「チェネレントラ」いよいよ舞台へ

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

今日この頃
 通常ウィークデイは、孫娘の杏樹を6時に叩き起こし、7時過ぎに立川にあるシュタイナー学校に妻か長女が車で送っていくので、僕も一緒に車に乗って、それから僕だけ徒歩で、自分の決めた散歩道を帰ってくるのを日課にしている。

 散歩するために、ノルディック・ウォーキングのストックを持っているので、杏樹の学校に子供を送ってくるお母さん達の間で話題になっているらしい。
担任の先生は、
「おじいちゃんは杖をついているね」
と杏樹に言ったそうだ。
「杖って言うと人聞き悪いね。まるでおいぼれのようだね」
「あははははは!」

 途中、国立第1小学校の裏の、竹林に囲まれた薄暗い祠のような神社でお祈りをするのが日課。ここは静かでとてもいい気が流れている。神社でのお祈りは、何か下心を持って個人的な願い事はしない方がいい。僕はただ感謝するだけ。
 それに僕が対象としているのは狐や猿田彦なんかではなくて、全知全能の創造主。するとね、神社は特に異界への入り口として、現世との境界線が緩くなっているので、神の息吹を感じることが出来る。神社によっては、
「オレの領域なのに、何故オレを拝まない?」
と、感じ悪い気を送ってくる所があるが、そういう所には行かない。神様どころか、ろくでもない者が居座っているので要注意。

 でも今日の9月20日月曜日は休日なので、杏樹はママの志保と一緒に寝かせておいたまま、6時過ぎ、僕と妻、そして久し振りに泊まりに来ている次女の杏奈と3人で、自宅から府中方面に向けて散歩に出た。

 温帯低気圧に変わった台風が通り過ぎた後の、雲ひとつない抜けるような青空。また、もはや夏のかすかな名残りすら見せない凜とした秋の肌寒い空気。なんという爽やかさだろう。今年の9月前半は結構涼しかったので、曼珠沙華の開花は早く、まだお彼岸にもなっていないのに、すでに枯れているものも目立つ。

 そういえば、8月の最後の週や9月の最初には、散歩中の道ばたに沢山の蝉の死骸があり、それで夏の終わりを感じていたが、今年は自宅待機中だったのでパスしちゃったなあ。

 先週、1日だけ、新国立劇場の「チェネレントラ」の合唱立ち稽古が、ソリストの稽古に専念するため休みになったので、久し振りに立川の柴崎体育館に泳ぎに行ったが、あまりに筋力が落ちていたので愕然とした。筋肉って、ちょっとサボるだけですぐ落ちるんだね。
 8月15日までは、「おにころ」や愛知祝祭管弦楽団、あるいはいくつかの合唱団の練習などで指揮をしていただろう。それがコロナになってベッドに寝たが、せいぜい4日間くらいだよ。それなのに、ちょっと泳いだだけで“腕そのもの”が疲れるんだ。あーあ、早く取り戻したい!毎日プールに行きたい!まあ、近くに大きな本番はないので、急がなくてもいいんだけど、自分の体力が落ちるのは嫌だね。

 月刊誌音楽現代11月号は「オペラと合唱」というシリーズだということで、原稿を依頼された。最初は常識的に、「オペラの中における合唱の役割」みたいな内容で書き始めたのだけれど、書いている内につまらなくなって・・・というより、何もこれは僕が書かなくても誰かが書くだろうね、と思って、途中でコンセプトを一転。
 2001年9月から新国立劇場合唱団指揮者になって20年の軌跡を、ベルカント唱法の神髄を追い求める歴史として書いて、推敲を繰り返し、まさに今朝、音楽現代に送ったところだ。たぶんこれは僕でないと書けない記事なので、皆さん楽しみにして下さい。

 今日はこれから「チェネレントラ」のオーケストラ合わせ。明日からはいよいよ劇場エリアに入り、舞台稽古。今週も忙しい。 


スキー・キャンプ速報
 次シーズン「マエストロ、私をスキーに連れてって2022」キャンプのお知らせです。受付開始は10月からになります。このホームページで新しくご案内しますので、焦って前のメルアドに申し込まれても無効なので気を付けてくださいね。人数制限などはないので、慌てなくても大丈夫!

