オー シャンゼリゼ!
シンガーソングライターのZAZ(ザーズ)のCD&DVDを聴きながら、
「ブックレットの歌詞をフランス語で読んでみようかな、日本語の訳詞も別のブックレットに乗っているけれど、何も見ないでも意味分かるかな?」
と思って小冊子を開いた。すると目に飛び込んできた文章に驚いた。しかしながらすぐに、
「あっ、そうか・・・そうだよね。なんで今まで気が付かなかったのだろう」
と思ってひとりで笑ってしまった。
曲は「オー シャンゼリゼ」なのだが、歌詞はOh! Champs Elyséesではなくて、Aux Champs Elyséesだったのだ。それをパリに7年以上も住んでいた長女の志保に言ったら、
「そうだよ。当たり前じゃない。だって普通に、シャンゼリゼではさあ、とか、シャンゼリゼでね、とか言う時に使っているから、ごくごく当然にそう思っていたよ」
だって。
でも、逆に僕たちの世代は、日本語に訳されたカンツォーネやシャンソンを中尾ミエとか佐良直美とか布施明とかで聴いていたから、
街を 歩く 心軽く 誰かに会える この道でのオーを感嘆詞以外のものだと思って聴いていた人は、よっぽどフランス語に詳しい人以外、当時は誰もいなかったんじゃないかな。auxとはaと名詞複数形につく定冠詞lesがくっついたもので、長女が言うように「シャンゼリゼでは」とか「シャンゼリゼで」という意味だ。しかし、なんでシャンゼリゼって複数なんだろうね。
素敵な あなたに 声を かけて こんにちは僕と行きましょう
オー シャンゼリゼ オー シャンゼリゼ
いつも 何か 素敵な ことが あなたをまつよ オー シャンゼリゼ
Aux Champs-Elysées | シャンゼリゼでは | |
Je m'baladais sur l'avenue le cœur ouvert à l'inconnu | ||
僕は大通りをブラついていた 知らない人に心を開いて |
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J'avais envie de dire bonjour à n'importe qui | ||
誰でもいいから「こんにちは」って言いたかったんだ | ||
N'importe qui et ce fut toi, je t'ai dit n'importe quoi | ||
誰でもよかった、で、それが君だったってわけ 僕は君に話しかけた 別にどんな話題でもよかった |
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Il suffisait de te parler, pour t'apprivoiser | ||
話しかけるだけで充分だった 君と仲良くなれるなら | ||
[Refrain]:リフレイン | ||
Aux Champs-Elysées, aux Champs-Elysées | ||
シャンゼリゼでは シャンゼリゼでは | ||
Au soleil, sous la pluie, à midi ou à minuit | ||
太陽のもとでも 雨の下でも 真昼でも真夜中でも | ||
Il y a tout ce que vous voulez aux Champs-Elysées | ||
望むものは何だってあるんだ シャンゼリゼではね | ||
Tu m'as dit "J'ai rendez-vous dans un sous-sol avec des fous | ||
君は言った 「地下でちょっとおかしい人達と会う約束をしているの」 |
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Qui vivent la guitare à la main, du soir au matin" | ||
「ギターを手に夕方から朝まで暮らしている人達よ」 | ||
Alors je t'ai accompagnée, on a chanté, on a dansé | ||
だから僕は君をエスコートした みんなで歌って 踊って |
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Et l'on n'a même pas pensé à s'embrasser | ||
キスをしようなんて考えは ちっともなかった | ||
[Refrain] | ||
Hier soir deux inconnus et ce matin sur l'avenue | ||
昨日の夜までは見知らぬ同士 今朝は大通りで | ||
Deux amoureux tout étourdis par la longue nuit | ||
恋人同士 長い夜を一緒に過ごしたせいで 頭がぼーっとしているよ |
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Et de l'Étoile à la Concorde, un orchestre à mille cordes | ||
凱旋門広場からコンコルド広場まで 千の弦楽器のオーケストラのように |
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Tous les oiseaux du point du jour chantent l'amour. | ||
夜明けの鳥たちが みんなで愛を歌うのさ | ||
[Refrain] |
ひとりで街を ブラブラしながらapprivoiserを「とりこ」か、うまく訳したね。
話しかけたいな こんにちは
相手は誰でも あなたでもいい
私のとりこにしてみたいな
オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ
欲しいものが昼も夜も
ここにはあるよ オー・シャンゼリゼ
パリは5月が好き
ZAZの演奏を聴いてからというもの、フランス語熱が再燃している。それで、いくつかのシャンソンのフランス語を自分なりに訳している。まあ、なにも僕が訳さなくても、世の中にはいろんな訳詞が出ていて、ネットで簡単に入手出来るが、そうではなくて、原詩の韻の踏み方や語感を味わいたいし、直訳のニュアンスを大切にしながら、どうやったら日本語として違和感なく表現出来るのかをいろいろ試すのが楽しいのである。つまり趣味の世界。
いつも思うのだが、語学の出来る者であれば、原詩を理解するのは困難ではない。でも、難しいのはその先で、日本語の文章に翻訳するとなると、たちまちヨーロッパ言語と日本語との表現形態の断層の深さに突き当たり、それを無理矢理こなれた日本語にするためには、時にかなり大胆な意訳を試みなければならない。でもそうすると、誤解が生まれるリスクが高まり、時には、正反対の意味にとられてしまう危険性もある。日本語は難しい。
ZAZが往年のシャンソン歌手であるシャルル・アズナブールと共演した「5月のパリが好き」を好んで聞いている。かつてカウント・ベイシー楽団のアレンジを引き受けていた名アレンジャーのクインシー・ジョーンズがプロデュースして、ベイシー風のイカしたフルバンドに乗ってふたりが歌う。シャンソンを含むあらゆるフレンチ・ミュージックはジャズととても相性が良い。僕はCDのこの演奏が大好き!
