東京バロック・スコラーズは面白いぜ!

三澤洋史 

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東京バロック・スコラーズは面白いぜ!
 今日僕は、新木場駅からすぐの夢の島公園内にあるBumB(ぶんぶ)東京スポーツ文化館から帰ってきてこの原稿を書いている。そこで何をしていたかというと、9月16日の演奏会をひかえた東京バロック・スコラーズの合宿があったのだ。

バッハとパロディ
 何度も書くようで申し訳ないが、東京バロック・スコラーズは、昨年11月、バッハのロ短調ミサ曲で旗揚げ公演を行った団体だ。入団する時にオーディションがあり、バッハにおける最高レベルの演奏をめざして活動している。
 今回の演目は「バッハとパロディ」というタイトルで、僕のお話が入ったレクチャー・コンサート。ト短調の小ミサ曲をメインに据えて、その成立過程を探る。このミサ曲は主に三つのカンタータからいいとこ取りの転用をして成立しているのだが、その内の二つのカンタータを紹介し、それから最後にメインをじっくり聴いてもらうという趣向である。

 バッハはこのミサ曲を創るにあたって、まずカンタータ102番の冒頭合唱曲を、ミサ曲の冒頭Kyrie(あわれみの賛歌)に転用し、Gloria(栄光の賛歌)には、カンタータ72番の冒頭合唱をイ短調からト短調に移調して使用した。続く三つのアリアと終曲Cum Sancto Spiritu(聖霊と共に)を創るにあたっては、カンタータ187番からのアリアと冒頭合唱曲を順序を変えて使っている。

 演奏会では、まずブランデンブルグ協奏曲第三番に続いて僕のお話し。バッハの創作を語るのにパロディの問題ははずせないと語って、まずカンタータ187番を聴いてもらう。 休憩をはさんで、モテット第六番。そしてパロディの話しがいよいよ本題に入り、バッハが具体的にどのように転用、改作を行ったかに触れていく。そしてカンタータ102番を披露した後で、いよいよそうやって成立したミサ曲を演奏する。

 つまりこの演奏会では、Gloriaをのぞいては、同じ曲が二度ずつ演奏されるのだ。僕の読みが甘かったなあと思うのは、合唱団に最初にト短調ミサ曲を練習させれば、あとの曲は同じ曲だから簡単だろうと楽観視していたことだ。途中でやることがなくなってみんな飽きてしまうと困るから、別の曲でも練習しておくかなどと思っていたが、とんでもなかった。これらの曲は、同じ音楽が付いているが、同じ曲ではないのである。
 カンタータの歌詞はドイツ語。ミサ曲はラテン語。言語が違うと、同じ音楽でもかなり感じが変わる。オーバーに言えば、全く別の曲ではないかと思うほど曲想自体も変わってくるのだ。まあ、期せずして、このレクチャー・コンサートの意味合いが深まったということだ。なので、思ったよりずっと練習に時間がかかった。

 それだけに、この演奏会での聴衆の反応には興味がある。
「同じ曲ばっかり聴かされて嫌んなった。」
と言われるか、
「同じ曲でもこんな風に違って聞こえるのですね。」
と言ってもらえるか、どっちでしょうかね。

 カンタータでは、アリアの通奏低音にはチェンバロを使用する。ミサ曲はオルガン。テンポやニュアンスもさりげなく変えて、違いを強調してみるつもりだ。あえて強調しなくても、アリアは曲自体全く同じというわけではなく、例えばアルトのアリアは、カンタータ187番の方がずっとシンプルな展開をしてさっさと終わってしまう。ミサ曲では複雑な転調を繰り返し、陰影に富んだ曲となっている。長調の曲だが、最後まで短調に傾きつつ終わる。
 バスのアリアは、カンタータの方はかなり高い音域でト短調。ミサ曲では中音域を中心としたニ短調だ。完全四度も違ったら別な曲に聞こえても不思議はない。

ちょっとネタバレ
 ね、バッハのパロディはなかなか興味が尽きないでしょう。これもレクチャーで言おうと思っているのでネタバレしてしまうけれど、礒山雅(いそやま ただし)先生曰く、バッハの生前には彼の楽譜というものはほとんど出版されていなかったし、一度演奏されても次この曲がいつ演奏されるのだろうと思ったバッハは、なんとか形を変えてでも演奏される機会を一度でも多く欲しいと思い、かつての自作の中から特に気に入った曲を何度も使用したのだということだ。
 一年の内、教会暦で決められた時にしか演奏されないカンタータよりも、一年中演奏出来るミサ曲の方が可能性が高い。そこで四曲ある小ミサ曲は、どれも自分のカンタータの傑作ハイライト集となっているのではないかと礒山氏は講演会で語った。
 だから基本的には全てカンタータの方が元曲で、ミサ曲の方が後だ。Kyrieを見ると、この主題が明らかにカンタータ102番の、Herr, deine Augen sehen nach dem Glaubenというテキストから作り出されたものであることが分かるし、Cum Sancto Spirituの後半で新しい主題が出てくるところなどは、カンタータでは、新しく出てくる歌詞に対応していたのに、ミサ曲ではCum Sancto Spirituのままだ。だからこの新しい主題を作り出したバッハのモチベーションは、むしろ元曲のカンタータを見ないと分からない。

 あっ!おっとっと!しゃべりすぎてしまった。駄目駄目!今のは読まなかったことにして下さい。でも、こんな風に、ただ演奏を聴くだけでなく、皆さんの知的好奇心を存分に満たすべく、楽しくてためになるコンサートです。そしてそのためにも、肝心の演奏は最高のレベルでお届けするべく、昨日から夢の島でガシガシ、ゴシゴシ、しごきまくっていたというわけです。

 東京バロック・スコラーズは、誰も言ってくれないから自分で言うが、昨年にくらべてかなり進化を遂げている。僕も練習をつけていてどんどん乗ってくる。ただ、いわゆる整った演奏というのとはちょっと違って、ほとばしる音楽の息吹って感じなんだ。
 先日、埼玉県合唱連盟で審査員をした話を書いたが、そういったコンクール向けの演奏とは全く違うので、そっちを期待されるとちょっと困る。
「スイングがなければジャズじゃない。」
という言葉があるけれど、東京バロック・スコラーズのバッハには明らかにスイングがある。まあ皆さん、一度聴いてみてよ。

売り切れ間近!チケットはお早めに!
 次の日曜日はオケ練習及びオケ合わせ。演奏会は二週間後に迫った!チケットは大人気のため売り切れ間近だけど(本当かなあ?いや、本当ですよお!)、今ならまだ間に合うので、団員に知り合いがいたら、即買って下さい。あるいは道を行く僕をつかまえて、
「おにいさん!TBS(Tokyo Baroque Scholars)!」
と叫んで下さってもいいです。
 どうしても知り合いがいないのだけれど、どうしても欲しいという人は、とりあえず僕のホームページ管理人宛にメールしてみて下さい。

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【事務局注】上記のリンクは演奏会終了に付き終了させていただきました。2007.9.17




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