Missa pro Paceチラシが出来ました

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

春だ!
 この山下康一君の絵は、いつ見ても癒やされるのだが、今の自分はこの絵を見るのがちょっと淋しい。というのは、白馬にこのように桜の花が咲くのはゴールデン・ウィークのあたり。この頃のお山はもう雪がまだら。里には春爛漫の景色。つまり、この絵そのものがスキーシーズンの終わりを意味しているのだ。

写真 山下康一の絵画
山下康一君の絵


 今年の東京の桜は長い。いつもだと、
「あ、咲き始めた!」
と思っている間に、
「五分咲きだ!」
「七分咲きだ!」
となり、満開となって街路が桜吹雪になるわ葉が出てくるわで、とっても忙しいのだが、今年は、4月に入ってから寒い日が続き、もう終わりかと思っていたスキー場にも、あろうことかドカ雪が降ったりと、桜の開花を遅らせる要素満載で、樹の個体差もあるため満開の桜もあれば途中のもあって、ずっと同じ状態が長い間続いていた。いつの間にか入学式の時期も過ぎている。
 だから、もっと喜んでもいいのに、
「あれ?まだ咲いてんの?」
などと思っている贅沢な自分がいる。
 もののあはれを感じ、散る桜を惜しむ自分がなつかしい、なんてこと言ってるとバチが当たるで、ホンマに・・・。

 白馬にこのように桜が咲き誇る前に、僕のスキーシーズンは終わってしまったが、今年のスキーシーズンは充実していたので、淋しいには淋しいのだが例年ほどではない。3回の「マエストロ、私をスキーに連れてって2019」キャンプも無事終了したし、妻もスキーをしたし、孫の杏樹の上達ぶりはハンパじゃなかった。後の記事で書いているが、なによりもラストランを角皆君達との試乗で終われたのも、充実感を持てた原因だろう。

さあ、春だ!これからまた心を入れ替えて頑張るぞう!

東京バロック・スコラーズの挑戦
 4月13日土曜日。東京バロック・スコラーズが主催するワークショップ「三澤洋史とヨハネ受難曲を歌おう」が無事終了した。多数の方が参加してくれて本当にありがとうございました!

 ワークショップは、当初は新入団員募集の意味を込めて行ってみたが、思わぬ効果があることに気が付いて、今回からその趣旨を随分変えた。むしろ、一回こっきりの参加者をターゲットにし、当団のめざすバッハへのアプローチを示して、それを公開練習を通して実際に体験してもらうことを目的とした。
 現在における、バッハ演奏のあり方を問い、オリジナル楽器での演奏や、様々なバッハ研究の成果に混在する多様な演奏美学の中から、当団がどの要素をどのくらい選び取っていき、どこに落とし処を決めて練習を重ねているか?また、具体的にどのような練習方法をとっているのか?本来ならば企業秘密にしておくべきところを全て外部の人達に開示するのだ。それが結果的に、少しでも我が国のバッハ演奏の肥やしになってくれればいい、というとっても気の長い考え方に依っている。

 ワークショップが終わったら何人かの方が、
「とっても楽しかったです。自分は他の合唱団に在籍しているので、この団に入ることは出来ませんが、また次のワークショップがあったら、必ず来ますので案内してください」
と言ってきてくれた。とても励みになった。

 さて、来年すなわち2020年3月21日土曜日、王子の北とぴあ、さくらホールで行われる、東京バロック・スコラーズ主催のバッハ作曲「ヨハネ受難曲」公演の出演者が決まりました。

ソプラノ: 國光ともこ
アルト: 清水華澄
テノール: 鈴木准
バス: 萩原潤
福音史家: 畑儀文
イエス: 小森輝彦
コンサートマスター: 近藤薫

 どうです!我が国でこれ以上考えられないくらいの超豪華キャストでしょう。でもみなさん、驚くのはまだ早いです。これだけ超一流のオペラ歌手を集めたからって、オペラチックな演奏をするわけではないのです。
 むしろ、これらの人達をどう料理するのかというところに、シェフ・ミサワの全てがかかっているし、あえてモダン楽器で演奏する東京バロック・スコラーズの運命がかかっているのです。
言ってみれば、
「思いっ切りバロック的で、同時に思いっ切りドラマチック。
でも決してオペラチックでもロマンチックでもない。
新しい21世紀のバッハ演奏のオーソリティの確立。」
さあ、これからが東京バロック・スコラーズの勝負所だよ!
 

