つかの間の静養週間

三澤洋史

つかの間の静養週間
 先週は、久しぶりにゆったりと過ごした一週間であった。まあ、ゆったりといっても、水曜日には東京バロック・スコラーズがの練習があり、その他、知人を食事にご招待したり、イタリア語のレッスンに行ったり、全くオフという日はなかったのだが、とにかく、それまでの息つく暇もない日々から解放されて、今週から始まる“新国立劇場にサラリーマンのように通う日々”までの、つかの間の静養週間となった。
 この期間中には、自転車をあさひ自転車に直しに行ったり、CD棚を整理したり、後で書くがパソコンと戯れたりしていた。CD棚は、作曲家の時代順に並んでいるのだが、最近買ったCDが合間に入らなかったので、全体をズラしてそれらを入れて、さらにこれからのことを考えて、項目毎に遊びのスペースを取った。そうしたら、残りのCDが棚に入りきらなくなって溢れてしまった・・・どうしよう・・・。

 火曜日には、僕ら夫婦、長女の志保とその娘の杏樹、それに次女の杏奈が加わって、家族で勝沼に行った。


皆吉の庭

お昼に、ほうとうで有名な皆吉(みなき)で馬刺しとほうとうを食べ、そこからすぐ近くのグレイス・ワイナリーに行って、いくつかのワインを試飲してから、一番気に入ったワインを6本買い、それからブドウ畑に行って、ブドウを2種類買って帰ってきた。
 グレイス・ワイナリーのオーナーの名前は、僕と同じ三澤で、三澤茂計という。勝沼においては、ルバイヤートで有名な丸藤葡萄工業株式会社と共に、戦後の辛口甲州ワインの牽引役を務めてきた老舗である。
 杏奈と二人で試飲したのは、山梨県下のテロワールからのブレンドであるグリド甲州、勝沼のテロワールに限定したグレイス甲州、樽甲州、それとグレイス・シャルドネであった。一番安いグリド甲州は、すっきりしているがやや特徴に乏しく、樽甲州は、樽のキャラクターが立ちすぎて、本来の甲州の味わいを殺してしまっている気がした。シャルドネは、馥郁とした香りが立って美味しかった。けれど、シャルドネであれば、同じ味わいのワインをなにも4千円出さなくても、フランス・ワインでいくらでも求められる気がした。つまりコストパフォーマンスが悪かった。
 結局、2千円ちょっとのグレイス甲州に決めた。これは、キリッとして爽やかだが、同時にえも言われぬブドウの味わいが漂っていて、通常我々庶民が手に届くリーズナブルな甲州ワインの中では、間違いなくトップクラスだと思う。


グレイスワイナリーの試飲場(杏奈撮影)


 そういえば、僕の「オペラ座のお仕事」(早川書房)が文庫本となった(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)。自分でこっそりいくつかの大きめの書店を回ったが、結構置いてくれているので嬉しかった。音楽書のところよりも、文庫本コーナーにあるからね。
 文庫化にあたって新たに加えた1章「僕の好きなオペラ」は、すでに単行本を買ってくれた人にも興味を引くものとなるであろう。自分の好きなオペラを羅列しているわけだが、冒頭からしてこういう文章だ。
最も好きなオペラを二つ挙げてみろと言われたら、迷わず、ワーグナー作曲「パルジファル」と、モーツァルト作曲「魔笛」を挙げる。ほらね、もう一般の案内所と違うでしょ。この二つの作品の共通点は、“天才作曲家が円熟の極みにおいて見せた簡素化”である。
 これを読んで、この先を読みたいと思ったあなたは、すぐに最寄りの本屋さんに行ってね。この新しい章は、立ち読み出来ない量ではないのだけれど、700円だから姑息に立ち読みなんかしないで、買って下さいね。


オペラ座のお仕事文庫本


 NHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」が終わった。いい物語だった。唐沢寿明の演ずる花山伊佐次の生き方に胸を打たれた。常子を演じる高畑充希は、美人ではないかも知れないが、演技が自然で表情があり、実に魅力的だった。
 何かを成し遂げる人というのは、必ず誰かと良い出遭いをする。その出遭いというチャンスを引き寄せるためには、自分が輝いていなければならない、というごく当たり前の真実を、この番組からあらためて教えられた。
 しかしながら、ひとつだけ残念なことがあった。この主題歌「花束を君に」を歌った宇多田ヒカルであるが、歌詞が全く聞き取れなかった。意図的に分からないように歌っているのだろうか?と思ったくらいだ。だから、毎日聴いていたのに、この曲は僕の心を素通りしてしまった。こうした歌唱法を受け入れられないのは、僕が古いせいだろうか?

