NHK収録が進んでます

三澤洋史

写真 三澤洋史のポートレート

NHK収録が進んでます
 NHK・FM「バイロイト2018」の収録のうち、11月28日水曜日の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」、そして29日木曜日の「さまよえるオランダ人」が無事終わったのでホッとしている。

 特に「さまよえるオランダ人」収録の日には、今年バイロイト音楽祭でプラーシド・ドミンゴが指揮した「ワルキューレ」のグリムゲルデを歌ったメゾソプラノの金子美香さんとの対談があったので、事前には僕なりに緊張した。


金子美香さんとの対談

 いちおうNHKからは、僕がこんなことを聞いて、金子さんがこんなことを答えるという大雑把な筋書きのようなものが渡されたが、そんなもの、実際のフリートークが始まってみたらどうなるか分かったものではない。それに、先週も書いたように、ドミンゴの指揮が頼りないので、いろいろ大変だったという「放送としてはデリケートな部分」を、どのようにもっていくかということには気を遣った。

 結果としては、とても楽しい対談が出来たと思う。金子さんがよくしゃべる明るい人で助かった。それに、これはマニアにとっては、通常知ることの出来ないバイロイトの内側のことが聞ける、願ってもない機会となるに違いない。NHKの人達も喜んでくれて、
「逆に、次の日の『ワルキューレ』の放送をみなさん楽しみに聴くのではないでしょうか」
と言ってくれたので、なおさら胸をなで下ろしたわけである。

普通に住める街のようなNHK内部
 NHKに行くと楽しみなことがある。それは食堂。特に5階食堂、通称5食(ごしょく)と言われるところは、NHKの中では1階食堂(1食)よりもリッチなのだが、一般の常識からすると安くて美味しい。いつも食べている新国立劇場の楽屋食堂とはレベルが違う。N響から合唱指揮者の仕事が来て、NHK内の練習やNHKホールの本番の時など、入館証が出るので、それを使ってよく出入りしていたのだ。

 第1日目の収録の後は5食で特上寿司\1.040を食べ、2日目はB定食の梅ささみ揚げ定食\490を食べた。特上寿司は、同じ値段で上寿司1.5前も選択できるので迷ったのだけれど、やはりここまで来たら特上でしょう、ということで決めた。その場で職人が握ってくれる。残念ながらウニはなかったが、マグロが3種類あり、トロがめっちゃ旨かった。しかしちょっと量が少ない。


5食の特上寿司

 こう写真で見ると、シンプルでそんなにおいしそうにも見えないんだけれど、B定食の梅ささみ揚げ定食のクォリティも、なかなかのものがあるんだ。


5食の梅ささみ揚げ定食


 あの大きなNHKの建物の中には、もちろんテレビ収録用、ラジオ収録用、大小おびただしいスタジオがあるのだが、食堂近くには、その時によって靴や洋服やバッグなど、売っているものが変わる臨時の出店があり職員がみんな群がっている。また、カフェ、銀行、コンビニや本屋や文房具など、まるでひとつの街のようになんでも揃っているのに驚く。
「これでは、この中に住めますね」
と、年配の録音ディレクターに言ったら、
「仮眠室もあります。最近は、労働法で厳しくなっているので、あまりないですが、昔は実際に、編集が間に合わなくて全然家に帰れず、ほとんど住み込んでいるのでは、と思う同僚が何人もいましたよ」
と答えた。
 そういえば、僕も録音の仕事をやったことがあるが、録音の世界では、編集に夜中までかかったりするのはざらだ。いやあ、凄いな。やっぱり天下のNHKは・・・。

代々木八幡と初台教会
 お昼を食べると、午後は二日とも新国立劇場で「ファルスタッフ」の舞台稽古。NHKから新国立劇場までを電車で行くと、渋谷まで劇場とは逆方向に歩いて、JRで新宿か、井の頭線で明大前かで乗り換えて・・・と面倒くさいので、お散歩がてら徒歩で行く。

 二日とも途中で山手通り沿いのカトリック初台教会で一休み。聖堂の聖体訪問をしたが、二日目にはその前に代々木八幡に寄った。代々木八幡といっても駅ではなくて神社のことだよ。NHKから来て、低い代々木八幡駅を通り過ぎて階段を上がり、山手通りに出るとすぐに八幡様にあがる階段がある。その階段をあがって鳥居をくぐったらすぐに社かと思ったら、また道が続く。おおっ!なかなか由緒ある所らしい。


代々木八幡

 平日の昼間なのに参拝者が後を絶たない。僕、時々思うんだけど、日本人って実は信仰深いよね。それも、かなり。「私は無神論者です」
なんて言うけれど、本当に無神論者だったら、絶対にこんな所に来ないよね。お賽銭もナンセンスだし、家内安全商売繁盛の祈願もナンセンスだし、お正月のお飾りもナンセンスだし、死んだら無になるんだからお葬式なんかもナンセンス。でも日本人は、そういう、どこから見ても宗教的行為以外あり得ないことを全部自然にやっているんだからね。

 前にも言ったけど、家内安全商売繁盛の祈願はやってもいい。むしろ、それも全くしない人の方が僕は問題だと思う。家内安全の祈願をする人は、自分の家族のことに自分は気を配っていますよ、という自己宣言に他ならないし、商売繁盛は、自分が責任を持って我が家の経済状態を背負っていますよ、ということの決意表明でもあるから。

