けて凄い。彼は、全部の書き損じや楽譜の間違いを紙に書き出して、僕に渡してくれた。
 チューリッヒ歌劇場のために、すでに送ってしまっているスコアとパート譜を、もう一度作り直して送りたいんだけどとマティアスに言ったら、もう遅いので正誤表を作って渡してくれと言う。それじゃあ、城谷君作成の表を、ドイツ語に直して使わせてもらおう。
彼は本当に役に立つ人材だよ。優秀な部下を持つと、上司は楽できるなあ。

 城谷君は、先日、高校生のための鑑賞教室「椿姫」を6回公演指揮して、その指揮者としての腕の確かさを実証したばかりだが、マエストロだと驕るどころか、一日だけ休んだら、もう出勤して、喜んで僕のアシスタントを務めてくれた。
 でも城谷君が「椿姫」のマエストロでいた間はどうしていたのかというと、その時には矢澤定明(やざわ さだあき)君が、アシストしてくれていた。彼は、芸大のトランペット出身で、昔は僕がいろいろな本番でトランペット奏者として使っていたのだが、ある時、指揮者になりたいと言ってきたのだ。何回か指揮のレッスンしてあげたけれど、まあ、弟子っていうほど面倒見たわけでもない。彼は、自分の努力と実力によってここまで来たんだ。

 こんな優秀な部下達に支えられて、「ジークフリートの冒険」は初日の幕を開けた。やってみて思ったのだが、マティアス・フォン・シュテークマンの凄いところは、子供達の反応があってこそ完成する「子供オペラ」を作っているということだ。それを見込んで構成を考えているわけだ。

 稽古場では、
「そのパントマイムは長過ぎるんでねえの?」
と思われるような箇所が少なくなかったのだが、こうした箇所は、逆に見事に子供達の心を掴んで、双方向のやりとりのある、いわゆる舞台と客席が一体となった公演が出来上がったのだ。

 「スペース・トゥーランドット」の方が、舞台上のテンションは明らかに高い。この作品は、ある意味一方的に子供達に情報を与えまくった作品だったのだ。だから成功しないわけがなかった。でも「ジークフリートの冒険」は、なんというか、もっとオ・ト・ナの技と味があるなあ。でも、オ・ト・ナの「子供オペラ」って変だなあ。

 僕にとって嬉しかったのは、今回、ワグネリアンの人が喜んでくれたこと。特に、小編成とはいえ、生楽器のみで構成したプチ・オーケストラが、案外本格的なワーグナーのサウンドを奏でてくれ、ウィーンと違った大きな空間といえども、乏しい感じにはならずに、シビアなワグネリアン達の心をも掴んでくれた点。何といったって、昨年編曲して以来、始めて聴くんだからね。かなりホッと胸をなで下ろしたよ。

 さて、いろいろ書きたいことはあるんだけどね。28日月曜日は、渋谷のエレクトーン・シティにおいて、11時から、「愛はてしなく」の初めてのオケ合わせがあるんだ。本当は、もうとっくに全曲完成していなければいけないんだけど、まだ出来ていないんだ。ヤベー!なので、少しでも編曲を先に進めたいため、今週はこのくらいで勘弁して下さい。

 来週は、「愛はてしなく」新町公演を直前に控えて、この作品に賭ける想いや、聴き所、見所を述べてみたいと思います。
では、暑い日が続きますが、皆さん、お元気でね!

Cafe MDR HOME  

当ホ−ムペ−ジに掲載された記事、写真、 イラスト等の無断転載を禁じます。
Copyright © HIROFUMI MISAWA  2005-2008 All rights reserved.