秋だ!第九を勉強しよう

三澤洋史 

「自由への希求」演奏会無事終了
 「パルジファル」演奏会が終わった時、夏が終わったかのような気になったが、9月15日日曜日、群馬県高崎市新町文化ホールでの演奏会「自由への希求」が終わってみたら、僕の夏は、実はここまで引き延ばされていたんだなと気が付いた。
 というのは、僕にとっても、今年はワーグナー・イヤーだけではなくヴェルディ・ワーグナー・イヤーだったのだ。自分がこの2013年に学ぶべき課題は、ワーグナーをより深く知るのみならず、ワーグナーとヴェルディというオペラ界の二大巨人に双方関わることによって得られる見識にあったように思われる。
 とはいえ、この二人の巨匠はあまりにも違いすぎる。だから先日の京都ヴェルディ協会の講演会でも、下手に共通性を探そうとしてもうまくいくはずはないので、「WにあってVにないもの」「VにあってWにないもの」という風に、むしろ互いの違いにフォーカスをあてて説明した。
 でも、「パルジファル」と「ヴェルディ」を並べて公演したのは自分にとってとても良かったのだ。なんというか、自分の心の中で両方の要素を求めていることを発見したし、両方を演奏する事は、自分の心のバランスを計ることにつながるのである。

 昨晩、大森いちえいさんと田中誠さんの歌う「ドン・カルロ」の「友情の二重唱」と「ロドリーゴのアリア」を演奏しながら強く思った。このような熱い男の友情はヴェルディ以外誰も表現出来ないであろう。ヴェルディは、こうした“関わりの中での人間存在”を探ろうとするオペラ作家なのだ。
 一方、ワーグナーは常に個人的だ。救済への希求も愛も欲望も・・・。パルジファルは確かにクンドリの接吻によって自らの使命に目覚めるのであろうが、クンドリ自身の内面に深く関わっているわけではなく、接吻はパルジファルの個人的な覚醒へのきっかけにすぎない。
 タンホイザーはエリーザベトの清純さも欲しがり、ヴェーヌスのエロチシズムも求めるエゴイスティックな奴である。それで救われるんだから実にいいとこ取りな人生だ。トリスタンとイゾルデの間には友情は成立しない。それぞれが自分の愛慾に突き動かされているだけのエロチック・アニマルである。
 それに比べると、ヴェルディはやさしい人間だなあ。彼は常に世の中の弱者に対して暖かい目をさしのべる。彼は常に描き続ける。社会の、マイノリティに向けられた冷たい態度によって引き裂かれる愛する者達の運命を。
 リゴレットは醜い道化ということで、ヴィオレッタはドゥミ・モンドということで、ドン・アルヴァーロはインカ帝国の末裔だということで。そしてシェークスピアの「オセロ」の悲劇は、ヴェルディの「オテッロ」においては、彼がムーア人だということからくるコンプレックスから誘発されている。
 僕は思う。世界はワーグナーという孤高の高みと、ヴェルディという低きものへのまなざしの両方を必要としたのだ、と。だから、この二人が同じ年(1813年)に生まれたのは偶然ではないのだ。

 さて、演奏会は、前半ヴェルディ、後半カルメン・ハイライトというバラエティに富んだ構成ながら、「自由への希求」というモットーに乗っ取って集中し、ひとつの凝縮された表現として仕上がった。
 ソリスト達は、それぞれの持ち味を充分に発揮した。豊かな声量ときめ細かな表現の河合美紀さん、ミカエラのアリアで、清純ながらも芯の強いところを見せてくれた内田もと海さん、剛に柔にオールマイティで常に心に染みいる歌唱を聴かせてくれる田中誠さん、そして、ここまでカッコ良くエスカミーリョを歌う人材はいないだろうと思わせる大森いちえいさん。Bravi tutti !
 新町歌劇団も大健闘。特に今回は、僕の後輩の高崎高校合唱部のメンバーが数人加わって男声がきちんと聞こえたので、とても安定したハーモニーになったよ。高々生は、最初は、
「前半のヴェルディだけでいいからね」
ということで誘っておきながら、ズルズルとカルメンまで無理矢理暗譜させたのはまるで悪徳キャッチ・セールスみたいだけれど、まあお陰で楽しめただろう。悪く思わないでくれたまえ!
 それから、安中少年少女合唱団の友情出演ありがとう!カルメンが彩り豊かになりました。指導して織田修一先生にも感謝します。織田先生も高崎高校合唱部の先輩でした。
みんな、みんな、本当にありがとう!

さあ、明日から、マジどうやって生きていこう?

