勝沼に行ってきました

三澤洋史 

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我慢の限界
 先週号で書いた「あなたの犬は幸せですか」を読んで、愛犬タンタンとの接し方に目覚めた僕は、彼に対して常に「穏やかで毅然とした」主人であろうと試みた。お散歩に行く時も「ワンワン!」と興奮する彼を制し、落ち着かせて僕から先に外に出る。お散歩中も彼にリードを引っ張らせることなしに、
「一緒だよ。」
と言いながら、並んで歩く。

 確かにこうするとタンタンの振る舞い方も落ち着いてくる。やっぱりあの本の言う通りだなあ。タンタンとてひとつの個性を持った生命。こちらの勝手な感情で相手と接するのではなく、相手のありのままの姿を冷静に見つめ、それに即した付き合い方をしないといけない。
 夜仕事から帰ってきた時も、今までのようにこちらから、
「ただいまあ。かーいいタンタン!元気だったあ?パパねえ、タンタンと会えなかったんで、とっても、とおーっても寂しかったでチュー!」
なんて言いながら駆け寄っていったりなんかしたら、相手を主人の僕より優位に立たせることになるので厳禁!さりげなく威厳を保ち、無関心を装い、相手から寄って来るのを待っていた。

 しかしたまに向こうも無関心を装って寄って来ない。
「え?何やってんの。早く来なさい。ほれっ!来いっちゅーに!」
こうなるとね、だんだん我慢できなくなってくるよ。
「このまま、しだいに二人は冷めた関係になってくるのかしら?」
と思うと限りなく動揺する。
 実際、可愛いものを可愛いがれない、あるいは可愛いものの前でその気持ちを表現出来ないということがこんなにも辛いことだとは・・・・。そんな時、さらに追い打ちをかけるように、タンタンったらソファの上でめちゃくちゃ可愛い仕草をしてみたりする。で、ある時僕はとうとう堪忍袋の緒が切れて・・・・。思わずタンタンに全速力で突進。彼を両手で抱き上げるとギューッとつぶれるほど抱きしめ、
「うわあああああああーっ!タンタンンンンンーっ!可愛いいいいいいいい!ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・。」
という感じで発作を起こしてしもうた。

ぶどうの丘  ハッと気がつくとタンタンは横目で、
「なにやってんの?」
という感じで見つめている。
「い、いかんいかん。主人の威厳・・・。」
と思ってももう後の祭り。駄目だ、駄目だ。穏やかで毅然なんて無理。もう、溺愛も溺愛。あっぷ、あっぷ、溺れるううううう。やっぱり本に書いてある通りには簡単にいかないんだ。

勝沼へ行ってきました
 16日金曜日は久々の休日。こんな時家にいると、貧乏性の僕はなんとなくスコアを勉強したりして、休日を満喫したという充実感の全くないまま過ごしてしまうので、妻を誘って思い切ってドライブすることにした。といっても僕は運転出来ないのでドライブするのは妻の方で、僕はもっぱら助手席で地図を見ながらナビゲーター。
 あまり遠いと疲れるので、一時間以内で行ける勝沼に決めた。以前も行ったことのあるコースをなぞるだけ。すなわち、ほうとうを食べて、ワインを買って帰ってくるだけのシンプルなコース。でも、これだけでもね、日常生活から離れて充電が出来て、
「さあ、明日からまた頑張るぞお!」 勝沼-皆吉-2
という気になれるものだから不思議だ。遠くの山々を見たり、自然の中でいい空気を吸うだけでも違うんだろうな。新しい“気”が体に漲ってくるのさ。

