ある週末
ねえ、みんな聞いて!最近の僕のブーム、何だと思う?それはね。このブラッド・オレンジ・マーマレードです。これがめっちゃおいしくて、2瓶目買ったところ。焼いたパンドミにバターを塗って、さらにその上から付けて食べると、もう朝からしあわせいっぱいです。
みなさんにお奨めします。
成城石井で売ってます。
ちょっと高めだけれど、けっして後悔しないからね。
Locanda la Posta の Arance(オレンジ)Rosse(赤い)
水泳と指揮
先週はプールに4日連続で行った。「チェネレントラ」の本番が始まると、公演の間が2日ずつ休みになるし、10月6日水曜日は公演があっても19時開演だったから、昼間はずっと空いていたのだ。立川市柴崎体育館は第1月曜日が休館日だったので、10月4日(月)は行かなかったが、5日(火)から8日(金)まで午後の時間で毎日行けた。これでだいたい僕の体力は、一番体調が良い状態に戻った。
魚座だからかな。僕はそもそも水の中にいるだけで、とってもしあわせになるんだ。それに水の浮力で体が重力から解放されるため、腰や足に負担がかからなくなり、ちょっとした無重力空間のようになるじゃない。あの開放感がたまらない。
クロールで、キックしながら手で掻くと、自分の体がまるでカヌーのようにスーッと前へ進む。その時とっても大切なのが、ストロークでもキックでもなく、反対側の腕の伸ばし方なのだ。白馬で習った松本弘先生なんか、
「三澤さん、あと30センチ伸ばしてください」
なんて言う。
それは平泳ぎでも一緒で、両手で掻いてからリカバリーで前に戻す腕の形ひとつで、抵抗力が大きく変わるからスピードに差が出てくる。
水泳はね、最初はとにかく掻いて進むことばかり考えるけれど、こういう「抵抗をなくす」ということの楽しさに目覚めると、まあチマチマしているといえばそうなんだけど、けっこうハマるのだ。腕の形ひとつで、本当に体が滑らかに前に進むのだ。その爽快感は格別だよ!
僕にはモットーがあって、絶対に自分のやるスポーツに“競争原理”を持ち込まないことと決めている。当然、レースには出ないし、タイムとかにもこだわらない。従って資格とか検定とかも無用。誰かより下手とか上手とか、勝ったとか負けたとか、全く興味なし。
でもね、じゃあただ楽しんでいればそれでいいかというと、それも絶対嫌なんだ。人とは比べないけれど、自分としては少しでもうまくなりたい。水泳でもスキーでもサイクリングでも、無駄なく、なるべく効率よく美しい形で行いたいのだ。
さて、水泳が好きなのにはもうひとつ理由がある。実は、指揮者である僕にとって、あらゆるスポーツの中で、最も“指揮の運動”に影響を与えるのが水泳なのだ。たとえばストロークだが、手の平の形や腕の角度やトレースなどいろいろ研究して、効率よく水を掻けるようになったと思ったら、同じような筋肉を使っているので、指揮する腕の筋肉がなめらかに動くようになっていた。
ビート板を使ってバタ足の練習をする時に、意識して、股関節からの運動を起点とし、その運動をしだいに、膝関節、足首、そして指関節に至るまでつなげていく。これは足の運動ではあるが、これを意識化し、腕の運動に応用する。すると、レガートの指揮における動きの精度がさらに上がってきたのだ。
指揮法においては、指揮の運動は、原則、肘関節を起点としている。4拍子、3拍子などの基本運動は、まず肘関節を使って練習する。しかし、レガートの場合、起点はもうひとつ上の肩関節なのだ。肩関節の運動が肘関節に伝わっていき、さらに手首、そして指関節ないしは指揮棒の先まで連動していく。その時、僕が腕を、あたかもバタ足を行うように波打たせながら、運動をしだいに先端にまでつなげていくならば、極上のレガートのフレージングが意のままに得られる。
さらに言うと、「パルジファル」の第1幕「転換音楽」のような超濃厚レガートの場合には、起点は肩関節よりももっと奥の“肩甲骨”となる。その時には、肩甲骨でフレーズを感じ、肩を経由して腕に伝えていくが、ただ腕を振るだけではなく、ちょうど水を掻くくらいの負荷を腕の内側に課すのだ。
するとその負荷は、たとえば弦楽器の弓と弦との間の圧と連動する。あるいは管楽器奏者が楽器に吹き込む息の圧に連動する。その結果、爽やかなレガートから超濃厚なレガートまで意のままなのだ。
だから「風が吹くと桶屋が儲かる」ではないけれど、僕が水泳をすると、愛知祝祭管弦楽団コンサート・マスターの高橋広君の腰が上がってくるような相関関係があるのです(笑)。ストロークで腕の内側にかかる圧をイメージして指揮すると、広君の腰は10センチ、もっと圧をかけると20センチ上がります。
まあ、指揮をする目的でプールに通っているというわけでもない。これらの事柄は、泳いでいる間に自然に気づかされてきたことだし、純粋に楽しいから僕は泳いでいる。とはいえ、もっと大きな意味で言うならば、これも天の摂理なのかも知れない。少なくとも、僕が泳ぐことを神様は喜んでいるのは間違いないな。
そんなわけで、プールに行った日はいつも体調が良い。でもね、僕の場合、仕事に差し支えるので、1500メートル以上は、どんなに調子が乗っても泳がないようにしている。クロールと平泳ぎを混ぜて1000メートル。それからキックやストロークの練習を混ぜて、まあ平均1300メートルか1400メートル泳いで帰ってくる。
さあ、これからお昼を食べて新国立劇場に向かう。今日は「チェネレントラ」5回目の公演。あさってでいよいよ千穐楽となる。