秋だ!第九を勉強しよう
 実はもっと早く紹介しようと思ってはいたが、「パルジファル」や京都ヴェルディ協会講演会、あるいは新町の演奏会などの準備に追われてしまっていた。以前この欄でもちらっと触れていたヤマハのオンライン・レッスンがリリースされている。自分で言うのもなんだけど、これはとても良く出来ている。年末にどこかの合唱団で第九を歌う人が、音取りから始まって自習するのにぴったり。だから、いいわけがましいが、今頃宣伝するのが一番タイムリーかも知れない。
 なにせ歌っているのは新国立劇場合唱団だ。たとえばテノール・パートだけOFFにしてテノール・パートの練習をするのもよし、合唱団をバックにソロの練習をするのもアリだ。演奏には僕の指揮する映像が映っているので、指揮を見て歌う練習にもなる。テンポをキープするのが難しかったらクリック音をつけて練習すれば簡単だ。速くて難しい個所では速度を落とすことも出来る。ところどころ注意書きがあって、クリックすると僕がポイントを説明している。
 発音に関しては、ケルン歌劇場に長年勤めていてバイロイト祝祭劇場合唱団にも属していたソプラノ歌手の井垣朋子さんが、別ウインドウで丁寧に発音指導している。また第九に関するうんちくのコーナーがあって、僕が様々なポイントからうんちくを述べている。このうんちくは毎月新しく更新して増えている。
 自画自賛ついでに言うとこの企画は僕だから出来たのだ。これがどれだけ複雑か説明しよう。まず僕は、既存のピアノスコアではなく、僕のオリジナルのピアノ用アレンジ譜を譜面作成ソフトFinaleで作成する。これに一番時間がかかった。リタルダンドもアッチェレランドも含めて、それを全て自分の納得のいくテンポで仕上げておかないと、後で後悔するからだ。出来上がると、それをMIDIファイルにして録音のミキサーに送る。そして録音が始まる。
 録音は、伴奏ピアニストの志保が一同に先駆けて行った。MIDIファイルのクリック音を聴き、僕の指揮を見ながら、テンポチェンジを全てクリアして弾くのは容易ではない。さらにオーケストレーションがこみ入っている個所では、僕が2台ピアノのためにアレンジしたから、一度録音した自分のピアノに合わせてもう一度重ね録りしなければならない。2台ピアノって、合わせるのシビアなんだね。ちょっとでもズレるとすぐ分かってしまうので、案外時間かかったのだ。
 さて、その志保のピアノに合わせて、イヤホーンした40人の新国立劇場合唱団員が録音を行った。最初全員で集まって音楽稽古をしたが、その後、録音はパート別に行った。マイナス・ワンや、逆にそのパートだけ抜き出して聴くためである。
 それを滞りなく行ってから、後日、その演奏に合わせて僕の指揮の録画が行われた。通常は、僕の指揮に合わせて一度に行うことを、こんな風にバラバラにしかも順番が逆だったりするのは、ひとえにレッスンがスムーズに行えるようとの配慮である。それでいながら、演奏として聴いた時に自然で説得力を持ったものとして成立させるためには、僕の音楽的方向性がMIDI作成時から一貫していないといけなかったわけである。
 でも、仕上がったものをお客の立場に立って試してみて思った。
「これは、これまでにない、画期的なコンテンツだぞ!」

 第九を勉強している皆さん。是非試してみて下さい。あるいは、これから第九を歌ってみたいなと思っている方にも、これは格好の入門となります。合唱団の中で練習する前や合間の自習には、これ以上のものはないでしょう。パソコンがあればOK。i-Padでも勿論使用可。
 ただし有料です。3ヶ月で\3150かかりますが、やってみて損したと思う人はいないと思います。
講座全体の紹介ホームページは以下のアドレス。
http://musiclesson.jp/sym9/
YAMAHAアーカイブ情報(事務局調べ)

まずどんなものか動画で見てみたい人は以下のアドレス。
http://musiclesson.jp/sym9/outline/


 このホームページ経由で申し込むと、学習するページにアクセスするためのパスワードがそれぞれに与えられます。それでオンラインで勉強するわけです。残念ながらコンテンツ自体をダウンロードすることは出来ません。
 それと、これを動作させるためにはInternet ExplorerではなくGoogle Chromeというブラウザ・ソフトが必要です。Google Chromeは、Internet Explorerよりサクサクと動くので、You Tubeなど見るのに適しているブラウザ・ソフトで、無料ですぐインストール可能。
http://www.google.com/intl/ja/chrome/browser/
ただし、上記のお試し動画を見たり申し込みしたりするのは、どのブラウザでも大丈夫です。

さあ、この秋は第九を勉強しよう!

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