地デジが来た!

三澤洋史 

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日本電子キーボード学会
 今日(7日)は原稿が遅れた。何故かというと次の記事を書きたかったからだ。
7日の日曜日は朝から日本電子キーボード学会という団体の第3回全国大会に行ってきた。そこで何をしてきたかというと、基調講演を担当し、パネル・ディスカッションのアドヴァイザーを務めてきたのだ。

 僕の基調講演の題名はとても長い。
「電子オルガンによるオペラ、ミュージカルなど劇場音楽上演の実践と将来」
というのがメインタイトルで、その下に、
~ハイブリッド・オーケストラの可能性と問題点~
となっている。この長い題名のお陰で、とても学会らしくなったが、僕の命名ではない。

「タイトルを決めてレジメ原稿を送って下さい。」
と学会からメールが来た時は8月下旬。といえば、この「今日この頃」の常連客はよくご存じでしょうが、「ジークフリートの冒険」編曲がまさに佳境に入ったというか阿鼻叫喚というか、シッチャカメッチャカになっていた時である。
僕は、
「今どうしても手が離せないので、レジメ原稿は申し訳ないけど9月の声を聞くまで待っていただけないでしょうか。タイトルですが『ハイブリッド・オーケストラよ、どこへ行く?』なんてのどうですか?くだけすぎるかな、あはははは。」
と書いたが返事は来なかった。9月に入ってからレジメ原稿を送った時も、返事は来たが、タイトルには一切触れていなかった。
で、上記のようになったわけである。さすが学会。

 ハイブリッド・オーケストラってなんだか知っているかい?つまり電子オルガンが生楽器と共演したアンサンブルのことだよ。といえば、察しの良いみなさん。「おにころ」「ナディーヌ」「ジークフリートの冒険」「スペース・トゥーランドット」などの数々の作品でヤマハ・エレクトーンが大活躍していた事が思い浮ぶでしょう。そうなのだ。僕の音楽活動にとってハイブリッド・オーケストラは決してはずせない要素なのだ。

 僕とハイブリッド・オーケストラとの出逢いは、80年代後半にまでさかのぼる。その頃僕は、二期会でオペラの副指揮者として働いていたが、ミュージカルの仕事も時々やっていた。なんていっても、ミュージカルでは副が取れて指揮者だったからね。それにギャラも良かったので、夏には一ヶ月くらい日本全国を回るツワーに出ていた。
 全然家に帰れなかったので、その頃まだ小さかった長女の志保に、旅先から電話すると、
「パパ今度いつ来るの?」
と言う。
「うーん、まだしばらく帰れないかな。」
と答えると、
「パパ、また来てね。」
と言われてしまって、
「あちゃー!」
とかなり落ち込んだ。こんな生活、いつまでしていてはいけないなあとしみじみ思ったのも今から考えるとなつかしい。

 ええと、何の話していたっけ?あ、そうそう、その時に、まだ市場に出たばかりのデジタル・シンセサイザーと出遭ったのだ。YAMAHA DX7という初期の機種だったが、その音のパレットの多彩さに目を回した。
 それから初めて自作のミュージカルを作曲した。「おにころ」だ。「おにころ」では、弦楽5部、フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ピアノ、パーカッションという11人のアンサンブルに加えて、買ったばかりのRoland D-50というシンセサイザーを加えてみた。パーカッションでグロッケン・シュピールやシロフォンなどを使って色彩感を出す方法もミュージカルから習ったが、それと絡み合うシンセサイザーの音は、僕に未来のサウンドを感じさせた。
 それからすぐに東京室内歌劇場からエレクトーンを使ってオペラを上演する話が来た。最初は躊躇した。というのは、アンサンブルに色彩感を加えるという目的のみで電子音を使用する事と、エレクトーンでオーケストラの音を模倣してオペラを上演する事は、似て非なるものなのだ。

 結局僕は、電子楽器と共に数々の公演をこなしていくこととなるのだが、やはりクラシックの指揮者として生のオーケストラを振る立場からしてみると、いろいろ気になるところはないわけではない。今日の基調講演では、電子楽器の演奏、特に生楽器と共演した時に生じるいろいろな問題に焦点を当てて話をしてみた。

