オンライン授業でバッハを語ります

三澤洋史   

オンライン授業でバッハを語ります
 6月6日にひとつ講演会がある。だがその講演会は普通のとちょっと違う。実は、インターネット上で行う授業形態で、しかもライブなのだ。なんでも授業中にチャットで質問が来てリアルタイムで答えたりするという。
 それはWEB CAMPUS SCHOOウェッブ・キャンパス・スクーと呼ばれるサイトで、登録して生徒となり、様々なジャンルのオンライン授業を受けられるというものである。興味のある人は、まずホームページを覗いてみて下さい。

 昨年ヤマハの「第九を歌おう」でITでの音楽活動に足を踏み入れたが、本当はそれ以上深入りするつもりはなかった。でも、そのコンテンツが結構評判が良かったらしく、今回もヤマハ経由でこの講演会の仕事が回ってきた。まあ、新しいことは嫌いではないので、引き受けてみた。
 当初は、先方も僕に具体的に何を話してもらいたいという強い希望があるわけでもなかった。漠然と、
「クラシック音楽の入門講座、ないしは、何か特定のテーマを掘り下げるようなもので、お客さんを惹き付けたい」
ということを、初回のミーティングで言われて、いろいろテーマを探したが、結局、僕の得意なバッハについて話すことにした。
 僕は、過去の講演会のパワーポイント資料や画像や音資料を携えて二度目のミーティングに行った。東京バロック・スコラーズで行った「初めてのバッハ」講演会と、ヤマハ音楽教室の講師を相手にした「インヴェンションは楽しい」講演会の資料を見せたり聞かせたりしながら説明した。
 すると担当の人は、僕の全く予想もしていなかった点に注目した。
「そのバッハの創作力と、イノベーションをからめられないですかね?」
「イ、イノベーションですか?」
「そうです。お話を伺っていますと、すごく新しいことをバッハはやっているじゃないですか」
「うーむ、ただバッハは、音楽史の中では、むしろそれまでの音楽を統合し、次の時代に伝えていった人として知られています。いろんな音楽の潮流がバッハに流れ込み、吟味され、融合されました。そしてバッハから再び流れ出て、それが次の時代に影響を与えていったわけです・・・」
と自分で言いながら、僕の頭の中にひらめくものがあった。そうかあ、そういう形のイノベーションもあるのかも知れない・・・とね。って、ゆーか、イノベーションって、そもそもそういうものかも知れないぞ。
 全くこれまで誰もやったことのない、考えたこともない本当に新しいものを最初から考える人っていないのではないか。音楽史の中で最も偉大な改革者と言われるベートーヴェンやワーグナーだって、自分の強烈な個性を出すまでには、先人達の影響を大きく受けた秀作を少なからず残しているではないか。
 彼らは、先人達がやっているものの中から、自分でこれは面白いと思うものを取り出していく過程で、自然にその人なりのバイアスがかかって、新しいものは生まれてくるのである。
 バッハの場合、特徴的なのは“融合”である。彼が、それまであったものの中から2つ以上の要素を融合させる時、すなわち、純音楽の分野に世俗音楽のリズムを持ち込むとか、礼拝音楽の中にオペラのノウハウを持ち込むとか、そうした異質なものを融合させた瞬間に、一種の核融合のようなものが起こり、新しいものが生まれてきたのだ。

 さて後日、タイトルの候補がメールで送られてきた。
「バッハに学ぶイノベーションの起こし方」
うわっ!自分の講演会じゃないみたいだ。今まで、こんなタイトルで講演会なんかやったことがないぜ!これまでの僕の講演会では決して来たことのない起業家とか政治家達が大勢受講したりしたらどうするんだ。
 ただ僕の話はあくまで音楽の中に留まっていて、別に企業や政治の話をするわけではない。やれって言われたって出来るわけないしね。まあ、バッハのことを普通に話していれば自然にイノベーションの話になるのだろうと、実に楽観的な気持ちでいる。

 ということで、オンライン授業「バッハに学ぶイノベーションの起こし方」は、6月6日金曜日夜7時から8時まで行われます。今、その準備で大忙しです。ちなみに、明日27日火曜日は、午後に「カヴァパリ」本番が新国立劇場でありますが、その午前中にリハーサルをやります。リハーサルだけなのに、今からちょっと緊張しています。
 興味のある人は生徒登録して是非6月6日に受講してね。生徒登録は難しくないと聞いてます。無料だとも聞いているけど、どこかでお金かかるかも知れないね。こうしたネット上の講演では、市販のCD音源を使うのが難しいというので、僕は、東京バロック・スコラーズの過去の演奏会の音源や、このホームページにも載せているPartitaやInventionなどの音源を使います。講演の後半で、気が向いたらチャットで僕に質問を送ってもいいよ。

