Core2 Duo は凄いぜ!

三澤洋史 

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Core2 Duo は凄いぜ!
 今この原稿を新しいパソコンで書いている。実は、またパソコンを自作した。お袋に作ってあげたのを合わせるとこれで3作目。

Vistaに惹きつけられて
 事の発端は、パソコン雑誌でWindows XPの後継オペレーション・システムWindows Vistaの来年一月発売の記事を見つけたこと。そこでVistaではXPと比べものにならないほどパソコンにスペックを要求することを知り、ふつふつとまた自作熱が蘇ってきたのだ。
 まず僕がしたことは、一体VistaとはどんなものでXPに比べてどこがどのように優れているかというVista大研究。各種パソコン雑誌の12月号ではこぞってVistaのお試し版Vista RC1のDVD-ROMが付録でついていたので早速購入。同時に新しくハードディスクを買ってきて、そこにVistaを入れてXPとデュアル・ブートで動かしてみた。

 Vistaの中には自分のパソコンがVistaを動かすことに対してどのくらい答えられるかという診断ソフトがついている。これで診断してみたら、ペンティアム4-3GHzのCPUや買ったばかりの250GBのハードディスクはともかく、グラフィック・カードの点数がとても低く、それが全体の評価を下げていた。
「あんたと付き合ってあげてもいいけど、真面目に付き合うにはちょっと物足りないわね。」
と言われているようなのだ。ちぇっ、なんだい、お高くとまりやがって。

 ではこちら側からの意見を言わせてもらおう。Vistaをくまなく探検して分かったことは、たとえばWindows 98からXPに移行した時のような画期的な安定性の向上とか、決定的な構造の変化といったものはついに見られなかったということだ。画面の美しさとか操作性といった目につくところは確かに改善されてはいるものの、構造的な進歩はたいしたことない。要するにマイナー・チェンジの範囲内。
 それなのに、もし自分のパソコンを今Vistaにしたならば、大部分のソフトがそのままでは使えないということが分かった。アップデート・ドライバーをインターネット上から入手すれば済むハード機器はともかく、ソフトはCD-ROMから読み込んでもくれないので、たぶんVista発売後各社が出す「Vista対応ご優待価格ヴァージョン・アップ製品」をそれぞれ購入しなければならないだろう。
 構造的に変わらないのに、これまでのCD-ROMからソフトを読み込めない互換性のなさは、どう考えても意図的だ。これから一月に向けてVistaの発売で消費者を煽り、そこに各ソフトの会社が便乗して、みんなで一気に、「儲かりまっか-ボチボチでんな作戦」を繰り広げようという魂胆だね。だから皆さん、Vistaにすぐにヴァージョン・アップしたいと思ったら、今ソフトを買っちゃ駄目です。Vista対応製品が出るまで待たないと二度買うことになります。

 というわけで、僕はあっさりとVistaに見切りをつけた。まあ、Vistaに関係なく今後必要に応じてヴァージョン・アップ製品のソフトを買っていけば、当然それはVista対応となるわけで、そうこうしているうちに、乗り換えてもいいかと思う時期になったら、その時にVistaを購入すればいい。でもそれは多分ずっと先の話。

火がついてしまった自作熱
 でも・・・火がついてしまったパソコン自作熱が止められない!先ほどVistaにするにはグラフィック・カードの性能が足りないと書いたが、だからといってグラフィック・カードだけ買い換えればいいというわけにはいかないのだ。これには理由がある。
 僕が初めて自作した2年前、作った直後にマザーボード及びCPUの仕様が変わった。グラフィック・カードもAGPスロットに差していたのがPCI Express×16というより高速なものになり、今までのマザーボードでは使えなくなってしまったのだ。だから今度自作するときは、CPU、メモリー、グラフィック・カードなどみんな買い換えなければならない。

指揮者が最も恐れる人とは・・・
 最近、妻がそばにいるなと思うと、まるで独り言のように、
「そろそろパソコンを新調しないとな・・・。」
とわざとさり気なく言っていた。その度に、
「何言ってんのよ。今ので何の不足もないってあなたのホーム・ページに書いてあるわ。」
と間髪を入れずに言われる。