Missa pro Pace(平和のためのミサ曲)チラシが出来ました
 冬の間、休日は全てスキーに当てられていたため、自作のミサ曲のオーケストレーションが滞っていた。新国立劇場では、「ウェルテル」公演後は、「ジャンニ・スキッキ」と「フィレンツェの悲劇」という合唱のない演目のため、次の「ドン・ジョヴァンニ」の合唱練習が始まるまでまとまった時間が出来た。そこで一気に、他のたまっていたいろいろな仕事に混じってオーケストレーションも進めて、とうとう仕上がった。
 とはいえ、まだ見直しがある。そのためには、一度離れて放っておき、ちょっと忘れた頃に見直しをするのが効果的。注意深く書いたつもりでも、随所につまらないケアレスミスがあるものだ。なので、来週あたりから丁寧に見直していく。

 でもねえ、みなさん!あらためて全曲を俯瞰してみて思った。この曲は、これまでの自分の音楽観は勿論のこと、人生観、世界観、宗教観の全てをあますことなく表現した音楽であり、そして、世界はこの曲の“この世への受肉”を待っているに違いない・・・と。
 おお、なんと大風呂敷を広げましたね!知りませんよ。でもね、そのくらいの意気込みがなければ、新曲を今さら作らなくっても、世の中に名曲は溢れているんだからね。

 曲を委嘱した東大OB男声合唱団アカデミカ・コールを中心にして、フリーの有志が加わった合唱団の練習も進んでいる。4月11日木曜日には、Sanctus、BenedictusとPater noster(主の祈り)の練習をした。難しい曲であるが、みんな真剣に、そして楽しく取り組んでくれている。今週の18日木曜日にも練習がある。
 チラシが出来上がっている。とはいえ、まだチケット発売は5月になるそうだ。いろんな人に来てもらいたい。ミサ曲といっても、以前にも言ったように、ラテン音楽テイストの楽しい曲だからね。けっして退屈な思いはさせません。

チケット発売の折には、また書きます。
本番は8月11日日曜日。池袋の東京芸術劇場14時から。

真生会館での講座「音楽と祈り」
 森一弘司教が理事長を務めているカトリック施設の真生会館では、学生や社会人を対象に様々な講座が行われている。僕はここを初めて訪れたのは、竹下節子さんの講演を聞きに行った時である。その真生会館で5月から1ヶ月に一度ずつ3回の講座を受け持つことになった。
 最初は、先方が勝手に「音楽と聖書」というタイトルをつけて、自分もさしたる考えもなく「いいですよ」と言ってしまったのであるが、最近になって内容をいろいろ吟味し、3回1セットを睨みながら、それぞれのタイトルと、講演内容のレジュメのようなものを作っていたら、どうもタイトルも「音楽と聖書」というよりも、むしろ音楽に直接関与してくるのは「祈り」の方ではないかと考え、「音楽と祈り-信仰者の立場から見た音楽の本質-」のようにしてもらうようお願いした。
 この「今日この頃」が更新される頃には、カレンダー上のタイトルはまだ変わっていないかも知れないが、そのカレンダー上から申し込むことは出来る。次の内容を見て興味を感じた方は、早めに申し込んで下さい。あまり広い会場ではないので、いっぱいになったらお断りされるかも知れません。
 僕とすると、初めて宗教的な内容のみの講演なので、とっても嬉しいし楽しみなのだ。

写真 真正会館講演「音楽と聖書」 のチラシ
6-音楽と聖書チラシ
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第1回目:5月23日木曜日10:30-12:00
「音楽と聖霊」(音楽の本質と聖霊
形をもたず、うたかたのように消えていく、最もはかない媒体である「音」を使った音楽は、あらゆる芸術の中で最も「霊的」であるといえる。
しかしながらそれは、聴く者の心の奥に染み入り、時としてその者に生涯忘れ得ぬ体験をもたらし、人生を変える圧倒的な力を持つ。
一方、聖霊は、三位一体の中で最も分かりにくいペルソナのように思われているが、音楽と聖霊はとても似ており、音楽を深く理解する者は、聖霊の何たるかを知っている。
また、演奏する立場である者や、作曲する立場にある者で、インスピレーションを全く理解できない者は決して良き音楽家にはなれない。
必ずしもキリスト教の枠でくくれなくても、音楽家はみんな分かっている。演奏において自分が自分を超える時、必ずこころの中で聖なる風が吹いていることを。

