Bayreuth 2001

三澤洋史 

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7月12日(木)
 今日はカンティーネ(従業員食堂)のお祭り。まったくドイツ人ったらお祭りが好きだ。先週末はバイロイトの市民祭だったし。
「市民祭って何があるの?」
ってドイツ人に聞いたら、
「ビール、ソーセージ、ビール、ソーセージ、ビール、ソーセージ!」
だって。
 旧市街の石畳のある目抜き通りのマキシミリアン通りは人で溢れかえっていたそうだ。ちょうど僕達はフリードリヒの奥さんのお誕生会に呼ばれていた時だったから行かなかったけど。

 話を戻して、カンティーネのお祭りというのは、13マルク払ってバッチみたいのを手に入れると肉やサラダが食べ放題になるってだけの話だ。飲み物はその都度自分で払うから決して安くない。しかも気をつけないと豚肉のグリルはよく外側は焦げて真っ黒でも内側は生だったりする。それでお腹壊す奴が毎年いるという。ことしは「特製アジア料理あり」なんて書いてあるんだけど、どうせゲゲゲって味だろう。でもアシスタント達もみんな行くって言うので、とりあえず僕も行く。

 副指揮者で来ている岡本和之君に会ったら、
「もうティーレマンの元でピアノ弾くのヤダ!」
ってこぼしていた。ピアニストをイビるような感じで、いろいろ弾き方に細かく注文つけるし、練習が終わると歌手やオケマンに対する悪口を聞かせられるのでたまらないようだ。
 まあ、確かに良い人っていうのじゃないな。付き合ったらどっちかっていうとヤな奴かも。でも今年の「パルジファル」は凄い!オケの音が昨年と全然違う。

 僕はワーグナーの全ての作品の中で「パルジファル」が一番好きなので、「パルジファル」が良くなるのはとても嬉しい。
ロマン・ローランがバイロイトを訪れた時に感動して、
「パルジファルは第五福音書だ!」
と言ったのは有名な話だけど、この作品の中にある「聖なる法悦」を表現する為には、音楽的才能があるだけではだめで、形而上学的なものを理解できる進化した魂を持たなければならない。
 オーバーに聞こえるかも知れないけれど。ティーレマンにはそれが感じられるのだ。彼は確かにタダモノではない。

 第九の練習は面白い。日本で合唱指揮者なんかやってたら、第九は嫌というほどやらなければならない。現に僕もこれまで数え切れないほど手がけてきた。でも本場のドイツで第九をやる機会って意外とないので、第九をドイツ人がどうに指導して、どういう風に響くのかといった事を知る機会がこれまで与えられなかった。
 他のアシスタントは、僕が第九を日本で指揮者として暗譜で何回も振っているし合唱指揮者としても死ぬほど手がけているのを知っているので、
「HIROは第九のスペシャリストだから任せたよ。」
と言ってピアノ伴奏を僕一人に押し付けている。難しいよう。弾けないよう。でもまあどうせ元々オケ伴だし、ごまかして弾いてもだれも文句は言わないんだけど・・・・。

 聴いてると、やっぱり語尾のer はエルという風には発音しないで、つまりツァウベルではなくてツァウバーというように発音している。とはいえ、バーの「ア」は暗め。この感じは微妙で、日本に帰ったら、日本の合唱団で試してみよう。

Ihr stürzt nieder, Millionen?
という歌詞の意味についてフリードリヒに聞いてみた。
「一般的な解釈は、『君達(救世主の前に)跪くのか?』だけど、元来nieder/stürzenって『落ちる』っていう意味でしょう?『君達は堕ちていくのか?』といった風には訳せないの?」
フリードリヒは答える。
「両方の意味をかけているよ。シラーの詩はドイツ人でも難しいんだ。彼が詩的な意味でわざとこの単語を使用したのは、神を前にして堕落し得る人類がなお神の臨在を感じ、跪くことが出来るか?という風に両方合わせて表現しかったからだと思う。」
ふーん。第九ってやっぱり奥が深いんだな。



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