 ちぇっ!あの記事読まれているのか。ホーム・ページにあまり本当のことは書くもんじゃない。世の中には、陰の愛人とか浮気とかじゃなくても、「妻にだけは知られたくない情報」というものがあるのだ。特にこんな時のように、妻をだんだん誘導して「しょうがないわね。」という気持ちにまでもっていこうと密かにたくらんでいるような場合は・・・。
「じゃあ、こうしようよ。マザーボードのシステムが違うので、どっちみち一揃い買い換えなければならないんだ。昨年ケースだけ換えたろう。その古いケースに今使っているパーツを入れれば、何も新しいものを買わなくてもそのままでもう一台出来る。それを千春にあげるよ。どうだい、一石二鳥だなあ。」
「いらないわよ。あたしは99年に買ったNECで何の不足もないもの。」
「もうそろそろあれも役目を終えつつあるよ。CPUは400MHzしかないし、ハード・ディスクだって8GBだぜ。僕が今使っているやつはCPUなんて3GHzだからその7,8倍速いんだ。8秒かかってた処理がなんと一秒なんだよ。あっという間だよ。それにハード・ディスクときたら160GBもあって・・・・。」
「別に。メールやってインターネット見て、たまにワードで書類を作るだけだもの。」
「・・・・・。」

 指揮者といえども妻はてごわいのだ。合唱団やオーケストラは意のままに動かせても、妻だけはそういうわけにはいかないのだ。だいたい男ってやつはいつまでたっても子供っぽいところがあって、
「Core2 DuoのCPUは速いんだぜ!」
なんて言われると、もうそれだけで欲しくて、いても立ってもいられなくなってしまうのだ。そういうところを冷静に妻に見透かされるんだな。だめだこりゃ。

事態は急転直下
 ところが解決は思わぬところからやって来た。先週は次女の杏奈がコンクールの披露演奏会のために日本に戻ってきていた。
「あなた、杏奈から何も聞いてない?」
「何のこと?」
「楽器のこと。」
「いいや。」
「そう。まだ言ってないの。なかなかパパに言いずらいのね。あのね、杏奈今伸び悩んでいるの。パリでフローラン(クラリネットの先生)に、今吹いている楽器は古典派向きのやさしい音色なので、近代現代のものをやるときには物足りないと言われているの。で、昨日、生方先生(東フィル・トップ奏者、僕の高崎高校の先輩で杏奈の最初からの師匠)のレッスンの時に相談したら、もうひとつ楽器を買って、曲によって吹き分けたらいいと言われたそうなのよ。でもねえ。この間A管買ってあげたばかりだし、娘二人パリで住んでいるだけでも大変なのに・・・・。」
「僕は個人的には今の杏奈の音色は好きなんだけどね。かなりドイツ的だからね。でもフランスにいてフランスものをやるには確かにシャープさや音の抜けが足りない。そこを言われているんだね。ジャック・ランスロみたいなペコペコな音になるのは好きじゃないけど、フランス的な音色や表現方法を身につけることは必要だ。」

 それから僕はなるべく渋い難しい顔をして、
「まあ、僕が一生懸命稼いだお金だ。こうやって右から入ってきて即座に左に消えていくけど、みんなのために役立てばいいんだ。それが家長としての僕の運命さ。」
妻の顔を横目でちらっと見た。納得した顔をしている。しめた!この機会を逃してはいけない。
「ただそうやって家族のために犠牲を強いられ続けている僕の人生。杏奈の楽器は買ってあげるからその前にひとつだけ、僕にも好きなものを買わせてくれ。」
「何それ?」
「パソコンのパーツ。」
「あっ、ずるい!」
「こんなにみんなのために身を粉にして働いているのに、自分では趣味のものひとつ買えないなんて、哀れな人生だと思わないかい?」
「しょうがないわね。分かったから楽器買ってあげてね。」
ヤッター!ヤッホー!

杏奈が帰ってきた。
「あんな~!あんなちゃん!ちょっとこっちに来なさい。」
「なあに?」
「なんかパパに言いたいことがあるんじゃない。ほうら、隠すとためにならないよ。あんたのネタはばれてるんだ。おとなしくハキなさい。警察をナメんな!」
「あ、もしかして楽器のこと?」
「君たちが一人前になるために必要なものを与えるのは親の義務だからね。買っていいよ。」
「やった!ありがとう、パパ!」
横から妻が口をはさむ。
「パパに変な交換条件をつけられた。」
「シーッ!」

パーツを買い込み、いよいよ自作に
 27日月曜日は、夜の「セヴィリアの理髪師」の稽古が合唱抜きになったので、帰り際に新宿のSofmapに寄って大量のパーツを買い込んだ。電源、マザーボード、CPU、CPUファン、メモリー、グラフィック・カードといったものだ。CPUはもちろん今をときめくCore2 Duoだ。メモリーは1GB二枚差しの2GBだい。凄いだろう!
 マザー・ボードは、雑誌を見ながら欲しくてため息をついていたGIGABYTE製GA-965P-DS4。チップセットがヒートシンクでつながっていてカッコいいタイプ。それだけに値段もいい。
 僕はマザー・ボードに究極の機能美というものを見るのだ。マザーは母。この母なる大地に様々なパーツをつけていく。マザー・ボードは全ての夢をそのふところにはぐくんでいくのだ。
「ははなーるー、だいちーのー、ふーとーころにー!」
うひひひひひひ。最高のコンビネーション!

