12月15日収録終了!
 なんと奇蹟が起こったのだ!12月15日水曜日の収録で「ローエングリン」「マイスタージンガー」「パルジファル」の三本を録り終えてしまったのだ。し、信じられない!「ローエングリン」の原稿はすでに仕上がっていたが、「マイスタージンガー」すら、間に合うかどうか分からなかったのに、「パルジファル」まで録れてしまった!
 これで一気にギリギリ生活を脱出して、天国的な生活へ・・・・と、思いきや、それは全くの勘違いで、目の前の山が高過ぎたため、その向こうにある山脈が見えなかっただけだ。終わって気が付いてみたら、この仕事のために後回しにされてしまった仕事群がひしめき合って順番を待っている。うはははは・・・・どうしよう・・・・この後も超多忙の生活は果てしなく続いていくのだ。果てがないのだ・・・・ともあれ、生きるか死ぬかの状態を脱しただけでもありがたいと思わないといけない・・・トホホ。

 どうして思ったより早く録れてしまったのかというと、多忙の一要因である新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」の練習への立ち会い義務がかなり免除されたことで、思いがけなく時間が出来た事による。
 「トリスタンとイゾルデ」の合唱は、第1幕の男声合唱だけ、しかも全て裏コーラスとなったので、まず立ち稽古に付き合う義務がない。さらに練習枠は最大限にとってあるが、第2幕以降の練習のみ行うことが決まった時点で、合唱団及び合唱指揮者は練習に出席する義務を解除されるわけだ。
 そうはいっても、勿論僕に時間があれば練習は見たいのだよ。通常は全体を見届けたいために義務はなくても出席する。でも、今はそんなこと言ってられないので、与えられたフリーの時間を最大限にCD試聴と原稿作成に使ったわけだ。

 集中して仕事をしたら、なんと「マイスタージンガー」が早々と仕上がり、14日の火曜日がまたまた一日オフとなったので、もしかしたら「パルジファル」も仕上がっちゃったりして・・・とかすかな希望が生まれた。
NHKに連絡したら、
「勿論、出来るならばこちらは早ければ早いほどありがたいです!」
という返事が返ってきた。
 NHKとしても、それは願ったり叶ったりに違いない。実は、本来NHKは、13日から始まる週の内に全て録ってしまいたいと言っていた。だって24日からもう放送は始まるんだからね。でも僕は絶対に間に合わないと思ったので、次の週に引き延ばしてもらったのだ。

 さて15日に収録するからといって、その日にできたてほやほやの原稿を持って行くわけにはいかない。いろいろね、NHKも原稿を事前にチェックしたいのだ。放送禁止用語をしゃべられても困るし、内容もあまり過激なものを持ち込まれても困る。NHK公認の日本語表記もなかなか厳しいのだよ。
 たとえばNHKではヴォータンと言ってはいけない。ウォータンと言わなくてはいけないのだ。このページでは「パルジファル」と書いているがNHK的には「パルシファル」だ。おかしいのはワルター・フォン・シュトルツィングと書いたら、
「NHKの表記ではシュトルチングです」
と言われた。
 それで一度原稿を直してから自分で発音してみたら、どうしても「しゅとるちんぐ」の「ちんぐ」の部分がおかしい。きちんと発音すればするほどおかしい。それで再びメールを送る。
「あのう、シュトルチングはちょっとボカして発音したいのですが、いいでしょうか?」
「分かりました、スタジオで相談しましょう」
こんなやりとりをかわすわけだ。だから先方にも一度はきちんと原稿を読んでもらわなくてはいけない。
 15日に収録するなら、遅くても14日の午後に第一稿は送って、14日中に直し原稿を送り返してもらい、最終稿に仕上げて再び送り、自分ではプリントアウトして収録に臨む。これがリミットのスケジュール。うーん、出来るかなあ?と思ったが、やってみるしかない。
 さて、14日は聴いて聴いて聴いた!書いて、直し、書いて、直し、書いた!これまでの約2週間だってそうだけど、朝起きてヘッド・フォンを装着して一時間のお散歩に出掛けるところから一日が始まるんだ。
「朝っぱらからワーグナーの楽劇かよ、ウエッ!」
いや、ワーグナーは好きなんだけどね・・・・・。

 14日の夕方の4時過ぎ。第一稿をメール・ソフトのShurikenの添付ファイルとしてつけて、送信ボタンを押す。パッツーン!パソコンなので、そんな音出さなくてもメールは飛んで行く。でもねえ、こうなったらやっぱりパッツーンでしょう!目はショボショボになっているが、この開放感!しかし頭の中はもうグダグダ。
 パッツーンしたら、僕は急いでパソコンを終了し、まるでパソコンのある空間から逃げ出すかのように部屋を離れ、家を出る。大きく深呼吸をしてから自転車に乗って立川地域に向かい、あたりをあてどなく突っ走る!本当はプールでフラフラになるまで泳ぎたいところなんだけど、塩素アレルギーで声がおかしくなるので、明日の収録が終わるまでは厳禁なのだ。残念!

