モーツアルト200合唱団演奏会間近

三澤洋史

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台風
 先週、9月に入ったという話題を書いたけれど、9月といえば台風ですよね。朝起きたら、なんだか腰から背中までに鈍い痛みがある。なんで台風と腰なんですか?という声が聞こえてきそうですが、まあ、聞いてよ!

 9月8日日曜日。またまた名古屋に行く。しかし、新横浜に向かう朝の南武線で、
「本日は、台風15号の影響で、新幹線は夕方から順次間引き運転をし、最終列車を早めることが決定されています。出来ればご旅行はお控え下さるようお願い申し上げます」
というアナウンスを聞いた。
「え?マジ?そんな慎重なの?」
と思ったが、だからってねえ、今日一日のベートーヴェンのハ長調ミサ曲とラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の練習をサボって、家に引き返すという選択肢はないわな。とにかく、ま、行くしかない。ということで、新幹線で名古屋まで来て、さらに東海道線に乗り継いで刈谷まで来た。

 その日は、13時からミサ曲の練習。次いで協奏曲で、18時までの予定であったが、やはり帰りが気になるので、
「今日は早く終わります」
とみんなに宣言した。といっても、やることはやんないとね。
 結局、練習をやり出したら、やっぱりこだわりが出てきて、あっちこっち引っ掛かったので、終了したのは5時15分くらいかな。あんまり早くなかった。その時点で調べてみたら、東京行きの最終列車が5時台となったとか言っている。ヤバイ!今日中に東京に帰れないということになると、この一週間の予定が大幅に狂ってしまう。
 幸い、刈谷から、次の停車駅が金山という特別快速に飛び乗った。で、名古屋に着いたのが17時40分くらい。駅に近づくにつれてドキドキした。

 名古屋駅。モニターに映し出されているのは不思議な光景。東京方面の電車は17:33「のぞみ」としか書かれていない。もう発車時間を過ぎている。よく分からないけど、とにかく自由席特急券を買って、ホームに行った。
 その17時33分が東京方面の最終列車であった。そして、その列車は、グリーン車以外の全ての客車を自由席として提供しているという。到着時間に関しては、途中駅の混雑とお客様対応で30分遅れているそうだ。
 ああ、よかった!対応されたお客様、ありがとう!あなたのお陰で、僕は今日中に東京に帰れます!その30分遅れが40分になり、さらに45分になって、最終列車は、結局18時20分頃に名古屋駅に到着した。その間、僕は約40分間、ホームの長蛇の列に並んでいた。
 こんな時って、なんとなくおしっこがしたくなったりするんだよね。でも、今ここを離れるわけにはいかない。だって、僕の後にも、どんどん人の列が伸びていって、ホームには人が溢れかえっている。仮に、最終列車がカラだったとしても、こんだけの人が入ったら満員になってしまうでしょう。

 その悪い予感は当たった。最終列車がホームに滑り込んで来たのを窓を通して見たら、列車の通路に人が立っているのが見える!勿論、名古屋駅で、それなりの乗客は降りていったが、どう考えても、これだけのホームに溢れている人達は入りきらないでしょう。
 そんなことは分かっているけれど、これに乗らないと、今日中に東京に帰ることは不可能なんだよね。周り見ると、
「どーしても東京に帰るんだ!」
と、みんな目がつり上がって殺気立っている。僕が新幹線のドアのところに来た時には、すでにデッキも一杯で、とても入れそうにない。
「え?ムリ!」
と思ったけれど、乗るっきゃないよね。それでやっと乗った。僕の後に、もう1人だけ僕を押して強引に乗ってきたが、もうこれでおしまいでしょう。あとは、どうやっても乗れない。まだホームには沢山の人が残っているんだよ。
「いや乗るんだ!」
「ムリムリ!」
「乗るんだってば!」
「ムリムリ!」
という無言のやり取り。どんだけ押しても、乗れないものは乗れない。もう暴動寸前。何分経ってもドアを締めて出発できる状態ではない。どうすんだこれ?
と、その瞬間、
「皆様、ただいま、臨時列車を出すことが決定されました。ですから、これ以上、無理なご乗車は控えて下さい!」
というアナウンスが、あたりにこだました。
 ホーム全体がprestissimo e fortissimoから一瞬にしてandante cantabileに変わった。
「もっと奥に入れ!」
と、デッキに乗っている我々を睨め付けていた人達の顔が急に穏やかになり、
「いってらっしゃーい!」
と祝福する顔に変わった。間もなくドアが閉まって「のぞみ」は、あっけなく出発した。