 特に問題が生じやすいところはタイミングの問題だ。生楽器というのは、みんな指揮者に合わせて弾いているつもりでも独特の間というものが存在するものだ。これを電子楽器の奏者が学習しないと、生楽器の奏者は自分たちが大切に守ってきた領域に土足で足を踏み入れられたような気がしてしまう。そして両者の間に溝が出来てしまうのだ。この問題はなかなか深刻な問題なので、時間を割いて丁寧に説明した。

 次に音色の問題。電子楽器は、スイッチ一つで何の音色でも出るのだが、奏者が今自分が出している楽器の特性を知らないと、いろいろな事が起こってくるのだ。
 一つの例を挙げよう。オーボエという楽器は、リードの都合上、音を出す時アタック音が入る。オーボエ奏者は、それが演奏上邪魔になるような時には、なるべくそれをとってレガートに演奏できるように心がけているのだが、最近のシンセ音というものの進歩は著しく、このオーボエ音のアタックが昔より強くなっているのだ。フルートもそうだ。発音する時に息の音が入る。
 シンセサイザーの音は所詮イミテーションだ。イミテーションというのは永久に本物を真似ようとする。そして時には本物よりも本物らしくなってしまうのだ。ちょうど宝塚の男役が本物の男よりもずっと男らしいように・・・・。
 で、どうなるかというと、レガートで弾こうとしてもオーボエはいちいちアタック音が入り、フルートはいちいち息の音が入ってしまって、レガートにならないのである。
 特に最近の電子楽器の音色は、ポップスやジャズなどの音楽に焦点が合わせられているので、単体では派手でカッコいい音でも、クラシックの曲の中で使う時に問題がある音が多いのだ。

 というように、いろいろな問題に触れていき、最後に、
「フレー、フレー、電子楽器!電子楽器フォーエヴァー!」
と旗を振りながら叫んで講演を終えたわけだ(嘘です!)。

 続く午後からのパネル・ディスカッションでのテーマは、
「電子オルガンの社会的認知度を高めるために」
というもので、三人のパネラー達がそれぞれの現場での報告をした後、僕が一度それを受けてコメント。その後フリー・ディスカッションとなった。あんまり期待していなかったけど(失礼)、いろんな活発な意見が出てかなり面白かった。

 電子楽器をめぐっては、まだまだ拒否感や偏見が多い。だが、
「どうして分かってくれないの?」
と文句を言っても始まらない。それが現実だから。それに、僕も生のオーケストラでオペラをやっている者の立場として、やはり電子楽器を使う側にも、安易な使い方というものがあるように思える。
 やはり、それを取り巻く人達が自然に、
「おお、こういう風にやってくれるんだったら、電子楽器もいいな。」
と言ってくれるように、地道な努力が必要なのだ。

地デジが来た!
 どうも言葉の響きがよくない。僕の耳にはどうしても「血で痔」としか聞こえない。ちょうどトリノ・オリンピックが「鳥のオリンピック」にしか聞こえなかったように・・・。 まあ、そんなことはどうでもよい。とうとう来たのだ。我が家にも文明化の嵐が・・・。
我が家では、随分前に大きなテレビが壊れてからというもの、15インチのブラウン管の小さいテレビしかなかったのだ。パソコンでは19インチの液晶ディスプレイを使っているというのにね。
しかも、しかもだよ・・・・これを言うとたいていの人は、
「ウッソー、信じられない!」
と驚くに違いない。我が家にはなんとBSも来ていなかったのだ。理由はというと、別に必要ないということと、面倒くさいという二つだけ。