 次シーズンのキャンプは、Aキャンプが1月8日(土)、9日(日)、10日(祝日)で、Bキャンプは2月26日(土)、27日(日)です。

 特にAキャンプは、年が明けてからすぐなので、早めに決めておかなければと思い、角皆優人君と相談して、現在のところは以下のような感じになっています。詳しい時間などは、これから詰めていきます。

1月8日(土)
キャンプ受付は午後
第1レッスン(午後)
1月9日(日)
第2レッスン(午前)
第3レッスン(午後)
講演会(夜)場所未定
懇親会?
1月10日(月)
第4レッスン(午前)
第5レッスン(午後:五竜&47トレイン・ツアーを含む)
 というように、Aキャンプは、3日間に渡る、まさにキャンプそのものの内容だ。5つものレッスンが受けられ、驚くほどの上達を約束しましょう。

 第1レッスンでは、どのレベルの方も難易度を上げずに、まずは基礎を固めます。基礎だから楽だと思ったら大間違い。各自の欠点を徹底的に追求し、足並みを揃えて第2レッスン後に備えるためです。
反対に、初心者や初級者については、受講者の目線に立って、やさしくやさしく指導します。生まれて初めてスキー板を履くという方でも大歓迎!また20年以上スキーをしていないので、新しいカーヴィング・スキーを履くのが恐いという方も、絶対恐がらせることなく、キャンプが終わってみたらスーイスーイですよ。そのためにも第1レッスンは、とても大切です。

 第2レッスンから第4レッスンまでが本レッスンの扱いです。ガッツリやります。とはいってもスパルタではないです。当キャンプのレッスンでは、どのクラスもみんな楽しく明るい雰囲気の中で、気が付いたら上手になっていた、というのを目指します。勿論ビデオ撮影及び鑑賞会(反省会)付きです。

 第5レッスンは、総仕上げでもあると同時に、班ごとになって47(フォーティセブン)も含む広大な五竜スキー場のツアーをします。初級者などはアルプス平にゴンドラで上がるだけでも、恐いかも知れませんが、逆に47には、とてもなだらかで楽しいコースがあったりします。
 普段なかなか行かないところにトレインなどしながら踏み込んで行く間に、ひとりひとりには大きな発見があるでしょう。また次にひとりで来た時に、あそこに行ってみようかな、と滑走域が広がるのも楽しみのうちです。

図表 白馬五竜スキー場のHAKUBA47ゲレンデの絵図
Hakuba47

講演会は1月9日日曜日の夜行います。これは基本的に参加必須です。

 Aキャンプではひとつ問題があります。この時期は宿泊にどうしてもカーサビアンカがとれなかったため、講演会場が決まり次第、その周辺のペンションなどを推薦しますので、各自申し込んでいただきたいのです。

 キャンプ料金ですが、基本的に一人\35.000となります。年明けてすぐなので、残念ながら早割はありません。全行程参加が基本ですが、8日の第1レッスン、あるいは10日の第5レッスンに参加するのがどうしても難しい、という方がいるかも知れません。その方達は一人\30.000となります。それ以上の欠席は基本的には認めませんし(キャンプの意味がなくなってしまいます)、どれだけ欠席しても\30.000はいただきます。

 2月26日土曜日及び27日日曜日のBキャンプについては、これまでの通常のキャンプ通り、26日土曜日午前の第1レッスンから27日午後の第4レッスンまでで、宿泊は基本的にカーサビアンカ。2月25日金曜日のプレ・キャンプも検討中。
26日夜の講演会も懇親会もそこで行います。
こちらは年内申し込みに限り、1割引の早割がききます。すなわち\30.000の参加費が\27.000となります。

 先シーズンの経験から言いますが、スキー場ほど安全な所はありませんよ。みなさん、どうかふるってご参加くださいね。新しいメルアドは10月4日月曜日の夜更新の時に発表予定。でも、別に先着順ではないからね。
 言っておきますがね、僕は次シーズンにスキーをしたくてたまらないし、みなさんとその楽しみを分け合うのを何より楽しみにしています。
 

