ミラノに行きます!
 今日は重大発表をする。来年すなわち2011年の4月から80日間、僕は日本を離れる。行く先はイタリアのミラノ。文化庁の在外研修の特別派遣(80日間)に応募し採用されて、スカラ座の研修に行く。現在スカラ座の合唱指揮者はブルーノ・カゾーニ氏であるが、昨年夏にスカラ座が「アイーダ」などをもって来日した時にコンタクトを取り、受け入れ書類にサインをもらって文化庁に申請書を出した。僕はカゾーニ氏のもとでスカラ座が行う合唱音楽稽古、立ち稽古、舞台稽古などを見学することを許される。

 事のいきさつはこうであった。最近僕はイタリア・オペラをもう少し自分の中で納得のいくように究めたいという想いを強くしていた。特にイタリア語にもっと精通したかった。以前フランス語を習いにパリに行って、ソルボンヌ大学主催の夏期講習に参加したたように、最初は休暇の間にイタリアのどこかの街に行って語学学校に通うだけでもいいかなと思っていたのだ。ところがたとえば一ヶ月といえども、新国立劇場を留守にすることはなかなか出来ないんだ。何かの演目を降板することになってしまう。いろいろ劇場側と相談した結果、
「文化庁在外研修に応募してみたらどうでしょう。政府から派遣されたということになれば、少なくとも劇場の業務をサボって遊びに行ったという風には受け取られないし、一ヶ月と言わず、80日間じっくり勉強してこられますよ。劇場側としても対応しやすいです」
という言葉をむしろ劇場からいただき、応募してみることとなった。
 文化庁の在外研修は、通常の1年研修や2年研修などには年齢制限があるが、80日間の特別派遣だけは年齢制限がない。つまり僕のような、ある程度キャリアを積んでからテーマを絞って短期留学する者向けなのだ。ちなみに僕が以前パリに遊びに行った時に、たまたまスーパーで松尾葉子さんにバッタリ遭ったが、その時彼女はその特別派遣でパリに来ていたのだ。
 さて僕の留学の時期であるが、いろいろ試行錯誤した結果2011年4月から6月までというのがベストであろうという結論になった。3月に新制作の「マノン・レスコー」が終わると、この時期は「ばらの騎士」「コシ・ファン・トゥッテ」「蝶々夫人」と全て再演ばかりだ。まあ、勿論留守にするのはいずれにしてもいいわけはないが、そういう事を言っていると永久に行けないからね。僕がいない時の代わりは、今シーズンから僕のアシスタントを務めてくれる若き冨平恭平(とみひら きょうへい)君が合唱指揮を行ってくれることになり、いよいよ僕の短期留学は現実味を帯びてきた。
 
 申請の締め切りは昨年の9月始めまで。だが肝心のスカラ座合唱指揮者カゾーニ氏の受け容れ承諾のサインをもらえるのは、8月終わりに来日するスカラ座引っ越し公演の時。それまでスカラ座もカゾーニ氏も夏休みに入り、バカンスで連絡不可。まさにギリギリのタイミングで申請書を出した。
 カゾーニ氏に会いにNHKホールに行った時に、「アイーダ」の舞台稽古を少し見せてもらった。ちょうど凱旋行進の場面をやっていた。僕は、これから行くスカラ座の合唱団の様子が見られるのでワクワクしていた。合唱団はピアノ付き舞台稽古なのであまり本気では歌っていなかったが、時折聞こえてくる声の素材はやはり第一級のものだと思った。こんな合唱団の声を毎日聞けるのかと思うだけで気持ちが高ぶってきた。
 ドイツ・オペラの合唱のオーソリティがバイロイト祝祭合唱団なら、イタリア・オペラでは何と言ってもスカラ座合唱団だ。ただ、かつてバイロイト祝祭劇場でノルベルト・バラッチが行っていたようなシステマティックな指導法が行われているわけではないので、「これがイタリアのメソードだ」という決定的な美学がただちに学べるわけではない事が一聴して分かった。恐らくイタリアでは、そんなことは誰もやっていないだろうし、やっていたら逆に眉唾物である。それがイタリアというものである。
 ただ、やはりネイティブならではのなんとも言えないニュアンスが言葉と共に自然に音楽についている。これこそ、僕がイタリアに行って学びたいことなのである。恐らく80日間でも、イタリアの空気の中で彼等の合唱に触れていたら、今よりずっとイタリア語のもつ表情やニュアンスが身につくのではないかと期待している。

