全国のプロ音楽家よ、白馬に集結せよ!

三澤洋史

写真 三澤洋史のポートレート

「ファルスタッフ」惜しまれつつ終了
「ファルスタッフ」が惜しまれながら終了して、今年のオペラ公演が全て終わった。本当に良い公演だったが、聴衆が満員でなかったのが残念であった。

 指揮者のカルロ・リッツィの素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。常に舞台上の歌手達とコンタクトを取ること。何処で歌手達のコンディションや呼吸にきめ細かく合わせ、何処で独裁的に仕切らないといけないか、など、オペラのマエストロとしてのノウハウを僕たちに態度で示してくれた。
 一番大事なことは、人間性がブレないことだ。彼は、厳しいが始終精神が安定しており、気分でものを言うことはない。だからみんなが変わらぬ信頼を寄せることが出来る。こういう人間こそオペラ劇場には一番必要なんだ。

 アリーチェ役のエヴァ・メイは千穐楽の前に風邪を引いて喉の調子がとても悪かったそうだ。それで、僕も親しい小関芳宏さんが院長をしている神宮前耳鼻科クリニックに行ったが、
「どうしても本番に出たい。本番に出ないなら死んだ方がいい」
と言っていたという。もの凄い役者魂だ。
 本番の日、楽屋で会ったら、僕に向かって、
「体調悪いの。熱もちょっとあるし、喉の調子は最悪!」
とこぼしていたけれど、本番を聴いたら何ら遜色のない歌唱。確かに、そう言われてみれば、中音域の音の抜けがいつもほどではないかなという程度。でも高音はCまでしっかり出すし、いつも通り気品に満ちたたたずまいと音楽的な歌唱で聴衆を魅了していた。言われなければ誰も気が付かない。やっぱり一流は違うなあ。

 小関さんとは帰り際に楽屋で遭い、立ち話をした。彼は、僕のバイロイトのFM放送をパソコンに録音して、次の日の診察時間ずっとかけながら診察しているという。しかも僕のコメントもよく聴いている。大丈夫かいな。診察に支障ないか?患者さん怒らないか?

さあ、来年は「タンホイザー」で始まる。

新国立劇場合唱団がバッハのモテット!
 新国立劇場合唱団にとって年末恒例の読売日本交響楽団の第九であるが、今年は、初日の12月19日水曜日のサントリーホールと、最終公演の25日火曜日池袋の東京芸術劇場の時に、前曲としてなんとバッハ作曲モテット第1番「主に向かって新しい歌を歌え」をアカペラで演奏する。

 最初読響の方から、
「前曲として何かクリスマスにちなんだ曲をアカペラでやってくれませんか?」
と依頼が来た。「クリスマスにちなんだ」といっても、まさか「きよしこの夜」でも「赤鼻のトナカイ」でもないしWhite Christmassでもないよな、と思ってちょっと悩んだ。
せめてMagnificatなら、待降節のこの時期によく演奏されるが、アカペラというのは少ない。最近東京バロック・スコラーズで演奏したハインリヒ・シュッツのドイツ語のDeutsches Magnificatだったらふさわしいかと思い、一度その曲で提出した。
 しかしなあ・・・・新国立劇場合唱団がサントリーホール及び芸術劇場でアカペラ合唱を演奏できる機会なんて滅多にないじゃない。せっかくだから、もっとチャレンジアブルなバッハのモテットをやりたいな、という欲求がモリモリと自分の内部から盛り上がり、抑えが効かなくなった。
 気が付いたら、その中でも難曲中の難曲であるSinget dem Herrn ein neues Lied BWV225を選び、
「これです!これを是非やらせてくださーい!」
と世界の中心で叫んでいた!だって僕、バッハの音楽、命を賭けるくらい好きなんだもの。あんまりクリスマスとは関係ないのだけれど、その点は特に触れなかった。

 ところが練習が始まって1分も経たない内に、この曲を選んだことを後悔した。いやあ、よく考えたら、新国立劇場合唱団ってオペラを歌う合唱団だったんだよね。モーツァルトだったら「フィガロの結婚」とかもやってるしいいけど、やっぱバッハというのはねえ・・・・。声の出し方から違うんだよね。しかも、通常だとチェロ、コントラバスとオルガンという通奏低音が加わるが、今回は完全にアカペラ。もうハードル高すぎ!

