教会外で聴く「クリスマス・オラトリオ」

 

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

スキー・キャンプ引き続き参加大募集
 巷では、新しいオミクロン株がどうのこうの騒がれているけれど、どうもそれで人がバタバタと亡くなっていくというような状態ではないらしい。それよりも、我が国では感染者が夏過ぎから激減していて、海外でも不思議がられて大きな話題になっている。
 人口1500万人ほどの大都会で、連日20名以下の新規感染者といったら、ウイルスはもう、特定の場所を除いて、ほとんど巷には生息していないんじゃないの、と思われる。少なくとも、連日数千人規模の新規感染者を数えていた夏とは比べ物にならない。
 また、緊急事態宣言が10月から解かれて、街には人が再び溢れたが、リバウンドは全く起きなかった。人流の増加が感染拡大の(少なくとも決定的な)要因ではなかった、ということが証明されたに等しい。

 そんな中、「マエストロ、私をスキーに連れてって2022」キャンプの参加募集が続いているが、去年コロナの影響で参加出来なかった人たちも、今年はまた戻って来つつあるのが嬉しい。しかも、みなさん、書いてくるメッセージが熱い!
 昨年も書いたが、実際にスキー場に行ってみると、スキー場ほど安全なところはないと実感できる。ゲレンデでの感染率なんて、実際ほぼゼロでしょう。リフトに乗っても、みんなネックウォーマーとかしているし、センター内でも、日本人はみんなきちんとマスクをしている。

 さあ、みなさん!今が復帰時ですよ!じっと巣ごもりして、コロナが完全に居なくなるのを待っていたって、もう2年も経ちます。足腰弱ってますし、このままグズグズしていたら、もう本当に起きることさえできなくなります。

 若い時は、水泳でもスキーでも、みんな結構テキトーに自己流でやっていた。でもね、大人になったら、なんでも、
「それぞれの楽しさを本当に味わえる時点に到達するまでは、最短距離を歩んだ方がいい」
と思う。そのためには、
良い先生について、無駄なく無理なく上達すること」
に尽きる。その点では、このキャンプは、我が国でもトップクラスの教師陣を抱えているのだ。

 以前、不整地に入り込んだ時、僕の前に、僕くらいの世代のおじさんのグループがいた。ひとりが、
「コブって、どうやって滑るんだ?」
と訊いた。もうひとりが答えた。
「決まってるよ。テールをな、溝の一番深いところにぶつけるんだ」
あーあ、と思った。みんな歳なんだから、腰を痛めるに違いない・・・と。
これのどこが間違えているか、知りたい人は、僕のキャンプに申し込んで下さい。

 また、何十年も滑っていなくて、その間に、スキー板の形状が大幅に変化してカーヴィング・スキーになったと聞いて、気後れしているアナタ!だまされてはいけません!スキーの本質は、昔から何も変わっていません。
「ワイドスタンスをとって、板の両側に均等に体重を乗せて、あるいはむしろ内足に乗って体を内傾させて、サイドカーブに沿って決してズレないで滑り、止まる時は山側に切れ上がって行くと自然に止まる」
などという人の言うことを決して聞いてはいけません。その人たちこそ、今やガラパゴスです。危ないです!それで沢山のゲレンデ事故が起きてます。
 それは、F1のレーサーになりたいという人に、
「では、今日からあなたは、走り出したら絶対にブレーキをかけてはいけません」
とか、
「ブレーキのない車に乗って練習しなさい」
と助言するようなものです。
 確かにF1で優勝する人は、結果的にみんなの中で一番ブレーキを掛けていない人だと言えるかも知れない。でもね、そのレベルに至るまでの間に、そのレーサーは「誰よりもブレーキの達人」になっているはずなんだ。何故なら、0.1秒でもブレーキの掛け方を誤れば、壁に激突して死ぬかも知れないんだからね。
 それ以前に、フツーに考えたって、ブレーキの掛け方を教えられなければ、自転車にだって恐くて乗れないでしょう。だから、まずブレーキ。それが安心して掛けられて、いつでも意のままに止まれるという確信を持てたら、いくらスピードを出しても恐くはないんだよ。