 勝沼でほうとうを食べるなら、皆吉(みなき) http://www.minaki.jp/に行くと決めている。勝沼の町の中にあって、知らない人だった ら通り過ぎてしまうような普通の民家風。でも、なかなか風情があるのだ。以前、秋のブドウ狩りの頃に行ったら、大勢の観光客でごったがえしていて、皆吉の前も長蛇の列。結局一時間近く待たされた思い出があるが、今回はシーズン・オフの平日なので、さすがにすんなり入れた。
 入り口はまるで茶室のように、大人だったら身をかがめないと入れない低さ。ガラガラと破れた障子戸を手で開ける。
鴨のたたきおすすめメニューの中に鴨のたたきというのがあったので注文した。たたきとくればお酒を飲みたいところだが、昼食なのでアルコールフリーのビールを頼んで酔っぱらったフリだけ。おいしかったけど、中は生なので(当たり前だ、たたきだもの)なかなか噛めない。二切れくらいは面倒くさいので途中で飲み込んでしまった。出来ればナイフとフォークが欲しいなあ。あるいはもっと小さく切るとかね。味はいいんだけど・・・・。

 ほうとうは、僕が鶏肉ほうとう、妻はきのこほうとうを注文した。ここのほうとうは麺自体がとてもおいしい。きっと煮方がいいんだろうなあ。自家製味噌を使用した汁は素朴で誰でも作れそう。関東人がなじんでいる信州風味噌ではなく麦こうじ味噌で白っぽい。 鶏肉ほうとう
 かぼちゃは、家庭では一緒に煮てしまうのだろうが、この店では別に煮て付け合わせている。僕はこっちの方がほくほくっとして好き。ほくほくと言えば、じゃがいもが入っているのが珍しいな。こっちの人はじゃがいも入れるのかな。
 実は僕の生まれ育った群馬では、ほうとうの文化に勝るとも劣らない「お切り込み」というものがある。これも麺はほとんどほうとうと一緒なのだけど、違うところはつゆが醤油味なのだ。それに入っている具も微妙に違う。にんじん、大根、こんにゃくと油揚げは定番だけど、たとえば群馬ではかぼちゃが入っているのは見たことがない。その代わり、ごぼうとか入っていたりする。ま、これは僕のおふくろの好みかも知れないけれど。

 ほうとうも、元来は家庭料理だったのが全国的に有名になって、こうしてお店で食べられるようになったんだろう。ところがお切り込みときたら、純粋家庭料理として群馬の家庭の奥にひっそりと留まったままなのだ。僕にはその点がちょっと不満だ。妻も群馬出身なので、
「お切り込みもこうやって全国的に宣伝して、レストランに進出して頑張ればいいのにな。」 勝沼-皆吉-1
とほうとうをふうふう食べながらぼそっと言った。すると妻は、
「うーん、ちょっとほうとうに比べるとキャラクターが弱いのよねえ。」
「そうかあ・・・。」

 それから再び車を走らせて、町のはずれのぶどうの丘に行った。ここでもシーズンオフの平日。閑散としているというか、町全体もそうだが、なんだか間が抜けてポワーンとしている。よく言えばのどか。まあ、いいや。休日だからこのポワーンを味わいに来たんだものな。それにしても閉まっているのじゃないでしょうね。あ、開いてた。ぶどうの丘
 ここで白ワインと赤ワインとを一本ずつ買って帰ってきた。その晩は白ワインを開けたが、勝沼産甲州葡萄100%にもかかわらず、日本ワインにありがちな変な甘さや、口の中に最後に残るエグい感じがなくて、シャルドネのような上品な味だった。


ホリエモンにがっかり
 ホリエモンことライブドア元社長堀江貴文氏の判決が下った。証券取引法違反の罪で懲役2年6ヶ月。執行猶予なし。ただし保釈金を5億円(すでに3億円払っているのであと2億円追加)積んで保釈。保釈されて早速、報道ステーションの古舘伊知郎とのインタビューに応じた。

