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三澤洋史 

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 ベートーヴェンの不滅の恋人は、ズバリこの手紙の受取人であるアントニー・ブレンターノである。アントニーは夫がウィーンを去ってフランクフルトに帰る時に、夫と別れてウィーンに留まる決心をした。何故ならベートーヴェンを愛していたからである。ベートーヴェンもその決心を快く受け容れたであろう。恐らくとっても情熱的に・・・42歳の脂ののりきった男の勝負時!
 そこでアントニーは、自分の生涯の軸足を完全にベートーヴェンに乗せて生きようとしたがその矢先、ある重大事実が発覚した。それは、彼女が夫の子どもを妊娠していたという事実である。当時は堕胎は死刑に値した。すなわちそのことによって二人の間には決定的な障害が立ちはだかってしまった。
 だからベートーヴェンの彼女に対する1812年7月6日及び7日の手紙の内容は、あのように「アントニーに愛されている」という事実を踏まえて、切迫はしていながら彼の方にある種の余裕があり、相手にはむしろ冷静であることを求める内容になっている。

 問題はそれだけではない。テレンバッハという研究家によると、実はベートーヴェンは、この手紙を出す前に、1807年まで彼の恋人であったヨゼフィーネと関係を持ったというのだ。ヨゼフィーネの夫シュタッケルベルクはその頃ワケアリで蒸発中であった。ベートーヴェンはヨゼフィーネと偶然プラハでばったりと逢う。先ほどのアントニーに出した手紙のほんの3日前の7月3日の出来事だという。
 そして、それによってヨゼフィーネは妊娠する。つまりヨゼフィーネの7番目の末子であるミノナ・シュタッケルベルクはベートーヴェンの子どもであり、それが発覚したのは秋だといわれるが、ベートーヴェンは、その事実によって彼の「不滅の恋人」アントニーとの関係の進展の可能性を、永久に閉ざされてしまったのである。
 さらに、その後ベートーヴェンは、ヨゼフィーネにずっと送金し続けていたとテレンバッハは主張している。だから、当時あちこちの出版社から相当額の印税収入があり、結構裕福だったはずのベートーヴェンが意外に質素な生活をしていたというのだ。

 ひとことでいうと、さあ一緒に暮らそうと思った時に、相手が別れるつもりの夫の子どもを妊娠。その直前に元カノとアバンチュールしちゃったら、彼女が妊娠。八方ふさがりのダブル妊娠!その責任をとり続ける人生。なんちゅうこっちゃ!

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