 録音当日の12月15日は、朝の9時にNHKに入る。その日は2時から新国立劇場で「トリスタンとイゾルデ」のピアノ舞台稽古最終日の通し稽古となるので、遅くても1時過ぎにはスタジオを出なければならない。4時間で3本。出来るかなあ・・・・と半信半疑。
 みなさんは4時間もあればどんどん録れそうだと思うでしょう。ところがなかなかそうはいかないのだ。スラスラいっているうちはいいのだが、録音というものは何か引っ掛かるものがあると、それを解決している間に時間が飛ぶように進んでいく。

 実際、「マイスタージンガー」を収録してみたら、全体で時間が3分ほどオーバーしていた。このためにストップ・ウォーッチを買って、家で計りながら原稿は完成したつもりだが、やはりスタジオで読むと間違ってはいけないと慎重になったり、いろいろな要因が重なって、思ったよりも長くなるものだ。
 さて、この3分間をなんとかしなければならない。スピーチ内容は、どこかの部分を3分だけバッサリとカットすればいいというものではない。全てがつながっているからね。そこで原稿の修正をすることになった。内容をなるべく変えないで、文章を短く作り直して録音し直す。
 録音室から出て、机の上で鉛筆を持ってカリカリと文章を直す。めっちゃアナログな作業。これに思いの外時間がかかった。そうこうしている内に「パルジファル」が収録できるリミットの時間が近づいてくる。あせる。「パルジファル」だって、同じように何か問題が発生すればもうアウトだ。この時点では、本日中に録り切れる可能性は半々・・・・。
 でもね、「パルジファル」は、一番短い期間で原稿を仕上げた割には、内容がまとまっていて収録時間もピッタリはまったので、全ての録音が終了した時にはまだ1時になっていなかった。

 最後の原稿を読み終わってディレクターの、
「OKでーす!」
という明るい声が聞こえてきた時には、はっきりいって実感がなかった。きっとまた時間がオーバーしているに違いないと思ったが、
「お疲れ様でした!時間も大丈夫です!」
と言われた時、へなへなと床に倒れそうになった。

 7日間の放送の最後が「パルジファル」なので、僕は第3幕後のコメントで総括的な意見を述べた。それは・・・・「バイロイトでは様々な演出があり、なにかと物議を醸し出しています。しかしながら、こうして音楽だけに集中して聴く限り、それぞれのプロダクションのキャストやスタッフ達がバイロイトのレベルを守ろうと全力で取り組んでいるのが感じられます。リヒャルト・ワーグナーの音楽は一音もゆがめられることなく、バイロイト祝祭劇場に響き続けてきたし、これからも、この他に類を見ない音響効果を持つ劇場で響き続けていくでしょう」
と、ちょっと熱っぽく語った後、
「バイロイトは永遠であります!」
と、巨人軍に別れを告げた時の長嶋茂雄のように最後のコメントを結んだ。この原稿を読んだ上の方のプロデューサーが、このセリフをとても気に入ってくれたということを後で聞いた。

 その日のスタジオは5階だった。ディレクターはきっと僕の「今日この頃」を読んでいるのだろう。ニコニコ笑いながら、
「食堂はあちらです」
と言った。つまり僕が「ごしょく」こと5階の食堂に行ってお鮨を食べたことを知っているのだ。

 そうはいくかとあまのじゃくになって「いっしょく」に行こうかとも思ったが、やっぱり今日も「ごしょく」しかないな。いや、今日こそは「ごしょく」だ!先週と同じで、懲りずにまたまた上鮨1.5人前を食べた。先週1050円と書いたが間違い。よく見たら1020円でした。うーん、うまい!この鮨をしばらく食べることが出来ないのは淋しい!
 帰り際、シュークリームのある喫茶店を横目で通り過ぎる。先日、靴屋の出店が出ていたエレベーター前のところに、今日はお菓子屋の出店が出ていた。毎日楽しそうだな。NHKの内部って!