 そのインタビューを聞いて僕は心底がっかりしたよ。とにかく自分のことばっかり言っている。株主に対しても周囲に対しても、ごめんなさいのひとこともない。
 気持ちは分からないでもないよ。いきなり強制捜査に入られて逮捕されて、会社に対しても何も処置出来ないまま今日に至っているのだから相当無念であろう。でもだからといって、俺のせいじゃないとは言えないだろうし、もはや問題は自分が無罪かどうかという個人的なことから離れて一種の社会問題に発展しているんだから、その辺のところは頭の悪いわけではないホリエモンのこと、もちっと分かっているだろうと期待していたよ。それなのにインタビューでは徹頭徹尾自分のことから意識が離れられない。こんな人間が本当に社長をやっていたのかと思うと情けないね。

 それより5億円の釈放金って、お金さえあれば有罪判決が下った罪人でも街を歩けるような拝金主義の社会も変ではないか。ホリエモンのような人間にこそ、お金があってもどうにもならないものが世の中にあるんだよと司法は教えなければならないだろう。

 彼に対して僕が一番幻滅することは、あれだけワンマンにやっていた社長が、宮内被告などの行動を全く把握していないなんてあり得ないのに、部下が自分の知らないところで勝手にやったとして自分だけは罪から免れようとしている、その卑怯さだな。
 僕には粉飾決算が悪いとかいうことは良く分からないんだ。もともと株式とか証券取引とかいうものは博打だと思っているからね。それに対する法律だって、一方で賭博を取り締まりながら、もう一方で競輪、競馬を市の重要な財源にしているのと同じで、所詮人間がここまではいいがここからは駄目と境界線を決めたものだろう。だからその点に関してホリエモンが法にひっかかったといって、僕はそれだけでは彼を悪人とは思わないんだ。

 そもそも法には人間が決めたものと神様が決めたものとの二つあるんだ。たとえば、恋人を二またかけるのは法律には違反しないけど、人間としては×とかね。僕は、粉飾決算に関しては、ホリエモンの考えが甘かったとか、運が悪かったとか、法律に無知だったとかしか思わないんだけど、彼が自分の保身のために部下を悪者にするという裏切り行為を犯したことだけは、ひとりの人間として許せないんだ。
 こういうどこまでも自分勝手な奴が、最近世の中に沢山いるような気がするね。だからそんな自己チューの人間から生まれた子供達が、容赦ないイジメを起こしているとしてもなんら不思議はない。なんとかしなければな、この社会。

JUST Suite続編 三澤家への道のり(クリックで拡大図)
 こんなに忙しいのに、僕ったら毎晩深夜に花子と戯れているのだ。花子っていろんなことさせてくれるんだ。あんなこともこんなことも・・・・。えっへん!勘違いしないでください。花子とはJUST Suiteの中に入っているグラフィック・ソフトのことですう。残念でした!え?誰も勘違いしてないって?
 プレゼン・ソフトのAGREEが目的で買ったJUST Suiteだが、なにやら花子が面白そうなので、ガイドブックに従って地図を作ってみた。僕の家に来る人のために国立駅や谷保駅あるいは府中駅からのアクセスを書いた分かり易い地図だ。
 ではちょっとだけお見せしましょう。とは言っても、僕の家のありかを完全表示してしまうと、熱狂的なファンやストーカー達が多数押しかけて、閑静な住宅街が一変し、整理のお巡りさんが出動したりして隣近所の人たちに迷惑をかけるといけないので、下の方はホームページ用に書き換えてムニャムニャムニャとなっております。

 僕の家に初めて来る人がいたら、近辺の様子を詳細に描いて、さらに矢印で「ここ」と自宅のありかをバッチシ示した“正規版地図”を画像ファイルにして送るつもりです。もうそれは完璧過ぎて自分でも怖いほどなので早く誰かに送りたいんだけど・・・・誰も来ねんだ。ちぇっ!つまんねえな。

 ストーカーでもいいから、知らせてくれれば“正規版地図”をお送りしましょうか?ねえ、みなさん!



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© HIROFUMI MISAWA