なので、この曲を自分なりに訳してみた。
J'aime Paris au mois de mai パリは5月が好き |
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1 | |
J'aime Paris au mois de mai Quand les bourgeons renaissent Qu'une nouvelle jeunesse S'empare de la vieille cité Qui se met à rayonner |
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パリは5月が好き 樹や花が芽を出し 新しい青春が 古い都を占領し 街が輝き出す |
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2 | |
J'aime Paris au mois de mai Quand l'hiver le délaisse Que le soleil caresse Ses vieux toits à peine éveillés |
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パリは5月が好き 冬が見棄てて立ち去ると 今しがた目覚めたばかりの古い家々の屋根を お陽さまが愛撫する |
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3 | |
J'aime sentir sur les places Dans les rues où je passe J'aime ce parfum de muguet que chasse Le vent qui passe |
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通りがかった広場や通りで 風が追い立てて運んでくる スズランの香りをかぐのが好き |
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4 | |
Il me plaît à me promener Par les rues qui s'faufilent A travers toute la ville J'aime, j'aime Paris au mois de mai |
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街中を縦横に縫っている通りを 手当たり次第に散歩するのが好き 好き パリの5月って大好き |
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5 | |
J'aime Paris au mois de mai Lorsque le jour se lève Les rues sortant du rêve Après un sommeil très léger Coquettes se refont une beauté |
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パリは5月が好き 夜明けには通りが 浅いまどろみの後 夢から覚めながら 色っぽく化粧をし直す |
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6 | |
J'aime Paris au mois de mai Quand soudain tout s'anime Par un monde anonyme Heureux de voir le soleil briller |
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パリは5月が好き 名もない人達によって 不意にすべてが活気づく お陽さまがキラキラと輝くのを見るのはしあわせ |
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7 | |
J'aime le vent m'apporte Des bruits de toutes sortes Et les potins que l'on colporte De porte en porte |
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あらゆる種類の騒音 それに 扉から扉へと 渡ってゆくうわさ話を 運んでくる風が好き |
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8 | |
Il me plaît à me promener Dans les rues qui fourmillent Tout en souriant les filles J'aime, j'aime Paris au mois de mai |
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人で溢れかえっている通りを 女の子たちに微笑みかけながら お散歩するのが好き 好き、好き、パリの5月 |
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9 | |
J'aime Paris au mois de mai Avec ses bouquinistes Et ses aquarellistes Que le printemps a ramenés Comme chaque année le long des quais |
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パリは5月が好き 春は連れてくる いつもの年のように 屋台の古本屋や水彩画家たちを セーヌの河岸に沿って |
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10 | |
J'aime Paris au mois de mai La Seine qui l'arrose Et mille petites choses Que je ne pourrais expliquer |
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パリは5月が好き セーヌ河はパリを潤す すると説明のつかない 無数の小さな事件が起こる |
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11 | |
J'aime quand la nuit se léve Etend la paix sur terre, Et que la ville soudain s'éclaire De millions de lumières |
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夜が始まる時が好き 地上に平和が広がってくる時 すると街は不意に 百万のあかりで光り輝く |
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12 | |
Il me plaît à me promener Contemplant les vitrines La nuit qui me fascine J'aime,J'aime Paris au mois de mai |
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ショーウィンドをひやかしながら お散歩するのが好き 僕をとりこにする夜 好き、好き、パリの5月 |
パリの空の下 フランス語~イタリア語~日本語
シャンソンの「パリの空の下」のフランス語の歌詞を、イタリア語に翻訳し、レッスンでイタリア人の先生に見てもらった。思ったより細かな相違が多い。やはり、ラテン語オリジンの国民同士といえど、一枚岩ではないのだね。ちなみに僕の対訳も下に載せた。
Sous le ciel de paris | Sotto il cielo di Parigi | |
Jean Bretonnière | ||
パリの空の下 | ||
1 | ||
Sous le ciel de Paris | Sotto il cielo di Parigi | |