 こうした僕の話に興味を持ったアナタ!いますぐ(明日まで待たないで)募集要項を読んで、しかるべきアドレスにメールを送ってくださいね。人生で初めてスキー板を履く人も大歓迎。けっして恐い思いはさせません。初級者も中級者も上級者も、それぞれのレベルで、本当に楽しくて、そして苦労せずに上達し、おまけに音楽家や音楽愛好家にとっては、様々な音楽上のヒントを得たり、興味深い話が聞けるキャンプです。

先週の練習
 NHKでは「クラシック倶楽部」といって、月曜日から金曜日までほぼ毎日、NHKBSプレミアムで5:00-5:55、BS4Kで6:00-6:55という早朝の時間帯で、クラシック演奏家の様々な演奏を放映している。その「クラシック倶楽部」の収録の依頼が新国立劇場合唱団に来た。収録は来年の1月15日。放映日は3月までのどこか、ということで現時点でまだ知らされていない。分かったら勿論お知らせします。

 「基本的に、ソリストを含まないオペラ合唱で、正味で少なくとも51分でお願いします」という話を聞いた時は、うわあ、51分なんて放送局らしいなあ、と思ったが、選曲には結構苦労した。
 たとえば、「さまよえるオランダ人」の「糸紡ぎの女声合唱」は楽しいけれど、すぐにマリーやゼンタが絡んでくるので、そのシーン全体なんてできない。すると単純に二番まで歌っておしまい、となるが、3分もかからない。
 定番の、ヴェルディ作曲「ナブッコ」から「思いよ、金色の翼に乗って飛んでいけ」や、「アイーダ」から「凱旋行進」や、ワーグナー作曲「タンホイザー」から大行進曲などはすぐに決まったが、なかなか「51分演奏しっぱなし」という分量の曲を選出するのは楽ではない。
 それに曲数が多くなるほど、最近入って来た若い団員などは、やったことがない曲が増えていくし、ベテランも、随分前にやった演目は、思い出すのに時間が掛かる。いろいろ悩んだ末に、「トゥーランドット」第1幕の「砥石を回せ!」から「月の出」まで通してやると、かなり時間が稼げることに気が付いて、ついでに少年合唱までソプラノに歌わせることにした。

 その練習が先週3回あった。あと年が明けてから2回で収録日を迎える。少年合唱について、ソプラノ・メンバーの中には、
「ええ?こんなおばさんが歌うの?」
と言ってた人もいたが、歌わせてみたら、なんのなんの、見事に変身して、僕に、
「いや、みんな、そこまで子供っぽくしなくてもいいよ。ビブラートは抑えるけれど、Aの母音など、そこまでオープンにし過ぎないで、普通に清楚なソプラノの声で歌ってね」
と言われるほどだった。

 12月8日水曜日と9日木曜日は、10:00-13:00「クラシック倶楽部」、14:00-17:00「さまよえるオランダ人」、18:00-21:00「愛の妙薬」と、それぞれ合唱音楽練習だった。久々に1日3コマというハードスケジュールで、ふうっ、お年寄りにはきついですなあ。
 まあ、コロナ以前は、そういうこともたまにはあったのだけれど、コロナ禍以降、特に緊急事態宣言下にあっては、「大人数の合唱団に食事休憩を与えると、感染を導く可能性がある」とか、「夜は早く帰さなければ」、という配慮が働いていたため、二度も間に食事休憩が入るような長時間はなかったのだ。
 夜の練習が終わると、家に帰って食事しながら思った。
「前は、なんともなかったけれど、こんな時間に食事を取るような生活って、人間の正しい生活じゃないなあ。ああ、緊急事態宣言の中で、5時半に杏樹と一緒にお風呂に入り、6時半にゆったり夕食を取る生活がなつかしい」
などと、ないものねだりをしている。あの頃は、仕事がなくなって意気消沈していたくせに・・・。
 その2日間の晩は、食事と共にビールからワインに進み、他のデスクワークは完全にストップしまって、ベッドに入って2分で朝が来た。それはそれで体はその状態にも慣れていて、ある意味、健康と言えなくもないか。

教会外で聴く「クリスマス・オラトリオ」
 東京バロック・スコラーズでは、毎年、「教会で聴くクリスマス・オラトリオ」の演奏会を開いていた。毎年、演奏させていただいたそれぞれの教会は一杯となり、コロナ禍の今から考えると、ドキドキしてしまうほどの密状態であった。しかし昨年は、演奏する我々とお客様の両方を収容して演奏会をさせてくれる教会を、そもそも見つけることは望むべくもなかった。
 その中で、日本キリスト教団田園江田教会が、無観客のオンライン配信用ということで、聖堂を提供してくださったのは有り難かった。それはYoutubeで配信し、今でも当団のホームページから見ることができる。