 それから歩いて代々木八幡の駅の横を通り、階段を上がって大久保通り出て、新国立劇場に向かった。きっと僕とすれ違った人達は、ほぼ白髪の奇妙なおっさんが、にやにやと気持ち悪い微笑みを浮かべながらスキップするように歩いているので、不気味に感じただろう。なあに、構うものか!終わったんだい!うひひひひひひひひ!

もう一度、放送日を書きます。NHK FM「バイロイト音楽祭2010」という番組です。

12月24日21:00 楽劇「ラインの黄金」
12月25日21:00 楽劇「ワルキューレ」
12月26日21:00 楽劇「ジークフリート」
12月27日21:00 楽劇「神々のたそがれ」
12月28日21:00 歌劇「ローエングリン」
12月29日21:00 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
12月30日21:00 舞台神聖祭典劇「パルジファル」
 特にお薦めは最初の4日間の「ニーベルングの指環」。ティーレマンの音楽作りとオケのサウンドが聴きもの。特に26日の「ジークフリート」第1幕は、バイロイトの歴史の中でもベストに入る名演。それと28日の「ローエングリン」は歌手達が粒が揃っていて、若手ネルソンスの指揮も秀逸。僕の声が聞きたければ、9時から9時8分くらいまでは毎晩必ずしゃべってます。

トリスタンと水泳とエピ
 新国立劇場に着いた。15日は「トリスタンとイゾルデ」ピアノ付き舞台稽古の最終日。つまり衣装付き通し稽古だ。先ほども書いたように合唱団は第1幕の裏コーラスだけ。アシスタントに振らせて僕は客席でPAのバランスをみる。本来、合唱団が出演して歌うところを助演達が激しく踊りながら登場。でも合唱団は舞台袖で歌っているので、音響的な整合性をつけるのが大変。
 第1幕が終了すると、合唱団はその日は終わり。で、僕も職務としては終了。でも第2幕以降はまだきちんと見ていなかったので、お客気分で見学。第2幕の舞台セットはなかなか美しいよ。冒頭のホルンが裏から聞こえる箇所で、助演達が扱うたいまつに本当の火が使われているのがとても効果的。やはり本火(ほんび)はいいな。そのゆらぎの感覚がたまらない。この舞台がそもそも水を張られていることは先週述べたが、水も火も舞台上で使われると、なにか原始の本能をかきたてられるなあ。

 そうして原始の本能をかきたてられた僕は、第2幕後半に入ったところで、どうしても水の中に入りたくてたまらなくなってしまった。つまり泳ぎたくなったのだ。実は、今日収録が全部出来たら絶対水泳解禁するんだと水着を持ってきていた。そこで、こっそり劇場を抜け出して(別に仕事中ではないのでこっそりしなくてもよい)、幡ヶ谷に向かい、渋谷区スポーツ・センターに行って40分くらい泳いできた。チョー気持ちいい!40分とはいっても、ほぼ泳ぎっぱなしだったからクタクタになりました。
 でも、やっぱりすぐに声がおかしくなる。塩素アレルギーだ。だから録音中は泳ぎにいけなかったんだからね。だけど今日はもう全部録っちゃったんだからいいんだ。ざまあ見ろ!やーいやーい塩素よ!バーカバーカお前のかあちゃんでべそ!

 その後、もう一度劇場に戻ってから、今度は恵比寿へ向かう。実は長女の志保と約束してあった。
「パパが録音を無事収録したらお祝いするので、『トリスタン』の後、夜フレンチ・レストランのエピに行こうね!」
と。
 エピに行くのにはもうひとつ理由があった。先日次女の杏奈がブルゴーニュに遊びに行った。それならというのでエピのシェフが杏奈に頼みごとをしたという。シェフは探しているワインがあって、もしあったら買って送ってくれないかと杏奈に頼んだのだ。それが見つかったということで杏奈は僕の家に送ってきた。一緒にブルゴーニュ・ワインが2本入っていて、これは僕たち家族の分だ。うふふ・・・クリスマスに飲むんだ。
 シェフは杏奈が払った分をすでに振り込んでくれたということなので、あとは僕たちの内の誰かがエピに行かなければならない。行くなら食べないで帰ってくるほど馬鹿らしいことはない。ということで、行くことが出来る日を探していたのである。
 僕は朝からNHKに出ていたので、家からワインを持ってくるのは志保の係。恵比寿で待ち合わせした時、
「持ってくる間ずっと怖くて仕方なかったよ。割ったらどうしようか、とか思ってさあ」
と言っていたが、後でシェフに訊いたら、日本ではほとんど手に入らない本当に貴重なワインだということだ。もし日本で買ったら確実に10万円は下らないとのこと。おおコワ!志保、落とさないでよかったね。

