来たぞ、来たぞ!修羅場!

 NHKは凄いな。館内に入ると何でも揃っている。本屋や薬局や雑貨屋や銀行まである。それに随所で臨時の店が出ていて、靴や古本などをとても安く売っている。こうなるとひとつの街だね。これで宿泊施設があったら立派にこの中だけで居住出来る。

 中でも食堂の充実度は他の施設とは比べものにならない。僕は、NHKには国立音楽大学の学生の時から出入りしている。年末のNHK交響楽団の第九演奏会に声楽科の学生として出ていたからね。NHKホールの入館証をもらうと、それでスタジオの建物内にも入れるのだ。
 食堂は1階と5階にある。「いっしょく」と呼ばれる1階食堂の方が庶民的で少し安い。でも僕たちは学生の頃から、行くならちょっとお高くとまった「ごしょく」と決めていた。お高くとまったって安いからね。特にここの鮨(すし)がおいしい。ここでは職人がいて、食券を差し出すとその場で握ってくれるのだ。これがうまい!

 12月7日火曜日と9日木曜日の午前中に、バイロイト音楽祭の解説の録音をするためにNHKに行った。その両方とも、昼食には結局上鮨1.5人前を食べた。1050円。7日は、昼食後喫茶店で有機コーヒーと共にシュークリームまで食べてしまった。店の前を通りかかったら、あまりうまそうなので入ってしまったのだ。そして予想通り生クリームがプニュプニュで超うまかった。おお!オーバー・カロリーを承知で・・・・・。

 12月7日は朝の9時からスタジオ入りし、午前中に「ワルキューレ」と「ジークフリート」の二本を録ってしまった。それからお昼をはさんで「ラインの黄金」を録音したが、ここで音楽評論家の広瀬大介(ひろせ だいすけ)氏と対談した。
 広瀬氏は、想像していたよりずっと若く、清潔感溢れる明るい人だった。彼は、今年初めてバイロイトに行ってリング以外の「ローエングリン」「マイスタージンガー」「パルジファル」の3演目を御覧になったということだった。今年のバイロイト音楽祭の話題はなんといっても新演出の「ローエングリン」なので、それでは話を「ローエングリン」に絞り込みましょうという前相談をしてからフリー・トーキングに入った。

 結果的に言うと、この対談はとても面白いものになった。僕も、普段の原稿を読む状態からみると、ずっとラフになって自由に話せたし、広瀬氏からもいろんなものを引き出せたと思う。このまま他の演目もみんな対談形式にしてもいいなと思うくらいだ。
 って、ゆーか、自分で言うのもナンだけど、僕は、はっきり言って対談の才能があると思う。すいませんねえ、自画自賛してしまって・・・・。でも、東京バロック・スコラーズでも対談をやっているでしょう。あれも、自分から勝手に企画してやっているんだけど、僕は元来人から何かを引き出す事にとても興味があるんだ。

 広瀬氏は、若いのにとても確実な眼を持っていて、歌手に対する評価も的確。話していて一度も「そうかなあ?」と疑問を感じることはなかったし、ほとんどの点について意気投合した。「ローエングリン」の演出の解釈など、逆に教わることも多かった。
 みなさん!12月24日の「ラインの黄金」の演奏が終わった後の広瀬氏との対談だけでも聴いてみて下さい。これはお薦めです。とても楽しいし、オフレコギリギリのトークが聞けます。ええと、NHK FMで夜の9時から「バイロイト2010」の放送が始まって、僕の最初の解説が7分くらいあってから「ラインの黄金」が始まるから、それに2時間半足して・・・・と、だいたい11時40分くらいから対談が始まると思うよ。
 最初20分くらい対談してから、途中で何故か、1962年のバイロイト音楽祭、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮「タンホイザー」から大行進曲「歌の殿堂をたたえよう」の演奏が入って、それから残り15分くらい再び対談。結構たっぷりしゃべれたのだ。

 9日は「神々のたそがれ」のみ収録。これで今週中に「ニーベルングの指環」全曲を録ってしまったぜ!とりあえずひと安心。でもね、まだまだ気が抜けないんだ。次の収録は12月15日だが、現在の所、「ローエングリン」の原稿は仕上がってNHKに送ってある。
 「マイスタージンガー」は、演奏はほぼ聴き終わったが、原稿はまだ半分くらい。もし「マイスタージンガー」の原稿が前の日までに出来上がっていたら、15日にこの2本を収録してしまうつもり。だが可能性は半々・・・・。

 でもね、ここで録れなかったら、これはこれで具合が悪いんだよな。収録最終日は20日だが、15日以降に「マイスタージンガー」の準備が食い込んできてしまうと「パルジファル」が間に合わなくなる恐れがある。加えて、20日近辺の週末のスケジュールは?っていうと、これが超多忙なのだ。18日の土曜日は朝から東京バロック・スコラーズの練習。その後2時から読響の第九のオケ合わせを東京芸術劇場でやってから新幹線に飛び乗って浜松に行く。夜は浜松バッハ研究会でMagnificatなどのオケ合わせ。その日は浜松に泊まり、次の日の19日は、午前中に東京に戻ってきて、12時から東京芸術劇場での第九のゲネプロに間に合わせる。そして、14:00からそのまま読響第九の本番初日に突入だ。
 実はこの日、新国立劇場では同時進行で「トリスタンとイゾルデ」のオケ付き舞台稽古を14:00からやっている。こちらはアシスタントの冨平恭平(とみひら きょうへい)君に任せるしかないが、後で様子も見に行かなくてはならないしな・・・。