三澤賞
 この「今日この頃」でも何度も触れているが、三澤賞とは、僕が音楽監督をしている東京バロック・スコラーズの演奏会で、一番チケットを沢山売ってくれた団員4人を、感謝をこめて我が家のディナーに招待する賞のことである。
 今回は、なんとさかのぼること2月の「バッハ自由自在」演奏会に対しての賞なので、とってもとっても遅いのである。何故なら、それは我が家におけるのっぴきならない家庭事情による。

 長女志保は、昨年11月28日に杏樹を産んだが、今年の2月からピアニストとしての活動を再開した。彼女が働いている間の杏樹の面倒を見るのは主に僕の妻である。特に二期会「蝶々夫人」の練習ピアニストをつとめた3月4月の期間は、連日午後から夜にかけてびっしり練習が詰まっていたので、妻自身がいっぱいいっぱいで、とても人を我が家に招待するような状態ではなかった。今は、「蝶々夫人」も終わって結構ゆったりしているので、やっと三澤賞が出来るようになったのだ。4人の受賞者のみなさん、本当にお待たせしてすみませんでした。
 4人の内、2人の方は今回初めてである。全員女性。話をしてみるとOさんは現役の国語の教師、Tさんは、今はリタイヤしているが、かつては家庭科の教師ということで、つくづく東京バロック・スコラーズの知的水準の高さを感じた。
 さて、今回の呼び物がある。それは、志保の夫のトミーノこと河原義(かわはら つとむ)君が、自慢のイタリア料理を作ってくれたのである。ちなみに何故トミーノと言うかというと(前に説明したと思うけれどもう一度言います)、中学2年生の時にイタリアに渡った彼は、Tsutomuでは長いのでイタリア人のクラスメートからTsutomu→Tomトムと呼ばれていた。その愛称がTom→Tominoトミーノなのだ。
 イタリア語では「小さいもの。可愛いもの」にinoをつけるのだ。たとえば弦楽器は、元来基本がViolaだった。そのひとまわり小さいものを作ったのでViolinoと呼び、それが今日のヴァイオリンの語源である。

さて、うんちくはこのくらいにして、メニューは以下の通り。

MENU

ANTIPASTO
Prosciutto crudo di Parma
Strolghino
Parmigiano Reggiano Gorgonzola Dolce
Insalata Verde
Lambrusco nero "OTELLO"

PRIMO PIATTO
Risotto ai Funghi Porcini

SECONDO PIATTO
Pollo al Limone
Polpette alla Sophia Loren
Salmone al Premio MISAWA

DESSERT
Mango e Uva Spina Rossa con la Panna

前菜
 パルマ風生ハム
と、ストロルギーノと呼ばれるパルマ風サラミは、トミーノがパルマから持ち帰ったもの。日本では決して食べられない味。生ハムは独特の匂いがあり、ストロルギーノは、半分生のサラミで極旨なのだ。
 パルメザン・チーズも(粉チーズじゃないよ、今回はスライスしてかたまりで食べた)、いろいろ種類がある。今回使ったソフトタイプのは、本当は別の言い方があって、通常のパルメザンより柔らかくてなめらか。
 ゴルゴンゾーラと呼ばれるイタリア産青カビのチーズは、(これは日本で買った物だけれど)特別にDolceと呼ばれるソフトな食べやすいタイプのものを使用した。みんな、名前だけだと、今の日本だったら、どこでも食べられそうなものだけれど、同じ銘柄でも、こだわり始めると日本で入手困難なものばかりだ。
 グリーン・サラダのドレッシングは杏奈特製。乾杯して前菜と一緒に飲んだのは、黒ランブルスコ「オテロ」。ランブルスコとは、パルマのあたりで飲まれる赤のスパークリング・ワイン。最近は日本でも成城石井あたりで売っていて、割と飲まれるようにはなってきたが、nero黒は我が国では入手困難。勿論、これもトミーノがパルマから持ち帰った。黒といっても結局赤なんだけど、瓶の下にオリがたまるくらい濃いのだ。でも味は濃厚というわけでもない。むしろ素朴で絞りたての葡萄ジュースのようなナチュラルな味わいなので、前菜と一緒に飲むのが一般的。

パスタ(第一の皿)
 イタリア料理では、パスタはスープと同じ扱い。今回はスパゲッティとかではなくてリゾットにした。ポルチーニ茸のリゾット。手前味噌だけれど、トミーノの作るポルチーニのリゾットは絶品でっせ!ポルチーニ茸の香りがリゾット一杯に広がって筆舌に尽くしがたいとはまさにこのこと。筆でも口でも説明が出来ない。

