あたたかいクリスマスコンサート

究極の美~おさかな
 最近よく魚の動きを観察する。読響の第九演奏会のある25日の土曜日も、お昼に池袋の東京芸術劇場前の居酒屋でランチを食べた時に、カウンターの「いけす」に泳ぐアジを見つめていた。いやあ、いつまで見ていても飽きない。
 魚が水の中で前に進むのは当たり前のように思えるが、よく観察するととても複雑なことをやっている。魚の動きは上から見ると、サッカー観戦などのウェーブの動作に似ている。つまり、うねりをしだいに後方に伝えることによって、水をそれに乗せてしだいに後方へ運ぶ。その反動で体を前に進ませるのだ。そのうねりの最後でダメ押しをするように水をはじく尾ヒレが案外重要で、これが反り返ることによってスピード感を作り出す。
 加えて魚は、水の中で徹底的に能率良く進むために、あの流線型の形をしており、さらにいくつもの補助的なヒレの繊細な動きによって、自由自在に進んだり戻ったり出来るのである。
 たとえば、そのまま真上に移動したい時には、人間で言えば手のあたりから出ているヒレを下に動かす。その際、驚くべきことには、下に動かす時にはなるべく抵抗が生まれるように動かすが、そのヒレを上に戻す時にはタテにしてなるべく抵抗がないように動かしている。このヒレはその他、バックしたり向きを上下左右に変えたり、あらゆる場合にとても有用に活用されている。その動きの芸術的な事!

 凄いな、と思う。やはり神様はいるなと思う。水の持つ性質と、その性質を充分に活用した運動性と形状を持つ魚という生物の存在が、見事なコラボレーションを成している。これが、進化論者が言うように「たまたま」突然変異で生まれたり、適者生存の原理で「たまたま」生き残ってきたなんて、僕は絶対に信じないね。これは完璧なプランのもとに作られたシステム以外考えられないだろう。
 それとも、なにかい?何億年という年月さえかかれば、あっちこっちから部品が自然に集まってきて、コンピューターが偶然に出来上がるとでも思うかい?言っておくが、魚はコンピューターよりずっと精密で優秀だ。
 確率論から言っても、あのような美しい流線型をした魚が偶然生まれる確率はとても低いものだ。そこに加えて、あのようにS字型にくねらす筋肉を内包している胴体が偶然形成される確率もとても低いのだ。それらを総合すると、現在の魚のような高度な有機体が、あのように優雅に水の中を泳ぐ動物としてこの世に存在する確率は、限りなくゼロに近いのである。
 だから宇宙には明確なる意志があり、設計図があり、それに従って生きとし生けるもの全ては創造されたのだ。

水泳と指揮
 なんで魚に興味があるのかというと、やはり水泳をしているからだな。そんなに本気でやっているわけでもないのだが、それでも、少しでも無駄な動きや抵抗をなくして前に進むことを考えていると、理想的な運動の模範を見てみたくなる。それが魚の動きにあるわけだ。

 そういえば、水泳をしていると、クロールでも平泳ぎでも、腕全体で水をカキ込む動作をするだろう。その時には、腕を立てるハイエルボーといわれるスタイルをとるが、あれが指揮するのにとても役立っている。特にエスプレシーヴォを表現する時に、クロールのS字型のストロークの動きを取り入れると、フレーズの緊張感が持続して良い効果が得られる。
 その動きが最も上手なのはカラヤンだったな。そういえばカラヤンも水泳をしていた。ベルリンの定宿を、わざわざプールがあるという理由だけでケンピンスキー・ホテルに移ったのだからね。そうか、あの動きは水泳からヒントを得たものだったのか。

 今僕がやっている運動は、ウォーキングでも自転車でもスキーでも、基本的に下半身中心の運動だ。だから水泳だけが指揮の運動に直接関わってくる。水泳をしている時の腕への抵抗は、指揮している時とは比べものにならない。だから、いってみれば、僕にとって水泳とは、「巨人の星」の星飛馬(ほし ひうま)の大リーグ養成ギプスのようなものなのだ。何?なんのことか分からないって?
 うーん・・・・あなたは一体何歳ですか?あなたの近くにいる僕くらいの男性に訊いてみてね。たいてい知っていると思うから。

