素晴らしい「トスカ」~是非公演まで


三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

素晴らしい「トスカ」~是非公演まで
 新国立劇場では、「トスカ」が舞台稽古に入っている。指揮者のダニエレ・カッレガーレをはじめ、トスカ役のキアーラ・イゾットン、カヴァラドッシ役のフランェスコ・メーリ、スカルピア役のダリオ・ソラーリといった外国勢は、みんな無事稽古参加を果たし、それぞれが素晴らしい技を繰り広げている。
 その中でも特にフランチェスコ・メーリの声は絶品である。良い発声の見本である。彼を聴きにくるだけでも、今回の「トスカ」を観る価値がある。合唱団もソーシャル・ディスタンスを取りながら頑張っている。演出補の田口道子さんの裁きが巧みで、舞台もきちんと成立している。
 だって、いくらソーシャル・ディスタンスを守ったからといって、
「こんな風になっちゃいました」
では、観客も納得しないだろうし、僕たちも淋しいものがあるじゃないですか。とにかく劇場としてはこれが精一杯の姿です。

 1月8日金曜日に僕を含む合唱団員達はPCR検査を行ったが、14日木曜日には、東京交響楽団員全員と音楽スタッフ達が検査を行った。またまた全員陰性。こんなコロナ包囲網が狭まってきている中で、信じられない快挙だ。でも、それだけみんな気をつけているということだ。こんなところにもプロ意識が現れている。
 第2幕の裏コーラスでは、ソーシャル・ディスタンスを取るために、舞台裏いっぱいに合唱団が広がっているため、頼りになるモニター音が聞こえなかったり、タイミングが遅れてしまったり、いろいろ苦労した。それでも試行錯誤を繰り返してなんとか頑張っている。なんとしても、「コロナの割には」という条件をつけることなしに表現として成立させるんだ!

僕は祈る。
どうかこの素晴らしいプロジェクトが千穐楽まで完走できますように!

「タンホイザー」合唱立ち稽古始まる
 二期会の「タンホイザー」の方にも、僕は「トスカ」の立ち稽古の間を縫って音楽稽古に通っていたが、いよいよ1月15日金曜日に立ち稽古に突入した。二期会では、新宿西口から10分くらい歩いた成子坂下近辺の芸能花伝舎の体育館を立ち稽古の練習会場にしている。
 長女の志保にとっては、二期会の伴奏ピアニストとして働き出して以来のお馴染みの場所であるが、僕はもう20年くらい二期会公演には関わっていないため、初めて行くことになった。
 それを言ったら、周りの人たちはみんなびっくりしていた。入り口で驚いたのは、下駄箱にそれぞれの参加者の名前が書いてある。
「これって、どこに入れたらいいんですか?」
と訊いたら、
「あ、すいません。まだ名前作ってなかったですよね。それでは、とりあえず娘さんのところに入れておいていただけますか?」
と言われたので、靴をそこに入れてから、志保にLINEを送った。
「志保の下駄箱に靴を入れたからね」
「志保の下駄箱かい!」
志保は、この日のピアニストのローテンションではなかったが、公演には関わっているのだ。
帰りには、僕の名札が出来ていた。

 稽古場の真ん中にテレビが置いてある。そこに演出補のドロテア・キルシュバウム女史の顔が映っており、反対に稽古場全体の様子は彼女のところに送られている。実際の空気感までは、どこまで伝わっているのかは分からないが、少なくとも彼女の指示には従えるし、こちらの動きに対する彼女の反応を見ても、結構これはこれでリモートでも成立するもんだな、と感心する。
 立ち稽古初日は、第1幕の巡礼の合唱だけというわけだったが、思ったよりスムースに運んだので、ドロテアさんは大喜びして、ではついでに第3幕もやっちゃおうか、と急遽予定変更した。
 第3幕では、ローマ巡礼から罪を許されて帰ってきた歓びの巡礼合唱。しかし、その中にはタンホイザーはいなかった。合唱団のメンバーの中には、予定外だったため、暗譜が怪しくて目が泳いでいた人もいないではなかったが、全体としては順調に進み、立ち稽古初日は無事終了。

さて、今後どうなっていくか、またお伝えします。

神立スノー・リゾートでの行(ぎょう)
 1月13日水曜日。「トスカ」では、外国人勢をはじめとするソリスト達の立ち稽古に集中するため、合唱団はお休みになった。そこで、降って湧いた思いがけない休日を無駄に過ごしてしまう選択肢もないので、早朝から越後湯沢に近い神立(かんだつ)スノー・リゾートに滑りに行った。ここは初めてであるが、とても気に入った。

 スキー場自体の規模は大きくはないが、中級以上のスキーヤーにとっては夢のようなスキー場だ。急斜面や不整地やコブ斜面など、様々なテクニックを習得するのに絶好な環境を提供しているからだ。それに、とてもすいているので、コロナ渦にあっても安心して滑ることができる。そういえば、上越新幹線もガラガラだったなあ。JRには気の毒なほどだ。