これまで誰もアプローチしなかった方法で、音楽の本質が語られる。
第2回目6月27日木曜日10:30-12:00
「音楽と祈り」(祈りに音楽は本当に必要か?)
みんな聖歌を歌っていたら自然に祈れていると勘違いしてはいないか?
その反対に、祈る時に音楽が要らない、あるいは邪魔になる時も多いのではないか?
では、どんな時に音楽が必要なのか?
これまで曖昧にしか理解されていなかった、音楽と祈りとの本当の関係について解き明かしてみたい。
そこに辿り着くためには、まず祈りの本質を探る必要があり、音楽と祈りとの馴れ合いの関係を断ち切る必要がある。
また、あらゆる種類の宗教音楽にも触れ、巨匠達がどのように音楽を通して祈りと向かい合ってきたか、その軌跡を辿ってみたい。
第3回目7月25日木曜日10:30-12:00
「ミサと音楽」(典礼音楽の本質)
6月の講座の「音楽と祈り」との関係を踏まえて、いよいよミサと音楽との正しいあり方について考えてみたい。
全く歌唱されないミサであっても、ミサは完成されたものであり、そこに不足はない。
では、我々はどうしてミサで歌うのか?歌うことで何が変わるのか?何が変わらなければならないのか?

ひとつのヒントを提示しておく。
ミサの冒頭の司祭の言葉。
「主イエス・キリストの恵み、神の愛、聖霊の交わりが皆さんと共に」
5月の講座で聖霊について語ったが、ミサの本質が霊的な交わりであったら、まさに音楽こそ、それを高める媒体ではないか?
だとすると、我々はどのような気持ちで典礼音楽と関わっていくべきなのか、

全てのカトリック信者が知っておかなければならない究極の回答がここにある。
 

超主観的K2試乗記
 3月10日水曜日。新幹線で越後湯沢駅に到着したのは8時38分。南越後交通の三俣スキー場方面行きのバスに乗ったのは8時50分。三俣ステーションに着いたのは9時15分。それから着替えてみつまたロープウェイに乗り、リフトに乗り継ぎ、一度ゲレンデを少し滑って降りて、それからかぐらゴンドラに20分近く揺られて、やっとのことでかぐらスキー場に到達しても、まだ滑れないんだ。板を履き、かぐら第1高速リフトに乗って上まで到着した時、時計を見たら10時20分だった。あのさあ、「越後湯沢駅からわずか20分」という触れ込みって詐欺じゃない?

 雪の吹き荒れる中、かぐらスキー場のゲレンデにはすでにK2試乗会の旗がはためき、準備が着々と進んでいた。4月も中旬なのに先週同様真冬の寒さ。でも先週のように深い新雪ではなく、踏み固められた雪の上に数センチの新雪が乗っている程度。

写真 K2スキー板の試乗会の準備模様
試乗会の準備

 ここはメインゲレンデでさえ、圧雪車で整備するという感じじゃないんだ。無数の自然コブでかなりデコボコな斜面。それぞれのコブは小さいので、面倒くさいからいくつかのコブをまとめてミドルターンやロングターンをすると、ところどころではじき飛ばされてジャンプする。ま、それも楽しい。
 そんな条件のメインゲレンデを3本ほど滑ってから、かぐらゴンドラ山頂駅の1階にある「レストランかぐら」に行くと、ほどなく角皆優人くんと奥さんの美穂さん、それに群馬県スキー連盟の千葉さんと、スキー雑誌界に長くいたという中澤さんの4人が現れた。

写真 試乗会参加メンバーの紹介
左から角皆君、千葉さん、僕、中澤さん、美穂さん


 互いに紹介し合い、なごやかに珈琲タイムを取ってから、いよいよ試乗会。顔写真のある身分証明書が必須と書いてあったので、みんなは運転免許証を出したが、僕は免許証を持っていないのでパスポートを預けてリフト券ホルダーに整理番号のシールを貼ってもらった。

 板が雪の上にいっぱい並んでいる。といってもねえ、ど素人の僕にはどれに乗っていいか皆目見当が付かない。ボーツとしていると、角皆君や美穂さんがいろいろアドバイスをくれた。

