8月7日(土)
とにかく、こんなにどのセクションも盛り上がっている公演は新国立劇場始まって以来じゃないか?初日が終わった後のパーティーでは、オーケストラのメンバーが僕のところに来て、
「ねえ、ねえ、僕達カーテンコールで終曲をもう一度演奏したいんだけど、いい?」
と言ってくるではないか。
終曲とは、僕がアレンジした「愛こそすべて」という曲だ。この曲をみんな気に入ってくれているんだ。
新国立劇場が子供達に送る「ジークフリートの冒険」は、すでに予想はしていたことだが空前絶後の大成功の内に初日を終えた。
あの難しいワーグナーの曲を聴きながら子供達が劇の中に入り込み、時には固唾を呑んで聴き、時には大声で叫びながら楽しんでいる姿を見ていると、このプロジェクトをやって良かったと感慨無量になる。
思えば、わずか4ヶ月前までは、本当に上演まで漕ぎつけるか誰も分からなかったのだ。資金繰りのメドもなく、やるとは決めたものの、どのくらいの予算でやるかなんて事さえ決まっていなかったけれど、もしやるのだったら内容だけはきちんと作っておかなければならない、と思って僕はひとりでコツコツとアレンジを進めていたっけ。
無から有を産み出すという事は大変な事だ。なにせ、誰も何も知らないんだからね。僕と演出のマティアス・フォン・シュテークマンだけは、これはちゃんとやれば必ず当たる!という確信は持っていたんだけど・・・・。
驚いたのは、新国立劇場に出入りしている人達のレベルの高さだ。舞台美術の堀尾さんは、本当に素晴らしい感性を持っている。って、ゆーか、あの人は感性が子供なんだな。いろんなアイデアが体からどんどん出てくるんだ。空からちらちらと降ってくるきれいなお花や、床から生えてくる白い清楚なお花。これはみんな堀尾さんの発案だ。
衣裳のひびのこづえさんは、一見するとちょっと控えめな地味な感じの人で、とてもとてもあんな斬新な衣裳を作る人には見えない。ワルキューレ達は、コウモリの羽根の着いたバット・ウーマンだし、ジークフリートの背中にはトンボの羽根が生えている。ファフナーに至っては背中に巨大な殻を背負ったカタツムリ男だあ!
マティアスの演出の凄いところは、彼が劇場とはマニュアルで全て物事を運ぶところだと認識している点にある。ブリュンヒルデを包む炎を布と扇風機と照明で表現したと思ったら、今度はその布を使ってイカダを作り、それで世界一周旅行に出ようとする。何かを上手に使い回していろんなものに見立てていくところに想像力というものは働くのだ。
みんながもの凄い才能を持ちながら、それぞれの持ち場で遊んでいるんだ。こんな楽しい事はないよ。
音楽の編曲だけでなく、今回の歌詞の日本語は全て僕が担当した。特に終曲の「愛こそすべて」は、僕が勝手にひとりで作ったものだ。ミュージカル「ナディーヌ」のテーマも愛だけど、ここでも僕は恥ずかし気もなく愛を訴えるんだ。
そう、愛こそすべて |
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愛は世界を清め高める力 |
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新しい時代は |
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この手で築こう |
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争いのない時代 |