真生会館「音楽と祈り」12月講座

三澤洋史 

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真生会館「音楽と祈り」12月講座
 5月から始まった、真生会館「音楽と祈り」講座も、もう7回目になる。この講座を準備するためにいろいろ調べたり祈ったりするので、この講座によって自分はとても勉強させてもらっているし、祈りによって自分の霊性が少しずつ高められているような気がする。
 夏に、松本在住の画家である山下康一君の奥さんの紅美さんが僕に忠告してくれた通り、今の僕は、原稿を書いたり講演をしたりすることによって学習を深める時期だというのが、本当に身に染みて感じられる。

即興演奏
 5月の初回の講座で、音楽の“インスピレーション”というものと、キリスト教で言われているところの“聖霊”との関係を語るにあたって、ひとつの例としてピアノによる即興演奏を行った。
 即興演奏は、どんな拙いものでも、インスピレーションがリアルタイムで降りてこないと出来ないものなのだ。もっとも、その前に和声の知識がしっかり頭に入っていないと、インスピレーションどころではないというのも事実。

 それが案外評判が良かったので、次回も調子に乗って即興演奏を弾いたが、実は、自分としては、即興演奏はそんなに上手だとも思っていない。昔、日本武道館にキース・ジャレットの演奏を聴きに行った時には、涙で席を立てないくらい感動した。彼の演奏は最初から最後まで100パーセント即興。ピアノ一台で、あの日本武道館の満員の聴衆を感動の渦に巻き込むんだから、考えられないほどの才能だ。
 バッハもモーツァルトもベートーヴェンもみんな即興演奏の大家だった。彼らはその場でテーマを与えられて素晴らしく演奏した。それから比べると、自分の演奏なんて取るに足らないと思っているから、ある時の講座では、話すことが沢山あったので弾かなかった。
 そうしたら、
「三澤さん、なんで今日は即興演奏をしなかったのですか?それを楽しみに来ているのに・・・」
と複数の方から言われた。
「へえ、そうなんだ」
と驚いた。普通の人は、譜面を見たら弾けるのは分かるけれど、即興演奏をする現場をあまり見たことがないので、是非続けて欲しいというのだ。

 それで、ちょっとだけまた考えを変えた。もしそれが何らかの信仰の証になるなら・・・それでみんながインスピレーションというものを体感できるなら・・・あのう・・・こんなんで良ければいくらでもいたします。
 それは僕にとっても利点がある。僕は、よく言っているように、音楽をしていない時はただのおじさんなのだけれど、作曲や演奏を通して音楽に関わっている瞬間だけは、ちょっとだけ霊的になる。自分でも弾いてみるまでどんな演奏になるか見当も付かないが、即興演奏を始めると、なんとなくその日の会場に集まった人たちの醸し出すオーラの集合が分かる。
 即興演奏で出てきた音楽を聴きながら、弾いている自分が、
「ほう、今日のお客様は、こういう人たちなのか」
と驚くくらいなのだ。それを講演の話し方や話題の持って行き方に生かすことが出来るから有り難い。

 では、それで何が分かるのかというと、一番分かるのはSympathy(親和性)とAntipathy(非親和性)の割合。それは僕の指揮者としての習性にも由来する。演奏会で指揮していると、自分の音楽に対してどのくらいの人がそれを受容し、あるいは感動してくれていて、反対にどのくらいの人がそうではないか、というのは昔からかなり分かっていた。
 講座においては、Antipathyと言っても、「揚げ足をとってやろう」と思っている人がいるという意味ではない。たとえばキリスト教に対してそれほど親近感は持っていないけれど、音楽家の僕に興味があって来ている人とか、その反対とか、「そもそも何を話しているのかな」とやや距離を置いて講座に臨んでいる人なのである。
 こういう人がいない方がいいという意味では決してない。むしろ多少いた方がいいかも知れない。何故なら、Sympathyが多いと、「分かっているよね」ということで、僕の話が先に行ってしまいがちになるのだ。
 ある程度Antipathyの波動を出している人がいると、より分かり易く丁寧に説明するだろうから、「分かっているつもりになっていたが、本当のところはよく分かっていなかった」というSympathy派の人に対しても、より深い理解に導いてあげることが出来るのだ。

 いずれにしても、どのレベルの人にとっても、
「自分にちょうど良いお話しだった」
と思っていただけたら理想だよね。これは、たとえばスキーのレッスンなどにも共通するけれど、良い指導者になるためにも、このSympathyとAntipathyを見分ける能力は磨いておいた方が良いと思う。

今月のテーマ
 さて、今月のテーマは「主の降誕とクリスマス・オラトリオ」である。これだけバッハに傾倒していて、しかも「音楽と祈り」という講座そのもののテーマに最も近い作曲家なのに、7回目にして初めてバッハを取り上げるなんて、考えてみるととっても不思議だ。
 講義の最初に、みんなで聖歌を2曲歌う。ひとつは、マルティン・ルターが作詞作曲したといわれるコラールVom Himmel hoch da komm ich her(高き天より我は来たりぬ)の日本語訳「いずこの家にも」(日本基督教団賛美歌101番)と、有名な「まきびと」(カトリック聖歌集653)だ。特に最初の曲は、クリスマス・オラトリオで何度も出てくる重要なコラール。

