宇宙とつながる方法

三澤洋史   

大宇宙とつながる方法
 「宇宙とつながる!~願う前に願いがかなう本」ソウルメイト研究家Keiko著(大和出版)は、宗教書のコーナーにありがちな見るからに怪しげな本。オレンジ色の地に黄色のハートの表紙。たすきに書いてあるのは、「愛もお金も幸せもすべて手に入れたいあなたへ」。中をめくると、それぞれの章のタイトルも本文も、若者にウケようとするような実に軽いタッチで書いてある。
 しかし・・・しかしですよ。この本に書いてあることは全て真実だ。それどころか、こんな深遠な世の奥義を、こんな読みやすい文章で表現しつくした著者に、僕は尊敬の念を覚える。

願いってね、自分でかなえるものじゃないの。
いつもかなえてもらっているの。宇宙に。
じゃあ、宇宙とツーカーになるには?
そこにいく前にまず、宇宙があなたの存在に気づいているかどうかが問題よね。
あなたがもし宇宙に気づいてもらえてないとしたら、理由はたったひとつ。それ は「光を放っていないから」。
ちなみにこの光って、いったいどこから来るんだと思う?
それは、あなたの中の「愛」。
 最初の数ページでこれだけの事を言ってしまっている。これだけの真理に目覚めるために一生をかけて修行している宗教者が少なくないのに・・・。さらに驚くべきことが書いてある。
自分の願っていることがかなったら嬉しい。
でも、願う前にかなっちゃったら、もっとよくない?
なぜ願う前にかなうんだと思う?
それは、「運命の輪」がまわっているから。
 ここまで読んで「あっ!」と思った。この「運命の輪」という言葉、今の僕にとって最もアクチュエルな言葉だったからだ。新国立劇場合唱団では、オルフ作曲「カルミナ・ブラーナ」をバレエ公演用に練習している。その冒頭合唱の歌詞がO Fortuna「おお、運命の女神よ」で、その中にあるrota tu volubilis(回転する輪)という歌詞についていろいろ考えていたところだったのである。
 rotaは、現代イタリア語ではruotaで、自動車の車輪などをさす言葉だ。動詞ではruotareという言い方もあるが、現代ではよりラテン語に近いrotare(回転する)を使う。名詞はrotazione(回転、循環)だ。ローテーションという言葉の語源であることを知って、「へえ!」って思った。
 volubilis(回りやすい、動きやすい、回転する、不安定な)の動詞はvolvo(ころがす)だ。スエーデンの自動車メーカーvolvo社の語源だそうだ。現代イタリア語ではvolgereで、むしろ(向く、ターンする)の意味になっている。それらの単語を調べながら、僕はちょうど、
「運命は輪のようなんだな」
と思っていたところなのだ。

 だからここに共時性を感じた・・・・あれっ?笑っているね。これを笑うような人には、この本のメッセージは届かないんだ。実は、宇宙からは様々なメッセージが届いているのに、直感が鈍っている人や、常識にとらわれている人は素通りしてしまうのだ。
 僕はね、ここに書かれている事こそ、21世紀の新しい価値観を作っていく真実なのだと信じているのだ。本当のことを言うと、僕はもう組織のある宗教の時代は終わったと思っている。組織になるとどうしてもお金が動くし、教義も難解になり硬直する。人間は元来、そんな組織に頼らないでも、それぞれ個人が単純な宇宙的真理に従って生きていけるのだと思っているのだ。
 僕の中には、大きな誤算があった。それは、21世紀もこんだけ過ぎて、今頃はもうみんな自然にこうした価値観に従って生きているような世界が実現しているものと思っていたんだ。でも、相変わらずロクでもない世界がダラダラと続いている。おかしいな。そんなはずないんだけどな。
 この本には、この先もいろいろなことが書いてある。僕が「おにころ」を創った時に盛り込んだメッセージが全て入っている。おにころは天から啓示を受け、自らを変えていき、他人のために自分を与えきる人生を生きる。それが彼の究極の自己実現。妖精メタモルフォーゼが、この本でいう宇宙だ。