 先週書いた続きだけれど、i-PadにMicrosoftのWordをインストールして、ワイヤレスの小型キーボードで練習していた話。あれから言われた通りOutlookを入れてみた。これもタダ。そしたらhotmailを作るように促され、そこから何の苦もなく普段のパソコン・メールアドレス宛てに添付出来た。
 呆気にとられた。どうして、こう、全てタダで済んでしまうのだろうか?あんなに高価なOffice商品なのに・・・。あれかね、ライバルであるApple帝国の牙城i-Padに、Microsoft製品を侵入させれば、もうそれで満足なのだろうか?そんな純粋な愛社精神のみで済むの?ねえ、Microsoftよ、あんた、なんか魂胆あるでしょ!
 ということで、次章の角皆優人君の水泳本の記事は、日曜日の関口教会(東京カテドラル)のミサと聖歌の練習の帰りに府中のドトールでi-Padと無線キーボードで作ったdocx書類をOutlookに添付してhotmail経由で家パソに送り、その文章を一太郎にコピーして原稿に加えたものである。
 これが出来るならば、これから、泊まりで地方に行く時にノートパソコンを持って行かなくても済むなあ。月曜日がかかったって、Wordで更新原稿を書いてそのままコンシェルジュに送ればいいんだもの。うわあ、革命的!僕が外泊にノートパソコンを持って行かない日が来るなんて!

スイミングの科学
 親友の角皆優人君が、松田仁美さん、高橋大和さんと共著で「スイミングの科学」(洋泉社MOOK)という本を出した。読んでみて、
「なるほどこれは科学だ」
と思った(笑)。

 つまり、結構理屈っぽい。だから、
「とにかく、ドンドン泳いでいるうちに、自然に上手くなるさ」
というタイプの人には向かないだろうな。
でも、僕のような熟年以降の人間や、水泳そのものを冷静に見つめてみようと思うようなタイプの人間には、素晴らしいアドヴァイス満載の本だ。なんてったって「科学」というタイトルがついている本なのだから。

 実は、僕は角皆君からこの本のための原稿執筆を7月いっぱいの締め切りで頼まれていた。しかしながら、すでにこの「今日この頃」では有名になっている(笑)例の“魔の7月”の様々な事件のためにパニックに陥っていた僕には、原稿を書く余裕すら生まれず、結局角皆君に謝って執筆を断念してしまったのだ。まあ、出来上がった本を読んでみると、こんな立派な本に、僕のようなヘタッピイなド素人が、くだらない記事を書かなくてよかった。そんなレベルの本ではないのだ。


スイミングの科学


 一方、僕の方は、その本のことは忘れていたが、たまたま先週の静養週間に、ほとんど毎日プールに通っていた。行かなかったのは勝沼に行った日だけ。今年の夏は、忙しくて全然プールにも行けなかったから、なんとか少しでも筋肉質の体を取り戻したいのだ。冬にスキーをするためには、体力を衰えさせるわけにはいかないんだ。そう考えると、自分で分かったんだけど、僕の場合、水泳って結局スキーの体力作りのために通っているんじゃん。
 毎日泳ぐと、少しずつではあるが、いろんなことに気付いてくるものだ。たとえば、クロールで、リカバリーして入水した腕を、ストレッチ運動のように前に(頭の上に)ググッと伸ばすと、あらら・・・抵抗が少なくなってプルの慣性運動が生かされて、体が放っておいてもスーッと前に行くぜ。これって結構きついんだけどね。
 結局、水泳が上手になってくるにつれて、余計な筋肉に余計な力を入れる必要がなくなってくるけれど、だからといって、体がベローンと弛んでいい瞬間ってないんだよな。やっぱ、疲れるスポーツだよ。水泳って。当たり前か・・・・。
 また、体が左右に傾く「ローテーション」についても、わざとオーバーに左右に揺らしたり、逆になるべくフラットで泳いだりいろいろして、どの辺が落とし所なのか試してみた。すると、呼吸がし易いとかリカバリーの手が上がりやすいとかいろんな理由で、ローテーションは案外沢山やった方がいいかも知れないと思うようになった。ただ、やりっぱなしだとそのまま体が反ったりしてしまうので、おへそのあたりの横っ腹でちょっと回転を調節することも必要かも知れない。

