「ドイツのクリスマス」演奏会無事終了

Bei Gott hat seine Stelle 神のもとにその居場所を見いだしたのだ 
Das menschliche Geschlecht 人類という種族は 
 クリスマス・オラトリオの終曲の歌詞は、das menschliche Geschlechtという言葉で終わる。Geschlecht は英語のspeciesすなわち種、種族の意味。だからdas menschliche Geschlechtという言い方はとてももったいぶった言い方で、「(他の動物ではなく)人類という知性を持ち自由意志を持つ種族が、神という存在と関わり、神のもとにその居場所を見いだした」という意味だ。
 この終曲を振りながら、僕の心の中には様々な事柄が浮かんでは消えていた。一番脳裏を支配していたのは、数日前にBSで見た「宇宙からのウエイクアップ・コール」という番組で映し出されていた宇宙空間や月からの地球の映像。それは、NASAの管制塔が宇宙飛行士達に送る目覚めの音楽についてのレポートだったが、同時に宇宙空間で飛行士達が感じる様々な思いが語られていた。
 スペース・シャトル・コロンビア号が大気圏突入の際に爆発炎上して帰らぬ人となったある飛行士は、事故の起きる直前に突然何かに目覚め、内面に大きな変化が見られたという。それは宇宙の神秘に目覚めたというレベルのものではなかったようだ。またウエイクアップ・コールの音楽の中でとりわけ印象的だったのが、ジョン・レノンの「イマジン」。何度も聴いている曲だが、ああして宇宙の映像と一緒に味わうと、身の震えるような感動を覚えた。

 僕が演奏会で長い曲を指揮している場合、終曲にさしかかるといつも思うことは、相反する二つの事だ。ひとつは、
「ああ、長かったがもうすぐ終わる。」
という思いと、
「ああ、もう終わってしまう。残念!」
という思いだ。
 今回は特に昼夜二回のコンサートだったから、それは10時のゲネプロから始まった長い一日の終わりをも意味する。今日の一日は本当に長かったよ。10時から、長大なクリスマス・オラトリオを時間との戦いではしょりながらやり、セッティングに時間がかかるのをやきもきしながらモテットとブランデンブルグ協奏曲のゲネプロを終了してみたら、その疲れを癒すどころか、開演30分前のスピーチまで、もうお昼を食べて着替える時間しか残っていなかった。あの時が一番疲れた。
 長いと言えば、今日一日のことだけではないなあ。池袋東京芸術劇場という大きなホールで二度の演奏会を一日でという前代未聞の企画を立ち上げ、これを推進してくる過程で起こった様々なことも脳裏によぎった。

 そうしたいろいろなことがごっちゃになって僕の心を支配していたわけであるが、やはり目の前に大きく広がった地球のビジョンは強烈だった。僕はdas menschliche Geschlechtという歌詞を味わいながら、こういうととても不遜に聞こえるかも知れないけれど、あたかも神の視点に立って地球とその上に生きている全ての被造物、とりわけ人類という種を自分と離れたところから見つめていて、それらに対する限りない愛情を感じていた。それは、
「神のもとに居場所を見いだした。」
ではなく、むしろ、
「人類よ、今こそ神のもとに居場所を見いだせ!」
というメッセージのようにも感じられた。

 勿論僕自身は、聖人などとはほど遠いただの凡人だ。でも、音楽家という者は、演奏している最中に時としてこうした至高なる存在とチャネリングすることが可能なのだ。だからこそこの世に芸術があり、芸術家がいるのだ。だからといって芸術家の人格をあまりかいかぶってもいけないのですがね。通常は本当にただの人だからね。

 僕は分かったのだ。自分のこの活動の意味が。それは、バッハが曲に託したこうした想い・・・・いや、違うな・・・・神がバッハという天才の音楽を通して託した想いと言った方が適切だ・・・その想いを伝えるために、僕はバッハを演奏するべきなのだということだ。
 僕がバッハの音楽の中でチャネリング出来るということが、とりも直さず、神がバッハの音楽に想いを託し、さらにバッハを演奏している僕に想いを託してくれているということの証明となるのだ。

 ブランデンブルグ協奏曲第五番を演奏している時の、大谷康子さん、三上明子さん、広沢麻美さんの楽しそうなこと!三人だけで演奏する二楽章なんか、僕でさえも入っていけないそのやり取りの親密さに嫉妬感を覚えるほどだよ。でもね、彼女たちはあんなに優秀であんなに有名な人達なのに、練習過程では僕の解釈に真摯に耳を傾けてくれ、従ってくれた。勿論演奏者からの要望もあったし、僕が納得して従ったところもあったよ。
 僕は指揮者だけれど彼女たちを支配しようとかいう気持ちは全くないんだ。音楽って、とどのつまりは誰のものでもないから、より良い音楽を奏で、みんなが一番それぞれの良さを発揮できる環境作りをするのが指揮者の役目だと思っている。そうした練習過程を通して出来上がったものは、誰も窮屈に感じることなく音楽の歓びに溢れた最高の演奏だったよ。