写真 K2のマインドベンダーシリーズ6組
K2_Mindbender_Collection_Global

 まずはK2が来シーズンに向けてラインアップを一新し、これまでのPinnacleピナクル・シリーズに変わって大々的に売り出したという、Mindbenderマインドベンダー・シリーズのMindbender 90Cという板に乗った。
 これは、オフピステ(非圧雪)つまりバックカントリーや新雪などを滑るのに適しているが、90くらいだと、通常のゲレンデもにらんでいるので、つまりはオールラウンドを目指している。
 乗ってすぐに軽さを感じた。メタルは入っていない。滑り出してみると、足裏にすぐに雪を感じるような接地感!177cmは長めかも知れないけれど何も気にならない。この板を履いていながらオフピステには入らなかったので、整地だけでの判断になるが、そうだねえ・・・オールラウンドという点では、整地でも及第点ではあるが、特にずば抜けたものは感じなかった。

 次は凄いのに乗った。試乗ならではのチョイス。PON200Nという新雪に特化したぶっとい板。

写真 新雪に突き立てたPON200N
PON200N

僕の244という極細のモーグル用の板が「そうめん」なら、これはまるで「ひもかわ」。同じスキーでもこうも違うのか?
 ちなみに、僕は群馬県人だが、最近になるまで上州名物の「ひもかわ」という極太麺のことは全然知らなかった。お袋が作ってくれたのは「お切り込み」というやつで、これでも充分太いが、川場スキー場に行く途中の「道の駅川場」では、「ひもかわ」をメインで売り出している。
 ええと・・・「ひもかわ」のことはどうでもいい。要するに言いたかったことはPON200Nはスキー板の「ひもかわ」だということ。普通スキー板というものは片手で掴んで持てるが、センター幅が広くてとても掴めない。しかも超重たいので運ぶのどうするの?って感じ。
 長さはなんと189cm。ビンディングは、通常、板の中央より後ろ側についているが、これは板のど真ん中についている。大丈夫かなあ?ちゃんと滑れるかなあ?

 乗り始めた。もちろんガバガバしている。しかし注意深く乗っていればそんなに恐くない。それよりもスピードを出しても安定感抜群だしカーヴィングも利く。外足加重という感覚より、どうしても両方の板に乗る感覚になるし、通常の板の前傾姿勢よりもやや後傾になりがち。やはり真ん中のビンディングのせいであろう。
 ゲレンデの途中で角皆君が待っていて、
「三澤君、その板でも良い感じに乗ってるじゃない!」
と言った。
 その内、美穂さんが、
「三澤さーん!こっちこっち!」
と僕を誘う。
 林の中に誰も滑ったことのない処女雪がある。
「ここ、そんなに木が密集していないので、用心して滑ってみましょうよ」
げっ!ツリーランか。この慣れない板で・・・まだ立木に激突して死にたくない・・・と思ったけれど、恐る恐る入ってみると・・・・お・・・おおお・・・おおおお!こんなに安定して新雪を滑れるんだ!
 ファットスキーは新雪で時に暴走しやすいとも聞いていたが、僕の経験から言えばそんなことはなかった。その異常なぶっとさの故にどんな深い新雪でも潜るはずないし、ターンもスピードコントロールも思いのまま。まさに新雪のためだけに特化した板!
 潔い!気に入った!ひとつもらおう!と思わず言ってしまいそうになったけれど・・・でもなあ・・・これでは新雪しか滑れないし、滑っていないときの持ち運びが大変!車を持っていてゲレンデまでドアツードアで行ける人はいいよね。ただ、一度これでニセコの山頂から思いのまま滑ってみたい、とは強ーく思った。あえて買うのはちょっと・・・と思うけれど、とてもとても心に残った板だ。

 次は、K2が中級者用の板としてリーズナブルな値段で売り出しているIKONIC 80 TIという板。170cm。悪くはない。でも、ターンの終わりでズレようと思わないのにちょっとズレてしまうのが不満。角皆君曰く、トーションが弱いのだそうだ。その分、中級者までには安全な板だろう。整地では、先ほどのMindbenderより安定性はずっとあるが、もうちょっと高速で冒険したい人にはやや物足りないかも知れない。

 それから、かねがね気になっていたTurbo Chargerに乗ってみた。それまで長めの板に乗っていたので、165cmの板は短く感じる。小回り用のR13(カーヴィングの半径13m)の板ということだが、ターンの最初にクルッと勝手に回り込みすぎる。どうしてだろうか?Rだけのせいじゃないなあ。広いトップから回り込むような板の形状のせいかなあ。いずれにしても構造的にそうなっているのだろう。