 僕の場合、神社に行くと必ずこう祈る。まず元気でここに来られたことを感謝する。それから、自分がこのまま健康で自分の成すべき事をやり続けることが出来ますように祈り、それから家族のことをひとりひとり顔を思い出しながら「しあわせでありますように」と祈る。それからランダムに頭に浮かんだ知り合いのことを祈る。その人がしあわせであるように、と。これだけで充分。
 これだと、どんな神社仏閣に行っても、決してバチは当たらない。というか、当たりようがない。仮に低級霊がいて、バチを当てようと思っても、当てるとっかかりがないのだ。それに、もし地獄霊がいたら、最初に感謝されてしまうと、いたたまれなくて顔をそむけるか、逃げるかしてしまう。

 さて、代々木八幡に立ち寄ってからカトリック初台教会の聖堂に行くって、どういう神経?と言われそうだが、なんのことはない。気が付いてみると同じ神様に向かってお祈りしている。


初台教会

 聖堂では、ひとりポツンと座って心を整える。そしてやはり、ここに来られたことを感謝する。それから違うのは、じっと目をつむって何も考えないでいるだけ・・・・。
 最近はね、考えないっていったら、本当に何も考えないんだ。すると、いろんな音が聞こえてくる。初台の場合は鳥の声は聞こえないから、だいたい車の騒音だな。それも聞き流す。あるがままに。
 すると、濁った水がしだいに沈殿してきて下にたまり、上の水が澄んでくるように、心が透き通ってくる。世間を生きていく中で自然に生まれた利己的な想いが自然に削ぎ落とされて、自我が限りなくゼロに近くなる。それだけでいい。

 神様の違いなんて本当はない。あるとすると、自分がどう神様に関わるかだけ。多神教か一神教かなんて議論はくだらない。この世とパラレルワールドにいる様々なレベルの霊を神とすると多神教。創造主ないしは大宇宙に満ち充てる創造の息吹を神とすると一神教。僕は、どこに行っても、創造主に祈っているから心配要らないのだ。

教皇フランシスコはこう言った。
私は神を信じていますが、カトリックの神ではありません。なぜなら、カトリックの神などいないからです。おられるのは神だけで、私が信じるのはイエス・キリスト、つまり、人間の姿を借りて、この世に現れた神です。
(2013年10月1日、イタリア紙『ラ・レプッブリカ』の取材にて)

 そんな僕は、カトリック教会に行くと、しばしば、
「像、作り過ぎじゃね?」
と思う。
「像をご神体として拝んでるわけではないから、偶像崇拝ではない」
と言われるけれど、目の前にあれば拝んでしまうのが人間の弱さ。

 神社はイスラム教と同じで偶像崇拝を忌み嫌い、像を作らないから好きだ。まあ、どっちでもいい犬やきつねの像はあるけどね。一方、お寺は像をどんどん作る。そして、それに魂を入れて、拝ませるなんてことをやっている。僕が法隆寺の拝観料1500円をもったいないと思ったのはその点。釈迦三尊像などを礼拝の対象としている人から見れば1500円は決して高くないのだけれど、お釈迦様が像の中になんか住んでるわけないだろう。
 その点では、初台教会は、正面の十字架に架かっているイエス像以外ほとんどなくてすっきりしている。その代わり有名な彫刻家である舟越保武氏の制作した素晴らしい「十字架の道行き」が壁面上部にズラッと埋め込まれていて、圧倒的な力を感じさせる。


初台教会の十字架の道行き

 ただこれも、僕は芸術作品として鑑賞するのみである。その中にどんなに宗教的感情が脈打っていたとしても、人が京都や奈良の仏像を拝むようには、僕には拝めないし、拝むべきではないと思う。
 その点、音楽はいい。音楽の中に表現された宗教性は、形を持たないために、それを拝むことが出来ないのだ。逆に、それ故に音楽は、あらゆる芸術の中で最も“霊”の世界に近いのかも知れないし、その音楽に日常的に接してる僕は、目に見えるものを拝んでしまうことで偶像崇拝に陥ってしまう危険性に人一倍敏感なのかも知れない。

拝むならば、むしろ大空を向いて大気を拝め!

明日で収録終了
 さて、明日すなわち12月4日火曜日は、NHKでいよいよ「ワルキューレ」の収録。今、直しに直した原稿が最終段階に入っている。何度もストップウォッチを片手に時間を計りながら文章を縮めたり足したりのマイナー・チェンジをしている。同じ意味でも、舌を噛んだりしそうな単語は、別の読み易い言葉に換える。これはとっても重要なこと。

 朝のお散歩の時間を原稿作りにあてているため、ここ数日、早朝散歩を中断している。だからプチ運動不足。明日の収録は午前中で終わるため、また5食に行ってお昼を食べた後、夜の新国立劇場「カルメン」千穐楽の前に、どこかプールに行ってこよう。
 それから6日木曜日は夜から「ファルスタッフ」初日なので、午前中に狭山スキー場に行ってトレーニングしてこようかな。なにせ、年末の白馬に向かって体力作りしておかなければならないから。

これから遅れを取り戻さなければ・・・。




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© HIROFUMI MISAWA