ニセコの熱い日々
申し訳ございません!今週の「今日この頃」は、北海道ニセコのスキーの記事だけです。スキーに興味のない方は、怒ってページを閉じていただいてもいいです。って、ゆーか、この記事って、一体誰が読むんだ?まあ、僕の個人的なホームページなんだから、僕が何を書こうが勝手だろう、という考え方もあるんだが、そうは言っても、読者あってのわたくしでもあるし、まあ、スキーの記事ではあるけれど、それなりに読者サービスも文章の中でしているので、読むことにやぶさかではない方は、どうぞ先をお読み下さい。
喉が痛い
2月12日木曜日の深夜。ザ・グリーンリーフ・ニセコビレッジに着いた時はクタクタであった。その日は朝からイタリア語のレッスン。午後、新国立劇場で「運命の力」の合唱音楽練習をした後、急いで羽田に向かい、19:00の札幌行きの飛行機に乗り、それからニセコ行きのバスに乗ってここまで来た。
体は疲れているのだが、気持ちは興奮していて、とてもすぐ眠れる感じではない。そこで、自動販売機に行って缶ビールとツマミを買って1時半頃までダラダラと起きていた。
2月13日金曜日明け方近く、喉が痛くて起きた。ゲッ、ヤバイ!と思った。部屋の中がめちゃめちゃ乾燥しているのだ。でも暖房を消すわけにもいかない。それどころか暖房の温度を上げた。なにせ喉の痛みと共に寒さを覚えて起きたのだから。そうして部屋はますます乾燥していく。どうしようかと思っている内に朝が来た。僕は普段よりずっと遅くまでベッドから離れられなかった。
僕のニセコの日々はこんな風に始まった。いつもだったらリフトが動き出すやいなや、
「それっ!」
という感じで飛び出していくのだが、体がぐったりしていて行く気が起きない。こんなことは初めてである。そういえば、この一週間ほど、とても忙しかったのだ。平行して新町第一小学校の講演会の準備もあったし・・・そういえば、新町の小学生達は、とっても素直で僕のお話を良く聞いてくれた。みんなありがとう!
さてニセコに話を戻す。困ったな。健康な時でさえ、スキーってとても体力を使うのに、こんな状態では・・・・しかし、せっかく万難を排してここまで来たのだ。滑らねば!で、重い体を起こし、9時過ぎから準備を始めて、10時くらいから滑り始めた。喉はずっと痛い。でも、滑り始めたら体はなんとかついてくる。
ニセコを滑る
ニセコを滑る
ニセコはひとつの山がまるごと滑れる夢のようなスキー場であるが、ニセコ・アンヌプリ国際スキー場、ニセコ・ビレッジスキーリゾート、ニセコグラン・ヒラフ、ニセコHANAZONOリゾートと4つのスキー場に分かれている。ホテルの前に広がるニセコ・ビレッジは、ふもとはなだらかだが、上にいくに従って急斜面となり、結構上級者向けだ。
ビレッジのゲレンデには、「じゃがいも」とか「みそしる」とか「ばんざい」とか、普通のゲレンデでは考えられないような変な名前がついている。隣のアンヌプリなんか「白樺コース」や「ユートピアコース」や「パラダイスコース」などの、ありがちだけれど素敵な名前がついているのに・・・・。
特に名前がついていないのにすごく良いコースを発見した。次の日に伊藤さん(後で記述)に聞いたところによると、ここは流れる沢が凍り、その上に雪が降り積もった場所だという。雨どいのような両端が高くなったU字型のゲレンデが、くねりながら下まで続いている。そこに自然コブが沢山出来ている。コブも楽しいけれど、端に行くと体が斜めになるのがとても楽しい。よくスケート・ボードの大会とか、こういうU字型の場所でやってるじゃない。あんな気分。ジャンプはしないけどさ。僕はここをU字谷と呼ぶ。
沢のU字谷
新雪レッスン!