「チェネレントラ」いよいよ舞台へ
 新国立劇場の新シーズン開幕を飾る、ロッシーニ作曲「チェネレントラ」の稽古場での立ち稽古が9月18日土曜日の第2幕通し稽古で全て終了し、これを書いている今日の9月20日月曜日は、マエストロ城谷正博さん(マウリツィオ・ベニーニの出演キャンセルのため)によるオーケストラ合わせ。そして21日火曜日から、いよいよ劇場の本舞台での立ち稽古となる。
 新国立劇場のホームページでも見れるが、舞台美術及び衣装を担当するアレッサンドロ・チャンマルーギ氏の夢溢れる美術スケッチのホンモノを早く見たいものだ。また、来日が遅れていたドン・マニフィコ役のアレッサンドロ・コルベッリが、今日のオケ合わせから参加する。
 これまでカヴァーの畠山茂さんがとても頑張って、演出家粟國淳(あぐに じゅん)さんのつける細かい動きに対応しながら、全体のアンサンブルの中で占めていた位置に、ベテランで百戦錬磨のコルベッリが、どのように入り込んでいくのか、とても楽しみである。

 ドン・ラミーロ役のテノール歌手ルネ・バルベラ氏のテクニックには驚嘆させられる。ベルカント唱法というと、地声を主体とした高音でバリバリ鳴らすだけのように勘違いしている人が多いが、本来は、こうした下の音域から最高音まで、あるいはピアニッシモからフォルティッシモまで自由自在に駆け抜けるのが理想だ。
 コロラトゥーラは完璧だし、ハイCどころかDまでも輝かしい声で出すが、その一方で、恐らくその気になればバッハの福音史家だって可能な、恐るべき声の柔軟性を持つ歌手だ。

 僕たち合唱が共演した立ち稽古初日。さあ、始めましょうとなったのに、彼は我々みんなを待たせて、こう言う。
「どうも悪いものを食べてしまったようで、トイレに行って今お腹の中が空っぽなんだ。お願いだから、ちょっとこれだけ食べさせて!」
 そこで取り出したのは、コカコーラ(500ml)と円筒形のポテトチップ。それを開けるやいなや、全員の前で、コーラをゴクゴク、ポテトチップをバリバリ。あっという間に全部飲み干し食べちゃった。
 お腹悪いのに、コーラとポテトチップを最速で完食・・・・経歴を見たら、イタリア人ではなくてアメリカ人なんだね。なるほど。それから突然元気溌剌になって、ハイトーンも抜かずにエネルギー全開!いやはや、やはりタダ者ではない!

 主役のアンジェリーナ(チェネレントラ)を演じている脇園彩(わきぞの あや)さんの健在ぶりは先週も伝えたが、その評価は変わらない。それどころか、演出が体に入ってくるにつれて、歌唱力の確かさに彼女の全身から醸し出すシンデレラの魅力がどんどん加わってくる。今や日本人というくくりは何の意味も持たない。
 その意味では、ダンディーニ役の上江隼人(かみえ はやと)さんも似ているが、今回は彼の変身ぶりに驚いた。トイレで一緒になったので、
「こういう役やるの珍しいね」
と言ったら、
「初めてなんですよ。もう大変です!」
と言う。
 コロラトゥーラの歌唱は、最初の方にはややぎこちなさが残っていたが、凄い努力家なんだろうな。日に日にピタッとリズムにハマるようになってきて、今では、元々こうしたベルカント・オペラのブッフォ歌手だったのでは、と思われるほどだ。
 シリアスな役をやると、声量的にもの足りない、などと馬鹿なことを言う人がいたりするが、彼は少なくとも、自分の体を完全に使い切っていて、押したり力んだり全くしないところが潔いのだ。だからこういう軽妙な役も歌えるし、朗々とした歌唱には元々他に追従を許さないところがある。こういう歌手を評価しないといけない。

 さて、まだまだ練習は続く。本番前最終報告を来週しますね。でも、これは行っておいた方がいい公演であることを僕は保証します。



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