 グラフィック・カードはミドル・クラス一番の人気商品GeForce 7600GTを買おうと思っていたら店員に、
「お客さん、それでしたら、もうひといき出せばひとクラス上の7900GSの商品が買えます。これは店頭展示品のため\3,000安くなっているのです。これいいですよ。3Dゲームもバリバリです。」
こういうのに滅法弱いんだな。
「よし、これにする。」
 店員は男の弱点を知っているなあ。「もうひといき出せば」と言われて躊躇するのは男らしくないし、3Dゲームもバリバリと言われれば男の征服欲をソソる。3Dゲームなんて別に全然やらないんだけどね。
 
 大きな荷物で他の乗客に迷惑がられながら府中に着いて、家に向かうバスに乗る前にドトールに寄った。買ったパーツを横に置いて眺めながらコーヒーをすする。
「うふふふふ。」
一人で勝利の喜びに浸っていた。たぶん店内の他の客たちからは確実に変なおじさんと映っただろう。さてバスに乗ろうとして歩き出すと、いきなり、
「パパー!」
と呼ばれた、見ると杏奈がいる。
「あれ?何でこんなところにいるの?」
「これから友達と会うんだ。うわあ、でかい荷物だね。杏奈のクラリネットと引き替えにまんまと手に入れたやつだね。」
「そーゆー言い方すんなっちゅーの。」
「ねえ、ねえ、いいところで会った。ちょっと買って欲しいものがあるんだけど。明日出発だから今日しかチャンスがないんだ。」

 ついて行ったら京王アートマンの化粧品売り場に入っていく。若い女の子ばっかり。
「ちょっと、おじさんには場違いなところだな。恥ずかしいよ。」
「平気、平気。」
杏奈は気にしないでどんどん進んでいく。そして鉛筆のようなものと判子の朱肉入れのようなものを手に取った。
「なんだそりゃ。」
「いいの、いいの。気にしないでお金だけ出して。」
まるで追いはぎのように二千円取られた。家で妻に言うと、
「全く甘いんだから。」
どうやらアイ・ペンシルと白粉らしい。女ってものは分かんねえ動物だ。こんなものつけて一体何が面白いんだ。

いよいよ自作三昧
 さて、家に帰ってきて夕食を食べてから作業にかかった。今回は労力としては二つのパソコンを自作するのと同じだ。今のパソコンのパーツを昔使っていたケースにそっくり移し換え、それが妻のパソコンとなるのだ。それから空になった今のケースの上に新しいパーツを取り付けていく。それが仕上がると、新しいパソコンのハード・ディスクにあらためてWindows XPを入れる。
 先日買ってきたこのハード・ディスクにはすでにWindoow Vistaが入っていたのだが、もうVistaは見捨てたし、マザーボードが変わるといずれにしても最初からすべて入れ直さないといけない。

ね、寝不足!
 一生懸命作業をして新しいパソコンが立ち上がってくるのを確認し、ハッと気がついたらもう四時になっていた。たしか四時半くらいになると妻がパリに帰る杏奈を車で成田まで送るために起きてくるんじゃないか。九時半くらいのフライトとか言っていたからな。お、早く寝ないと。
しかしすぐに周りが起き出してしまった。ゴトゴト用意している音で寝付けない。
「パパ、スーツケース車に乗せて。」
はいはい、分かりましたよ。う、寝不足で力が出ない。それにこんなに重くて大丈夫かい?20Kgはおろか30Kgくらいあるぜ。

「気をつけて行ってね。元気で頑張ってね。」
やれやれ、杏奈を送り出してやっと安眠出来るぞ。
「ワンワン!」
「何だ?」
「ワン(散歩の時間)!」
「あのねえ、パパ疲れているからね。もうちょっと寝かせてね。」
「ワンワン!だめだめ!早く行こうよ、ワンワン!」
「ああ、もうしょうがねえなあ。行くよ、行けばいいんでしょう!」

 タンタンにリードを引っ張られながら散歩に出る。こういうのって犬飼っている人が見たら、ああ、しつけのなってない馬鹿犬って思うんだろうなあ。でもこっちはやる気がないから引っ張られるままだい。
 いつもの甲州街道の歩道橋の階段でタンタンを抱っこしたらグラッときて転びそうになった。タンタンったら、
「何やってんの。」
と馬鹿にした顔で僕のことを見ている。別に酔っぱらっているわけではないんだよ。ずっと集中してパソコンを作っていたのでパパの頭はボーッとなっているし、体はフラフラなんだよ。分かってね、パパの苦労。