この本に少しでも共感するあなたは、新しい時代を生きる天使人類です。


宇宙とつながる


シーズン最後のゲレンデ
 3月12日水曜日。ガーラ湯沢は抜けるような青空。そのままでも汗ばんできそうなくらいの気温。雪山にも春が満載だ。今日は僕にとって今シーズン最後の日。次女の杏奈が一緒だ。ちょうどメイクの仕事が休日になったので、
「パラレルが出来るまで教えてあげるから」
と騙くらかして連れてきた。
 早朝に僕が二人分作ったサンドイッチを、大宮の駅で一緒に食べる。いつもの、
「今日はどこまで上達するだろう」
という張り詰めた空気とは打って変わってピクニック・モード。今年はゆったりとした気持ちでシーズンを終えるのだ。

 ゲレンデに出た。さて、どうやって教えたものか・・・僕は、白馬で角皆君が教えてくれたボーゲンのレッスンを思い出した。あれは素晴らしいレッスンだった。その重心移動の仕方を頭に描き、自分も復習しながら杏奈に伝えていこうと思った。
 まずは外向傾を徹底させること。それは白馬で僕自身一番苦労したポイントだった。外足にしっかり重心を乗せ、切り替えの時に、重心を前に移動しながら、次の外足になる足の親指を意識してターンを始める。最初はつま先に重心。でも体がフォールラインを過ぎて山回りになるとだんだん後ろに移動していって、しっかり外足のくるぶしやかかとに重心を乗せる。それからまた切り替え。
 最近まで自分も雰囲気でしか把握していなかった“横滑り”やズラしのテクニックをおさらいしながら杏奈に伝える。板は横向きにしたまま、上半身をひねって顔をフォールラインに向かせ、カカト加重しながらスキー板のエッジをはずしていく。
 初心者が最も恐れるのは体が真下を向いた瞬間。出来ればなるべく谷の方を向きたくない。だからターンをしても、クルッとすぐに回ってしまって斜滑降の時間を長く取ろうとしてしまう。つまり「曲がって直線、曲がって直線」のいびつなターンになってしまう。顔の向きもつい山側を向いてしまう。
 でも、ズラし方をきっちり覚えて、どんな時でも意のままにブレーキをかけることが出来る事に気づくと、このフォールラインを向く瞬間に多少のスピードが出ても、我慢して大回りをすることが出来る。その結果、ターン全体でスピードコントロールしながら全体を大きな曲線に仕上げることが可能になるのである。
 杏奈はびっくりするほど僕の言うことに素直に従い、みるみる上達していく。
「すぐ回ってしまわないで、我慢して我慢してー!フォールラインを越えたら、板の進行方向ではなく、ちょっとかがんで谷を見てみよう。それから次のターンをイメージしながら体を前に運ぶんだよ!」
「はい!」
いつも家でもこんな風に従順だと本当に可愛い娘なんだけどなあ・・・。

 教えながら僕はあらためて思った。やはり初級はズラしと外向傾につきるなあ。ブレーキを徹底して教えるのが先決。それからだんだんアクセルの踏み方を教えればいいんだ。この初級レベルに、ここ数年SAJが指導してきたような、内足の小指を倒してカーヴィング・ターンを始めさせるなんてナンセンスもいいとこ。ズラしを教えなかったら、初心者はスピードに対する恐怖ばかり覚えてしまうだろう。
 きっと偉い人達は、初心者の時の恐怖感なんて忘れてしまっているのだろうが、僕はごく最近まで初心者だったからよく分かるんだ。いつでも止まれる確信を持てて、はじめてスピードを出してみようかという気持ちが生まれるのだ。

