ZOOMレッスンとYouTube映像

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

自分の指揮法を見つめています
 9月から、生徒をとって、指揮の個人Zoomレッスンをすることにした。コロナの渦中でお金を稼ぐためだったら、これまでの方がたっぷり時間があっただろうに、何故今になって?と思われる人もいるだろう。
 でも、そういうことではないのだ。むしろ、今までのたっぷりした時間の中で、自分の指揮法を見つめ直し、エッセンスを煮詰めた結果だといったら、少しは分かってもらえるかも知れない。

 実は、僕は最近まで、弟子をとることに関して全然積極的でなかった。矢澤定明君をはじめ、何人か臨時レッスンをしたことはあったが、僕の生活があまりにも不規則で、かつ突然舞い込んできた練習の準備や原稿の締め切りなどに追われて、先生である僕の方からドタキャンしたりすることが多く、生徒も呆れて、誰も寄りつかなくなってしまった、というのが現状である。
 また、自分の指揮法が煮詰まっていなかったというのもある。僕にはまだまだ実践の中で学ぶことが多く、それぞれの知識は断片的で、これを統合するには早すぎると思っていたし、そのために思索する時間も余裕もなかった。

 ところが最近になって変化がおきた。スキーや水泳をやるようになってから、自分自身の指揮のあり方を冷静に分析することに興味が湧いた。スキーでは、特に、親友角皆優人(つのかい まさひと)君の個人レッスンを受けたり、「マエストロ、私をスキーに連れてって」キャンプを二人で行うようになって、自分では気づかないフィジカル(身体的、物理的)な要素を矯正することにより、僕自身やキャンプ参加者たちが驚くほど欠点を克服するのを目の当たりにした。そして、それを、自分の指揮法にも応用できることに気が付いたのだ。

 そのひとつの結果を、僕は著書「ちょっと お話ししませんか」(ドン・ボスコ社)の第3章「私の指揮法」というエッセイにまとめてみた。その冒頭にこう記述した。

実は、最近自分の指揮法が一つの形を成してきたので、指揮法の本を書こうかなと思っていた。
でも、よく考えてみたら、私の指揮法は、私個人の音楽的欲求に深くかかわっているため、万人に理解してもらうためには、既製品のような普遍性を獲得しないと絶対に売り物にはならないと思ってあきらめた。
 これについては今でもそう思っている。しかし僕は、「本として出版するとしたら、既製品のようにならなければ売れない」と言っているのであって、個人の資質にきめ細かく対応したindividualなレッスンでは、また違ったアプローチができると考えているのだ。

「天才は1パーセントのインスピレーションと99パーセントの努力の賜物である」
とトーマス・エジソンは言った。その元の文章は以下の通り。
Genius is one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration.
すなわち、
「天才とは1パーセントのインスピレーションと99パーセントのパースピレーション(汗)である」
という駄洒落なんだ。あはははは。エジソンって面白い人だニャア。

 これをアスリートやアーティストに当てはめてみると、1パーセントの、
「オレにはできる!」
という確信や、天から振ってきたとしか思えないようなイメージを、99パーセントの、
「それをどのように行ったら最も能率良く到達出来るのか?」
という、この世界に於ける現実的で物理的な果てしないアプローチと合体させて初めて、彼らに勝利が訪れるということであろう。
 その1パーセントがないと話にならないのはみんな一緒だが、99パーセントの中にある「無駄な努力」あるいは「無数の失敗例」を避けて、少しでも勝利に到達する距離を縮めてあげることが、トップ・アスリートを指導しているコーチがやっている仕事ではないだろうか。であるならば、僕も、同じように1パーセントのインスピレーションをどう具現化したら良いか迷っている指揮者の手助けをしたいと思い始めたのである。

