8月19日(日)
「ローエングリン」の第三幕の有名な結婚行進曲は、合唱団はオーケストラ・ピットで歌う。舞台上では真ん中に見つめ合うローエングリンとエルザがいて、その後ろに長いロウソクを持った人達が一列に並んで結構素敵な演出だ。(キース・ウォーナー演出)
僕はオケピットでペンライトを持って合唱団にパパーノの棒を中継している。指揮台にパパーノが上ったので僕は手を振って「ハロー!」って感じで挨拶した。パパーノもすぐに手で挨拶し返してきたけど、その直後僕に向かってピアノを弾くジェスチャーをしてから親指を立てて見せた。つまり、前の日の合唱祭の僕達の出し物の事を「よかったぞ!」って褒めてくれているんだ。うふふ!いろんな人が喜んでくれて僕としてもやり甲斐があったよ。
結婚行進曲の最初はピアノで歌いださなければいけないけれど、その直前の第三幕の前奏曲を地下のオケピットで聴くと、あまりの大音響にみんな耳が馬鹿になっちゃって、それが静まった後のピアノでの歌いだしもつい大きくなってしまう。
僕はみんなに八小節前から合図を出し始める。四小節前から、「四、三、二、一!」って小さい声で言うんだ。今日こそはみんなを絶対にピアノで歌わせてやるぞ、と思った僕は、みんなが歌いだす直前にすかさず、
「Zu laut ! 」(大き過ぎるよ!)
と叫んだ。まだ歌い出してもいないのに。あはははははは。
みんな一瞬笑い出したけどそのまま歌い出さなければならない。笑顔のまま歌い始めた彼等の声は、結婚式の晴れやかな雰囲気にふさわしく、明るくしかも丁度良い大きさであたりに響き渡った。今日が今までの中で一番良い出来だった。作戦勝ち!
こんなのもバイロイト合唱団の裏技のうちのひとつ。