Bayreuth 2001

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

7月27日(金)
 今日から4日間は完全にOFF。劇場では今日からリングが始まるので、例えば「ワルキューレ」なんかはのぞきに行こうとか思ってるけど、お仕事がないというのは開放感があってとてもいいね。
 今年は家にピアノもあるし、おうちも快適なので一日中家に居て勉強したりのんびりして過した。

 今朝、花田夏枝さん(シュテークマン夫人)から電話がかかってきた。彼女は、元々は祝祭合唱団のメンバーで、優秀なため、4人の小姓のひとり選ばれたりしていたが、今ではワーグナー夫人の親友で、バイロイト劇場に顔パスで入れる唯一の日本人だ。新国立劇場でもソリストや指揮者、演出家を外国から呼ぶ時の通訳を兼ねたコーディネータをやっている。僕にとってはバイロイトにおいても新国立劇場においても重要人物である。

 彼女が昨日の「ローエングリン」の公演を僕が振っている反対側からの照明塔の上から見ていた。で、フリードリヒの合唱の響きの作り方やペンライトフォローの仕方をシビアに批評し、指揮者のパパーノの振り方をさんざ酷評した後で、
「あなたのペンライトフォローはあたしが見ている限り完璧よね。ああじゃなくっちゃね。」
と言ってくれた。
 元団員だった彼女は、いろんなことを内部までよーく知っている。歯に衣を着せずにバンバン言いたい事をいうのでとっても恐いけれど、おせじは決して言わない人なので褒められたら本当のことだと思って喜んでいい。

 この夏枝さんに関して言うと、最近よくインターネット上で彼女に対する批判意見が出るという。彼女が新国立劇場で甘い汁を吸っていて、おまけに自分の息子(マティアス・フォン・シュテークマン)まで送り込んで演出助手をさせているそうでけしからんという旨の投稿らしい。
 全く見当違いもはなはだしい意見である。むしろ僕は、新国立劇場は夏枝さんにしかるべき立場を与えて、いっそのこと彼女を表舞台に出すべきだと思う。彼女は常駐の職員でもないのに、僕が見渡した限りにおいて、彼女くらいきちんと働いている人は新国立劇場には一人もいないのだから。ソリスト達の契約に関しては、彼女がいなければ何も出来ないというのが現在の新国立劇場の状態だ。

 彼女の息子に関しても、マティアスはバイロイト劇場の中でもピカイチ頭が切れる演出助手だ。特に「ローエングリン」では演出家キース・ウォーナーをはじめ合唱団員やソリスト達からの絶対的な信頼を得ている。
 マティアスは普段は映画の吹き替えの仕事をしている。たとえば映画「シックス・センス」では、英語からドイツ語への吹き替え台本を自分で書き、自分で声優として演じているのである。ギムナジウムの教師をしているフォン・シュテークマン氏が家長であるこの家族は、みんな語学の才能に長けていて有能なのに、そんなことも知らないで勝手に憶測でものを言う心無い批判は僕の心をも傷つける。



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© HIROFUMI MISAWA