2月14日土曜日。伊藤俊輔さんのレッスン。伊藤さんは、親友の角皆優人(つのかい まさひと)君が、HAKUBA47に日本で初めてフリー・スタイルスキー専門の学校を作るというので呼ばれて、モーグルのインストラクターとして働いていたという経歴の持ち主である。長野オリンピックの頃である。現在では、スキー・レッスンもしているが、新雪のガイドを務めたり、スキーの写真を撮ったりするのを仕事にしている。やや大柄であるが太ってはなく、初対面は静かでとても優しい人だという印象である。
さて、僕は生まれて初めて新雪用の幅の広いファット・スキーなるものをレンタルし、いよいよ新雪に繰り出してレッスン開始となった。ところがレッスン開始の時には、山頂付近が強風のため、ゴンドラが動いていない。なので、最初は下の方のゲレンデの横にある処女雪に入って、基本的な滑り方を習う。しかし、これだけでも僕にとっては新鮮な体験。
僕には新雪の体験がないわけではない。けれど、ある深さ以上のいわゆる深雪になると、よく分かっていないというのが正直なところだ。最初このファット・スキーを履いて普通の整地を滑ってみた時には、特に大きな違いを感じなかったが、新雪に入ると明らかに違う。ターンをするとフワッと雪が板を包み込み、それからフワッと浮かせてくれるのだ。 それを生かすためには、あまり板を不自然に回し込んで深回りしてはいけない。伊藤さん曰く、極端に言えば、直滑降しながら左右にちょっと振るくらいの縦長のターンをしながら、雪と板とが作り出す上下動に体を合わせていけばいいのだという。
どうも僕は最近コブばっか滑っているから、板を回しすぎて何度か失敗したが、だんだん分かってきた。フワッ、フワッ、この上下動は気持ちいいぞ!フワッ、フワッ、フワッ、フワッ、うわあ、これはやみつきになりそう!
とやっている内にゴンドラが動き始めた。頂上に向かって行くが、ゴンドラの終着駅からさらに本当の山頂に向かうリフトは残念ながら動いていない。って、ゆーか、そうじゃなくても強風でゴンドラが揺れる揺れる!ロープから離れてどこかへ飛んでいってしまいそう。
山頂の寒々とした風景
グランヒラフの素晴らしいゲレンデ
さて、レッスンの後、まだ板を借りていたので、その板でまた二度ほど滑ってからお昼にした。今度は2500円のカツカレーを食べた。おまけに鶏の唐揚げが二個もついてきた。そんなものいらねえからもっと安くしろっつーの!
グランヒラフ
ゴンドラが動かない!
2月15日日曜日
喉が痛いのが取れない。これは、この部屋にいる限り治らないような気がする。でも、体調はこれ以上悪くはならないようだし、昨日もスキーをしている最中には気にならなかったし、結果として目的は達成できているんだからいいか。
その代わり、それ以外のことが犠牲になっている。たとえば、本当言うと・・・マーラーの第2番交響曲「復活」の勉強を、このニセコ滞在の間に始めようと思ってスコアを持ってきたのだ。浮き世から離れて白銀の世界に閉じ込められて、なにかインスピレーションが湧くかと期待したのであるが・・・・全く開いてない!まあ「復活」は、やったことはないのだが、昔ハマッて一生懸命勉強したので、譜面を見れば明日にでも振れるとは思うのだが・・・そういうことではなくてねえ・・・。
喉の痛みのお陰で、いろんなことが後回しになっているが、何故かこの原稿だけは書いているんだ。これはねえ、天からの自動手記みたいなもので、しゃべるような速度で手が勝手に動くのだ(嘘ばっかり!)。
喉が痛くていいこともあるよ。喉が痛くなかった最初の晩だけは、ビール500ml一缶飲んだけど、金曜の晩も土曜の晩も、夕飯バイキングで一滴もお酒を飲んでいない!うっそ!まじ?一体どーしちゃったの?どーして僕ちゃん飲まないの?どーして僕ちゃん飲まないの?どわっはっはっはーーー、妖怪のせいなのね、そうなのね・・・ということで全然お金遣わないんだ。いやあ、酒代ってかかるもんなのだね。
みそしると白樺林
白樺の林
最終日
2月16日月曜日
昨夜、売店をくまなく探したら、片隅でマスクを見つけたので、買ってきてマスクを濡らしてかけて寝た。そしたら朝起きたら喉が痛くない。なんだ、最初からそうすれば良かった。でも、この売店、なんにも生活用品を置いていないので、長期滞在者は不便しているだろうな。
さて、ホテルのガイド本には、「11時のチェックアウト・タイムを相談の上延長出来る場合があります」と書いてあるので、フロントで聞いたら、今は満席なので駄目なんだって。そうすると、チェックアウト・タイムまでに滑るのを終えないと、とっても面倒くさいことになる。
