息つく暇もなく・・・

三澤洋史 

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息つく暇もなく・・・
 息つく暇もなく、人生はどんどん前に進む。「ジークフリートの冒険」が終わった次の日から昼「ラ・ボエーム」、夜「カヴァレリア・ルスティカーナ」「パリアッチ」の合唱練習が毎日入ってきた。「ジークフリートの冒険」が練習場を離れ、本舞台に行って佳境に入る8月2日、実は「カヴァ・パリ」の合唱練習は始まっていたのだ。
 ちょっと離れていただけなのに、新国立劇場合唱団員を前に指揮台に座ると、なんかとても懐かしい気がする。「ジークフリートの冒険」に出ていた合唱団員達は、本練習とは別に一時間の補習稽古を毎日行った。10コマもの練習に出なかったのだから、彼女達も遅れていたんだ。この一週間、みんなに追いついて暗譜するのは大変だったろうな。月曜日から立ち稽古だからね。白状するけど、一番出遅れていたのは何を隠そうこの僕自身だ。アシスタントの矢澤君!ご苦労さん!

 ここのところずっと忙しくて大好きな読書が全然出来なかったので、新宿高島屋の隣の紀伊国屋に行って、かねてから気になっていた新刊、音楽之友社のブラームス回想録集1と2を買ってきた。まだ読み始めたばかりだが、2の「ブラームスは語る」はとても面白い。ブラームスの人となりが生き生きと感じられて意外な発見も少なくない。
 特にワーグナーに対しては、もっと批判的な立場をとっているのかと思っていたが、かなり正しく評価しているのに驚いた。ブラームスは「タンホイザー」の自筆スコアを所有していて、それを筆者のホイベルガーに貸す時にうっとりしながら楽譜をめくり、
 「偉大な想像力、破天荒な情熱、桁はずれのエネルギーを持つ人物だなあ・・・・」
と言っていたそうだ。
 ワーグナーの音楽を批判し、ブラームスを擁護していた有名な批評家ハンスリックに対しては、
 「ワーグナーの作品に対する耳もセンスも持っていない。寄る年波で、あれほどの芸術手腕をよその国の言葉としか認識できない。」
と反対に手厳しい。
 彼は辛辣な毒舌家として知られているが、彼の語る言葉を読んでいる限り、むしろしっかりとした教養と判断力を持ち、物事を冷徹に見据える人物であると思える。
 でも夏にはブラームスは暑いので、秋になってもう少し涼しくなったら歌曲や室内楽でも聴こうっと!

 ここまで書いたところで、柔道の谷亮子の金メダルが決定した。凄いね。こうした非凡なものを持つ人というのは、年齢に関係なくいい眼をしている。
 実は今日も群馬宅にいる。家内の父親の新盆なので、(といってもカトリックなので、本当はあまり関係ないのだが)お昼に着くように東京宅を出て、親戚一同で会食をした。家内の実家も群馬、しかも隣町なので、何かと便利だ。
 その後3時から新町文化ホールで「ナディーヌ」の練習。ソリスト達を東京から呼んで9時過ぎまでみっちり稽古した。ソリスト達はまだきちんと覚えているけど、新町歌劇団はもう一息。国立とは違う合唱団なので、これから佳境に入る。明日の10時から4時までの集中稽古でバシッと決めなくては・・・。全くお盆どころではないなあ。

 今、もし時間があったら一番したい事。手当たり次第の読書。それからドイツ語とフランス語の勉強。随分忘れているから。イタリア語のリブレットも、一度きちんと全ての文章を文法的に確認したい。音楽から離れて図書館とかに入り浸りたいなあ・・・・。
 貧乏性の僕にはボーッとしている時間は耐えられないんだ。ああ、時間が足りない!誰か僕に分けてくれない?



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