 その他にイタリアではやりたいことが沢山ある。語学学校に通いたいし、スカラ座だけでなくトリノやヴェネツィアくらいまで足を伸ばしていろんなオペラを観たいし、何といってもいろんな人をつかまえて沢山イタリア語をしゃべりたい。もう足の先から頭のてっぺんまでイタリア人のようになって帰ってきたい・・・・・と言ったら、僕と一緒にドイツ音楽をやっている東京バロック・スコラーズの団員などはあわてるかも知れない。それに、留学中は僕の関係している団体の練習に通えないので、皆さんには迷惑をかけることになります。今の内にあやまっておきます。ごめんなさい!
 
 でも、どうか皆さん、僕に充電の機会を与えて下さい。それは必ずや皆さんの元に何らかの形で還元されると思うから。現に、今年の夏にわずか10日間ドイツに行っただけだって、日常生活では決して得られないあれほどの刺激が与えられ、あれほどいろいろ考えさせられた。だからイタリアの80日間は、僕の人生にきっと新しい地平を開いてくれるに違いないのだ。
 考えてみると、これまでバッハ、ベートーヴェン、ワーグナーをこよなく愛し、ドイツ音楽に深く傾倒していた僕にとって、最も遅れている分野はイタリア・オペラなのだ。国立音楽大学声楽科時代に確かにイタリア古典歌曲を始めとしてイタリア物も学んだ。けれど僕の興味はなんといってもドイツ音楽にあった。深遠なドイツ音楽に比べると、イタリアの音楽はなにか軽薄にすら思われたのだ。ところがね、最近になって初めて僕はラテン気質の持つ明晰さが好ましく思えてきた。ゲルマン気質とラテン気質。その両方への理解とシンパシーが今の僕には必要なのだ。
 そんなわけで、これから来年に向けてイタリア語も頑張るつもりだ。実は、7月前半にイタリア語の個人教授がナポリ近郊の親元に里帰りし、僕もドイツに行って帰ってきてから、なんとなくドイツ・モードになってイタリア語はサボリ気味になっていた。でもあっという間に9月になり、あと半月もすると先生が帰ってくる。ヤバイ!そろそろまたエンジンをかけ始めなければならない。ああ、やることが山のようにあるなあ!

美しいフォームで
 皆さんにクイズを出します。
第一問。平泳ぎには2種類のキック(足のフォーム)がありますがそれは何と何でしょう?
答え カエル足(ウェッジ)キックとムチ打ち(ウィップ)キックです。カエル足は、僕たちが小学校などで教わった足をガニ股にするキック。ムチ打ちは、足を引きつけた時に足先を腿より開くようにしてから蹴り出すキックです。これを僕は最近知りました。きっかけは白馬です。こっちの方が断然速いや!なんでこれまで誰も教えてくれなかった?
 
第二問。クロールで一般的に行うキックは、腕を左右一往復かく間に何回行うでしょう?
答え 6回です。クロールはワルツのリズムで泳ぐのだ。腕を回す度にズン、タッ、タッ。反対側の腕でズン、タッ、タッ。ちなみに最近までの僕のバタ足は、手に対してグチャグチャで、とてもクロールなんていうしろものではなかった。このワルツを覚えると、クロールはなんて音楽的な泳ぎになるのでしょう。実に感動的です!
 って、ゆーか、全く、僕たちはこんな簡単なことすら知らないで泳いでいたのだ。なんという時間のムダだったのだろう。やい!小学校時代の夏の体育の時間を返せ!