あたたかいクリスマス・コンサート
 12月23日は、浜松バッハ研究会のクリスマス・コンサート。場所はカトリック浜松教会で行われた。曲目はバッハ作曲のブランデンブルク協奏曲第4番から始まって、Magnificatマグニフィカートの変ホ長調ヴァージョン。そして休憩をはさんで、僕の編曲したクリスマス・メドレーだ。
 ブランデンブルク協奏曲第4番は、6曲ある協奏曲の中で一番好きな曲かも知れない。まあ、僕の場合、どの曲をやっても気持ちを入れ込んでいるので、やっている時はこれが一番好きと思い込む傾向があるけどね。北川靖子(きたがわ きよこ)さんのソロ・ヴァイオリンも素晴らしかったが、なんといってもリコーダーの長瀬正典さんと徳永隆二さんのコンビネーションが圧巻だった。今度、機会があったら東京バロック・スコラーズでもお呼びしたいと思った。
 続くマグニフィカートについては、以前この欄でも述べたが、通常はニ長調ヴァージョンで演奏されることがほとんどだ。僕もこれまでに何度もやっているけれど、変ホ長調ヴァージョンでやるのは初めて。でも、これが本来のヴァージョンなのだなという思いを新たにした。たとえばニ長調ヴァージョンでは、第2ソプラノのソロのEt exsultavitのすぐ後に第1ソプラノのソロのQuia respexitとソロが2曲続いてしまうが、オリジナルでは間に合唱による「高き天より」のコラール幻想曲が配置される。
 上演時間も結構長くなってしまうけれど、クリスマス用の4曲が入った方が、かえって音楽としての存在感も増す。問題はニ長調より半音高い変ホ長調という調性だが、これはトランペットの問題さえ解決すれば問題はない。そして、そのトランペットだけれど・・・・三重県出身の松野美樹(まつの はるき)さんの輝かしいトランペットが、その超絶技巧的高音域の問題を見事に解決してくれた。
 松野さんは、昔から名古屋や浜松でお願いしているけれど、彼の健在ぶりをあらためて確認出来て本当に嬉しかった。彼とは2月のモーツァルト200演奏会のロ短調ミサ曲でまた共演する。これも大きな楽しみだ。

 そしていよいよ僕の編曲のクリスマス・メドレーだ。自分でいうのもナンだが、なかなか良いサウンドで鳴ってくれたよ。それに、「ああベトレヘムよ」「もろびとこぞりて」「まきびとひつじを」などの合唱の和声付けはカトリック聖歌集からとっているので、カトリック教会の中で演奏するのがとてもしっくりいった。
 特に第3メドレーの長い間奏曲から「しずけき」に入っていく瞬間は、オーケストラの心のこもった演奏と、バッハ研の合唱の清冽な響きによって、鳥肌が立つような感動を覚えた。
「ああ、救世主が降誕するのだ」
と静かで熱い想いが胸の中に広がった。会場のみなさんも同じように感じているのが、背中から伝わってきた。

 僕は、こんなコンサートをやりたくて音楽家をやっているのだ!それに人間の音楽から受ける感動の中でも最も深くて強いものは、「宗教的感動」なのだとも思った。浜松バッハ研究会にとっては、創立25周年記念演奏会だったが、それにふさわしいコンサートになったね。

 嬉しいことはもっとある。このバッハ研に子供の頃から参加していた河野真剛(かわの なおたか)君がバリトン歌手となり、ソリストとしてマグニフィカートに参加してくれたし、同じく子供の頃から参加していて、休み時間によく僕の膝に乗って来て、
「みさちゃん!」
と呼んでいた長谷川悠(はせがわ はるか)ちゃんが、愛知県立芸術大学ヴァイオリン科に入学して、今回初めてオーケストラ楽員としてコンサート・ミストレスの北川靖子さんの隣に座って弾いていた。早川桃代(はやかわ ももよ)ちゃんは、場内アナウンスを担当していた。