S'envole une chanson | Si alza in volo una canzone | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Elle est née d'aujourd'hui | E nata oggi | |
Dans le cœur d'un garçon | Nel cuore di un ragazzo | |
パリの空の下 | ||
ひとつのうたが飛び立つ | ||
そのうたは 今日 | ||
ある若者の心の中に生まれた | ||
2 | ||
Sous le ciel de Paris | Sotto il cielo di Parigi | |
Marchent des amoureux | Camminano gli innamorati | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Leur bonheur se construit | La loro felicità si costruisce | |
Sur un air fait pour eux | Su una melodia fattta per loro | |
パリの空の下 | ||
恋人たちがそぞろ歩く | ||
そのしあわせは | ||
彼らのために作られたメロディーの上に築かれていく | ||
3 | ||
Sous le pont de Bercy | Sotto il ponte di Bercy | |
Un philosophe assis | Un filosofo si siede | |
Deux musiciens quelques badauds | Due musicisti, qualche spettatore | |
Puis les gens par milliers | Poi la gente a migliaia | |
ベルシー橋の下では | ||
ひとりの哲学者が座っている | ||
ふたりの楽師に何人かの野次馬 | ||
それがいつの間にか沢山の人で溢れちゃうのさ | ||
4 | ||
Sous le ciel de Paris | Sotto il cielo di Parigi | |
Jusqu'au soir vont chanter | canteranno fino a sera | |
Hum Hum | Hum Hum | |
L'hymne d'un peuple épris | L'inno di un popolo incantato | |
De sa vieille cité | Dalla sua vecchia città | |
パリの空の下 | ||
彼らは晩まで歌っていくのだろう | ||
古い都に魅せられた | ||
民衆の賛歌を | ||
5 | ||
Près de Notre Dame | Vicino a Notre Dame | |
Parfois couve un drame | Spesso cova un dramma | |
Oui mais à Paname | Si ma a Paname(Panama) | |
Tout peut s'arranger | Tutto si puo aggiustare | |
ノートルダム寺院の近くは | ||
しょっちゅうなんらかの騒動を抱えている | ||
でも それがいつの間にかうまく収まってしまうのが | ||
パリというもの | ||
6 | ||
Quelques rayons | Qualche raggio | |
Du ciel d'été | Del cielo d'estate | |
L'accordéon | La fisarmonica | |
D'un marinier | Di un marinaio | |
L'espoir fleurit | La speranza fiorisce | |
Au ciel de Paris | Nel cielo di Parigi | |
夏の空の輝く光 | ||
船乗りの弾くアコーデオン | ||
パリの空に | ||
希望が花開く | ||
7 | ||
Sous le ciel de Paris | Sotto il cielo di Parigi | |
Coule un fleuve joyeux | Scorre un fiume gioioso | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Il endort dans la nuit | Nella notte si prende cura | |
Les clochards et les gueux | Dei barboni e dei mendicanti | |
パリの空の下 | ||
喜ばしい河が流れる | ||
夜になるとセーヌはそのふところに | ||
浮浪者や乞食たちを眠らせる | ||
8 | ||
Sous le ciel de Paris | Sotto il cielo di Parigi | |
Les oiseaux du Bon Dieu | Gli uccelli del Buon Dio | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Viennent du monde entier | Vengono da tutto il mondo | |
Pour bavarder entre eux | Per chiacchierare tra loro | |
パリの空の下 | ||
神様に祝福された鳥たちが | ||
世界中からやって来て | ||
おしゃべりに花を咲かす | ||
9 | ||
Et le ciel de Paris | E il cielo di Parigi | |
A son secret pour lui | ha un segreto | |
Depuis vingt siècles il est épris | Da venti secoli è innamorato | |
De notre Ile Saint Louis | Della nostra isola di San-Louis | |
でもね パリの空には | ||
秘密があるんだ | ||
もう二千年も前から | ||
パリはサンルイ島に恋い焦がれているんだよ | ||
10 | ||
Quand elle lui sourit | Quando lei gli sorride | |
Il met son habit bleu | Lui indossa il abito blu | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Quand il pleut sur Paris | Quando piove su Parigi | |
C'est qu'il est malheureux | E perche lui è triste | |
サンルイ島がパリに微笑めば | ||
パリは青空を装う | ||
でも 雨が降るってことは | ||
パリの空が悲しんでいるということさ | ||
11 | ||
Quand il est trop jaloux | Quando è troppo geloso | |
De ses millions d'amants | Dei suoi milioni di innamorati | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Il fait gronder sur nous | Lui si scatena di noi | |
Son tonnerr'éclatant | Con suo tuono ruggente | |
時には パリにいるおびただしい恋人たちに | ||
あまりに嫉妬してしまう | ||
そんな時は 我々の上に | ||
ものすごい雷鳴を轟かせるんだ | ||
12 | ||
Mais le ciel de Paris | Ma il cielo di Parigi | |
N'est pas longtemps cruel | Non è crudele a lungo | |
Hum Hum | Hum Hum | |
Pour se faire pardonner | Per chiedere il perdono | |
Il offre un arc en ciel | Lui offre un'arcobaleno | |
でもね パリの空は | ||
いつまでも意地悪ってわけじゃない | ||
その後 お詫びのしるしとして | ||
お空に虹を架けてくれるもの |
詩の翻訳って何なのだろう?