 ふう、とにかく終わった!関わった全ての皆さん、本当にお疲れ様でした。まだまだいろいろ書きたいのだけれど、今日はこの辺にしておきます。

徹底的にカラヤンを語った一日
 その演奏会に先立つ12月3日木曜日は、クラシックジャーナルという雑誌の対談のためにアルファベータ社を訪れた。議題は「カラヤンについて徹底的に語る」で、対談をしたのは、クラシックジャーナル編集長で「カラヤン帝国興亡史」(幻冬舎新書)などの著者でもある中川右介(なかがわ ゆうすけ)氏、「カラヤンとLPレコード」(アルファベータ)の著者の板倉重雄(いたくら しげお)氏、それから僕の高校時代からの大親友でプロスキーヤーの角皆優人(つのかい まさひと)君、それに僕の四人だ。

 角皆君は、スポーツマンなのにとてもインテリで、高校一年で知り合った時には、すでに膨大な数の外国文学を読んでいて、今日まで僕の愛読書となっているヘッセの文学を僕に紹介してくれた。また、クラシック音楽に造詣が深く、僕の知らないマーラーなどを熱心に聴いていた。
 彼はね、高校一年の分際でカラヤンの演奏会に行って、カラヤンを生で聴いてきたなどというものだから、僕たちは大いにうらやましがったものだ。僕はその頃からカラヤンの音楽について彼と限りなく語ったし、その後お互い別々に人生を歩んでいく過程で、それぞれのカラヤン体験をさらに深めていったわけであるから、僕と角皆君とだけで対談したって、それだけで面白いものになりそうだけれど、それに、これまたカラヤンについては本まで出している二人のオタッキーな人間が加わったものだから、その対談ははっきりいって前代未聞のものになりました。

 対談は一時から始まって、テープが回っている間だけでも五時半くらいまでノンストップで続けられた。もう、みんなそれぞれにオタッキーなので、それぞれが知らない情報をお互いに持っているわけだ。だから、
「えっ、そうなんだ!」
ということの連続で、
「それじゃあ、こういう話もあるんだけど・・・・。」
とか、
「では、こういう風にも言えるのではないかな・・・・。」
ということが後から後から出てきて限りがない。

 事前に中川さんの方から、
「今度の対談は一時からにして、徹底的にしゃべりましょう。その後夕方から打ち上げ会場を予約していますからね。」
というメールが来た時は、いくらなんでも夕方までなんてかからないだろうと思っていたが、なんのなんの、まだまだしゃべり足りない内に、打ち上げ会場の予約時間がやってきて、中断というような形で終わった。それくらいいろんなことをしゃべりまくった。だってみんな面白いネタ持ち過ぎ!

 で、場所を移して飲みながらの打ち上げになったが、ここでもおしゃべりは止まらない。だがもうテープは回っていない。今度はカラヤンだけに限定せず、いろんなアーティストの話にまで広がるのだが、それぞれまだまだカラヤンについて言い足りないと見えて、気がつくといつの間にかまたカラヤンの話題に戻っている。
そんなわけで僕も夜までカラヤンについてしゃべりっぱなし。

 家に帰ってソファに座り、
「ああ、疲れた・・・・。」
と言ったきり立てなくなった。
妻が横で見ていて笑っている。
「どうしたの?」
「いや、どうしたもこうしたもないよ。もうカラヤンに関しては、しゃべってもしゃべっても果てがないよ。しゃべりすぎて疲れた。風呂入って寝ます・・・・・。」

 この対談はクラシックジャーナルの記事になってもめちゃくちゃ面白いものになるに違いないのだが、どう考えてもこの何時間にも及ぶ対談の全てを網羅するものとはなるはずがないので、本当はこれを全て皆さんに伝えたいなあ。
 その時、気がついたことがある。それは、僕にとってカラヤンっていう指揮者は、これほど特別なものだったのだということ。考えてみると日本で二度ほど聴いたカラヤンの演奏会でカラヤンに惹かれ、カラヤンの演奏を聴くためにベルリンに留学し、カラヤン・コンクールでファイナリストにまで残った軌跡を辿るだけでも、カラヤンに無関心だったとはとうてい言えませんものね。
 クリスマス・オラトリオ演奏会を指揮している時でさえ、第二部の19番「眠りなさい」のアルトのアリアなどの豊かな響きを得ようとする時の僕の動きは、間違いなくカラヤンのパクリだ。カラヤンほど「響きを指揮によって導き出す」天才はいない。見ていて、
「あっ、カラヤンっぽい。」
と思った人は少なくないだろう。当然だ、真似しているんだもの。

 はやく記事にならないかな。どんな風にまとめるんだろう?また記事が出る時期とか決まったら皆さんに真っ先に知らせますからね。

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