6月24日月曜日
11時より待ちに待った塚本恭子先生の水泳レッスン(後半に記述)。興奮冷めやらぬ中、初台に向かい、2時より新国立劇場で高校生の為の鑑賞教室「愛の妙薬」合唱音楽練習。
その後神保町に出てVICTORIAや石井スポーツなどのスポーツ用品店をひやかし、そのまま坂を登って御茶ノ水駅で妻と待ち合わせ。今晩は、6時から、バイロイトに住んでいるWinter和子さんと元バイロイト大学教授のディーター・クラインと一緒にお食事。
お茶の水にはWinter和子さんのお母さんの所有するマンションがある。お母さんが亡くなった後、そのマンションの相続や売買の件で彼女は時々日本に来る。たいていディーターも一緒について来る。坂の上に建ち、8階の窓からは、明治大学や神保町方面が一望の下に見渡せる素晴らしい眺め。
でも、ここを売って、同じマンション内の半分くらいの大きさの部屋に移るという。ディーターは、ここを半分セカンドハウスのように考えているので、「狭くなる」とか「眺めが悪くなるとか」ブウブウ言っている。
彼らがドイツから持ってきてくれたフランケン・ワインを開け、僕達はソーセージなどのドイツ料理に舌鼓を打つ。4人の屈託のないドイツ語会話は夜半まで続いた。
25日火曜日
夜から新国立劇場で「夜叉ヶ池」初日。午後にプールに行こうとしたら、突然雷が鳴って雨がザーザー降ってきたので、その日の水泳は断念。「夜叉ヶ池」初日は大成功。邦人作品の新作オペラにしては実に珍しい現象だ。あんな風に聴衆に即座に受け容れられ喜ばれたことに、僕は大きな感動を覚えた。そこで作曲家の香月修(かつき おさむ)氏に言った。
「このように、きちんと現代の聴衆に受け容れてもらえるような作品を創り出す事こそ、我々の使命です。今の日本が一番必要としている事です。芸術が、まだ人々に求められ、我々が生きる場所を持っているという証です。良い作品を作ってくれてありがとうございました。おめでとうございます!」
終了後、初日パーティー。公演大成功に一同大いに盛り上がる。いつもはあまり来ない東フィルのメンバーが沢山来ていたのが嬉しかった。合唱団のメンバーとも楽しい歓談。ビールとワインが進んだ。
26日水曜日
朝9時。府中生涯学習センターに泳ぎに行く。一時間ほど泳いでコーヒー・タイムまでに家に帰ってくる。午後2時。「パルジファル」のクリングゾル役の大森いちえいさんと、クンドリ役の清水華澄さんが家に来てコレペティ稽古をする。清水さんの声があまりにでかいので妻が驚く。大森さんは日野に住んでいて、清水さんは立川の芝崎体育館のすぐ近くに住んでいるから、新国立劇場とかで練習するより家に来てもらった方がいいのだ。でも、午後には雨が降っていたので、バイクで来た大森さんには気の毒であった。
夜は「夜叉ヶ池」2日目公演。終了後、アシスタント・コンダクターの根本卓也(ねもと たくや)君他2名と一緒に、初台のちょっと「隠れ家」的なワインバーに行く。ここのマスターは、ちょっととっつきにくいけれど、ワインのチョイスは素晴らしい。一番気に入った赤ワインは、なんとインドのワインであった。味は一級のフランス・ワインと変わらない。なんでもラベルを隠して出した品評会で賞を取ったワインとのこと。
27日木曜日
今日は久し振りのオフ。午前中いっぱいかけて東京バロック・スコラーズで先日録音したモテットのラフ・ミックスを最初から丁寧に聴いた。それから、ミキサーの土肥昌史(どい まさし)さんに、全体の録音コンセプトや各箇所の定位やバランスなどについてコメントのメールを送る。やっぱり土肥さんに頼んで良かった!録音した時は、プレイバックを聴きながら、果たしてこのCDは売り物になるんかいな、と半信半疑だったが、その後の処理が適切で、結構良いものに仕上がる予想。
午後は、府中の生涯学習センターに泳ぎに行く。今日は、いろいろエクササイズをしながら1時間半くらい泳ぐ。途中結構ガッツリ泳ぐ瞬間があったし、なんだかんだで2000メートルくらい泳いだだろうな。
それから、マウンテンバイクに乗って、国立市を通り越して立川まで行き、南口のドトールでコーヒーを飲みながらモンブランを食べちゃった。そして、立川駅を横切って、ビック・カメラでプリンタのインクや紙などを買ってから、街をちょっとブラブラし、石井スポーツなどを冷やかすが、買い物は特になし。
今日から、長女志保の夫であるトミーノ(河原義君)が、佐渡裕さんの指揮する兵庫芸術劇場の「セヴィリアの理髪師」で長期出張に出た。ピアニストだけではなく、スタッフのイタリア人を関西空港に迎えに行って、公演準備中もずっと通訳も兼ねるという。便利な奴だ。
ということで、志保はお嫁に行ったのも束の間、しばらく我が家に里帰りする。さらに妻が今夜コンサートに行って家にいないというので、夕飯は久し振りに志保とふたりで国立駅周辺のピザ屋さんPIZZETTOに行く。
PIZZETTOに行くと、僕は最初には大抵、ミラノに行っていた時に毎晩飲んでいたMorettiというビールを飲む。これがなつかしいし、うまいんだなあ。つわりが直った志保は、プロセッコ(イタリアの発砲ワイン)を頼んだが、一晩かけてグラスでちびりちびり飲んだだけ。以前は、ふたりで赤ワインをボトルで軽く飲み干し、まだ足らずにレモンチェーロなどを飲んでいたものだったが、ほう、変われば変わるものですなあ。それに、お腹がポッコリ出てきてだんだん妊婦らしくなってきた。
ここの前菜の盛り合わせは絶品。中身はその日によって微妙に違うが、今晩はちっちゃいタコのトマト煮がことのほかおいしかった。それからニョッキ(じゃがいもだんご)やピザと進んでいく。僕はハウスワインをカラフで飲む。志保が手伝ってくれないので、ひとりでみんな・・・・ヤベエ、今週はワイン飲み過ぎじゃね?