 バッハに参加したのは80人の第九メンバーの中から選んだ40人足らず。初回の練習は3時間たっぷり使って、バロックの演奏力学から説明し、第1曲だけでも1時間以上使ってそれぞれのモチーフをパート毎に丁寧に練習していった。
 あとの2回は、3時間の中で第九とバッハを一緒にやらないといけない。特にこの時期は、「タンホイザー」の練習も始まり、新作の西村朗作曲「紫苑物語」の難しい現代曲の練習、それに「ファルスタッフ」の本番などが重なり、第九を歌った後の時間を使ってバッハを9時までやった後は、みんなクタクタ。

 ただね、最初はお世辞にも上手とは言えなかったけれど、さすがプロだね。1回1回の吸収度は凄い。それに、中にはバッハ大好きという団員もいて、そういうメンバーが牽引役を務めてくれてもいる。
 ふうっ!まあ、でもここまで来たぜ!みんなもバッハを歌う楽しさを感じるまでになってきた。
「決まると気持ちいいですね」
そうそう、決まるとね・・・・。決まるといいね。

 それで、第九の指揮はマッシモ・ザネッティだが、バッハを指揮するのは僕だから、あとは本番でオーラを放つしかないな。


全国のプロ音楽家よ、白馬に集結せよ!
 「マエストロ、私をスキーに連れてって」キャンプのAキャンプ(2月18日月曜日及び19日火曜日)は、平日なので一般の人の申し込みは少ないが、その代わりプロの音楽家が集結しつつある。
 その中で、現在のところ正式申し込みを完了しているのは、バリトン歌手の秋本健さん、ピアニストの小埜寺美樹さんとその弟子の矢崎貴子さん、それに女性指揮者の鈴木恵里奈さんである。まだ増えそう。いやあ、面白くなってきた。

 そこで、あらためて全国のプロ・ミュージシャンに呼びかけたい。Aキャンプにみなさん集結しませんか?これまで、一般のスクールに参加したり、あるいは、好きな人同士で遊び感覚でスキーに出掛けたというのはあるだろう。でも、音楽家たちが集まって、きちんと系統立ったレッスンをしたり、音楽とスキーの関係というテーマの講演を聞いたり、スキーを愛する音楽家たちで親睦を深めたりした経験のある人というのは、多くはないでしょう。
 これは日本全国でも、いや世界的にもとてもユニークなキャンプだと、先シーズンやって思った。なにせ、音楽に関わっている人は、レッスンの間の成長曲線が一般人と全然違う。それに、互いの相乗効果というのもある。
 また、僕と角皆優人君とで行う「スキーと音楽」をテーマにした講演も、きっと役に立つと思う。スキーにだけでなく、みなさんの音楽にとっても。何故なら、スキーほど音楽的なスポーツはないし、創造的なスポーツはないから。これを、例えは悪いけれど「重量挙げと音楽」とか「100メートル走と音楽」とか言っても、スキーのようには関連づけが難しいだろう。