YouTube映像の配信
 さて、その第1歩として、とりあえず「三澤洋史のスーパー指揮法」なるものをYouTubeにアップした。 あえて「基礎編」とした。それは前述したように、99パーセントのperspirationの部分に完全に限定した、純粋にフィジカルな領域でのメソードだからだ。逆に言うと1パーセントの部分には“意図的に”踏み込んでいないということである。
 何故踏み込まないかというと、たとえば斎藤秀雄氏が書いた指揮法教程(音楽之友社)のように、
「この曲のこの部分は、この形で振るべし」
というような“外側からの形の強制”は避けるべしと思うから。
 斎藤メソードの素晴らしさは百も承知であり、僕も一度は感化されたことを白状しよう。だから結構知っている。しかしながら、そのメソードに従うと、たとえばベートーヴェンの交響曲第1番第2楽章は、この形で振らないと絶対に駄目、ということになり、全員が判を押したような動きになってしまうのだ。
するともし、
「音楽的には、自分はこういう風には演奏したくない」
と望んでも、その想いは“完璧なメソード”の前に無視されるわけだ。それでは99パーセントを助ける前に、そもそも1パーセントのクリエイティヴな想いを殺してしまい、本末転倒だということに僕は早くから気付いていたのである。

 であるから、「三澤洋史のスーパー指揮法・基礎編」では、徹頭徹尾フィジカルな要素に限定している。具体的に言うと、放物運動とふりこ運動を基本とし、とにかく、
「このような運動を行えば、このような効果となってみんなに伝わる」
という因果関係のみを伝授した。
 とはいえ、これを100パーセント会得して自由に使いこなせたなら、恐らくどんな曲でどんな解釈をしようと、その想いは完全に奏者に伝わるであろうことを断言しておきたい。
 僕は、この講義の最後で、
「放物運動とふりこ運動は、指揮法におけるプルーク・ボーゲンです」
と結んでいる。
スキーにおけるプルーク・ボーゲンの位置というのは、一般的にはこうである。つまり、
「プルーク・ボーゲンは、パラレルに至るまでの初心者が行う滑りであって、一度パラレルを取得したら、もうやらなくていい」
 ところが、上級者でもプルーク・ボーゲンはやらされるのである。それどころか、プルーク・ボーゲンは最大の教師であり、スピード値の低いこの運動で見出される欠点を落ち着いて直すことによって、上級の滑りが飛躍的に改善されたりするのだ。だから、謙虚になって時々自らプルーク・ボーゲンに還って、自らの滑りをチェックする必要があるのだ。
 ということで、僕は、上級者にも、時々放物運動とふりこ運動に戻って、自分の指揮を振り返って欲しいと思っている。

 この1時間半にわたるYouTube映像を観て、何人もの人たちが、
「これが無料だなんてもったいない!」
という感想をくださった。
「これだけでも結構充実した内容なので、これだけ観て満足してしまって、実際にレッスンは受けないという『いいとこ取り』する人、多いと思いますよ」
 でも、僕はそれでも全然構わないのである。それこそ、世のため人のためだ。それにね、世の中の指揮法のレッスンでは、このくらいで完結するレベルのものが出回っているかも知れないが、僕として本当に教えたいことは、まだなんにもここには入っていないという自負があるのだ。
 ZOOMレッスンで僕がやりたいことは、ここから先の個別論なのだ。生徒がこういう音楽をやりたいと示し、僕は、それならば、こういう方法が最短距離だよ、と細かく教えたいわけである。言葉で言うと簡単だが、これができるためには、先生の方に沢山の“引き出し”がないと不可能なのである。
 恐らく、初回などは、「基礎編」の運動を画面の向こうでやってもらうことに終始してしまうかも知れないが、その後のレッスンの内容は、相手次第で、まさに名前の通り「スーパー指揮法」となることを約束したい。

 実は、この「スーパー指揮法」という言葉、ふたりの娘達からは、
「パパ、ダサイ!ヤダ、信じられない!どうして発表する前にひとこと相談してくれなかったの?」
と強烈なクレーム攻撃を浴びた。あははははは!