 さて、そろそろ僕もシーズン初めとは言えないので、覚悟を決めてトレーニングをしたいと思っていた。だから、このたったひとりの神立の一日は、かけがえのないものであった。特に、不整地&コブの練習は、沢山の気付きをもたらしてくれたし、整地でのフォームの確認も実りあるものとなった。
 午前中、ペルセウスのコブと格闘し、ヘトヘトになってゲレンデ中腹のミッド・ベースに入って休憩したら、上半身が汗でびっしょりになっている。でも、着替えをロッカーに置いてある下のグランド・ベースまで降りるつもりもないので、とりあえず体の汗だけを丁寧に拭いたら、ヒートテックのお陰で体がポカポカと暖かい。凄いなヒートテックって!革命的だな!と今更ながら思った。

 ひとりで行くと、どうも滑りすぎてしまう。でも、この孤独な行(ぎょう)は、僕の魂を高め、いいようのない至福感を与えてくれる。僕にとっては、ひとりスキーは宗教的な意味を持つのである。次の朝は、珍しく腿が筋肉痛になっていた。これも微笑ましい。

写真 神立スノー・リゾートのゲレンデ
神立スノーリゾート

コブは“横滑り”から

過度な外向傾
 スキー雑誌などを見ると、よく「過度な外向傾はつつしむこと」などのように書かれているが、コブを滑る時には、絶対的に「過度な外向傾」が不可欠だ。何故かというと、コブの中では、スキー板が真横を向いたとしても、上体は常にフォールラインを向いていることが原則で、その結果、いつでも“横滑り”ができる状態を作ることが、まずコブをスライド(ズラし)で滑る入り口だからだ。
「わっ、こ・・・こんなに捻(ひね)るんか?!」
というくらいウェストをギュッと絞ることがコツです。言っておきますが、コブといったら“横滑り”こそが全ての基本です。

特効薬
 この“逆捻り”を簡単にできる特効薬を、僕は先シーズンの最後に、白馬在住の元モーグル選手の松山和宏さんから教わった。それは、ストックを突いた後、その突いた方の腕をボクシングのパンチのようにフォールライン方向にバンと突き出すというものだ。
 スキー板は、切り替え後、ストックを突いた側に内旋してくるだろう。でも上体が、板につられて一緒に内側にローテーションしてしまったら良くない。これをパンチで無理矢理くい止めるというのが松山さんのやり方である。つまり、板が右向いたら上体は左、板が左なら上体は右である。
 乱暴のように見えるが、これをやってみたらいきなり僕は「ひとコブひとターン」が楽に出来るようになったし、普通のモーグル・コースが恐くなくなった。さらにコブだけでなく、極端な急斜面においても、ターンした直後に極端な外向傾を作ることによって、スライド(ズラシ)が自由に出来るようになったのだ。
 なぜなら、スキーというものは顔をはじめとして上半身が向いた方向に進もうとするから、スキー板が横を向いていても、上体が下を向いていたら、ツルッと滑ったりせず、ズルズルとゆっくり降りていくのだ。

最初は落ち着いて
 僕は神立スキー場のモーグル・コースに入っていった。とはいえウォーミングアップとしては(せっかくコブを作ってくれた人には申し訳ないが)、ピポット動作(コブの頂点でストックを突いてクルッと板を回転させること)&横滑りでコブ山を削って壊しながらゆっくりと滑っていった。初回はこれが大事。まずは、どんなコブでも、スピード・コントロールが落ち着いてできることを確認すること。
 この安心感さえ得られれば、あとは本人の恐怖感とチャレンジ精神とのせめぎ合いの中で、スピード値を徐々に上げていけばいい。やせ我慢して「恐怖に負けるな!」などと無理をすると怪我のもとだし、もっと恐い思いをしてトラウマを作ったりもする。

 また、神立では最大斜度45度、平均斜度37度のスーパーオリオンと呼ばれる不整地コースがある。最初上から見た時は、
「ゲッ、これってただのガケやんけ。こんなとこ滑っていいの?」
と思った。特に滑り出しなんか直角にさえ見えたよ。それで僕は板を真横にしてゆっくり横滑りで入っていった。ズルズルズル・・・ズルズルズル。それから松山さんのパンチをしながらターンしてズルズルズル、ターンしてズルズルズル・・・あまりカッコ良くないかも知れないがいいんだ。
 ここでもまず安心感を得るのが僕の主義。それに慣れてきたら、少しずつズルズルの要素を減らしていく。それにつられてスピード値は上がっていく。でもあせることはない。恐くなったら横滑りに逃げればいい。気が付いたら、最後には結構積極的にカッコ良く滑れたよ。急がば回れなんだ。