 僕は、杏奈のレッスンが一区切りつくと、
「ではこの方法で少し慣れるまで練習していなさいね」
と言い残してコブ斜面に行った。
 ガーラ湯沢には、高津倉山頂裏側の南斜面に260万ダラーというかっこいい名前がついた長いコブ斜面がある。これがあるから僕はガーラ湯沢に行くのだ。レッスンでユルユルに滑っていた僕にはエネルギーがたまっている。
「いくぜー!」
という感じでコブ斜面に身を躍り出す。
 コブの頂上ではスキー板のトップが浮き上がる。その瞬間に「よっこいしょ!」と体重移動をしてスキー板を落とし、トップから着地する。まるでイルカのジャンプのよう。勿論、吸収動作をするから実際にはジャンプをしているわけではないけれど、気分はイルカ・ショウのハイジャンプ。しかし、おじさんには耐久力がない。短い間にめちゃめちゃエネルギーを使ってハアハア息が上がる。
 それから何食わぬ顔をして杏奈の所に戻ってレッスンを続ける。
「パパ汗かいてるね」
「そ、そうかな・・・」

 お昼になる。杏奈が、
「やっぱりスキー場に来たらカツカレーでしょう」
というので、僕もそんな気がしてきた。
「フライポテトも頼んじゃおうか」
カツカレーを食べながらフライポテトをつまむ。ヤベエ、オーバーカロリーだな、こりゃ。しかし一方では、フライポテトだけだと口の中がモサモサとなっていけない。
「杏奈、ビール飲んじゃおうか」
「いいね、いいね!」
 さらに倍ヤベエ!しかしビールって脂っこいツマミとなんて合うんだ!生ビールの爽やかさで全てが包まれ、フライポテトがどんどん進む。黄金のコンビネーション!でも本当は、感覚が麻痺しているだけで、ビールそのものだって高カロリーなんだから、大変なことになっているのだ。
「あーあ、飲んじゃった!」
実を言うと、今日は僕にとって休日ではない。この後なんと仕事に行く。新国立劇場では「死の都」の初日なのだ。飲酒して勤務!でも、開演は19時だし、合唱の出番に至っては20時45分くらいに最初の女性合唱が来る。今ビール飲んでも働くのは8時間以上経ってから。
「だから今飲んでもいいんだ。ははははは!」
向かい側の杏奈はキョトンとしている。僕は一体誰に向かって言い訳しているのだ。

 杏奈の滑りが安定してきたので、午後はジジという急斜面のある中級コースに移ってレッスンを続ける。面白いことに、重心移動の仕方さえきちんと教えておけば、重心の所在はむしろ急斜面の方が把握しやすいようだ。杏奈は急斜面に大きなターン弧を描きながら、落ち着いて滑っている。
「外足に重心が乗って余裕が出来たら、反対の足をだんだん閉じて両板が平行になるようにしてごらん。もう内足は遊んでいるから落ち着いてやれば必ず出来るよ。ちょっと体をひねって視線はいつも少し谷の方を向いていた方がいい」
 こうやって人に教えるというのはすごく自分が勉強になるね。スキーというのは、とどのつまりは“重心移動”と、それを効率よく行うための“姿勢”につきるから、これを自分でも確認する良い機会だ。
「ええと・・・自分ではどうやっていたんだろう?」
と自分の姿勢も直す。
 こうして杏奈の滑りは、パラレル(平行)の割合がだんだん多くなってきた。今や、ターンの始動時にややシュテム・ボーゲンの痕跡が残るのみとなり、“ほとんどパラレル”のレベルだ。
「あとは、次のシーズンで美穂さん(角皆君の奥さん)に教われば、完璧なパラレルになるよ」
「うん!」
「じゃあ、30分後に下のスキーセンター・カワバンガに集合。その後“ガーラの湯”に入って、それからソフトクリームを食べるのがパパのいつものコース」
「わあ、楽しそう!」