 職業音楽家でしかもオペラなんかやっているのだから、BS放送を見ていないはずはないだろうとみんな思っていただろう。でも僕は普段テレビを、朝ドラと夜のニュース番組以外はほとんど見ない人だし、オペラの映像もほとんど見ないのだ。オペラはCDがあれば充分。音と楽譜とト書きやセリフなどのテキストがあれば、あとは自分の想像力で情景は組み立てられるし、それが出来ないようではアマチュアはともかく、オペラにプロとして関わる資格はないと思っている。
 ということで、見ないのにお金だけ払うのも馬鹿馬鹿しいので、地上アナログのみの生活を送っていた。いずれアナログ放送が終了すると言われたって、別にって感じで、
「じゃあギリギリまでこのテレビで我慢しようよ。」
と、むしろこの小さいテレビであとの数年を過ごすつもりでいたのだ。

 それが妻の
「わあ、BSでフランスのブルゴーニュの特集をやるわ。見たーい!」
の一言で予定変更。
「そんじゃあいっそのこと地デジ対応の新しい液晶テレビでも買うか。」
というので地デジ対応の26インチ液晶を買ったのだ。

 その時、ビック・カメラのお兄さんに言われたことは、
「地デジ用のアンテナをつけなければ地デジは見れません。そのアンテナはお客さんに新しく買っていただかなければなりません。地デジは東京タワーから送られた電波のみを受信するので、アナログで見れたものが必ず見れるとは限りません。それで、お宅の電波状況とかを調べるために一度お邪魔して見積もりをしなければならないので、お電話させてください。いつがいいですか?」
ということなので、明日月曜日に電話が来る事になっている。

 ところが・・・ところがなのだ・・・・テレビをつないでみたら、なんと地デジが映っているではないか。しかもかなり良い映像で!!
 僕の家は約9年半前に買った建て売りだ。そのアンテナが地デジに対応していたというわけだ。さらに、余った古いテレビは、娘の志保が大喜びで自分の部屋に持って行ったのだが、娘の部屋のアンテナ差し込み口に入れたらば、これもとても良い映像で映っているのだ。こっちは地上アナログだ。つまり両方しっかり見れるのだね。もう見積もりに来てもらわなくてもよくなっちゃった。

 ただ問題がひとつある。BS用のアンテナは買ってきてしまって家に置いてあるのだ。説明書を読むと、なんだか自分でつけられるようなことが書いてある。でも、やっぱり工事した方が良いよね。だって配線がそのまま窓が閉められないような状態になってずっと階段を伝わって下の部屋に入るドアも配線で閉められなくなってなんて嫌だよね。読者のみなさん!BSアンテナって、自分でつないだ?
まあ、いいや。なんとかなるよ。来週あたりはBSの話でも書くかもね。え?BSなんて今さら珍しくもなんともないので書くなって?
 それより、妻のフランス特集は、結局まだBSにつないでいないので見れませんでした。あれえ、何のためにテレビを新調したんだっけ?

フリードリヒに会いに行く
 明日月曜日の10月8日は、新国立劇場では14:00から「タンホイザー」の初日。一方、ベルリン国立歌劇場では、横浜の神奈川県民ホールで15:00から「トリスタンとイゾルデ」の初日。まったくベルリン国立歌劇場を呼んだNBSは、意図的にほぼ全ての公演を同じ日にぶつけてきた。
 それは直接僕には関係のない事だし、そのことで僕が損するわけでもないのでどっちでもいいのです。僕はいよいよ明日、ベルリン国立歌劇場の合唱指揮者であって、バイロイト音楽祭合唱団の合唱指揮者でもあるフリードリヒに久しぶりに会う。

 「トリスタンとイゾルデ」は何時間もかかるワーグナーの大作だけれど、合唱は、第一幕だけ、それも男声合唱だけなのだ。それなので、合唱団は15:00に始まっても16:00過ぎには終わってしまうのを見越して、なんとその後17:00-19:00というスケジュールで「モーゼとアロン」の音楽稽古をするという。
 それから泊まっているホテルに戻ってきて、僕と20:00に会う約束だ。僕は「タンホイザー」初日終了後、新国立劇場を後にしてホテルに向かう。フリードリヒは奥さんと上の娘さんを連れてきているという。楽しみだな。久しぶりの再会に話もつきないだろう。



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