 平泳ぎでは、プルとキックとの1セットが終わった時に、いかに抵抗のない姿勢を作って待ってるかで、結果としてスピードにかなり差が出てくることに気付いたばかりだった。
平泳ぎという泳法は、キックの力が圧倒的に強いため、キック直後に最速となる。その間にヘタに腕で掻き始めてしまうと、かえってスピードを止めてしまうことになるから、スピードが落ちてくるまで待っているしかない。その時の姿勢がとても大切であって、クロールの腕の伸ばしと一緒で、間違っても安心して体幹を緩めてしまってはいけない。ここでもストレッチ運動の要領で、なるべく抵抗のない姿勢を作るのだ。
トップスイマーは指一本の角度にこだわるというが、その効果は実際に体感出来る。平泳ぎで伸ばした両手の指の先が曲がっていると、水の抵抗を感じるんだ。何?なんてチマチマしたことを気にしているんだって?いやいや、これこそが水泳のオタッキーな楽しみ方なんだ。

 と、こんな数日間を送っていた最中に、妻が角皆君のFacebookを見て、
「角皆さんの本、出ているわよ」
というので、早速Amazonで頼んだ。なにせ僕はプライム会員だから、頼んだその日の内に送料無料のお急ぎ便で届くんだ。そしたら、なんと、この一週間に泳ぎながら考えていたことが、ここにみんな書いてあるやんけ!いやあ、なんてグッド・タイミング!
 先日急逝した、かつての熱血教師で、最近は著書を立て続けに出していた平光雄さんの文章には深く感動させられた。彼が小学校教師をしていた時に、子供達に必ずする「偉人の話」のことが載っていた。世の中に、何も障害なくスイスイと偉業達成という人は誰もいない。必ず「壁・失敗・挫折」に突き当たる。その時に「あきらめない」ことが大切だと子供達に教えていたという。言われて見れば当たり前のことだけれど、こうしたことを子供達に真っ正面から向かい合って言える教師は多くない。そして、それは、あらゆる世代のあらゆる立場の人にマッチする普遍的な真実だ。

 水泳とは、自分の肉体を使って水という変幻自在な物質と戯れながら、その物理的法則に沿って現れる様々な現象と出逢い、対峙し、インターラクティブな関係を築く、実に科学的な行為なのだ。
 と言うとカッコいいけど・・・まあ・・・スキーほどには楽しくないし、景色も良くないし、同じプールの中を行ったり来たりする退屈なスポーツだから、あんなチマチマしたことにこだわるんだけど・・・・あっ、言っちゃった!でも、僕は水泳が好き!

Wish復活・・・でも
 今、僕の新パソコンSperanzaの裏側にはWishがある。あれ?Wishって駄目になったのでは?と思われるが、駄目になったのはWindows XPが入っていたCドライブのハードディスクだけ。
 これが(寿命と思われるが)クラッシュしてしまったので、そこに保存していたWindows XPを含む全てのアプリやファイルは共に轟沈。ところがね、冷静に考えてみたら、それ以外のパーツは全て正常に動いていたわけ。Wishの中にはもうひとつのハードディスクが入っていて、データ保管用にしていたから、最悪の事態は逃れられたのだが、まあ、メールの送受信と連絡帳、それにスケジュール表がなくなっただけで、もう充分パニックになる理由はあった。
 最初はOSが入っているハードディスクを一度でも起動できれば、スケジュール表などが救出出来ると思って、「お願い!」って感じで必死に復旧作業をしていた。でもそれが無理だと分かった時点で、僕は絶望に打ちひしがれながら、もうひとつのデータ保管用ハードディスクにアクセス出来ることを最優先した。
 それで、試しに以前妻が使っていたハードディスクをつないでみた。マザーボードが故障して使えなくなったもので、Windows XPが入っていた。ただマザーボードのメーカーもタイプも違うので、XPすら起動しない可能性が大だった。幸運なことにXPは立ち上がってくれた。あの時は感動で胸が打ち震えたねえ。とにかく保存していたファイルが開けるんだもの。
 ただ、やはり予想していた通り、LANコネクターを含むいくつかのデバイスがうまく機能しなかった。最大の痛手は、インターネットにもつなげないパソコンだったこと。これでは、折角譜面作成ソフトFinaleをインストールしても、インターネットによる認証が出来ない。認証取得出来なければFinaleは使えない。
 さらに、ネットにつなげないのでは、マザーボードのドライバをネット上からダウンロードすることも出来ない。とにかく、このパソコンではにっちもさっちもいかなかったので、その場しのぎで買った中古ノート・パソコンでスコアの作成を進めたというわけである。そして、ネットにつなげない旧Wishは、ただSDカードやUSBインターフェースを使って古いファイルを取り出すためにだけ使われたのである。