 水泳が楽しい。時間を見つけては40分とか1時間とかという単位でプールに通っている。まとまった時間を作り出そうとしていたら長続きしないのが目に見えているので、何事も無理をせず、出来る時に負担感を感じない程度に行う。これがウォーキングも自転車も、そしてスイミングも今日まで続いている秘訣。まあ、スイミングは白馬に行ってきて以来だから、まだ一ヶ月くらい。
 昨日も、浜松に出掛ける前に、国立芸術小ホール隣の室内プールに40分だけ泳ぎに行ってきた。といっても決して上手ではないので、買いかぶらないでください。下手でもいいのです。25メートル泳いで、ハアハアハアと10秒くらい休んでまた泳ぐ。あるいはビート板を使ってバタ足の練習をしてみたり、足にはさんでストロークの練習をしてみたり、まあのんびりやってます。

 水泳は以前からたまには行っていた。でも今回一番違うことは、かなりフォームに注意して泳いでいる点。速くなくてもいいから、正しいフォームを学ぶことが大切。そうすれば楽に泳げるし、きちんと前に進むので、ますます楽しくなってくる。分からないことがあると、すぐ親友の角皆優人(つのかい まさひと)君にメールを送る。白馬に住む彼の所に遊びに行って泳ぎ方を教わって以来、彼は僕の水泳の師でもある。こんな初心者相手にうっとうしいだろうなとは思うけれど、彼は嬉しそうにすぐ返事を書いてくれて親切に教えてくれる。
 僕はずっと彼のことを「水泳もするプロスキーヤー」だと思っていたが、なんと水泳の本を二冊も出しているのだ。その二冊ともたまたま本屋で見つけて買ってきた。皆さんにも紹介しよう。特に「大人のための水泳教室」は初心者向けの本なのでとても分かり易い。こんな本など読んだって実際に泳いでみないことには分かるものかと思うでしょう。ところがね、そうでもないんだな。


 スポーツというものは体で覚えるもので、理屈ではないというのは間違いで、理論から入る方法は案外効果的だ。短期間の間に正しいフォームを身につけることは、僕たち「年配者」にはとても必要なことなんだ。まあ、若者というのはね、どんなに回り道をしてもいいんだよ。若いんだから無駄が無駄にならないし、がむしゃらにやっていればいずれはどこかに到達する。でも僕たちには、忙しい日常生活の中で余っている時間も、人生において残されている時間もわずかなので、誤ったフォームでいたずらに疲労し、そのうち嫌になってあきらめてしまうなどという愚かなことだけは避けたいのだ。
 スポーツをやるならなるべく短期間にそれぞれのスポーツの「醍醐味」に辿り着ける最短距離を歩みたい。そのためにはお金をかけたっていい。それが僕たち年配者のスポーツへの正しい関わり方だ。DVDなどで理想的な泳ぎ方の映像を見てからプールへ行ってみなよ。それだけで随分違うものだよ。


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浜松駅前のホテルにて
 暑いねえ。9月になったというのにちっとも涼しくならない。今は9月5日午前8時10分。この原稿を浜松のホテルで書いている。朝6時半に起きて駅界隈を散歩。その後シャワーを浴び、朝食を取ってパソコンに向かっている。昨日から浜松バッハ研究会の練習。最初合宿のつもりで日程を取ったが、団員は通い合宿ということで二日間自宅から通い、僕は一人でホテルに泊まっている。こうして原稿が書けたりして楽でよいが、団員との懇親会がないのが少々残念。昨晩もお酒も飲まず12時頃就寝。
 
 演奏会は12月23日に浜松カトリック教会にて行われる。メイン・プログラムは、バッハのマグニフィカートMagnificat(一般的にはマニフィカートと呼ばれているが、僕はあえてドイツ式にマグニフィカートと読む。ちなみに本当の本当はアクセントをniの上に置き、マグニーフィカトと読むべき)。通常のニ長調版ではなく、今回は最初に書かれたという変ホ長調版の方で上演する。実はこの版を指揮するのは初めてだ。
 
