ミサ曲完成

三澤洋史 

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杏樹の贈り物
 夜、仕事から帰ってきたら、赤い封筒がテーブルの上に置いてある。妻が、
「これ、杏樹からジージにプレゼントだって」
という。そうっとテープをはがして開けてみると、
中には星形のクッキーが入っていた。その封筒の裏に人の姿が描いてある。
「これ、ジージなんですって」
「あはははは!この下のコロコロしたものは字のつもりか」
そのまま封筒をもう一度閉じて、テープを戻しておいた。

 次の朝、杏樹が降りてきて、
「ジージ、開けてみて!」
というので、知らないふりをして開けた。
「これ、ジージだよ、似てるでしょ」
「そうかあ?そういえば、これなあに?」
向かって右側の手の平がやたら大きくて、その中に筋が書いてある。
すると杏樹は、僕の手を持って、手の平の中の感情線や運命線を差して、
「これ」
と言った。なあるほど。よく見てる。

 星形のクッキーは、昨日志保と杏樹とで一緒に作ったのだそうだ。でも、お粉をこねこねしたのも、星形に型取りをしたのも杏樹が中心になってやったという。
下の方に書いてある字は、
「これは杏樹が作ったクッキーです」
という文章のつもりだそうだ。


杏樹の描いたじーじ


うううう。可愛くて、クッキーじゃなくて、杏樹を食べちゃいそう。

ミサ曲完成
 12月8日は、一般的には、昭和16年にハワイの真珠湾を日本海軍が奇襲攻撃して太平洋戦争が始まった日とされている。しかし、カトリック教会では、無原罪の聖マリアの祝日というおめでたい日だ。その12月8日金曜日に、とうとう僕のミサ曲が完成した。

 とはいえ、曲そのものはもう少し前に出来上がっていた。でも、見直してみると、至る所にミスがある。臨時記号の次の小節のナチュラルが抜けていたり、歌詞が抜けているパートがあったり、あるいは譜面作成ソフトFinaleの勝手な都合で、ソのシャープが欲しいのにラのフラットになっていたりしていて、それを直すのに数日を要した。もしかしたら、まだあるのかも知れないが、そういうこと言っていると完成日がいつになるかはっきりしないので、きりの良いところで12月8日を完成日とした。

 ただ、本当のことを言うと、完成したのはとりあえずピアノ・ヴォーカル譜なので、最終的なスコア完成までには、まだかかる。依頼主の男声合唱団アカデミカ・コールが新年早々からこの曲の練習を始めるというので、さしあたってピアノ伴奏譜が必要なのだ。
 スコアの方は、年が明けてから、またまた、のんびりのんびりやるのだ。でもね、もうオーケストレーションが頭の中には響いているので、とても早く進むとは思う。これまで、曲の内容も時間をかけてじっくり推敲に推敲を重ねたから、今後思いつきで変えようとも思わないので、僕の中では、実質上の完成なのだ。あとはスコアを具体的に書くという物理的な作業が残っているだけ。
伴奏の編成は、バイオリン1&2、ビオラ、チェロ、コントラバス、ピアノ、アルト・サックス、コンガです。

 さて、曲が出来たので、いよいよタイトルをつけないといけない。最初は、ラテン音楽テイストなので、それに関連したタイトルにしようとか思ったけれど、全編ラテン音楽だけというわけでもないのでやめた。
 それよりも、夏の白馬滞在の時に丁寧に練り上げて作った終曲のDona nobis Pacem(我らに平和を与え給え)が、結果的に一番良い曲となったので、ミサ曲全体が、途中紆余曲折ありながらも、結局は、この終曲の“平和への希求”に向かっている感じになった。
 
 そこで決めたのだ。ジャジャジャーン!では発表します!そのまえにコマーシャル(なんやねん!もったいつけて!)。ええと・・・この曲のタイトルは、Missa pro Pace(平和のためのミサ曲)です。

 しかしながら、ネットで検索してみたら、このタイトルで複数の作曲家が作曲している。特に、最近では佐藤賢太郎という作曲家が素晴らしい曲を作っているやんけ。しかも、この曲のKyrieは、2004年度のACDA(アメリカ合唱指揮者協会)の作曲コンクールで大賞を受賞し、翌年のACDAの全国大会で初演されている。全曲初演は、ワシントン・コーラル・アーツ・ソサイエティによって2007年4月に、日本での全曲初演は大阪大学混声合唱団により2011年12月に行われているという。まあ、はっきし言って、僕の曲なんかよりずっと徹頭徹尾平和な祈りの雰囲気に満ちているアカペラ合唱なのだ。こういう曲こそ、Paceという言葉がふさわしいよな。
 でもね、それはそれ、これはこれ。佐藤氏の曲は侵し難い静謐さに満ちているけれど、僕の曲はね、4歳になったばかりの孫娘の杏樹が、
「おにころみたいだね」
と言いながら踊っているような曲なんだ。そうそう。僕の曲はね、みんなで踊ってハッピーになりながら、平和を願う曲なのだ。

 これから、Finaleから作ったMIDIファイルを使って音色やバランス調整して音源ファイルWAVを作ろうと思う。そしたら、その一部をこのホームページでお聴かせしよう。
 

初滑り
 今年は早くから山には雪が降って、白馬とかいろんなスキー場では、昨年よりも一ヶ月以上早くオープンしている。それを都会に居て指をくわえてみているのが歯痒かった。だって白馬五竜スキー場のサイトなんか、毎日こんなレポートを送ってくるんだぜ。

とはいえ、僕の方もずっと体調悪かったから、これまでは、なにがなんでも行きたい、という気にもならなかったのだけれど・・・。
 しかしながら、先日紹介した小関さんの治療が効いて、やっと元気になった。そうなるとスキーに行きたくてたまらなくなってきた。でも、日帰りで行けるような距離のスキー場は、ガーラ湯沢でさえオープンが16日土曜日からだから、東京からだとまだまだそう簡単には行けないんだよね。でも、行きたーい、どうしても行きたーい!