 エピの味は健在!シェフお薦めのおいしいブルゴーニュ・ワインを飲みながら(いや、10万円のではないよ)ムール貝や真鯛のポアレを堪能した。志保は若いのでステーキ。まあ、こんな日もないと人生やってられんわ!それにしても、こんな時、娘と一緒というのはどんなもんかね?まあ、健全でいいんだが、男としてはどーよ?

読響第九と多忙なる日々
 今月は僕のメディアへの露出度が高い。13日の月曜日、日本テレビが新国立劇場に読売日本交響楽団第九演奏会のための僕の合唱音楽練習を撮りにきた。日本テレビは、毎年読響第九の放送をやっている。でも年末の深夜2時近くから始まるので、なかなか見ることが出来ない。
 この放送では、いつも、第九演奏が始まる前に、ソリストにインタビューしたりしていたが、今年はコーラスに焦点を当てて放送するというコンセプトらしい。会ってみたら、カメラマンは毎年撮ってる人だった。どうせ10秒くらいしか映らないのだろうと思っていた僕は、
「こっちは自分のペースで勝手に練習していますから、好きなところを撮って好きに編集してくださいね」
と言って、練習を始めた。
 ところが一時間経って休憩時間に入っても帰る様子はない。それどころか、
「いやあ、楽しい練習ですね。新国立劇場の合唱団が良いのは分かっていましたが、こういう練習していたから良かったんですね!」
となんだかとても感心している。休憩後の練習も、彼はいろんな角度から僕や歌っている合唱団の姿を撮っていた。
 後でマネージャーが僕に言う。
「三澤さんの練習がとても気に入ったみたいで、マエストロ稽古の日に、急遽三澤さんのインタビューも撮影したいと日テレが言ってきていますが、いいですか?」

 ということで、練習風景だけでなくインタビューも撮った。なんだか話し始めたら止まらなくて、気が付いたらシラーの自由への想いなど思いの丈をぶちまけてしまった。これをどう編集するのか知らない。
 この放送時間なんだけど、日テレの人の言い方だと、
「26日の25時50分からです」
ということで、分かり易く言うと、もう27日に入っている深夜の1時50分からだ。
 だからみなさんは、26日は夜の9時からずっとNHK FMをつけて、僕が名演と言った「ジークフリート」を聴いて、それが確実に深夜の1時以降までかかるから、それから日本テレビを観ればいいんだ。ちなみに僕は翌朝のお散歩があるからとっとと寝るからね。

 さて、17日金曜日はマエストロ稽古。続く18日はオケ合わせだ。指揮者はヒュー・ウルフ。先日の飯守泰次郎氏とは全然タイプが違う。いやあ、本当にいろんな第九があるね。ウルフ氏は、かなりキビキビしたテンポで歯切れの良い演奏。
 テノール・ソロが男声合唱を従える箇所では、ひとつ振りで突っ走る。そのままのテンポでフーガの長い間奏に突入。ここはふたつ振りだが、このフーガは早い方が怒濤のような感じでいいかも知れない。
 フーガが終わって曲が静まり、ホルンと管楽器とがロ長調やロ短調で交差するところでは、ホルンにタイをつけて不思議なシンコペーションを聴かせる。続く有名な「歓喜の歌」の箇所もひとつ振り!
Seid umschlungen, Millionen !
と男声合唱がユニゾンで歌い出した後、混声合唱になるところでは、飯守氏はレガートを要求したが、ウルフ氏はumschlungenに男声合唱と同じスタッカートを要求する。
まあ、合唱団は百戦錬磨だから、どんな解釈にも対応出来る。この第九もなかなか良くなる予感!