 ところが今年はそれも叶わなかった。夏に感染者が激増していたため、その時点で、無観客であっても聖堂を提供してくれる教会がどこもなかったので、“教会で聴く”というタイトルを貫くことが不可能になってしまった。
 しかしね、そんなことであきらめる僕たちではない。教会でできなくて一般のホールや練習会場での収録になってしまったって、要するに教会的な雰囲気を我々が醸し出せばいいのだ・・・ということで、12月11日土曜日午前9時。僕たちは国分寺駅に隣接した新しい高層ビルcocobunji West 5階にあるリオンホールに集結した。そこで収録を行い、ただ今編集中という状態である。

 当団では、僕の意向を助けてくれる優秀なスタッフ達が何人もいる。収録に際しては、これまでいくつもの動画撮影を手掛けてくれたNさんによって、なんと6台のカメラを使って様々な角度から録画された。
 その6つの映像と音声を同期させるだけでも大変だが、彼はそれぞれの曲ごとに分割し(クリップを分割し、チャプターを付けたもの)を作成してくれた。だが、その先は、僕が引き受けて行うことにした。
 Nさんは、途中まで作業したファイルを、インターネットのクラウド経由で僕にダウンロードさせようとしたが、なんとファイルが70ギガバイトにもなってしまって送れなかったという。それで、ただいまUSBメモリーカードで宅配便郵送中。この記事を書き終わるくらいには着くのではないか。
 Nさんが作ってくれたファイルを見てみないと分からないが、僕はタイトルを入れたり、自分のスピーチや様々な画像、字幕などをはさみ込んで全体を仕上げるつもりである。こうなると、もう仕事というよりは趣味の世界だね。
 昨年、コロナ禍で初めて映像の編集に手を染め、初めてYoutubeで配信してみて、これも芸術家の表現の方法のひとつだなと納得したからだ。それにしても、CyberLinkのPower Directorは素晴らしいソフトだ。Nさんともこれを共有している。

 会場は教会ではないけれど、僕は編集の力を借りて、なんとかして教会らしい雰囲気を出したいと思っている。そのために、妻の力も借りた。彼女は最近、ロウソク作りに目覚めて、いろいろなロウソク(キャンドル)を作ってMinneというサイトで売ったりもしている。今は待降節だが、カトリック立川教会で飾られている待降節用キャンドルも彼女の手作りだ。

 そのキャンドルと樅の木の枝などをリオンホールに持ち込んで、妻はクリスマス風の飾りを作った。それを見ながらみんなは歌う。殺風景なホールにクリスマスっぽい温かい雰囲気が生まれる。さらに、彼女は家でも同じような飾りを作った。


キャンドル

 リオンホールでは、残念ながら火気厳禁だったので、家ではキャンドルに火を灯した。やっぱり本物の火の醸し出す雰囲気はかけがえのないものだ。彼女は自分のカメラで静止画や動画を撮った。これも映像に取り入れようと思っている。

 今、原稿をここまで書いていたら、家にNさんからのファイルが届いた。ただ僕は、これから出掛けるので、作業をただちに開始することは無理なんだ。でもね、なるべく早く仕上げないと、クリスマスが来てしまう。街では、もう随分前からクリスマス・ソングが流れている。
 ところが僕は、いざとなったら開き直ることができるんだ。最初のスピーチでこのことを話すのだけれど、
「ヨーロッパでは、クリスマスというのは12月24日のクリスマス・イブから始まって、なんと翌年の1月6日の公現節まで続くのです」
つまり、
「12月25日が過ぎると、あれよあれよと思う間にクリスマス用品が全て撤去されてしまって街にはお正月用品が並ぶ」
という日本の商業事情とは違うので、本当は1月6日までクリスマス期間なのだ。
 ということは、それまで「クリスマス・オラトリオ」を聴いていても場違いではないし、むしろ聴いてもらいたい。そう考えるとYoutubeも、凄く慌てなくとも良いような気がする。
「それが本場のクリスマスというものです。1月6日は、幼子イエスに黄金、乳香、没薬を捧げた、東方の三博士の日。それをお祝いしてから喜びの内にクリスマス期間は終わるのです」
と、僕はあえて言いたいわけ。

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