 そして杏奈と別れた。僕は、北エリアのコブ斜面を二度ほど滑ってから、下山コース・ファルコンに向かう。ファルコンは細くて急斜面もあるので、杏奈はゴンドラでカワバンガまで降りた。僕は、全長2500メートルのファルコンを滑り降りて今シーズンを終わる。
 大きく深呼吸をして滑り始める。頬に当たる風がだんだん強くなる。足下の雪が疾風のように駆け抜けてゆく。しだいに日常生活で体感できる速度を超え始める。すると、自己の中に眠っていた野生が目覚める。それはノソッと起き上がり、体を伸ばし・・・そして・・・突然雄叫びをあげる。
「ガオーッ!」
 その瞬間、頭の中でターボのスイッチのカチッという音が聞こえたような気がした。僕は外足を伸ばし内足を折りたたむ。外足を強く押すとスキー板がたわむ。そのまま外足を前に運ぶ。板はビューンと加速する。僕の板のやんちゃなVelocityはこれが大得意。体が傾き、雪面が近くなる。
 あたりの景色が矢のように通り過ぎてゆく。他のスキーヤーやスノウ・ボーダー達を面白いように追い抜いていく。僕は誰よりも速く雪山を駆け抜けていく。それでも滑りは安定している。外向傾のフォームは本当に安全なのだと実感する。
 足に感じる雪のでこぼこの衝撃が強くなる。しかしそれを受け入れる大腿筋は強靱だ。
「全ての衝撃を受け止めてやるぞーっ!」
と叫んでいる。おお、なんと頼もしい奴!しかし、気がついてみたら大腿筋だけではない。体のあらゆる筋肉が大腿筋に唱和して叫んでいる。
「受け止めてやるぞーっ!もっとスピード出せーっ!」
全身が叫びと化す。
 その限りなくワイルドな叫びに乗って僕の魂がゆっくりと地上を離れ、飛翔し始める。抜けるような大空に向かって・・・・銀色に輝く雲に向かって・・・・その向こうにある永遠の光に向かって・・・・。

 のんびりと足の筋肉を揉みほぐしながらSPAガーラの湯に浸かる。極楽、極楽!お湯から出て、一足先にCafe Milanoでソフトクリームを食べていると、杏奈が走って来た。この娘は子供の時からこんな時いつも走って来る。
 新幹線の中では、杏奈のi-Phoneに入っている杏樹の写真を一緒に眺めながら、
「ほっぺた落ちそうなくらい太ってるよね」
と笑う。府中本町では妻が車に乗って待っていてくれた。こんな家族に囲まれて僕はなんてしあわせなのだろう。杏奈も一日素直な可愛い娘で、目の中に入れてもちっとも痛くありませんでした。
 ブーツなどが入った荷物を車の荷台に置き、スキージャケットを脱いでいつものジャケットに着替えながら車に乗る。府中本町と分倍河原というたった一駅の間に妻と会話を交わし、それから分倍河原で二人と別れ、京王線に乗る。

 そうして何食わぬ顔をして新国立劇場の楽屋に到着。
「あれっ、三澤さん・・・・」
後ろから呼び止められる。ヤベッ、ビール飲んだのバレたか・・・?
「今日は手ぶらですか?」
おっとっと、本当だ。みんな置いてきてしまったので手ぶらだった。かえって不自然だなあ、こりゃ。
 「死の都」初日は滞りなく進んでいく。僕の肢体にはまだ、ファルコン(鷹)で自分が鷹になった飛翔感が鮮やかに残っている。同時に、シーズンが終わってしまった淋しさに沈んでいる。
 その淋しさと、妻を失ったパウルの喪失感や踊り子マリエッタへの失望が重なる。甘いコルンゴルドのメロディーや和声が、僕の心の頬を撫でていく。辛いオペラだな。でも、ブルージュの街を離れて、明日への希望の扉を開くのだ。

 さあ、春だ!太陽の季節だ!これからは気分を切り替えて自転車に乗り、プールに行き、お散歩をしよう。でもなあ・・・花粉症が始まっているんだ。



 


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