徹底的にリゾート化をはかるこのホテルでは、宿泊客以外のためのロッカーがないのだ。着替えはみんなお部屋でするので、チェックアウト以降はロッカーも更衣室もなくなる。つまりその意味で、ニセコビレッジとは、ほとんどグリーンリーフとヒルトンの宿泊者のための専用ゲレンデというわけである。
みそしる下部とホテル
スキーの王道
転ぶほどでなくてもバランスを崩す時がある。どうしてだろうなと考える。理由はいつも決まっている。ふたつのポイントのどちらか、あるいは両方がブレるからだ。そのふたつのポイントとは外向外傾の徹底と外足加重の徹底だ。
コブを滑る時には、板がどんなに横向きになっても上体は常にフォールラインを向いていなければならない。これが外向外傾(外向傾)の徹底。これは「言うは易し行うは難し」だ。何かに気を取られると、すぐに上体が進行方向を向いてしまう。そうすると、板が走ってズラしが甘くなり、シュプールが横に流れる。まあ、横に流れてもいいのだけれど、下に向かって直線的に滑るあのカッコいいモーグルのような滑りから離れることは必至だ。
だから、時にはまるで雑巾を絞るように、
「くーっ、ねじれるうううう!」
って感じで上体と下半身とで超くの字を作りながら、カカトでターン弧の外側に向かって箒で掃くように雪を掃く。こうすればまっすぐ下に滑りながらスピード・コントロールも意のままだ。
僕は、これを角皆優人君から習って、すぐに出来たので不思議に思っていた。体が覚えているのだ。なんでだろうと考えて思い出した!以前コア・リズムをやっていたお陰なのだ。「しぼっって、しぼって!」という感じで、ウェストを絞るためにさんざやったのだ。だからオフシーズンにはまたコア・リズムを復活させようかと思っている。
それと密接に関連して、徹底した外足加重だ。外足(谷側の足)だけで片足で滑れるくらい、つまり100パーセント外足すなわち谷側の足に乗ると思ってないといけない。お風呂などに入って右足がツルッと滑ると、あなたはとっさに「おっとっと」と左足を出してバランス取ろうとするだろう。それが人間の自然な行為なのだが、コブではそれが許されないのだ。
何故ならコブ斜面の形状は、とても複雑で、少しでも山側の足に乗ると右足と左足とで高さも角度もバラバラになってふたつの板があらぬ方向に行ってしまうからだ。だからバランスを崩してもあなたは山側に乗らないように片足で踏ん張らないといけない。よいか、何があっても耐えるのじゃ。
「くくく、・・・とうちゃん!」
「飛雄馬よ、耐えるのじゃ!」
それに付随して、山側の足は、重心はかけないけれど、なるべくスキー板同士がくっつくくらい足を閉じながら(閉じれば閉じるほど両足の差違が少ないのです)、きめ細かく谷側の足が曲がっていく方向に従うこと。これも油断していると、いつの間にかキュインと回り込んだ外足に乗っかられて、目の前でふたつの板がX字に交差しちゃう。乗っかった方が外足だから重心がかかっているのではずせないんだ。こんな時だけは逆に、一時的に山側の足に乗らないとにっちもさっちもいかないんだが、人間というものは、こんな時ばかりおりこうに外足加重をし続けるんだよ。バッカだねえ。もう転倒して思い知るがいいわ。うわっはっはっは!ああ、オレのことか・・・。
それを避けるためには、内足には徹底した外足への服従が求められるのだ。外足の来る方向をいちはやく予感して、滅私奉公的に角度を合わせるべし。なに、屈辱的に感じる必要はないぞ!ターンした先は、今度は君が殿様なのだからね。
「それ、頭が高い!」
と、好きなだけ威張れ!
何度も何度も繰りかえし滑って、ゲレンデの状態や自分のチャレンジ精神や逆に気後れなどでいろんな問題が噴出してきても、結局はこの2点を解決すればほぼ全て難問題をスルスルッと解くようにうまくいく。
こうやって考えてくると、この外向外傾と外足加重のふたつこそが、コブのみならずスキーそのものの王道であると確信するに至る。つまり、コブを滑るテクニックというのは、すなわちスキーが上手になるためのテクニックに他ならない。整地では、外向傾や外足加重を徹底させなくても転ぶような事態にならないだけの話だ。
ありがとう!
滑り終わるとき、「みそしる」に感謝した。ありがとう「みそしる」!君のお陰で充実した日々を送れた。ありがとうニセコビレッジ!ありがとうグリーンリーフのみなさん!ありがとう神様!こんな風に感謝を捧げていたらウルッときた。いいなあ、ウルッとくる人生って。
羊蹄山
行きのバスは深夜だったのでなにも見えなかったけれど、帰りのバスからニセコ・アンヌプリの全容が見えた。うーん、なんとなくしまらない山・・・。本当はその向かいに羊蹄山があって、ゲレンデでは羊蹄山を眺めながら滑るのがウリなのだが、これも残念ながら一度も見ることが出来なかった。
アンヌプリ全景