Bayreuth 2001
三澤洋史
8月15日(水)
オルガン・コンサートに行ってきた。Stadtkirche Bayreuthと呼ばれるこのルター派教会の本当の名前は聖三位一体教会っていう。ドイツは、どんな小さな町でも、中心に教会が立っているが、それぞれの町の中心にあってその町で一番大きく、その町を代表する教会のことをStadt(町の)kirche(教会)「町の教会」って呼ぶ。大きな教会だ。パンフレットを見ると、1611年~1614年に建てられたそうだ。時代はすでにバロック期に入っていたけど、この教会は後期ゴシック様式で建てられていると書いてある。
さて、オルガン演奏会のことだが、教会自体が大きくて天井が高いからオルガンの音もきれいに響き渡っていた。
オルガンの機種はOettingen のGeorg Friedrich Steinmeyer(ゲオルク・フリードリヒ・シュタインマイヤー)が1961年に作った4段鍵盤の60レジストレーションのオルガンだという。三位一体オルガンと命名されている。
そういえばバルコニーにあるこの演奏会で使ったオルガンの他に、もうひとつ前方の祭壇の横に小さいオルガンがある。マグダレーナ・オルガンって言うそうだ。
プログラムはこんな感じ。
Dietrich Buxtehude |
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Choralbearbeitung „Ein feste Burg ist unser Gott“
Toccata und Fuge F-Dur |
Johann Sebastian Bach |
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Choralbearbeitung „Wachet auf, ruft uns die Stimme“
Fantasie und Fuge c-moll |
オルガニストは、Hof から来た Frank Fischer という人。上手だった。驚いたのは、オルガン演奏会でいつも僕が感じる、「低音のタイミングが遅い」というのがあまり感じなかった事だ。
和音というのは、どっしりとした低音の上に上声部が乗って初めて正しい響き方をする。例えばベルリン・フィルのようなドイツのオーケストラはその事を良く知っていて、低音からズシリと鳴ってくるのである。
これは理屈で言うのは簡単であるが、実はなかなか熟練を要する。何故なら低音は、ヴァイオリンやフルートなどの高音楽器よりも楽器自体の中に響いて表に鳴ってくるまでに時間がかかる。
特にオルガンは一人で弾いている訳だから、手の鍵盤と足鍵盤を同時に弾くとしたら高音が先になってしまうのは当たり前である。だから低音の上に高音を乗せるというのがきっと難しいんだろうなあと思うけれど、いつも僕にはそれが不満なのだ。
それが今日のオルガニストの場合、かなりいいタイミングで低音を弾いてくれたので僕は嬉しかった。加えてビート感もあったので音楽の骨格がはっきり浮き出ていた。
ブクステフーデの曲が面白かった。2曲目コラール幻想曲の原曲はマルティン・ルター作詞作曲の「我等が神は堅き砦」。僕は同じコラールをもとにしたバッハのカンタータ80番「我等が神は堅き砦」を今年の4月に演奏したばかりだ。
バッハのカンタータと同じようにメロディー自体を変奏するタイプのコラール幻想曲だったので、メロディーを知らない人は、聴いても作曲家が何をやっているか分からないかも知れないが、僕はメロディーを熟知していたのでコラールを素材として展開していく作曲技法の細部に至るまで手に取るように把握出来、とても面白く味わえた。ブクステフーデもかなり大胆な変奏と展開を繰り広げていた。この時代としてはかなりの天才だったろうな。若き日のバッハがブクステフーデに影響されたのもよく分かる。
トッカータとフーガも面白かった。バッハに比べれば稚拙かも知れないが、こういうのを聴くと、ブクステフーデがいなかったらバッハもいなかったかなと思った。
でもやっぱり次に大バッハが出てくると、もうバッハだけあればいいって気になってしまう。
「目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ」をこのオルガニストったら超速いテンポで弾き飛ばしてしまった。聴いていて車酔いしそうだった。それでもオルガニストが四分音符の低音を小気味良いビートで運んでいってくれたのでまあ許せたかな。
何回も聴いているし自分でも何回もやってるお馴染みの名曲だが、いい曲というのはいつ聴いてもいいね。オルガンのメロディーは定旋律と全く無関係に進んでいくように見えながら、なんとも言えないデュエットを展開している。やはり天才は違うなあ。
最後の幻想曲とフーガもカッコ良かった。ロマン派や近代の曲を色彩豊かなロマンチック・オルガンでやるのも嫌いじゃないけど、やっぱりバッハの曲を金管の響きで教会中にゴオオオオオオーっと響かせるのがパイプオルガンの原点のような気がするな、僕は。
ずっとワーグナーの音楽ばかり聴いているから、たまに聴くバッハの対位法音楽のなんと新鮮なこと!