アッシジへの旅2024年

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真 2020年、ウィーンのシュテファン大聖堂で、モーツァルトの命日である12月5日の深夜に、モーツァルト作曲「レクィエム」を歌いに行く、という旅行社の企画があったが、コロナ禍であっけなく潰れてしまった。その企画は、2021年に持ち越され、命日ではなく10月に遂行されようとしたが、まだまだコロナ健在で、これも残念ながら中止の憂き目に遭っている。
 2年も宙ぶらりんだった参加希望者達は待ちきれずに、高崎では、2022年5月に「モーツァルト・レクィエム勉強会」発表会を行い、名古屋のモーツァルト200合唱団は、9月の定期演奏会で「レクィエム」を演奏して一区切りつけた。

 その「モツレク」演奏会がまだ消えていない頃、旅行社と僕との間では、ウィーンの翌年にはアッシジ演奏旅行というのを企画していた。アッシジの聖フランシスコ聖堂で演奏会を行うのである。(事務局注:アッシジの聖フランシスコ聖堂のGoogle自動翻訳サイトはこちら ※原文でも読めます)
 演奏するのは僕の作曲した作品で、旅行社としては、東京、名古屋、高崎を中心として、そのための練習を組み、最終的に合同でアッシジに行って演奏しようというもくろみである。その計画が、またまた浮上している。時期は来年すなわち2024年7月後半を予定している。

 アッシジは、僕の守護聖人である聖フランシスコの故郷であり、僕自身は是非行きたいと思っている。僕はかつて、東大コールアカデミーOB合唱団であるアカデミカ・コールから委嘱を受けて、「イタリア語の三つの祈り」I Preghieri Sempliciを作曲したが、その中の中心の曲が「アッシジの聖フランシスコの平和の祈り」Preghiera Sempliceである。さらに、この団体のためにはミサ曲Missa pro Paceを作曲した。アカデミカ・コールは男声合唱団なので、それらの曲は皆男声合唱のために書かれているが、Missa pro Paceは、来年8月に名古屋のモーツァルト200合唱団が混声合唱で上演する予定だ。

 こんな風に、なんとなく僕の周りの環境の中で、いくつかの団体が僕の宗教曲を演奏してくれているが、それをアッシジへの演奏旅行という形にまとめられたら、と思っている。しかし、僕の中には正直言って不安もある。大作曲家モーツアルトの「レクィエム」をシュテファン大聖堂でという企画と違って、僕の作品だし、場所はウィーンとかローマとかミラノとかではなくアッシジだし・・・本当にみんながその企画に乗ってくれるのかな?という疑問である。
 すでに僕の曲を演奏しているアカデミカ・コールは男声合唱団なので、東京では、新たに混声合唱団を立ち上げなければらないと思う。名古屋でも、モーツァルト200合唱団が混声合唱バージョンで演奏会をやるといっても、勿論その人たちがみんなアッシジに行くわけではない。その一方で、モーツァルト200合唱団には入らないけれど、アッシジに行きたいという人もいるかも知れない。

 まあ、心配し始めたらキリがない。旅行社は、今年の夏くらいから募集をかけて練習を開始したいと言っている。そこで僕は思った。
「もし僕が本当に行きたいと思っているならば、そして行くべきだと神様が思っているならば、道は自ずと開けるはずだ。その前に、僕自身がアクションを起こさなければ!」

 そこで、新しくアッシジ用に新曲を書こうと思い立った。僕がカトリック教会で洗礼を受けるにあたって、洗礼名にアッシジの聖フランシスコを選んだのには二つのワケがある。
 ひとつは、僕が桐生の聖フランシスコ修道院によく通っていて、そこの修道士さんたちと仲良くしていたということ。もうひとつは、その頃とても流行していたフランコ・ゼッフィレリ監督(新国立劇場「アイーダ」の演出家でもある)で聖フランシスコの生涯を描いた映画「ブラザー・サン、シスター・ムーン」にとても感動したことだ。
 この映画のタイトルと主題曲のBrother Sun, Sister Moon(兄弟なる太陽、姉妹なる月よ)という言葉は、聖フランシスコの祈りCantico delle creature(創造主への賛歌)の中で歌われる言葉である。
Lodato sii, mio Signore, 讃えられてあれ、我が主
insieme a tutte creature, 全ての被造物
specialmente per il signor fratello sole, 特に兄弟なる太陽によって
il quale è la luce del giorno, それは陽の光
e tu tramite lui ci dai la luce. あなたは太陽を通じて我らに光りをもたらします
E lui è bello e raggiante con grande splendore: 太陽は、美しく、大いなる輝きを放ち
te, o Altissimo, simboleggia. 太陽はあなたの姿を現します

Lodato sii, o mio Signore, 讃えられてあれ、我が主
per Sorella luna e le stelle: 姉妹なる月と星達によって
in cielo le hai create, あなたは天にそれらを創造された
chiare preziose e belle. 明るく、気高く、美しく
 これはその一部であり、この後、風、空気、水、火、大地などが讃えられる。今掲げた三倍くらいある長い詩なので、それなりのボリュームになると想像される。これと「イタリア語の三つの祈り」さらにMissa pro Paceの一部の曲を組み合わせて、約1時間のアッシジ用の新しい組曲を作成しようと思っている。

 こうしたやり方は、かつてバッハがいくつかのカンタータから曲を寄せ集めて小ミサ曲を構成した過程と似ている。現代では、ひとつひとつの曲をJASRACとかに届け出て著作権を獲得してしまったりすることもあり、自作を再び使い回すような人はほとんどいないが、僕はJASRACから賞をもらっていながら、著作権を届け出たりしていない。好きな時にしか作曲しないので、自分の事をプロの作曲家だと思っていないところがある。

 今、この詩を僕は現代イタリア語で書いているけれど、実は聖フランシスコのオリジナルは、ウンブリア訛りで書かれている。どちらで作曲したらいいかなと思って、毎週通っているイタリア語の先生に訊いてみた。すると、一通り読んで、
「アッシジで演奏するのだったら絶対原語でやるべきよ。あたしでも何の苦もなく読めるんだから、現代イタリア語にとても近いし、よりラテン語に近い部分もある。何より地元の人は間違いなく喜んでくれるわね」
と言う。

 実はまだ僕の胸に風が吹き込んで来ていない。つまり、どんな曲になるのか見当もつかない。でも予感はある。思いつくままにピアノをつま弾きながら、ある時突然楽想が湧く。そして五線紙に書き留める。歌いながらピアノを弾いていく内に、どんどん変わっていって、最初の楽想とは全く別のものになったりする。でも、気にしない。で、ある時、それが形を成してくるのだ。
 う~~~ん、形を成してこない時もある。そうしたら、そもそも縁がなかったということなのだ。イタリア旅行もね。なんだ、無責任だなと思うだろう。いや、そんな風に無欲になって、委ねる気持ちになっている時が、一番創造の風が吹きやすいのだ。


アッシジの聖フランシスコ聖堂

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2023.2.20





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