 まてよ。そういえば、とっても近いところにスキー場、あるにはあるよ。でもなあ・・・それはどこかというと、多摩湖のほとり、西武球場のすぐそばにある狭山スキー場だ。もちろん人工雪で屋内スキー場。ゲレンデだってひとつだけで、大きいはずがない。でも、体を慣らすだけなら、アリかなあ・・・・。
 12月8日金曜日は1日オフ。あれえ?悩んでいたはずの僕は、気が付いてみたら、スキー板担いでブーツのバッグを持って、周りの人達から、
「なにこのおっさん、浮かれてスキーなんか担いで」
という冷たい視線を浴びながら、西武線の電車に乗っていた。
「あれ?僕ったら、こんなところで何しているんだっけ?」

 それにしても西武線って、縦横に張り巡らされているのはいいんだけど、乗り換えがややこしすぎるよな。所沢まで行って、さらに西所沢で乗り換えないと、西武球場前に行く西武狭山線に乗れないんだもの。

 さて、ゲレンデは、予想通りすぐ飽きた(笑)。開館時間の10時から4時間券を買った時には、6時間券にしとけばよかったかな、と思ったけれど、途中、
「つまんねえな、これでは午後2時までなんてもたないや」
と思ったほどだった。
 狭山スキー場は、スケートリンクなどのようには外界から遮断されていない。冷蔵庫の中のようかなあと思って厚着していったけれど、外気と一緒なので寒くない。特に一人乗りのリフトに乗っていると、普通に外の景色が見える。雪は、予想通りかき氷のようで、カーヴィングで滑るぞう、と体を踊らせて滑っても、雪が板を噛んでくれないので、ズルズルズルと崩れてしまう。


狭山スキー場001


 あーあ、と思ったけれど、
「このまま滑っても退屈になるばかりだから、角皆君が僕に与えたドリルでもやるか、今シーズンは『マエストロ、私をスキーに連れてって』キャンプもあるから、蓋を開けてみたら自分が一番下手だった、なんてことになったらカッコ悪いものな」
と思って、様々なエクササイズをやり始めたら、これにハマった。


狭山スキー場002

 特に、グズグズ雪のゲレンデはすぐ荒れてしまうので、片足滑走のドリルは、足を取られたりして、おっとっとっと、と、途端にスリリングになってきた。ということで、問題意識を持ってドリルをやろうと思って行く人にはいいかも知れない。僕も、本当の雪山に行く前に、もう一回くらい行っておこうかな。


狭山スキー場003


今日この頃
 東響コーラスの第九の練習には楽しく行っている。アマチュア・コーラスなんだけど、アマチュアを超えさせようとして、発声のことにまで踏み込んでレッスンを行っている。つまり、ベルカント力を高める指導だ。横隔膜を使った歌唱だ。
 これには時間がかかるだろうと思いながら始めたが、意外とみんな付いて来る。今の時点で、これまでの合唱団の響きと随分変わった。ただ、僕の練習中にすべてやろうとしても限りがあるので、僕がみんなに与えるサジェスチョンを、自分でそれぞれ持ち帰って、ものにしてくれたら、今年の東響コーラスの第九は画期的なことになるのではないか。

 同時に、明日12日火曜日にサントリー・ホールで行われる、読売日本交響楽団定期演奏会、マーラー作曲交響曲第3番の女声合唱を担当している。合唱団はもちろん新国立劇場合唱団だが、今回は、共演しているTOKYO FM少年合唱団とフレーベル少年合唱団にも練習を付けたので、少年合唱団と女声合唱団の響きに共通性が生まれ、より一体感が得られている。
 また、指揮者のコルネリウス・マイスターは、以前、新国立劇場に「フィデリオ」を振りに来た時は弱冠26歳であった。あれから随分経つのでもう30代半ばになっていると思うが、見た目は相変わらず若い。
 しかし、昨日のオケ合わせで確信したが、もの凄い才能だ。ハイデルベルグ歌劇場の音楽総監督をやりながら、ウィーン放送交響楽団の音楽監督も務め、ウィーン国立歌劇場やミラノ・スカラ座にも登場している。
 指揮の技法も確かなら、各奏者に与えるサジェスチョンも的確。特にバイオリンの弓の使い方と、それによる音色の選び方など、様々な知識に長けていて、音楽作りにも迷いがなく、まるで老練な巨匠のようだ。明日の本番がとっても楽しみ。

 それが終わると、いよいよ読売日本交響楽団の第九だ。そして、あれよあれよという間にクリスマスが来て、そしてお正月が来る。でも、今年は12月29日まで秋山和慶さんの指揮する東京交響楽団の第九があるので、年末には白馬には行けないんだ。まあいい。その後、年が明けたら、なるべく雪山に行こう。今シーズン中に、極めたいのだ。



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