「マエストロ、私をスキーに連れてって」2月キャンプ無事終了

三澤洋史 

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「マエストロ、私をスキーに連れてって」キャンプ無事終了
 2月3日土曜日。全員元気でスクールのカウンターに現れ、手続きを終えて、ゲレンデに集合した時、僕の胸にはすでに熱い感動が込み上げていた。それは、僕が自分の趣味だけでスキーをするのと違った、新しいアクションの始まりであり、僕と親友角皆優人(つのかい まさひと)君とのコラボが開く、新しい時代の始まりでもある。


キャンプ全員集合


 今から考えてみると、2009年の年末に、久し振りに角皆君と再会して、クラシック・ジャーナルという雑誌でカラヤンの対談をした時に、もうこの日が来るのが決まっていたのではないかと思う。スキーに全く興味がなかった僕の耳に飛び込んできたひとつの言葉。それが角皆君から発せられた「ターン弧」という単語であった。
 それが何故僕の心を捉えたのだろう?当時の僕には理解できるはずもなかったが、恐らくその単語が僕の直感を刺激したことは間違いない。今なら分かる。何故なら、今の僕は、音楽を全て「ターン弧」で捉えているから。このように、僕の人生の中では、後でとても重要な役割を果たすものほど、最初はわけが分からないながらも、直感で、
「これに飛びつくべし!」
と、まるで神様からの至上命令のように自分をがんじがらめにするのだ。

 そうしてこの日を迎えた。こんな素人の僕が、自分の名前で人を集めてスキーのキャンプをするなんて無謀もいいとこだが、初日のレッスンを終えてから、レストラン風舎で講演をしながら、参加者達の瞳がキラキラと輝いているのに気が付いて、これは本当に面白いことになってきそうだと気が付いた。
 講演が終わったら角皆君が僕のところにやって来て僕の手を取り、
「これは世界中でも例のない画期的なキャンプだよ!」
と叫んだ。


キャンプ綿密な打ち合わせ


 「音楽的なキャンプ」なんて、ひとりの浮かれた「スキーにハマった音楽家」が無理矢理音楽とスキーとをつなげようとしたに過ぎない、と思われがちだが、この講演を聞き、夜の懇親会で、初めて会う人達同士もいろいろ仲良くなって様々な話題に花開かせ、次の日になったら、みんなの滑りが本当に「音楽的」になってきたのだ!

 角皆君を中心に行われたメイン・キャンプも、角皆夫人の美穂さんと乾敏広コーチで行われたサブ・キャンプも、最初はプルーク・ボーゲンで基礎から徹底的に積み上げられた。元来滑れる人にとっては、最初の瞬間は物足りなく感じた人もいただろう。しかし、ボーゲンの中に、各自の欠点や癖は如実に表れるのだ。それに気付いた彼らは、そこを指摘される毎にやっきになり、さらにコーチ達はそれを様々なドリルで直していった。
 いろんなドリルが次から次へと行われたので、何が何だか分からなくなった人もいただろうが、このドリルではピンと来なかった人も、次のドリルでヒットして見違えるようになったり、試行錯誤を繰り返して、最後にはみんな本当に上達した。
 メイン・キャンプの中には、数人かなり上級者もいたが、誰一人不満に思うことなく、それどころか、真摯に自分の滑りに向かい合ってくれたのは嬉しかった。その陰には、レッスンの中での角皆君の周到な気配りがある。考えてみると、僕は彼から個人レッスンしか受けていないので、集団を彼がどうレッスンするのかは見たことがなかったのだ。
たとえば、重心移動のレッスンで彼はこう言う。
「体を前に出してターンを始める考え方が一般的ですが、出来る人はそれを、逆に足を引くことによって行いましょう。スキーは上級者になるほどなるべく下の方で操作するのが能率的なのです。切り替えを行う時に、逆ハート型を意識して、足を斜め後ろに引きましょう」
 僕は、そのことをすでに角皆君のレッスンで教わっていて知っているが、こんな上級のことを言ってみんな出来るのかなあ、と思っていたら、上級者だけでなく、うまい人を見ていたそこそこの参加者もつられて案外出来るようになった。うわあ、びっくらこいたね。こういうのがキャンプの長所だね。だってねえ、これが出来るようになったら、コブだって楽々行ける上級テクニックなんだよ。それを導く角皆君はさすがプロだね。他のコーチ達もみんなブラボー!