トップから
 さて、コブに対してだんだん慣れてきたら、しだいに積極的に立ち向かって行きたくなるよね。コブを壊すのではなくて、むしろコブの深いところに飛び込んで行きたくなってきたりするじゃない。
 しかしみなさん、焦りは禁物です。どうか落ち着いてください。だんだん行こうね。より積極的なコブ滑走の際には、外向傾の他にもうひとつ気をつけるべき要素が加わるんだ。それは、スキー板のトップ(先端)を使うということだ。コブの出口でターンをした直後、スキーの板を思い切ってトップから谷に落とし込んでいくのだ。
 これは、慣れないと、頭からつんのめっていくような気がして恐いが、スキー板の前面は長いので、絶対につんのめらない。それよりむしろ、板の前面がバネのようになってブレーキがかかるのである。これを信じて欲しい。
まあ、これを体験するためには、一度覚悟を決めて「エイヤーッ!」と飛び込んでいくしか方法がないんだけど、何度か成功体験を重ねると、逆に病みつきになるよ。

吸収動作と足の伸ばし~コブの形状に合わせて
 それをより確実にするためには、さらにふたつの動作が必要だ。第一は、コブの出口で、盛り上がってくる形状に合わせて、上体をかがめながら足を極端に曲げる、いわゆる“吸収動作”と呼ばれる動作を行うこと。
 これはとても大切なことだが、この動作って、通常の整地での伸身抜重(ストックを突いて伸び上がりながら切り替えをする動作)と全く正反対な方法ですよね。つまり、一番かがんだ状態のままストックを突いて方向転換をするわけよ。伸び上がらないでかがんだままでいるわけ。
 これを怠ると、コブの出口で勢いよくジャンプしてしまって、まるで「2001年宇宙の旅」の「美しき青きドナウ」のような空中遊泳の状態になるのは必至です。それはとっても気持ち良い優雅な瞬間ですが、その直後にガラガラドッシャーン!というカタストローフが待っているわけです。あははははは!
 その吸収動作の練習として、整地で屈伸抜重(かがんだまま重心移動をする動作)の練習をしておくと抵抗感は少ないかも知れない。ただね、それをしなくても、コブの形状がそれ以外の運動を許さないから、そこで覚えるという手もある。

 第二は、コブを超えたら、いよいよトップを落とし込んで溝に入っていくのだけれど、その時、溝に入ったと思ったら、足を伸ばしてコブを舐めるように進むこと。それで、また出口で雪が盛り上がってきたら、それに逆らわないで足を曲げる。これを繰り返すこと。

コブの頂上について
 コブの頂上についてだけど、コブの本当の頂上は、滑っている人の意識よりも実は少しだけ向こう側にある。だから、
「今、頂上だ!」
と思ってからもう一瞬だけ待ってみよう。本当の頂上では、スキーのトップもテールも浮くので、ターンがし易いのである。
 さて、コブの頂上でストックを突いてターンするが、整地と違って結構しっかり突いた方がいい。突いたストックを軸として板をクルッと回転させる。回転しすぎると、より横滑りに近い状態となるし、回転が足りないと、よりコブに直線的に突っ込んでいくことになる。

外足に乗る
 最近は、カーヴィング・スキーの発達と共に、「両足に均等に乗る」などという愚かなメソードを教えている人がいるが、少なくともコブにおいては外向傾と共に「完全に外足に乗る」ことが必須条件である。
 切り替えした瞬間に新しい外足に100パーセント乗って、ターンの終わりまで徹底的に外側のみに乗り続ける。中途半端に両足に乗ったままだと、コブでは雪面の形状がめまぐるしく変わるため、転倒の危険にさらされる。
 では内足は?というと、最近気が付いたんだけど、重心が乗っていない内足のあり方って、実は結構重要なのである。外足がコブの形状に沿って案外すばやく回り込んでくるので、無意識のままのんびりしていると、ハの字になって両板がトップで交差してしまう。こうなるともう転倒するしかない。
 ではどうすればいいか?それは、外足が回り込んでくるのを予想して、スネと足の甲を鋭角にして板のトップをちょっと浮かすよな意識で、外足に先立ってクルッと回すことだ。そうすると両板が真っ直ぐのまま、コブを滑りきることができる。さらに言うと、両板はなるべく互いに寄せておく方がベターだ。これが離れるほど、雪の形状の違いの影響を受けてしまうから。

上体はフォールラインに沿って
 さて、この極端な外向傾と吸収動作、外足加重などのコンビネーションの結果どうなるかというと、下から見ていると、間にどんなコブがあろうとも、板がどこを向いていようが、肩や顔は常にフォールラインを向いている状態となる。加えて、コブの高低があっても、下半身の伸び縮みのお陰で上体の高さは変わることはなく、あたかも整地の斜面を、斜め下の直線ラインでスムースに降りてくるようになるということだ。

これ以上知りたい方はキャンプに
 ま、これらのことを僕が完璧にできているはずもなく、僕もまだまだ下手っぴいなので、偉そうに言えた義理ではないのだ。理屈ではこういうことだし、時々うまくできたりもするんだけど、これらのことを読んで、システマティックに習いたくなった方は、どうぞ「マエストロ、私をスキーに連れてって2021」キャンプに参加して下さい。

 角皆優人君をはじめとする講師陣はみんなコブのスペシャリスト達だから、どこよりもコブを体系的に勉強できるし、整地においても、理に適った指導によって、キャンプ前と後では、みなさん見違えるようになっていますよ。

 


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© HIROFUMI MISAWA