トホホの神、御降臨
 で、散歩から帰って新しいパソコンにXPをインストールしてからゆっくり寝ようと思ったらトホホの神が御降臨なされた。
 自作する人以外は、最初からハード・ディスクにOSをインストールすることなんてないだろうから、そういうトホホは起こらないのだが、インストール時に出る表示というものは、まるで最初からトホホになるのをねらっているようなのだ。

 まず「このハード・ディスクにインストールするのでいいですか?」という風に聞いてくる。当然「はい」を押す。次に三択問題が出るのだが、もう慣れていると自分で思いこんでいた僕は、最初に目についた「そのままインストールする」を選択してしまった。だって普通そうするよな。ところがこれがいけない。
 その結果どうなるかというと、ファイルのコピーが始まってから、突然「このなになにファイルはコピー出来ません」と出る。そこで「スキップする」か「インストールを終了する」かを選ぶ。終了するわけにいかないから「スキップする」を選ぶと、まるで何事もなかったかのようにまたコピーが始まる。
 結局いくつかのファイルがコピーできないまま終了し、再起動するが、その際画面に表示されたいくつかの項目には、赤や青や黄色といった綺麗な色で印がつけられているのだ。なんですかこれは?つまりエラーということでしょうな。そして・・・・その先にはどうやったって進めない。

 しばらくパソコンの前で悩んだ。このXPのCD-ROM、不良品なんじゃないの。とにかくもう一度最初からやってみよう。で、また振り出しにもどった。二度目も同じように選択した。また途中で先に進めない。取り替えてこようか。まて、その前にもう一度だけ。そして三度目。あれっと思った。
 例の三択問題の箇所だ。落ち着いて呼んでみると、「そのままインストール」の他に、「NTFS形式でハード・ディスクをクイック・フォーマットしてからインストールする」というのと「NTFS形式でフォーマットしてからインストールする」というのがあるではないか。
 そうだ!勿論ハード・ディスクをフォーマットしなければインストール出来ないのだ。当たり前だいそんなの。なんで見過ごしてしまったんだ。ああ、そうか。「そのままインストール」という言葉が強烈で、最初に目に入ってきてしまったので、迷わず選択してしまったのだ。
 あのさあ、フォーマットしないでインストールしたら、うまくいくはずないのがみすみす分かっているのに、どうしてフォーマットしない選択肢を作るんだ。全く何考えてんだか。
 その時点で僕はもう眠たくて仕方なかったので、クイック・フォーマットの方を選んだ。これは250GBのハード・ディスクにしては驚くほどの早さでフォーマットが終わってしまった。これはちょっと早すぎる。以前自作した時はもっとめちゃめちゃ時間かかったのに。きっと後でまた何か障害が出てくる可能性があるな。そこでまた最初からやり直し。

 一体これはゲームか?さもなければ試験か?だって、どう考えたって三つの内一つのみが正解で、あとの二つは不正解だ。それなのに三択だなんて。さて誰が全問正解してゴールまでたどり着けるでしょう。もう、いい加減にしろよ!
 予想通り一時間半以上かかってフォーマット無事終了。続いてXPのインストールに入る。これも一時間くらいかかる。そんなことやってたら、またたく間に午前中が終わり、仕事に行く時間になってしまった。ああ、とうとうほとんど寝ていない。

自作マニアの悲哀と歓び
 こんな風にパソコン自作は常にトホホの神と隣り合わせ。その上、何が起こっても誰もサポートしてくれないので、全て自分で解決しなければならない。でも、それでもやめられないのは、自作でないと味わえない歓びがあるのだよ。

 噂のCore2 Duoは評判通り文句なしに素晴らしい。ソフトをインストールする時なんか、コピーしているファイルの名前は速過ぎて読めないし、またたく間に終わってしまう。
 何より驚くのはCPU温度の低さだ。ペンティアム4なんかすぐに60度以上いってしまうのに(お茶が飲める温度だよ)、Core2 Duoときたら、かなりバシバシ使ってから計ってみても、なんと20度だってさ。だから冷却ファンも高速でなくていいので、とても静かなパソコンが出来た。電気もくわない省エネ・パソコンなんだ。

 パソコン自作者は、自分の好きなパーツを好きなように組み合わせて、自分の意のままに操る。こんな僕はある意味、昔のプラモデル少年のままのような気もするし、指揮者になろうと思ったり作曲したりする性向とどこかでつながっているような気もするな。
 来年になると、また譜面作成ソフトを使って楽譜を作らなければならない機会が多くなるので、この新パソコンをバシバシ使うよ。

 このパソコン、なにか気の利いた名前をつけようと思うんだけど、誰か考えてくれないかな。




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