「合唱指揮編」が仕上がりました!
 さて、今は8月17日月曜日の午後。本当は、月曜日の午前中に「今日この頃」の更新原稿を完成させ、Cafe-MDRの管理者であるコンシェルジュに渡すのが常であるが、今日は朝から、このスーパー指揮法「基礎編」の続きである「合唱指揮編」の編集にかかっていて、やっと先ほど完成させ、YouTubeにアップさせた。そのために、更新原稿の完成が遅れていて、コンシェルジュをヤキモキさせていたというわけである。

 この「合唱指揮編」は、また凄いでっせ!なんてったって、「基礎編」で主張していることを「合唱指揮編」で自ら覆しているんだからね。何?それじゃあ、ワケ分からなくなってしまうがな、って?まあまあ、慌てないで、ゆっくりご覧になってください。

 「基礎編」では物理的運動を徹底的にやった。物理学の世界では、初級で扱うものは、円だとか正方形とか単純な形が多い。そこでの法則性を数式に表すとすれば、そんなに複雑ではないだろう。しかしながら、実際の自然界では、完全な円とか完全な正方形などというものは、ほとんど存在しない。自然界は、もっともっと多様で複雑なのだ。
 放物運動でもそうだ。実際にバッターがヒットを打ち、それが放物線を描いて飛んでいくのを外野手が追っていく時でも、実際には風が吹いたり空気摩擦があったりと、計算を複雑にするような要素が沢山加わってくる。しかし基礎では、単にそうした要素に目をつむって、計算を簡単にしているだけなのだ。
 指揮の運動でも、上級になるにつれて、多様な表現のために多様な運動性を必要とする。しかし、それは物理に反するものではなく、それどころか、よりリアルに物理的と言えるのである。ふりこの運動を計算するよりも、人が乗ったロケットを月に飛ばして、帰ってくるルートを計算する方が、物理的には深いだろう。それと一緒だ。
 だから、実際には「合唱指揮編」の方が高級な内容を含んでいるのだが、これも、あまり深入りしすぎるといけないので、この「合唱指揮編」も、本当は「合唱指揮編の基礎編」って感じです。映像の中でも、深入りしたいのを随所でグッとこらえている講師の姿が微笑ましいです。

レッスン内容の告知
 さて、レッスン受講の具体的内容の告知及び受付ですが、Cafe-MDRの来週の更新(すなわち8月24日月曜日の夜、ないしは25日火曜日の早朝)まで待って下さい。
とはいえ、今分かっている情報だけ書きます。これらはまた来週、あらためて発表します。

1. 当面、個人レッスンは45分間で\5.000で考えています。何?安いって?だから儲けるつもりあまりないんだってば!人によっては、将来的に人によって1時間に延ばしたりすることも可だし、2レッスンぶっ通しで独占、ということもできるかも知れない。でも、初回はともかく、基本運動をやっていただきながら、次のレッスン内容を決めると思うので、まずは全員45分間にします。
料金は、レッスン後1週間以内に指定の口座に振り込んでもらいます。

2. 来週までに、専用メール・アドレスを開設。
そこに申し込みを行い、受講希望者と、レッスン時刻や、レッスンで受講したい曲などの相談を行います。

3. レッスン時間帯 月ごとに予定を出す
たとえば以下の通り
平日:基本的に、火、水、木
たとえば9:00-9:45 10:30-11:15 11:30-12:15 21:00-21:45という感じ 
もしかしたら20:00-20:45もあり
土日及び休日:要相談(月ごとに異なる)

4. 受講資格及び条件: なし
プロや音大生でなくとも、アマチュアの方も大歓迎 
ただし、全くの初心者は難しいかも知れない
Zoomなので海外からも可
条件としては、
「三澤洋史スーパー指揮法 基礎編」を
それなりに体でマスターしていること
5. 受講者が用意する物
1. 指揮棒(合唱を習いたい人も必要)
2. メトロノーム(必ず自分で用意すること)
こちらの音に合わせて指揮すると
Zoomの時差のため全然合いません
 
3. 自分が習いたい曲の音源が鳴らせる機器(あるいは伴奏者)
これは2度目のレッスン以降に必要

 

注意点: ZOOMでは時差があるため、双方向での音楽の同時進行レッスンには困難が伴うことを了承しておいてください。

 ということで、別に受講を希望しない方も、まずはのんびり「三澤洋史のスーパー指揮法」を覗いてみてください。「のんびり覗いて」といっても、「基礎編」で1時間半、「合唱指揮編」で1時間8分の長さなので、まあ、ちょっとハードかな。
何度かに分けて観てもいいのです。



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