28日金曜日
10時からイタリア語のレッスン。11時過ぎに家に帰って来て、午後にまた生涯学習センターに泳ぎに行って、夜から「夜叉ヶ池」だとのんびり思っていたら、志保が突然叫びだした。
「パパ!大変だよ。今日の『夜叉ヶ池』2時からだよ!」
「嘘!マジ?」
「嘉松(かまつ)さん(新国立劇場合唱団テノール団員嘉松芳樹さん)が、Face Bookに、みんなが間違えないように書き込んでくれたんだ。今日2時からだよって」
「おおっ、なんと親切な奴。それより、ヤベエ!平日なので夜公演だと信じて疑わなかった。しかも泳いでいたら、携帯にも出ないしな」
ということで、劇場に行ってから男性楽屋に入り、嘉松さんにお礼を言った。
「おはよう、実は嘉松さんにお礼を言おうと思って・・・・」
と切り出したら、予想もしない答えが返ってきた。
「やっぱり、三澤さんもUFO見ましたか?」
一同、大爆笑!
これにはわけがある。水曜日、大森さんが家に「パルジファル」の合わせに来た時、「東八道路の先の國學院大学付属久我山幼稚園あたりの道は、歩道がなくなって嫌だね」という話を大森さんとしていたら、彼が、
「あそこUFOが出ますよ。ある時、嘉松君とふたりでバイクで帰っている最中、ちょうど幼稚園の前の信号で僕達は見たんです。中空で止まってバチバチバチッと光を放った後、いきなりもの凄いスピードでビューンと去って行きました」
というので、その後劇場に行った時に嘉松さんとその話をした。楽屋にいた合唱団みんなも耳をそばだてて聞いていた。そして最後に僕は嘉松さんに言ったのだ。
「そうかあ、UFO見れるんじゃ、僕もまたあそこの道を通ってみようかな」
だからお礼を言いに行った時に、彼は、僕が彼の忠告を聞いて久我山幼稚園の道を通ってUFOを見たと勘違いしたわけである。一部始終を一緒に聞いていた合唱団員も大いにウケた。
しかしまあ、笑っている場合ではないなあ。本当に嘉松さんがFace Bookに書かなかったら、一体どうなっていたか。考えると今でも冷や汗が出てくる。しかも志保がたまたま家に帰っていたのもラッキーだった。こんな偶然を喜んでいないで、これからは毎日心してきちんと予定表を見よう。
その日は、「夜叉ヶ池」が終わった後、練習室で「パルジファル」のピアノ・スコアを一時間半ほど練習してから、またまた府中生涯学習センターでひと泳ぎしてから家に帰る。
29日土曜日
新国立劇場「夜叉ヶ池」4日目の公演の後、志木第九の会に行った。ヴォイス・トレーナーの初鹿野剛(はつかの たけし)君が、先日の東京バロック・スコラーズの時と同様、パルジファルTシャツを着てきた。僕は今日は忘れて着ていかなかった。
「先生、着てこなければだめじゃないですか」
と言われてしまった。
ところが、このTシャツ。初鹿野君を合唱団の前に立たせて、あらためて僕の似顔絵を見せると、団員達の表情がみるみる変わり、注文が殺到して、帰り際にはなんと50着にもなった。新町歌劇団からも35着もの注文が来ている。これって、大人気商品じゃないの!
30日日曜日
「夜叉ヶ池」千穐楽(せんしゅうらく)。今日は超満員。達成感と共に、なんとなく名残惜しい気持ちで劇場を後にした。「ピーター・グライムズ」から始まった今シーズンでは、合唱団の活躍もパブリシティを得たし、「タンホイザー」「アイーダ」「ナブッコ」などの大きな演目が並んで大変だった一方、やり甲斐もあって、充実したシーズンであった。まだ高校生の為の鑑賞教室「愛の妙薬」が残っていて、明日から休む間もなく立ち稽古だが、重なり合う公演の準備を平行して行う時期は過ぎ去った。
背広の入ったケースを持って一度家に帰り、一休みしてからあらためてまた府中方面にマウンテンバイクを走らせ、生涯学習センター・プールに行く。今週はよく泳いだ。こんな泳ぐのなら、指揮者だったらプール付きの家を持つべきだな。プールサイドにカクテルなんか置いておいてね。うふふふふ・・・・。
なんちゃって!理想と現実との間には避けがたいギャップが・・・・日曜日の夕方なのでプールは家族連れなどで芋洗い状態。僕はユルユルでいろんなエクササイズをやることに決めた。「夜叉ヶ池」の音楽がまだ頭に響いている。演奏会の後のゆったりスイミングって最高!
トータル・イマージョンのレッスン
新国立劇場「ナブッコ」公演の指揮者として来日していたパオロ・カリニャーニが「世界で一番素晴らしい教師」と絶賛する塚本恭子(つかもと きょうこ)さんのレッスンを、26日月曜日に受けた。塚本先生は、かつてトータル・イマージョン(以下TIと書く)の中心的トレーナーであったが、今は実家のある群馬に帰っていて、TIの組織からは抜けている。なので、彼女にレッスンをしてもらいたいなら、個人レッスンという形になる。