ああ、飛鳥!

三澤洋史

ああ、飛鳥!
■10月27日木曜日は、ロームシアター「フィガロの結婚」第一回目公演と第二回目公演の間にはさまれて一日オフ。早朝は再び西本願寺に行って読経と講話を聞いて帰ってきた。それから用意して出かけて、京都駅から近鉄に乗り、向かう先は飛鳥(あすか)。
■飛鳥駅でレンタサイクルを借りて石舞台をめざす。普通の自転車は1日乗り放題で900円。電動アシスト付きは1500円。運動になるからと迷わず普通の自転車に乗ったが、走り始めてすぐに結構な上り坂。しかもかなり続く。おっとっと、電動アシストにしておけばよかった・・・。
■10月終わりにしては暖かい。上り坂でふうふう言っているのもあって、パーカーを脱いで半袖のTシャツだけになった。雲はあるけれど、どこまでも抜ける真っ青な秋空の下、明日香村の空気は澄み切っている。山の間の、妙にのほほんとした田園風景の真ん中に、なんだか場違いな感じで白っぽい巨大な石が無造作に寄り合い積み重ねられている。石舞台だ。


石舞台


■ここに来ることを何度も夢見た。どうしてだか分からないけれど来たくてたまらなかった。そして今ここに佇んでいる。やはり来る運命だったのだと納得している自分自身がいる。石舞台を遠くから眺めるだけなら拝観料は要らないが、やはりそばに行って見ないと分からない。何が?そこから発するパワーだ。
■石舞台の内部には誰でも入れる。石は外から見ても盛り上がっているけれど、むしろ地中に潜っている部分が大きく、階段を下りて中に入ると、巨大な空間に威圧感を覚える。というか、もの凄い霊的パワーを感じる。石が僕を呼んでいるような気がしたので、壁に手を触れてみる。その瞬間、何かがビビビッと僕の体内に入ってきた。胸が高鳴り、体の内部がポカポカと暖かくなってきた。何だろうこれは?埋葬された者の霊?いやいや、それは邪気ではない。古代の息吹?大地のエネルギー?
■複数の学校の小学生達が入れ替わり立ち替わり先生達に連れられて洞窟に入ってくるが、僕は気にしないで、ずっと手を壁にかざしたままたたずんでいた。まあ、言ってみれば、
「ただいま霊的パワーを充電中(笑)!」
って感じ。実際に大きなパワーをもらって元気溌剌になった。なんだかんだで1時間くらいいた。


石舞台内部

■それから再び自転車に乗ってのどかな田舎道を走って飛鳥寺を訪れる。日本最古の仏像は、変な顔しているのであまりピンと来なかったけれど、鐘撞き堂で鐘を突いたら、そのズーンとした響きと共に、お腹の奥の丹田までパワーが浸透してきた。やっぱり鐘にはパワーがあるんだね。不思議なことに、この鐘、離れれば離れるほど余韻のピッチが上がってくる。どういうわけ?
■それから、再び明日香村一帯を自転車でのんびりサイクリング。ああ、なんてのどかなんだろう!なんて美しい農村の風景。それでいて、なんという高貴な霊気にあたりが包まれているのだろう。道端に猿石だの亀石だのワケの分かんねーものがいっぱいあるけれど、あまり興味ないので、自転車を降りることなくやり過ごして駅に戻った。


秋の明日香村


■さて、飛鳥に居すぎた。レンタサイクルを返して、再び電車に乗って奈良駅に向かう。本当は、法隆寺とかいろいろ行きたいところはあったけれど、飛鳥で午後までかかってしまったので、奈良での滞在時間は限られている。
■近鉄奈良駅前で遅いお昼を食べて、さあ出発!とはいえ、東大寺と春日大社に行くだけでもう充分。あたりはだだっ広いので、徒歩で回ったら、もうそれだけで満足。
■東大寺の大仏は修学旅行以来。その大きさにあらためて驚いたが、周りで人が平気で騒いでいたり、ピースのポーズを取りながら写真撮ったりしていることもあって、なんの神秘的な気を感じることもなかった。僕の魂は、どうも仏像そのものにはあまり霊的興味を感じないらしい。先に説明した通り、“如来”を人間だと思っていないから、人間の形をした仏像に意味を感じないということもあるな。


春日大社の巫女達

■そういう意味では、春日大社の方がずっと神秘的。境内でおみくじなどを売っている巫女さん達の頭に藤の花のかぶり物が付いているのがウケた。そこから再び近鉄奈良駅に戻ってくるまでの間に、鹿が戯れている広々とした公園のベンチで一休み。とてもゆったりとした午後のひとときであった。


奈良公園の鹿達

■夕方、ホテルに帰って少し体を休めてから、あらためて西京極のアクアリーナに泳ぎに行った。昼間、運動をしないわけではなかったが、動いていたのは下半身だけだったので、バランス悪い。だからこれで全身の筋肉をくまなく使った。
■それからホテル近くの焼き鳥&串揚げの店に入ってビールと一緒に流し込み、そのまま部屋に帰ってベッドに横になるなり、夢も見ない真っ黒な眠りに沈み込んでいった。次の瞬間には朝が来ていた。身も心も健康的な一日であった。