ふと考えた。僕は、こうしてフランス語をイタリア語に直したりしているけれど、どうして一番得意なドイツ語に直そうと思わないんだろうか?と。やっぱりね、ドイツ語ってダサいんだよ。だから、もともとドイツ語のヘッセやゲーテなどの詩はいいけど、小粋なフランス語の詩を、わざわざ野暮ったいドイツ語に直す必然性を感じないよな。
それに、ドイツ語は、自分としたら結構日本語感覚でしゃべれる得意な言語なので、今更勉強することにあまり新鮮味を感じないというのもある。まあ、ドイツ語を専門にしていたり、もっと深く研究したい欲求が出てくればやるのだろうが、今のところワーグナーの楽劇のテキストが分かるくらいで満足しているからね。
それよりも、自分で詩を勝手に訳しておいて言うのもなんだが、詩を訳すのって、そもそも意味があるのだろうか?フランス語をイタリア語に訳すのは、ほとんど同じオリジンの単語を並べればいいと言ったが、それをしたところで、脚韻などの“詩としての味わい”は当然ながら失われてしまうんだ。
たとえば、Sous le ciel de ParisのパリーのイにElle est née d'aujourd'hui オージュールドウィーのイが対応していたり、S'envole une chansonのシャンソンのソンにDans le cœur d'un garçonのギャルソンのソンが対応している。こうした“響きの面白さ”は、もうイタリア語訳にはない。この節の全ての文章が6シラブルであることから生まれている独特のリズム感もない。
詩は小説とは違って、意味内容よりも韻律のリズム感や語感が醸し出す雰囲気そのものの方が重要だったりするから、これでは訳したところでナンセンスではないか。では訳詩というものはまったく無意味なのか?うーん、難しい問題だが、一方で、良い詩は翻訳してでも読みたい、という気持ちにも嘘はない。
この詩の中にずっと通奏低音のように流れている、古都パリの悠然としたたたずまいと、そこから日々新しく生まれ出る若きエネルギーに対する愛。それが“うた”や音楽と結びつき、立ち登ってくる文化の香り。かつて自らの手で勝ち取った自由を謳歌する街、その自由は、浮浪者や乞食、あるいは売れない画家や古本屋である自由をも含むし、この街はどんな人達をも受け容れるふところの広さを持っている。こんなパリを愛する歌が、僕のように同じようにパリを愛する者達の心を捉えて放さない。だから、この曲は、言語の壁を越えて世界中に愛されているのだ。
ああ、パリに行きたくなってきた。
秋の歌 ヴェルレーヌ
この記事は、ずっと前の2004年の11月28日のものだ。でも、今読んでも新鮮なので、この稿に載せた。
落葉 | CHANSON D’AUTOMNE | 秋のうた | |
(上田敏訳) | (三澤による直訳) | ||
秋の日の | Les sanglots longs | 秋の | |
ヴィオロンの | Des violons | ヴァイオリンの | |
ためいきの | De l’automne | 長いすすり泣きは | |
身にしみて | Blessent mon coeur | モノトーンにけだるい | |
ひたぶるに | D’une langueur | 僕の心を | |
うら悲し。 | Monotone. | 傷つける。 | |
鐘のおとに | Tout suffocant | 鐘が時を告げると | |
胸ふたぎ | Et blême, quand | 僕は息詰まり | |
色かへて | Sonne l’heure, | 青白くなりながら | |
涙ぐむ | Je me souviens | 思い出す | |
過ぎし日の | Des jours anciens | 過ぎた日を | |
おもひでや。 | Et je pleure. | そして泣く。 | |
げにわれは | Et je m’en vais | そして僕は旅立つ | |
うらぶれて | Au vent mauvais | 僕を連れて行く | |
ここかしこ | Qui m’emporte, | 性悪な風に吹かれて | |
さだめなく | De çà, de là | こっち、またあっちと | |
とび散らふ | Pareil à la | さながら | |
落葉かな。 | Feuille morte. | 死んだ葉。 |