 そんな風だから週末はもうほとんど何も出来ないのだ。そして次の日の月曜日の朝から録音だ。おおっ!考えただけで鳥肌が立ってきたぜ。とにかく今週の週末までに「パルジファル」原稿は仕上がっていないとアウトだ。うーん、ここが今回の最大の山場だな。それまで風邪を引かないで元気でいることが大事だ。

 実は、8日水曜日は、なんとなく風邪引きそうな気分で、体力が弱っているところにもってきて、例の泣く子も黙る六本木男声合唱団倶楽部の練習でちょっと声を使い果たしてしまった。9日は用心のために風邪薬とビタミン剤を飲んでスタジオ入りした。だからもしかしたらちょっと録音の声が本調子でないかも知れない。
 しかも9日は、その後「トリスタンとイゾルデ」のオケ合わせに出て、夜はアカデミカ・コールの練習とフル・プログラム。一日もつのかととても心配だった。それでも、さいわい大事に至ることなく今日に至っている。案外僕は丈夫なんだな。

 おっと、感心している場合ではない。とにかく今だけは風邪を引くわけにはいかないんだ!

 「ニーベルングの指環」については、今年の2月にワーグナー協会の「神々のたそがれ」の講演会をやったりして、最近いろいろ考えることが多いのだが、特に今回新たな発見があった。それを放送用の自分のコメントに生かしたつもりだが、この放送が終わったら、あらためて原稿をまとめ直して予稿集にアップしようかなと考えている。

アカデミカ・コール演奏会無事終了
 ブルックナーが男声合唱オタクだったって知ってる?彼は19歳の時、故郷近くの村で教師をしていたが、そこで身近な仲間と男声カルテットを結成してバリトンを歌っていたそうだ。このカルテットは近隣でたちまち有名になって、あちこちで招かれるようになったということだ。そのカルテットのために作曲したことをきっかけに、彼は生涯に渡って男声合唱曲を書き続けることになる。

 ブルックナーのアカペラ男声合唱曲は、シンプルな構成ながら、歌詞の内容に沿って短調になってみたり転調してみたり、さりげなく凝っている。これに気がつかないでサラリと演奏してしまうとなんでもない曲になってしまう。でもこれらの曲に使われた詩も、なかなか含蓄に富んだ内容が多いんだ。そこに留意しながら注意深く演奏すると、まるでスルメのように噛めば噛むほど味わいの深いものになってくる。

 東大コール・アカデミーのOB合唱団であるアカデミカ・コールのおじさま達は、やっぱり東大だけあって、ドイツ語の基本的発音は素晴らしいが、日本人の悲しさで、そこから先のいわゆる「ドイツ語的表現」というものは、なかなか自分達からは出せないものだ。 そこで、僕が自分の独断と偏見で、もし自分がドイツ人だったら・・・・という感じで、自分の感じたままを彼等に伝えていったら、彼等もノッてくるんだ。こういうのが面白いんだなあ。
 おそらく、これがドイツやオーストリアの合唱団員だったら、各自が勝手にいろんなことを感じ、それを歌に乗せて表現するのだ。それは決して一色に統一されることなく、バラバラだけれど、まるで玉虫色のように各自の想いが輝きだし、結果として人の心を打つような演奏になるのだ。ここが、通常日本人の一番足りないところ。でも、アカデミカ・コールの今回の演奏では、そこに限りなく迫れたように思う。

 ドイツ人は真面目だけれどスケベなんだ。いや、スケベだけれど真面目だと言った方がいいかな。まあ、どっちでも同じだ。でも、ここが、たとえばイタリア人などと一線を画すところだ。イタリア人はスケベっぽくってでスケベだからな。でもね、本当はムッツリ・スケベこそ、スケベの中のスケベ。その意味では、なんといってもドイツ人だ!
 「タンホイザー」で主人公がヴェーヌスを欲していながら、同時にエリーザベートの純粋さや清らかさにあこがれるだろう。あれこそが「ドイツ人のこころ」なのだよ。このどちらが欠けても、ドイツの男性の美意識は達成されないのだ。
とすれば彼等が、
der keuschen Minne zartes Heiligtum
「純潔なる愛(性愛)の繊細なる(淫靡なる)聖なるものにて」
のようにワケの分からないタワゴトを並べたとて、それを微笑んで、
「要するにヴェーヌスとエリーザベートの両方を欲しているのね」
と受けとめる鷹揚さが、我々日本人にも求められるのである。

その意味では、アカデミカコールはよくやった(笑)!実にドイツ的であった。

しかし、なんだねえ。いい歳して、
「お前を強く抱き締めて、その限りなき愉悦感の中で死んでしまいたい!」
なんて、みんなよく歌うねえ!

トリスタンとイゾルデ
 またまた水であります。「オテッロ」「ヴォツェック」に引き続いて、舞台上に水が張られております。でも冒頭のトリスタン和音のところで、照明による月が上がるが、それが水面に反射してユラユラ揺れているのを見た時、体中に衝撃が走った。
水と「トリスタン」のドラマ。うーん、案外いい組み合わせカモ。

 今の時点では、まだこれしか言えない。テオリンってなんてでっかい声なんだ。グールドも絶好調!また報告するけど、大野和士の指揮と相まって名プロダクションの予感!


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