 今までどうしてこの変ホ長調バージョンでやらなかったかというと、理由は二つある。それはバッハが何故ニ長調版を作ったかという理由と一致している。すなわち、変ホ長調版だけの方に入っている「クリスマスにちなんだ」4曲があることによって、この版ではクリスマスの時期にしか演奏出来ないのだ。
 マグニフィカートという祈り自体は、一年を通していわゆる晩課と呼ばれる午後の礼拝で行われているので、クリスマスの曲さえはぶけばいつでも演奏可能である。バッハはニ長調版でそれを行ったし、僕はその版を使っていろんな時期にこの曲を上演した。今回はその逆にクリスマス・コンサートなので、大手を振って変ホ長調版で演奏出来るというわけだ。
 もうひとつの理由としては、たかが半音なのだが、この曲をニ長調から変ホ長調に上げることによって、トランペット奏者にとってはハードルがグンと高くなる。勿論ニ長調でも高音の超絶技巧には変わりはないのだが、変ホ長調を演奏するに当たっては相当の人材を確保する必要がある。今回は三重県在住の名手松野美樹(まつの はるき)さんを迎えての演奏。楽しみである。
 ところでこのニ長調版では割愛されてしまうクリスマス用の4曲だが、結構良い曲なのだよ。特にクリスマス・オラトリオでも何度も出てくるマルティン・ルターの作ったコラールの編曲は素敵だし、ソプラノとバスの二重唱は、かなり難易度の高い曲だけれど名曲。ああ、この版にして良かったとあらためて思うよ。まあ、これらの曲は、本来のマグニフィカートの歌詞に割り込むような形で挿入されているので、なくても違和感ないし、バッハ自身、最初から抜いてもいいように想定して書いているのがミエミエなのだが、あった方が曲全体のたたずまいにどっしりとした重量感が与えられる。

 さて、演奏会はマグニフィカートに加えて、ブランデンブルグ協奏曲第四番と・・・・そして、そして・・・・かつてモーツァルト200合唱団のクリスマス・コンサートの為に書き下ろしたクリスマス・メドレーを第二部で演奏する。このメドレーは、当時は弦楽器とオルガンの為に書いたが、今回はマグニフィカートの編成用に編曲する。
 本当はね、今頃「編曲する」などと現在形(ないしは未来形)など使っていてはいけないのだ。何故なら、今日の練習では午後からオーケストラが入り、すでにオケ練習とオケ合わせが行われる。それにこの編曲が間に合っていなければならなかった。ところが僕ときたら、あまりにも先週の演奏会のマーラーとワーグナーに入れ込んでいたため、他の締め切りがある仕事がたまりにたまって、まだとても手が付けられる状態ではなかった。トホホ・・・・。
 昨日までは、自宅でこの秋に新国立劇場合唱団が行う文化庁主催「本物の舞台芸術体験事業」すなわちスクール・コンサートのために9校の校歌の編曲をしていた。これを本当は8月いっぱいで仕上げなければならなかった。今は7校目が終わったところ。また東京に帰ってから2曲仕上げる。それから新国立劇場「マノン・レスコー」公演のチラシのエッセイの締め切りがまさに今日。それが済んだ後、はじめてクリスマス・メドレーの編曲にかかれる。ふうっ!全くいつもいつもギリギリ生活だこと。
 でも今回のクリスマス・メドレーでは、トランペットやオーボエなど管楽器が使えるし、ティンパニー奏者もいるので、ちょっと悪ノリしてコンガやウィンド・チャイムなどパーカッション系を駆使しようかなと思っている。素敵なクリスマス・メドレーになることうけあい。おやおや、第1部のバッハとあまりにも作風がかけ離れてはいけない。

そんなわけで、そろそろ準備して練習に出掛けるか。

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