 2日目の午後のメイン・キャンプでは、2人一組になって前を滑る人のトレースを後ろの人がなぞったり、4人が横一列になって手をつないで滑ったりして、音楽のアンサンブルを彷彿とさせるドリルを次々に行ったが、最後に全員で縦一列になって長い蛇のように滑っていった時には、これぞオーケストラだ、究極のアンサンブルだ、と思って再び胸が熱くなった。

 このキャンプをやりながら、ひとつだけとても大切なことに気が付いた。それは、スキーというスポーツは、感情を動かすことによって上達するスポーツだということ。だからこそ、音楽家にはとても向いているし、音楽家は上達が早い。
「ようし!」
と感情を動かしてアプローチし、
「やったーっ!」
と感情で仕上げるのだ。これこそ上達の最短距離。

 キャンプの最後は、レストラン風舎にみんな集合して、2日目の午後に撮影したひとりひとりの滑りのビデオを観ながら角皆君がコメントを入れての反省会。これは、とってもためになるね。僕も含めてだけれど、みんな自分の欠点というのは自分ではなかなか分からないものだから、自分の姿を客観的に見るだけでも勉強になるし、そこに正しいコメントを添えることによって、それぞれの課題を胸に抱くことが出来る。

キャンプを終えて、みんな解散となったが、僕は帰る前にもうひと滑りだけしたいと思ったので、
「僕は、これからゴンドラで上まで行ってもうひと滑りして降りてくるけど、一緒に行く人いる?」
といったら数人の人達が手を上げた。ほとんどが上級者だった。
 僕たちはアルプス平のてっぺんまで行って、広大なグランプリ・コースを猛スピードで降りた。僕が一番かと思ったら、指導員の資格もあるというSさんに追い抜かれた。畜生!途中のゲレンデ横にあるコブを冷やかしながら滑ったら、付いて来る人もいた。それから、より急斜面のダイナミック・コースでは、僕は先ほどの逆ハート型の足を引くショートターンで降りた。後から来る人達を下から見上げていたら、みんな上手になっている。

 とおみゲレンデの上部で一度みんなを集めてから、彼らと別れた。僕は隣のいいもりゲレンデに入り、フリースタイル・アカデミーの事務所に行くからだ。いいもりゲレンデの人の少ない急斜面を思いっ切り飛ばしてから事務所に行くと、角皆君がニコニコ笑いながら握手を求めてきた。
「これから毎年やろう!」
「是非!」

3月キャンプの募集修正
 さて、2月のキャンプをやって、いろいろが分かってきた。その結果、角皆君と相談して3月の募集の若干の修正を行おうということになった。

 まず現在メイン・キャンプの参加予定人数は10名。これで当初予定していた定員の上限まで達したため、それ以後参加希望した方もいたのだが、こちらからお断りしていた。しかしながら、2月のキャンプを行ってみて、メイン・キャンプの中でも、レベル差があり、たとえば全員連れて、急斜面やコブ斜面に行くというのも無理があることがわかった。
 加えて、2月も3月も参加という方が、今分かっているだけで3名いるが、その方達に2月キャンプで行ったことを最初からなぞるのも退屈になってしまうだろうと思った。そこで、メイン・キャンプ自体を2班編成にしようという結論に達した。
 それでまず、メイン・キャンプの定員を増やして、これからでも参加受付を引き続き行うと同時に、メイン・キャンプの最初の時間でレベル分けを行い、アドヴァンスト・クラスとレギュラー・クラスを作ることにした。このふたつのクラスの境界線は曖昧で、レッスンの途中の進歩の具合で、レギュラーからアドヴァンスト・クラスに上がったり、あるいは逆に下がったり、あるいは行ったり来たりすることも可。でも、アドヴァンスト・クラスは、最後にはコブ斜面にも挑戦したい。
 それと、メイン・クラスの最低条件を「パラレルが出来る人」という風にしているけれど、これも、完全なパラレルが出来る人というのは実はあまりいないのだ。つまり、完全なパラレルが出来る人は、むしろ上級者に入るのだ。いずれにしても、レッスンの途中までは上級者もみんなプルーク・ボーゲンで滑るので、メイン・キャンプの参加資格を以下のようにあらためた。
「プルーク・ボーゲンで左右の重心移動が出来る人、及びパラレル・ターンが出来る人」