 安堵するのもつかの間。気が付いたら最低のシチュエーションだよな。朝のラッシュアワーの山手線のギュウギュウ状態。お盆の帰省ピークの新幹線に乗ったことも何回もあるが、ここまでのはかつてない。
 乗り切れなくて、臨時列車に乗る人達のことを想像した。きっと空っぽの列車が来るんだろうなあ。彼らは、僕たちなんかと違って、それぞれが座席にゆったりと座りながら、
「ああ、極楽極楽」
という思いをするのかな。
 
 僕ねえ、立っていること自体は案外平気な人なんだよ。「神々の黄昏」の5時間立ちづめで指揮したって、別になんともない。ただそれは、自由に動けるという前提のもとでなんだ。重心だって変えられるし、上半身だって決まった動きをしなくていい。
 でも、これははっきりいってキツかった。とにかく僕は、その寿司詰めの状態で、新横浜までの約1時間20分、身動きも出来ず、立ちっぱなしだったんだ。乗って30分を越えた時点でもう足が痺れてきた。一生懸命出来る範囲で、足首とかグルグル動かしたんだけど、行動範囲は極端に狭いし、すぐ人に触れてしまう。なにより、その閉塞感の辛かったこと。
 だから新横浜に着いたときには、思わずホームをダッシュし、階段をエスカレーターなど使わないで駆け下りた。
「ヤッホー!オレは自由だ!」
ってね。

 乗りながら思っていた。こんな早く、それ以後の全ての列車を運休するって一体誰が決めたんだろう。だって、乗っている間、お天気はずっと良好で、これを最終列車としなくても、全然問題ないという雰囲気だった。
 少なくともこの電車は、デッキから外を眺めていた僕が認識している限り、雨にも一度も降られていないし、風に関しては、乗っている身としては分からないけれど、列車の運行に支障をきたす状態ではなかった。のぞみは、きっちり1時間20分ほどで名古屋、新横浜間を運行したのがその証。
 その一方で、たとえば前の日から、
「台風15号の影響のため、明日の晩は、列車を間引きし、最終列車を早める可能性があるので、旅行は出来るだけ控えて下さい」
というアナウンスを徹底して出すべきだったと思う。そうして、乗客にいざとなったときの覚悟を促しておきながら、当日の実際の運行に関しては、もっと臨機応変な対応をすべきだと思う。

その両方の面から、今回の台風に対応するJRの指揮系統のあり方には、疑問を感じる。

 だってさあ、最寄りの西府駅に着いても、まだ雨も降っていないんだからね。僕は、自転車置き場から100円払ってマウンテンバイクを出して、何事もなかったように乗っていながら、先ほどの喧噪がなにか夢の世界の出来事のように思っていた。
 とはいえ、実際に夜中になって台風15号やって来た時には、もはや勢力そのものに疑問を感じる人はいなかっただろう。真夜中の3時から4時くらいまでの暴風雨は凄かったねえ。家中の雨戸は閉めたし、大丈夫なはずなんだけど、心のどこかで、「オズの魔法使い」のように、家ごと中空に舞っていくんじゃないか、という不安が拭えなかった。

 とにかく、今、9日朝の9時過ぎだけど、こうして自宅のパソコンで落ち着いて更新原稿を書いていられて嬉しい。名古屋に泊まった場合、始発列車を狙ったところで、この時間に家に着いていられるのはほとんど不可能。
 不自然な体勢を強要された故の腰の痛さくらいで済んだのは、不幸中のさいわいというものだ。さらに、今気が付いたんだけど、腰の痛みはいつの間にか治っているわ。

 今日は、午後から新国立劇場で「エウゲニ・オネーギン」の立ち稽古初日です。先週までに、難しいロシア語の合唱曲を、新国立劇場合唱団員たちに詰め込み式丸暗記させていた。
みんな、ちゃんと覚えて立ち稽古に臨んでくれよ!
よろしく頼むで!