 いやあ、実験というのではないけどね、プロの人達が集まってレッスンしたときに、どんなことが起こるのか見てみたいんだな。やっぱりプロになれるくらいの人というのは、どこか(良く言えば)人より抜きんでているというか、(悪く言えば)突出した部分がある分だけどこかがガバッと抜けているというか、要するに変わりもんなわけですよね。って、ゆーか、絶対フツーじゃないと思うんだ。
 たとえば、先ほど紹介したバリトンの秋本健さん(アキケン)とテニスを何度かしたが、彼は普通の練習ではそれほどでもないのに、試合になると途端にメチャメチャ強くなるのだ。アドレナリンの出方が違うのだ。これは日常生活の中で、頻繁に“本番”というものをこなしている内に自然についたプロ音楽家ならではの現象で、フィジカルな面よりも、むしろ脳の構造が違うような気がする。
 また、みんな「レッスンを受ける」ということに慣れているというか、「レッスン受け上手」でないとプロになれないだろうから、きっとレッスンからの吸収の仕方が違うと思う。それは先シーズン、アマチュアの人達を見ていても思ったからね。一般の人は、レッスンというものを、そもそも一生に一度も受けたことがない人が多いだろう。まあ、家庭教師や教習所はあるだろうけど。

 上級者でも最初はプルーク・ボーゲンからやったりします。ボーゲンというのはみんな、パラレルに行くまでの過程にしか過ぎず、パラレルに辿り着いたらもうやるもんではないと思っているから、みんなボーゲンは下手なのだ。下手な時にしかやってないから無理もない。
 でもね、ボーゲンの中にこそ全てがあるんだ。言ってみれば、パラレルとは内足をたまたま平行にしたボーゲンなんだよ。だから、上級者でも、レッスンの最初に落ち着いてボーゲンをやって、切り替え時の重心移動や抜重の力学をゆっくりなスピードの中で確認すると、再びパラレルになった時に、確実に上手になっている。そんな風に、理にかなったレッスンをするから、誰でも間違いなく上達するのだ。

 こういう機会があると、普段接することのない人とか、会ったこともない人と出遭うことがあるよね。同じ音楽家同士でも、分野がちょっと違うと、話題がないとかあるじゃない。でも、スキーという共通項があったら、それをきっかけに仲良くなって、普段出来ない情報交換とかができると思う。

 僕が密かに考えているのは、どこかの放送局にでも頼んで、ドキュメンタリーの取材に来てもらえないかなということ。この活動をみんなに広く興味を持って欲しいのだ。先シーズン来てくれた方達は、みんな一様に喜んでくれたが、こちらとしては、もっともっと内容を吟味し改善できるところは改善して、「行列の出来るキャンプ」になるまで頑張るぞ!
 僕がかつて、愛知祝祭管弦楽団を「行列の出来るオケにするんだ」と言った時、どれだけの人が本気にしたか分からなかったけれど、先日の「ジークフリート」では、チケット発売から1週間で完売し、その後も「どうしても観たい」という人が後を絶たなかった。だから、僕の「行列」宣言は必ず実現します!

 逆に、プロ音楽家に向けて呼びかけたからといって、アマチュアの音楽家がhesitate(躊躇、気後れ)する必要はまったくありませんからね。むしろ、どんな人達がいるのかいな?と野次馬根性でAキャンプ参加することも大歓迎!自分が演奏行為をやっていなくても、音楽愛好家でもOKだからね。

 ひとつ朗報があります。今年中に申し込んで、「キャンプ代金を振り込んだ方には早割がある」と案内には出していたけれど、12月31日までに申し込んだ方は、「振り込み」という形をとらなくても早割となることにします。つまり参加費3万円が2万8千円になります。
 というのは、振り込みで払い込んでしまってからキャンセルせざるを得なくなった時に、角皆優人君サイドに迷惑がかかると心配して、振り込みを躊躇している方がいたので、払い込み方法の違いは考慮しないことにしたのだ。ただ、当日窓口での現金払い込み金額に差があることは了承していてくださいね。

 さあみんな、申し込みまだの人はお早めに!年内と言っているのは、早くそれぞれのレベルでの人数が確保出来れば出来るほど優秀な講師を派遣できるから。勿論、角皆優人君のフリースタイル・アカデミーが抱えている講師陣はみんなトップクラスなんだけど、それだけにハイシーズンでは引く手あまたという状態だから。
 先シーズンでは、北は北海道から、西は尼崎から参加してくれました。ジャズ・ピアノを弾いているという尼崎の方は今シーズンもABと参加予定。だから遠くからもOKです。

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