 それと、サブ・キャンプという言葉をあらためて、初級者コースとした。これで、全部で3班編成でキャンプを行うこととした。それに伴って、料金体系も整理した。2月のサブ・キャンプでは、当初参加者が少なかったこともあり、いろいろ料金設定の試行錯誤が行われたが、3月のキャンプでは、参加人数によってコロコロ料金が変わるのではなく、あらかじめ決めることとした。

 それで、いろいろ整理した結果、以下の要領で、あらためて追加募集を行う。特に人数制限は設けないので、これからでも、参加してみようと思う方は是非申し込んで下さい。なお、すでに参加申請を出しており、こちらからの承諾を受け取っている方達には、あらためてこちらから詳しい連絡を差し上げます。

「マエストロ、私をスキーに連れてって」3月キャンプ
開催日3月8日木曜日
エイブル白馬五竜スキー場 エスカル・プラザ
フリースタイル・アカデミー・カウンターで午前9時30分から手続きを行い、午前10時よりレッスン開始
午前11時30分から、とおみゲレンデ途中にあるレストラン風舎でみんなで昼食
12時半から約1時間半、午後のレッスン
三澤洋史による講演会 ペンション・カーサビアンカにて、時間未定
(キャンプ参加者は料金無料、講演会だけの参加者はひとり\1.000
懇親会 同じく、カーサビアンカにて、時間未定 経費:実費

3月9日金曜日
午前10時からレッスン開始
午前11時半からレストラン風舎で昼食
12時半から午後のレッスン及びビデオ撮影
午後2時半から3時半まで、レストラン風舎でビデオを観ながらのミーティング
午後3時半解散

メイン・キャンプ料金 2日間でひとり\30.000
アドヴァンストとレギュラーのクラスでの料金差はなし
初級コース料金 2日間でひとり\20.000
ということになります。

別項のキャンプ予約申し込みの項からフォームを通して申し込んで下さい。待ってます!

杏樹のスキー・デビュー
 そんなことで、先週は29日月曜日、30日火曜日、31日水曜日と白馬で滑り、2月1日木曜日と2日金曜日は東京で「アイーダ」と「ホフマン物語」の合唱音楽稽古をガッツリ行い、そして3日土曜日の早朝6時に妻の車で家を出て、午後のキャンプに間に合わせ、4日日曜日の夜に家について、今日5日午前中にこの原稿を書いている。
 今日の午後から夜にかけても「アイーダ」と「ホフマン物語」の稽古。特に夜の「ホフマン物語」では、初心者稽古なので、フランス語の発音からみっちりやるので、体力を蓄えておかねば。でもね、スキーのお陰で、体がめちゃめちゃアクティヴになっているので大丈夫。唯一淋しいのは、今週はずっと午後から夜にかけて練習が入っているため、狭山スキー場すら行けない。まあ、たまにはしっかり仕事しないといけないよね。はい、頑張りまーす!

 キャンプの前の、家族での白馬の様子をいろいろ書きたかったのだけれど、キャンプのことを書いたら、もうお昼近くになっている。今回、最も大事なことは、なんと4歳の孫の杏樹が、とうとうスキー・デビューを果たしたこと。もうこうなるとジジ馬鹿炸裂で嬉しくって仕方ない。
 29日月曜日の午前中だけは角皆夫人の美穂さんの個人レッスンを入れていたが、杏樹がやる気になったので、30日も31日もレッスンをお願いした。でも、美穂さんは別にスケジュールが入っていたので、吉田先生という女性コーチにレッスンを任せた。美穂さんじゃなくてメンタル的に大丈夫かなと多少心配したけれど、吉田先生は、4歳児のグループレッスンなども手がけているベテランだし、杏樹もすでに1歳児から保育園に行っていて揉まれているので、レッスンが終わってから吉田先生に聞くところによると、レッスン中ずっと歌を歌いながら滑っていたそうである。いやあ、やっぱ志保の娘だけあるわ。


杏樹スキーデビュー


 一方僕は、30日に角皆君の一日個人レッスンを受けた。最後に五竜スキー場最大の難所であるチャンピオン・エキスパート・コースでのレッスンでは、
「では、あわてないでゆっくり降りてきてね」
と言いながら、先に滑って見せてくれた角皆君の滑りがあまりに素晴らしいので、惚れ惚れしてしまったが、自分が滑ると「おっとっとっと!」の連続で、とてもあんな優雅には遠く及ばない。まだまだだなあと思い知らされたレッスンでした。


みんなでリフト




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