写真 スキー板「ターボチャージャー」

 これは、今の自分には一番乗ってはいけない板である。こんな風にターンの始動から板を傾けてカーヴィングを誘うような板は危険だ。現に、わざと内傾して、内足も使ってターンを始めてみたら、とっても効果的にカーヴィング・ショートターンが出来た。上体をフォールラインに向けたまま一定にして、腰から下だけで∞の形を描きながらクルンクルン。楽しいが、減速要素が一切ないのでこれは袋小路なんだよ。スキーの王道は、どんなわずかな時間であっても、切り替え時にきちんと新しい外足に乗ってからターンを始めることが大事。そうしないと本当にスキーの達人にはなれない。
 だから、企業がこうしたRの短い板をいたずらに“初心者に勧める”のには感心しない。上級者はいいんだよ。「軽い」とか「回しやすい」とか言っても、すでにきちんとした外足加重や外向傾が体に染みついていたら、どんな風にも扱えるんだから。でも、“切り換え”という概念もよく理解せず、スピードコントロールも充分に出来ない初心者が、簡単にターンを始められることで自分がうまいような錯覚に陥ってしまうから、ゲレンデでの衝突事故が多発したり、少しでもゲレンデが荒れるとすぐにクレームをつけるような勘違い野郎を多数生み出してしまっているんだ。
 ま、これはTurbo Chargerだけの責任ではないです。でもこの板のあり方は、どこか危険を孕んでいるとだけは言っておこう。少なくとも、これでコブに入ると、ズレようと思ってもカーヴィングに噛んでしまうので、コブには不向き。

 最後は、前に一度角皆君のところで乗らせてもらったことのあるCharger 168cmにあらためて乗ってみた。2年前になるのだが、当時それを乗った後、僕は結局このモデルを選ばず、その上位機であるSpeed Chargerを買った。
 勿論Speed Chargerを買ったことに後悔はない。スラローム用の板だから、高速ロングターンの安定性は抜群で、素晴らしいのひとことに尽きる。ただ、フレックスもトーションも硬いSpeed Chargerなので、コブということになると話が別なんだ。Speed Chargerでコブにトップから切り込んで行ってもたわんでくれないので、衝撃をもろに受けて恐い。
 さりとて、その時にもう一台購入したコブ用の244だと、今度は新雪が弱点。極細のため潜ってしまって、全然楽しくない。つまり僕は意図的に両極端の板を買っちゃったんだよね。

写真 スキー板「チャージャー」

 なので、新雪もあるかも知れないスキー場で、整地もかっ飛ばしたいし、コブも滑りたいという場合、1台でそれぞれのコンディションにそこそこ乗れる板がないかな、と今は思っているのだ。
 そういう意図もあって、オールマイティなMindbenderやIkonicに期待したのだが、「そこそこ」といっても、僕の「そこそこ」というのも我が儘でなかなか満足出来ない。だいたいさあ、「新雪+整地」とか「整地+コブ」という「そこそこ」なら分かるんだけど、新雪から整地を通ってコブまでで、しかもどれも中途半端にならない「そこそこ」ってハードル高すぎるだろう!

 さて、結論から言うと、このChargerは、僕のハイレベルの「そこそこ」を結構満足させてくれそうなのだ。実はこの板は、僕が最近まで乗っていて「やんちゃな板」と呼んでいたVelocityの後継機なのである。じゃあ、またVelocityに乗ればいいじゃない、と言われそうだが、まあ聞いてくれ!
 ロッカー・スキーのVelocityは、とっても反っている板で、二枚重ねると中央に随分隙間が空く。そのため、ターン後半で切れ上がり、まごまごしていると後傾になって板に置いて行かれる感じであった。それ故に、後傾にならないように気をつけたので、結果的にVelocityは僕を進歩させてくれた。でも、もう僕はこの板を卒業したいのだ。それに今は長女の志保のものになっているからね。今さら返してなんて、親の見栄が許さんのだ。
 今回乗ってみて、ChargerはVelocityの後継機といっても、Velocityとはかなり違うという印象を持った。過度な浮遊感は抑えられ、Turbo Chargerのような強引にカーヴィングに誘う要素もほとんど消えた。だからもはや「やんちゃな板」ではない。むしろかなり優等生的板として生まれ変わっている。
 Speed Chargerはメタルが2枚も入っているが、ChargerにはVelocity同様メタルが入っていないので、軽くてしなやか。トップからコブに先落としていっても恐くないだろう。今回177cmのMindbenderや189cmのPON200Nに乗って思ったのだが、どうも長い板の方が安定性があって自分には良いみたいだ。そこでChargerも調べてみたら、175センチの板があるね。Rは17だという。おお、いいね。Rもあまり小さくない方が良い、というのも僕の結論。
「うーーーん・・・・」
え?何を思っている?
「そうだねえ・・・買いたい気がする・・・」