 18日の土曜日は、朝から超忙しかった。10時から13時まで東京バロック・スコラーズの練習。その後14時から池袋芸術劇場で第九オケ合わせをして、16時3分の新幹線に飛び乗り、浜松に向かう。17時33分浜松着。ホテルにチェックインだけして荷物を置き、急いで練習会場に向かい、18時から浜松バッハ研究会クリスマス・コンサートのオケ合わせ。これが21時40分頃に終わると、ぐったりしてしまって外に食事に出る気力もない。 夕方用意してもらったのに食べ損なったお弁当をもらって、ホテルの部屋に帰り、お酒も飲まずにお弁当を食べてから「今日この頃」の前半の原稿を書き始めた(これを書く元気は残っているのだな)。
 しめた、今日はお酒を抜けたぜ!冷蔵庫の上にあるサントリー・オールドとシーバス・リーガルの小瓶が気になってチラチラ見るが、
「だめだめ!エピに行って以来オーバー・カロリーなんだから」
と自らをいましめ、一太郎に集中する。12時前に就寝。やったー!今日は休肝日。

 19日の朝は6時半前に起床。朝のお散歩に出る。お酒を飲まないとね、朝から体が軽いんだ。JRの高架の線路に沿って西に歩く。福祉文化会館を越えてどんどん行ったら、よく練習で使っている県居(あがたい)公民館に出た。ほう、こんなところにあったんかいな。車で乗せてきてもらうとよく分からないけれど、歩くと地形が把握出来て良い。でも、浜松という街も道の角度がよく分からないなあ。きっと線路が曲がっているんだ。だから真っ直ぐ歩いているつもりが、
「あれれ、アクト・シティがあんなところに見えるぞ」
という風にいつしか曲がっている。
 きっかり一時間お散歩して7時半にホテルに戻り、ゆったりとお風呂に入る。それから8時に下のレストランに行くが、今日はバッハ研の代表の河野周平さんと一緒に朝食を食べながら先のスケジュールの話をする。

 そして新幹線に乗って再び東京に帰ってきた。いやあ、よく働くねえ!そしてヒュー・ウルフの第九の本番。僕は客席で聴く。ウルフの第九は、かなり速くてエネルギッシュ。メリハリが立っている。だからといって古楽っぽく弾かせるとかいうのではない。
 棒は明快。解釈にはてらいがなく、音楽は流麗に流れている。なによりいいのは、読響の音がとてもいい。団員達が彼を信頼して弾いている音がする。

 彼の解釈で第1楽章を聴くと、壮大な金字塔というより、交響曲第8番までの第1楽章とのつながりを感じる。つまり巨匠ベートーヴェンというより、とても強靱な魂をもって運命と立ち向かってゆく勇壮で若々しいベートーヴェン像を感じる。
 第4楽章の大詰め。
Prestissimoで、
Seid umschlungen, Millionen ! Diesen Kuss der ganzen Welt !
と突っ走った後、
Tochter aus Elysium
でMestosoでいきなり遅くなるところでは、通常8分音符単位で振るが、みっつ振りで突入。
 これはベートーヴェンのメトロノーム指示に従ったものであり、確か下野竜也さんもこうやっていたな。その前のPrestissimoが2分音符イコール132でMestosoが4分音符イコール60だから、ほぼ前の小節の一拍分がMestosoの8分音符分になるわけだ。通常の倍くらいの速さということになる。
 僕個人は、理屈では分かるし、これもアリだと思う。というか、もしかしたらこっちの方がベートーヴェンが望んだものに近いのかも知れない・・・・いや、そうに違いない・・・・と、僕たちプロの方が簡単に考えられる。

 でも、お客さんの中にはとまどう人はいるだろうな。
「これは自分が聴いていたカラヤンのと違う。これでは終わった気がしない!」
ってね。僕も正直言うと感覚的には遅いヴァージョンの方が好きだ。一度たっぷりと、
Freude, schöner Götterfunken !
と歌い上げる部分があった方が、最後のPrestissimoが生きるような気がする。ともあれ、これは解釈の問題であり、あとは好みの問題でもある。

 さて、今年の第九の初日が成功裏に終わった。これから20日、21日、22日とあって、2日間お休みして25日、と26日。その内、25日は新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」初日と完全にぶつかってしまう。両方とも14:00からだから、「トリスタン」の第1幕の合唱部分は、アシスタントの冨平恭平(とみひら きょうへい)君に任せて、僕は第九の方に居る。読響は、前曲はなくて第九だけだから、3時半には終了。その後、もう合唱は終わっているが、劇場入りして「トリスタン」初日を見届けて、初日パーティーにも出る予定。

忙しいわけだ。二つの演目がこんな風に重なっているんだからね。その間を縫って23日は浜松バッハ研究会の演奏会だ。こんな風に多忙な日々は果てしなく続く。


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