 さて、「ナディーヌ」公演も無事に終わり、新しいパソコンSperanzaも順調に動いているある日、僕はふと思い立って、どうせ駄目になってもいいWishに、当てずっぽうにドライバを入れてみようかと思い立った。そして、家に残っているGIGABITEのマザーボード用ドライバCD-ROM(母親の分や自分の分や妻の分などいくつもある)をWishに入れてみた。すると2つめのCD-ROMが偶然にヒットし、ネットにもつながり、以前同様のXPパソコンとなった。
 そうなると・・・僕ちゃんの目がキラリンと光っちゃうんだな。もしかすると、このスペックでは、Windows 8以降は無理かも知れないけれど、ひょっとして7くらいだったらインストールしても動くんじゃねーの?ほんじゃあ、このXPが入っているハードディスクをフォーマットして新しくWindows 7を入れちゃったら、性能はともかく、Speranzaと同じWindows 7パソコンがもうひとつ出来るってこと?だって今更XPパソコンが復旧してもあまり嬉しくないもの。

 で、気がついてみたら、僕は秋葉原の街を歩いていた。いつも「ナディーヌ」の練習で通っていた昌平童夢館のすぐ近くには、小さいちょっと怪しげなPCパーツ店が建ち並んでいる。僕は、練習の前とかにそれらの店に入って、いろいろ伺っていたんだ。Windows 7が数千円で売られていたのも知っていた。ところがね、今回行ってみてさらに驚いた。それが3千円台に値下げしていたのだ!しかもWindows 7 Professionalだ!恐らく、Windows 10が出てさらに型落ち感が広がったのだろう。
 僕は迷うことなく買ってきた。さあ、インストールするぞう!しかし目の前のWishをしみじみ眺めながら、正直言って僕の心の中には、これがあんまり成功に終わって欲しくないなあ、という気持ちも同居していた。Windows 7のインストールの途中で、
「このOSをインストールするには、このパソコンのスペックが追いついていません」
とか出てくれれば、
「ああ、やっぱり10年前には最先端だったこのマシーンも、今やポンコツなのね」
と諦めもつこうが、そんな願いもむなしく、ごくごく当たり前のようにインストールは完了した。
 驚いたことに、Windows 7が立ち上がった時点で、もうインターネットが通じていた。恐らく7そのものの中に、マザーボードの型を問わずLANインターフェースに対応するドライバが組み込まれているに違いない。それでも念のためにマザーボード用CD-ROMからドライバを入れたけどね。
 バンザーイ!素晴らしいWindows 7パソコンがもうひとつ誕生したぞ!だが・・・まてよ・・・ということは・・・結果的に言うとSperanzaは必要なかったってこと?しかもSperanzaはWindows 7 Home PremiumでWishはProfessional。つまりWishの方が全然安いのに格が上!秋葉原Sofmapで正規版を高い値段を出して胸張って買おうが、小さく怪しい店で、どこか後ろめたさを感じながら安く買おうが、パソコンに入れてしまえば皆同じ。まあ、Speranzaの方は64ビット版という違いはあるのだけれどね。

 いやいや・・・Speranzaを自作するプロセスがなければ、ここまでたどり着けなかった事は事実なのだ。だって、SperanzaでWindows 10を実際に使ってみて、それがいかに様々な問題を含んでいるか分かったから、あえて7に踏み切ったわけだからね。その過程を経なければ、僕の中にXPを使い続けるある種のマイノリティ感覚と、最新OSに対する密かなあこがれは払拭出来なかったであろう。
 こんな風にいろいろ悩んだ末に7という究極の落とし処を見いだしたのだ・・・あはははは!・・・まあ・・・僕の手元には、今や無用の長物となったWindows 10のDVD-ROMがあるのだ。うわっははははは!多大なる犠牲を払って、この認識に至ったのだ。この学習代は痛かった。トホホホ・・・。

 いやいや、これからだ。これから何か行う毎に、ニュー・マシーンの威力を体感することになるのだ。僕は、Speranzaの優位性を少しでも強調するために、LEDで青く発光するケース・ファンを買ってきて、ケースの後ろ側に取り付けた。これが僕の仕事場。美しい純白のケースとブルーのコンビネーションが次世代ハイクォリティ・パソコンの香りを放っている!どうだい、これでなくちゃあ!


青いSperanza


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