 実は、これらのクリスマス聖歌に共通する特徴がある。それを解き明かしていってみたい。ネタバレしてしまうと、シュタイナーは音階のドレミファという下部は現世的、ソラシドという上部は形而上学的であると主張した。
 すなわち音階をソラシドと上がってメロディーを作ると、天に昇る様子、あるいは天を憧れる表現となり、反対にドシラソと下がるメロディを作ると、天から恵みが降りてくる様子が表現される。その効果は、シュタイナーではなくても、作曲家はみんな知っている。
 だから、ルターのコラールのドシラシソラシドは、高き天から救世主が降りてくる感じだし、「もろびと」こぞりて」のドーシーラソーも同じだし、「まきびと」のラシドーシーラーソーも、天を憧れ、その天から恵みが降りてくる表現なのである。
 それを最も効果的に使っているのが、ワーグナーの最後の作品、すなわち舞台神聖祝典劇「パルジファル」である。(ドーミーソ)ソーラーシードシーという「晩餐のモチーフ」。ソーラードドー(レミファソソ)の「聖杯のモチーフ」。ソドシラソという信仰のモチーフ。それら全てに、この音階上部の「神へと向かう人間の憧憬」と「神からの恩寵」の表現が実に効果的に使われているのである。これ以上の説明を聞きたい方は、どうか真生会館にいらしてくださいね。

 クリスマス・オラトリオについてであるが、まずその前に、日本のような12月24日と25日のみに集中するクリスマスの考え方に対し、ヨーロッパにおけるクリスマス週間あるいはクリスマス休暇について説明する。すなわち、ヨーロッパでは、12月24日のイヴから始まって、年内一杯を通って、年が明け、1月6日の「主の公現」の日まで、ずっとクリスマスなのである。
 そして、それに沿ってクリスマス・オラトリオも一部ずつ分けて、礼拝音楽として上演されるのがオリジナルの形なのだ。初演の時のスケジュールを見てみよう。

第1部1734年 12月25日 
第2部 12月26日 
第3部 12月27日 
第4部1735年 1月1日(主の割礼と命名の祝日) 
第5部 1月2日(初主日) 
第6部 1月6日(主の公現) 

 今回の講座のメインのテーマであるが、バッハは、この作品の中にある特別なメッセージを込めている。それは何か?これをネタバレしてしまうと、講座をする意味がなくなってしまうので、どうしても知りたい人は講座に来るしかありません。

 それと、この講座の中で、2020年3月21日北とぴあで行われる東京バロックスコラーズの「ヨハネ受難曲」演奏会チケットを販売する。定価4000円のところ3500円でお譲りします。
 また、8月11日に池袋の東京芸術劇場で行われた自作ミサ曲Missa pro Pace世界初演演奏会のCD及びDVDを限定5部ずつ販売します。CD500円DVD1000円です。これは、この日限定なので、売り切れたら2度と販売しません。
講座修了後すぐに僕の所に来てね。

 この12月講座を最後に、「音楽と祈り」講座は冬季休暇に入り、次は4月の第4木曜日から再開となります。

僕のスキーシーズンまでもう少しの辛抱
 12月の最初の週の中頃で、各スキー場に雪が降ったので、たとえば川場スキー場なんかは、
「ドカ雪が降りましたあ~!」
とか言いながら、オープン予定日を繰り上げて、6日金曜日からオープンした。さらにその週末は北日本を中心に天気が荒れるというので、また雪が積もるかと期待した。

 そこで、12月12日木曜日にバリトン歌手の秋本健ちゃんと川場に行ってみようかと初滑りの計画を練ったのだが・・・週末には全く雪降らずだし、また暖かくなってきてしまった。
 行こうと思っていた川場スキー場では、リフトが1本しか動いておらず、初級コースの桜川コースしか滑れないという。桜川コースというのは、滑り終わってセンターに戻る時しか使わない「帰り道」くらいにしか思っていないコースなので、せっかく時間かけていってリフト代払って滑る価値あるかなあ?というので、中止にしてしまった。そうなると、今週はずっと第九などで忙しいため、初滑りはやっぱり白馬で、ということになる。

 こんな時、本当は狭山スキー場がトレーニングには良いのだが、残念ながら今年はクローズしている。来年の秋に向けてリニューアルするということである。それを知ったのが10月後半で、とっても残念に思っていたら、11月始めのある日、秋本健ちゃんが、
「三澤さん、どうやら溝の口にスキー場があるみたいですよ」
と言ってきた。
「ええ?嘘でしょう!」
そこで調べてみた。確かにある。最寄りの駅は南武線津田山。スノーヴァ溝の口-R246という室内スキー場である。津田山駅から徒歩2分。それで健ちゃんとふたりで行ってみた。

 うーん・・・確かにスキーは出来た。しかし、滑り始めたら、あっという間に終わってしまう。狭山スキー場の3分の1もない。それにここはむしろスノーボードをする人の練習用施設だ。長い板や、鉄の棒などの上をジャンプなんかしたりしながらボーダーが滑っている。右側にはU字型のハーフパイプがあり、これは少しは楽しかったが、2時間コースも退屈になるくらい、やることがなかった。
 知らなかったけれど、お店の人に聞いたら、もう20年以上もやっているというのだ。ひとつだけの利点は、一年中やっているということだ。今度、真夏に忘れないように来てみよう。でも、それ以外はなあ・・・・本物の雪まで待とうっと!

 とか言っている間に、本物の雪に触れるのも、とうとう来週に迫ってきたぜ。我が家は、12月26日木曜日から白馬に行く。6歳になった杏樹は、身長が110センチ近くになってきたので、今シーズンから新しい1メートルの板を履く。先シーズンの「マエストロ、私をスキーに連れてって」キャンプでは、80センチの板を履いて、中級者のキャンプに混じって、あの急なグランプリ・コースやダイナミック・コースをスイスイと滑って、疲れるとペタッと尻餅をつきながら休んでいたけれど、今年はどうなのかな。

 毎朝、パソコンを開ける時、白馬五竜スキー場と、川場スキー場やGALA湯沢のホームページを見てから、必要なファイルを開ける生活がまた再開した。
早く始まらないかな、僕の正式なスキーシーズン。
もう今からドキドキしているんだからね。



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