 しかしなんだね。カーヴィングの問題はともかく、スキー板の進化には目覚ましいものがあるね。深い深い新雪だってPON200Nのような「かわひも」に乗ったら全然安心だし、コブには細くてビュンビュンしなる224のようなものがある。スピード系はSpeed Chargerのようなメタルの入ったがっしりしたものがある。それぞれの目的に沿って、苦労しなくても達成できるように出来ている。これで上手にならなかったらアホやね。
 また、僕のような、まだかじり始めた下手っぴいが、こんな試乗会にノコノコと参加して何が分かるんだと思っていたけれど、そうでもないなあ。それぞれの個性は案外はっきり際立っているし、作り手も勉強しているんだなあと分かった。とっても学ぶことが多い。なにより、すごく楽しい!

 次の板を履いてリフトの方に行こうとしていたら、角皆君が誰かから聞いてきたのだろう。
「今ねえ、ゴンちゃんが僕たちと逆に滑っているみたいなんだ。つまり、今頃リフトを降りる頃だろうから、みんなで待っていない?」
 ゴンちゃんというのは、あの最近エベレスト登頂を試みた三浦雄一郎さんの息子さんの三浦豪太さんのことだ。オリンピックの日本代表になったほどのモーグル選手でもある。へえー・・・・会ってみたいな。
 間もなく豪太さんは、惚れ惚れするようなきちんとした外向傾の滑りをしながら、メインゲレンデを降りて来た。気さくで明るい人。角皆君に紹介してもらって、みんなで一緒に写真を撮った。その他、K2ジャパンの社長である田中秀明さんを紹介してもらったり、その田中さんから、僕が音楽家だということで、ちょうどゲレンデに出ていたピアニストの市川高嶺さんを紹介してもらったり、いろいろな出遭いがあって、とても有意義な一日であった。

写真 三浦豪太んさんを交えて試乗会メンバー
三浦豪太さんをまじえて(右から2番目)


 角皆君達が帰った後、再び自分の244で3本くらい滑った後、ゲレンデの方を向いて感謝の祈りを捧げた。それから、下のみつまたステーションまで降りてきて、ブーツや板についた雪やしずくを雑巾で拭いていると、なんとも言えない愛着が湧き、用具達を抱きしめ、心から「ありがとう!」と言った。

こうして満ち足りた気持ちで、僕のスキーシーズンは終わった。

P.S.
 試乗記の記述で、勘違いや過ちがないか不安だったので、角皆君にちょっと添削してもらった。ほとんどそのままでOKでした。その時に、ふと疑問が湧いて、彼が新雪を滑るとしたら、どんな板がいいのか聞いてみた。そしたらこんな返事が返ってきた。

「マインドベンダーの90Ti あたりが自分のベストだと思います。
その理由は、あまり太いスキーだと滑走の快感ばかりになってしまい、テクニックを感じられなくなるからです。
やはりテクニックの重要性を感じられるスキーは、自分の場合、センターで90ミリくらいのようです。
これまでのK2スキーなら、リコイルというツインティップスキーがとても良かったですね。
本格的なファットスキーを否定する訳ではありませんが、滑るのに少し難しさを感じる(技術を必要とする)ものの方がより楽しさを感じるように思います。」

 だって。うーん・・・名人は言うことが違うな。そういえば、新雪では沈まなければいいというものではなくて、ニセコで借りたファットスキーも、適当に沈んでいくところに快感があり、さらに浮かび上がってくることに浮遊感もあったね。沈んじゃうと難しさもあるんだけどね。とはいえPON200Nの楽しさを否定する気持ちもないよ。
 つくづくスキーは奥が深いと思ったし、やっぱり角皆君は天性の“冒険野郎”なんだと再認識した。こんな人間を親友に持つことを僕は誇りに思うし、自分はしあわせ者だと思う。
来シーズンは、もっともっとうまくなって、スキーの醍醐味を味わい尽くすのだ!



Cafe MDR HOME

© HIROFUMI MISAWA