主菜(3種)
Ⅰ・鶏肉のレモン煮。
鶏肉とレモンの組み合わせって不思議に感じるでしょう。白ワインが効いている。鶏肉がさわっただけで骨から自然に離れるのには感動。
Ⅱ・ソフィア・ローレンのレシピによる肉団子料理
これは、日本では、レストランでもなかなか食べられない逸品だと思う。要するに肉団子なのだが、細かく砕いたサラミが入っていたり、さり気なくしかも本当はギンギンに凝っている。ソースが絶品。
Ⅲ・サーモン料理・三澤賞風
トミーノの創作料理。昨年のクリスマス・イブに一度作って、我が家で好評だった。特に名前がなかったので、今回三澤賞にあやかって名前を付けた。これからずっとこの名前で呼ぼう。「カッチャトゥーラを鶏肉ではなくサーモンでやった感じ」と言ったら一番近い表現かも知れない。サーモンと一緒に人参、セロリなどの細かく砕いた野菜が一緒に煮込んである。

デザート
マンゴーと赤スグリの生クリームあえ


三澤家全員集合で「お・も・て・な・し」
 我が家では、僕と妻、志保とトミーノと杏樹でお客様を出迎えるつもりでいたが、次女の杏奈がひょっこり帰って来て料理の盛りつけなどを手伝ってくれた。勿論、三澤賞があるのは事前に知っていたが、仕事の予定が立たなかったので直前まで分からなかった。都心に住んでいる杏奈は、三澤賞に興味がなかったら来る義務もないので、こうして自分の意志で来てくれるのが嬉しかった。
 これに招待者を加えると、なんと10人となり、狭い我が家は人で一杯になった。現在の三澤家のフル・メンバが、僕のやっている音楽活動の拠点である東京バロック・スコラーズの三澤賞に、一致団結して協力してくれたことが、なんとも嬉しかった。このような素晴らしい家族を自分の生涯において持てたことを、僕は誇りに思う。みんな、本当にありがとう!杏樹も、その天使の笑顔で立派に「お・も・て・な・し」してくれたものね。アンジュッジュ、じーじを助けてくれてありがとう!
 振り返ってみると、料理の下ごしらえを黙々とやっていたのは、ほとんどトミーノ独りで、あとのメンバーは、どちらかというと大掃除担当だった。僕なんか、CDの棚を整理し始めたら、それが時代順に並んでいるはずが、長い間にとっちらかってしまったのが気になり始め、並べ直すのに夢中になってしまった。結構時間がかかって整理し終わったら、もう今日のノルマ達成!という気分になってしまった。
 ほっとして周りを見たら、なんだかみんなの視線が変だ。おっとっとっと・・・ああそうだ、メニューの作成をしなければね。見るとプリンターの紙がもう少ししかない。ということで紙を買いに家を出る。そのついでに頼まれたクレソンなどの小物を買って帰り、トミーノにイタリア語を教わって上記のイタリア語のメニューを作成し印刷した。そしたらもうお客様が到着してしまった。だから僕が一番役立っていないのは間違いない。

 三澤賞では、ビールとランブルスコはこちらで用意したが、参加者がそれぞれ飲み物1品持ち寄りが条件となっている。決して高いものを持ってこないことと釘を刺してあるが、今回はイタメシということで、全員がとても良いワインを選んで持って来てくれた。その中で、三澤賞常連のHさんが持ってきてくれたインドの赤ワインが珍しくておいしかった。娘さんがインドに仕事で行っていたという。
 その娘さんは、かつて杏奈がメイクの学校に行きながら、あるアマチュアのオケでクラリネットを吹いていた時に、たまたま隣でファゴットを吹いていた。トップ奏者同士って隣り合わせに座るし、しかもクラとファゴットだから本当に偶然。世の中狭い!
 そのインドのワインは、珍しいといってもワインとしては標準的な意味で良質のワインである。きちんとタンニンが利いているが、飲み始めた瞬間に独特の香りがするのだ。

 みんな本当に気持ちの良い人ばかりで、会話が穏やかながら弾む。全然気兼ねなく、話題も次から次へと興味がつきない。実に楽しい!家の中もこの機会にきれいに片付いて言うことない!
 三澤賞は、正直な話、僕自身はいいとしても、妻をはじめとする家族の負担を考えると、それを始めた頃は「いつまで続くのかなあ」と思っていた。でも、毎回とても充実した時間を過ごせるので、家族もそれを楽しみにしてくれている。確かに、日程を決めるのは、なかなか楽ではないけれど、今後も出来る限り続けたいと今回また強く思った。
 だから、東京バロック・スコラーズ(TBS)の皆さん!この三澤賞に参加したいと思ったら、次の演奏会でもチケットをバンバン売って下さいね。極端な話、外部の方でも、何らかの形で当団にことわってからTBSの演奏会のチケットを沢山売ってくれたら、三澤賞に招待しますよ。これは僕のプライベートな賞なのだから。ただね、常に販売成績トップのHさんを抜くのは至難の業であることを言い添えておきます。

緊急情報
長女志保が出産した矢島助産院のことが、6月1日にテレビで放送されます。詳しくは次のサイトをご覧になって下さい。
http://www.tv-tokyo.co.jp/solomon/

  

 


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