モーツァルト200合唱団演奏会間近
「ベートーヴェン作曲ミサ曲ハ長調って大好き!」
という言葉を、僕は何度もこの「今日この頃」で書いているような気がする。ハイドン風に大人しく書こうと試みているのだけれど、どうしてもベートーヴェンが出てしまう。そのアンバランス感覚が楽しい。
 9月8日日曜日は、モーツァルト200合唱団と名古屋ムジークフェライン管弦楽団との2回目のオケ合わせ。ソプラノの飯田みち代さん、アルトの三輪陽子さん、テノールの大久保亮さん、バスの鈴木健司さんというソリストも交えて行われた。特に僕はBenedictus冒頭のアカペラのソリスト・アンサンブルが好き!
 Sanctusは本当に変わっていて、アカペラ合唱団にティンパニーだけの伴奏って、すごくヘンだけど、まさにベートーヴェンならではの世界。ムジークフェライン管弦楽団も大健闘。名古屋のアマチュア・オケはあなどれないぜ!

 ラフマニノフ作曲ピアノ協奏曲第3番を弾く大竹かな子さんのピアノが変わってきた。彼女自身は、
「今日のリハーサル室のピアノ(ヤマハ)の鍵盤が重くて、どうも調子が出ないんです」
と言うが、僕はこう答えた。
「いやいや、今日は先週よりずっとピアノという楽器がきちんと鳴っているよ。音楽的にもしっかりしてきたし、今週の方がずっといい」
「え?本当ですか?」
彼女は、先週の僕の忠告をきちんと受けとめてくれていた。ラフマニノフのピアニズムでは、まず低音を体重をかけてしっかりと鳴らすことに始まる。でも硬くなってはいけない。その上に和声を構築する。しかしながら、横のメロディーの流れもつなげようとする。その両方があって初めて成り立つのだ。

 それから、彼女のアゴーギク(細かいテンポの揺れ)をオケのメンバーも把握できるように、何度も何度も練習した。時には大竹さん1人で弾かせて、アゴーギクに見せかけて無意識の内にテンポのゆがみとなっているところを補正した。
「一度譜面通りにインテンポで弾いてみて。ほら、ここのリズムがゆがんでいる。あなたはね、ブレーキを踏みながらアクセル踏んでいるんだ」
すると、まるで今まで難しかったのが嘘みたいにオケとピアノが合う。
「さあ、これで双方分かったところで、またリズム揺らしていいよ」
このプロセスを経ることによって、アゴーギクをつけても独りよがりの音楽にはならないから、彼女もオケのメンバ-も双方気持ちよく演奏出来るようになった。
「ラストをもっと速く弾きたいんですが・・・」
という彼女に対して、
「だめだめ。僕はこれ以上速くは演奏しない。この曲をサーカスで終わりたくないんだ。ラフマニノフがどうしてここを8分音符以上で書かなかったかというと、重量感のある音でがっしり弾いて欲しいからだ。自己ベスト更新の最速、という部分ではないんだよ」
と答えた。彼女は理解し、終結部にスケール感が出た。
 今日のプロの世界では、残念ながらここまで時間はかけられない。一度だけ合わせたら、もうゲネプロ~本番というのでは、分かり合えという方が無理だろう。僕自身も、こういう風にたっぷり練習できるのだったら、協奏曲をやってもいいな。

 刈谷市総合文化センター大ホールで行われる演奏会は、9月15日日曜日15時開演。

 実は、今週末の本番までに、僕は、先日世界初演した自作ミサ曲Missa pro Paceの混声合唱バージョンのピアノ譜を仕上げて、モーツァルト200合唱団に渡さなければならない。もっと早く仕上がるはずだったが、この混声合唱バージョンが仕上がったら、他の団体でも使えるだろうと思い始めたら、編曲を丁寧に慎重に行うようになったのだ。
 たとえばEt Resurrexitの冒頭の、「鳥の声に対応する大気」を表現する部分は、女声合唱に、遠くから聞こえてくるアカペラ聖歌は男声合唱にあてがい、その後伴奏が入ってくるところで混声合唱にするなど、混声合唱には男声、女声を使い分けることが出来るんだ。そのことによって、とっても表現力が広がる。

 まだ今年の本番も終わっていないのに、来年のことを言うと鬼が笑うが、来年のモーツアルト200演奏会は2020年9月13日日曜日。同じく刈谷市総合文化センター大ホールで、プログラムは、前半にグリーク作曲ピアノ協奏曲とチャイコフスキー作曲チェロとオーケストラのための「ロココの主題による変奏曲」。後半にモーツァルト200合唱団で、Missa pro Paceとなる。
 オーケストレーションはこれからだが、少なくともグリークやチャイコフスキーのオケ編成までは使えるのだ。
そちらの方も楽しみにして下さい。
って、ゆーか、僕が一番楽しみ!




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© HIROFUMI MISAWA