 団に歴史があるというのはこういうことなのだ。音楽は、
「これが素晴らしいから聴きなさい!」
と無理強いしなくても子供の心には自然に体に入ってくるし、親が打ち込んでいる姿を見れば、子供は自然に、
「なんだろうな?どうしてそんなに一生懸命やるんだろうな?なにがあるんだろうな?」
と興味を持って、生活の中に音楽が入り込んでくる。そうしていろいろに花開くわけだ。 僕も子供が大好きだから、練習場で多少子供が騒いでも少しも気にならない。むしろ、
「子供の面倒を見るのが大変で練習に来られないくらいなら、連れて来なさい」
と言っている。それがこうして実を結んでいくのを見るのは本当に嬉しい。それは新町歌劇団なども一緒だけれどね。

 浜松バッハ研究会も、これから50周年に向かって頑張っていきましょう!でも、一番大切なものを守っている限り、この団体は大丈夫です!

三澤家のクリスマス・イヴ
 さて、今年の12月24日のクリスマス・イヴは、次女の杏奈がパリにいるので、妻と長女の志保と3人で過ごした。この日はいつも家族揃っての買い物から始まる。でも今年は、僕が朝10時からイタリア語のレッスンを入れていたので、レッスンが終わる11時に妻の車がイタリア人の先生の家の前に来て、僕をひろって紀ノ国屋に行く。今日は杏奈の送ってくれたブルゴーニュ・ワインを開けるから、それに合った料理をするんだ。うふふふふ。
 紀ノ国屋では、オリーブ、テリーヌ、チーズ、チキンなどを買い込み、神戸屋キッチンでパンを買って帰ってきた。

 イヴのカトリック立川教会では、ここのところ毎年夕方の6時のミサと9時のミサの間にミニ・コンサートをしている。僕は6時のミサに出た後、信者の寄せ集めで作る聖歌隊の練習を行い、8時過ぎからコンサートをして、9時のミサには出ないで家に帰ってきた。コンサートは、ヴァイオリンの演奏に引き続いて、高田三郎の曲や「さやかに星は光ぬ」などを聖歌隊で演奏。聖歌隊の指揮は、勿論僕。
 
 教会から帰ってくると、楽しみにしていたディナー。僕が簡単なお祈りをしてからシャンパンで乾杯し、テリーヌやチーズ、サラダなどから始める。杏奈の送ってくれた2種類のブルゴーニュ・ワインの内、どちらを開けようかみんなで迷ったけれど、やっぱり定番のGevrey-Chambertinを開けた。この赤ワインとブルー・チーズなどのナチュラスチーズとの相性は完璧だね。
サラダは、チコリ、サニーレタスにクルミを入れてイタリアの生ハムを乗せたもの。フレンチ・レストラン・エピのアンディーブ・サラダのパクリなんだけど、トリュフなどを隠し味にして絶妙な味のするエピと違って、我が家のドレッシングは思いっきりシンプルにワイン・ビネガーとオリーブ油だけ。だって、とうてい勝負できないもの。
良いワインは、開けて空気に触れる間にどんどん味が変わっていく。ブルゴーニュ・ワインは、ブドウ自体がボルドーのように濃厚ではない代わりにフルーティ。熟成中に樽の香りをつけるので、樽の香りとブドウ本来の味と香りとのコンビネーションが勝負。このGevrey-Chambertinは、開けた時にはちょっと人見知りして硬い感じだったが、置いておく内にどんどん打ち解けて、香りに彩りが出てくるから不思議だね。

「ラインの黄金」の対談
 イヴのディナーの楽しい家族の語らいは続いたが、そうこうしている内に NHK FMの「ラインの黄金」の後の、僕と広瀬大介さんが対談する時間が近づいてきた。そこでラジオをつける。演奏が終わり、配役をスピーチした後、対談になると、途端に僕のしゃべり方はフォーマルな雰囲気を離れて、打ち解けた感じになる。その瞬間から、話の間に、
「まあ・・・」
という合いの手が多く入るようになる。
「パパ、『まあ』が多すぎるよ」
と志保がすかさず言う。
「そうだね。気が付かなかった」
まあ、こういうのは無意識に言うものだ・・・・あ、また言った!