帰宅と今日この頃
■オペラ「フィガロの結婚」を観て、若い頃は、
「モーツァルトって、なんでこんなくだらねー内容に曲をつけたんだ?」
と思っていた。
■伯爵の浮気をみんなでやっつける話。相手は権力者だから、面と向かって反抗するわけにはいかない。そこでいろいろ策略を練る。それがバレそうになって、第2幕フィナーレなんかピンチの連続。一難去ったらまた一難。そのドラマと音楽との一体感が素晴らしいだけに、物語のくだらなさが引き立つ。
■しかし、僕も年を取ってきたのだな。それが人間なのだと今では素直に思える。実際、僕たち人間って、そんな毎日を生きているのだ。人を傷つけたり傷つけられたり、有頂天になったり、落ち込んだり。嫉妬したり、怒ったり、泣いたり、笑ったり。ちっとも褒められたものではない。そんな等身大の人間模様をモーツァルトは描き出す。
■そして、終幕。伯爵夫人が夫を許すシーンでは、モーツァルトの・・・いや、神の、弱き人間存在を包み込む慈愛を感じ、ジーンとくる。そのジーンを感じながら、僕は帰りの新幹線で心地よい眠りに沈んでいった。約一週間の京都滞在は、仕事はしながらだけれど、僕の魂の充電期間でもあった。

■さて、旅の疲れを感じる間もなく、翌日29日は、東林中学校で講演会。この準備は、京都滞在中に地味にやっていた。その後、小田急相模大野から新宿、池袋を経由して、東武東上線に乗り換え、はるばる志木第九の会の練習に向かう。
■30日は、朝からカトリック関口教会(東京カテドラル)。今月から10時だけでなく8時のミサでも指揮を入れるようになったので、早朝に家を出て、8時と10時の両方のミサを指揮する。
■8月に指揮講習会を開いて、オーディションで選んだ3人の指揮者達に、その後、ミサの中で交代して何曲か振らせ、アドヴァイスを与えているので、今日もそれぞれのミサで1人ずつ指揮をさせて様子を見た。
■でも、今日までの間にみんなきちんと振れるようになってきたので、11月から思い切って8時のミサも含めてシフトを組み、それぞれにミサ全体の指揮を任せることにした。みんなは、
「ええ?心細いです」
と言っているが、
「何言ってるんだい。こんな風に部分的に振って助言をしてもらえるなんて環境、普通はないんだからね。みんな最初から一本任せられて、どうしようと思いながらやるもんなのだ。オルガニストだってみんなそうさ。あとは、まあ失敗しながら、悩みながらやるんだね。あははははは。勿論、見ていてアドヴァイスはあげるからね」
■僕は、どちらかというと、何でも自分の手でやりたいタイプだ。若い内は特に、未熟な人を見ると、
「貸してみい!」
という感じで自分がやった方が速い、という性格だったが、最近はこうやって自分の下で人材が育ってくるのが喜びになっている。歳を取るといろいろ変わってくるなあ。

■午後は、真生会館で竹下節子さんの講演を聞く。「フランスにおける信徒の霊性」というタイトルで、いろいろフランスの信徒達の状況なども聞く。特に「労働司祭型」というのが興味深かった。貧困な労働者が集まって住んでいる地区に司祭が行って、そこに一緒に住み、一緒に労働するということが流行り、沢山の司祭達がそれに従事した。決して「司祭です」という上から目線ではなく、本当に「仲間」として接し、彼らの悩みや問題を理解しようとする。現在でもそれは続いていて、フランスらしいユニークなありかたとなっているという。
■それから、NPO(非営利団体)を立ち上げるのがフランスではとても簡単で、代表者と会計がいれば受け付けてもらえるという。そして、そこに他人が寄付するのも自由だし、税金控除の対象にもなる。ただし、その団体が解散する時には、余った資金が代表者のものになることは許されておらず、同じような他団体に分け与えなければいけないという。
■それで、ユニークなことは、超エリートで大企業の社長のような立場の人が、キリスト教的NPOを立ち上げて、慈善活動などを含む様々な宗教的活動の長になっているケースが多いという。
■通常、それだけのVIPであれば、さぞや贅沢三昧の日々を送っているのではないかと思われがちだが、そういう人が真面目な宗教的活動に携わっているということの社会的影響力は大きいと竹下さんは言う。

「フランスではこう、日本ではこう、とだけ言ってみても仕方ないのよね」
と彼女は講演の最初に言っていたが、しかしながら、先ほどの「自分から外に出て行って人々と混じろうとする神父」の話題のように、本当はフランスならということではなくて、
「いや、やろうと思えば誰だって出来る。問題は、それをやろうと思うかどうかだ」
と考えさせられる問題をいろいろ提起してくれたのはとても有意義であった。

■講演会の後、新宿の小田急デパートで甲州ワインを買って家に帰ったら、孫の杏樹が叫びながら飛びついてきた。ここのところジージはずうっと忙しくて家にいなかったからね。
「今日はもうお仕事おしまい!」
と言ったら踊り出した。その後もジージにひっついて離れなかったよ。
ああ、なんて可愛いんだろう!
杏樹は、あと一ヶ月足らずで3歳。

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