 言葉の運びに相当気をつけていたので、僕も広瀬さんも言葉を噛まずに結構よどみなく会話が成立しているじゃないの。実はこれを収録した時に、最初の5分くらい録る間に、お互いしっちゃかめっちゃかになってしまって、
「ダメだコリャ!すいませーん!これNGにしましょう!もう一度最初からやっていいですか?」
と言って取り直したのだ。
 本当の事を言おう。二人の会話の中で、一番過激なところは実はカットされていた。それはそうだろうな。NHKとしては、アレを流すわけにはいかないよな。え?アレって何だって?それは、このホームページという公道の上にだって流すわけにはいかないんだよ。え?それじゃあ、ホームページにも流せないものをNHKの電波に乗せようとしたのだって?そういえばそうだね。カットされて当たり前だっつーの!

僕の年末
 今この原稿は26日の日曜日の夜に書いている。読響の第九が今日の横浜みなとみらいホールの公演で終わった。この後、仕事としては28日の新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」公演。そして29日の東京バロック・スコラーズの練習で仕事納め。29日の夜は、そのまま群馬の実家に帰る。
 明日の27日の月曜日は、大掃除の日だが、晩はイタリア語の先生を自宅に招いてささやかなディナー。イタリア語の先生だから一生懸命イタリアンでも作って出すと思うだろう。ところがどっこい、彼女は日本食が大好きなんだ。そこで明日は鍋料理をする。それもきりたんぽ鍋だ。
 この先生には、僕だけでなく妻も志保も習っている。妻は僕と一緒にイタリアに行くつもりだし、志保はその間むしろタンタンの面倒を見ながら日本で仕事しているが、イタリア・オペラをやるのにイタリア語が必要なので、せっかくの機会だからと通っているのだ。フランスに長く住んでいた志保は、同じラテン系であるイタリア語を覚えるのも早い。

 さて、今年のお正月はねえ、あんまりのんびり出来ません。NHKの仕事のために先送りとなった沢山の仕事がたまっているので、群馬でずっと地味に仕事することになる予定なのだ。
 やっとこのことをこのページでも書けるようになってきたけど、来年夏に新国立劇場では新しい子供オペラ「パルジファルとふしぎな聖杯」というのを上演するんだ。台本作成及び編曲は全て僕ひとり。内容は文字通り「パルジファル」なんだ。何?「パルジファル」が子供オペラになんかなるわけないって?ふふふふ・・・・これがなるんだな。まあ、詳しくはいつか時間がある時に書くよ。いっとくけど、みんな、
「あっ!」
と驚くよ。そして僕を『天才』と呼ぶのだ。うわっはっはっは!

 この「パルジファルとふしぎな聖杯」のピアノ・ヴォーカルスコアの締め切りが年内いっぱいなんだ。基本的にはもう半年くらい前に仕上がっているのだけれど、ライブラリアンが最終的に製本するためにもう一度見直しして、決定版としなければいけないのだ。
 実は11月後半には、もう見直しの最終段階に入っていた。そこにNHKの仕事がねじ込まれたため、中断を余儀なくされ、完成が約3週間遅れたのだ。これをあと3日間の内に仕上げて劇場に持っていかなければならない。
 さらに、このヴォーカル・スコアを提出すると、ただちにオーケストラ・スコアの制作に入り、3月15日までに提出しなければならない。うー、考えただけでドキドキしてくるぜ!通常はもっと遅くていいのだけれど、イタリアに行く前にスコアを手に入れておかないと劇場側としても不安なのだ。それはよく分かる。僕だって、イタリアで果たしてオケ・スコアの制作が出来る環境が与えられるかどうか分からないしね。

 そのスコア制作をやっている間に、みなさんが知っているあのコンサートもあの仕事もあるわけですよ。だから正月でも遊んでいる暇ないの。グスン!

ということでね、お正月は一週間お休みします。次の更新は1月10日月曜日の予定。それではみなさん、良いお年を!

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