「マエストロ、私をスキーに連れてって2022」Bキャンプ無事終了

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

「マエストロ・キャンプ」までの道のり
 後で語るが、Aキャンプに引き続き、Bキャンプも無事終了した。だが、そこに辿り着くまでには、ちょっと辛い道のりがあった。まず、残念だったのは、とっても来て欲しい音楽家の人が、濃厚接触者になってしまって前日キャンセルになってしまったこと。
 実は僕も、関係しているある団体でコロナ陽性者が出て、濃厚接触者になるギリギリのところでの参加だった。さいわい前日2月25日金曜日の午後に、新国立劇場で「椿姫」公演のためのPCR検査があったため、これで陰性が証明されれば心置きなくキャンプができると思った。

 その日は、検査の後「椿姫」最後の音楽稽古。それが終わってから中央本線で白馬に向かった。途中の電車でふと心配になった。
「もしも・・・もしもだよ・・・僕が陽性になったとしたら、明日からのキャンプは当然水の泡だよな。いや、宿泊先のカーサビアンカに泊まるのだって迷惑だ。そうなったら一体どうなるのだろう?今更今日中に家に帰るのは無理だし・・・」
 電車が安曇野を走っている頃、パソコン・メルアドにbiglobeのホームページからログインしてみた。劇場からメールが来ている。開けるのが恐い。ドキドキしてきた。
「本日検査受けた方は全員陰性でした」
ふぅーっ!
もうここのところ、そんな思いばかりしている。

 先日も団員に陽性者が出た。その団員は車で劇場に来ていて、発症前の練習後、仲間を何人か同乗させたという。その仲間達が濃厚接触者となるのは分かる。ところが、その濃厚接触者のひとりは、その後「愛の妙薬」の本番に乗っていたというので、楽屋でその人の化粧前のエリアにいた数人も自宅待機になってしまった。
「そんなの納得出来ない!」
と僕は反発したが聞いてもらえなかった。
 濃厚接触者の濃厚接触者なんて広げていったら、一億総濃厚接触者になっちゃうじゃないか。一億総自宅待機。社会が止まってしまう!
現に、次の日の「椿姫」の練習では、ソプラノ団員がわずか4人しかいなかった。これでは練習にならない。ま、劇場としては、「ここまでやってます」というところを見せたいのは分かる。

 バレエ部門でも陽性者が複数出て、大事な「吉田都セレクション」公演が中止に追い込まれてしまった。僕たちの「音楽スタッフ・ルーム」の向かい側はバレエの練習場で、吉田都さんが芸術監督になってから、バレエ部門の人たちの熱気がもの凄い。僕たちもコロナ禍でドアを開け放しているので、よけいそれが伝わってくるのだ。丹念に練習を積み重ねて、それが公演直前で突然中止になってしまった無念さは、僕たちも味わっているので良ーく分かる。本当にお気の毒!

 しかし不思議だと思うのは、オミクロン株が世間に出回ると、今までのデルタ株などは、そのことで駆逐されてしまって、もうオミクロン株だけになってしまうんだね。この地球上の生物を見たら、象さんもいればキリンさんもいて、人間だって白人も黒人も黄色人種も共存しているじゃない。ウイルスの世界には共存がないなんて、どうも理解が出来ない。いや、オミクロン株になって重症化が少なくなるのはありがたいので、デルタ株が消えてくれるのは、それでいいんだけど、自然界って不思議なことがいっぱいある。
 
 まあ、そんな中で、マエストロ・キャンプをやること自体、問題を感じる方もいらっしゃるだろう。
「そんなことしていていいんですか?感染者が増えることにつながりませんか?」
という風にね。しかし、僕はどんな状況下においても、自分からアクティブに生きることはやめない。
 人生は何のためにある?ただ長く生き延びるため?僕はいろんなことを経験し、いろんなものを学び、時にちょっと悩んだり苦しんだりもしながら、いろんなものをエンジョイし、人生の最後に、
「ああ面白かった!」
と言って死にたいのだ。

 僕の一番嫌いな言葉は、
「そんなことして、どーすんの?」
だ。
そうじゃないんだ。無駄に見えるものにこそ、価値がある。本人がそれに真剣に打ち込むのであれば・・・。そして、そこから歓びを得られるのであれば、それでいいじゃない!
 

「マエストロ、私をスキーに連れてって2022」Bキャンプ無事終了
 そんな環境下で迎えた「マエストロ、私をスキーに連れてって2022」Bキャンプであったが、参加者はみんな意欲満々で、今年もキャンプをやって本当に良かったと思いながら帰途につくことができた。

 一日目2月26日土曜日は超快晴。真っ青な空からお日様が燦々を降り注いで、白銀が眩しかった。みんなでアルプス平の展望台で写真を撮ったが、ここから見る白馬連峰は、いつ見ても息を呑むようだなあ。

写真 アルプス平を背景に三澤洋史とキャンプ参加者
超快晴のアルプス平展望台

 レッスンも、とても実りあるものであったが、その夜の講演会には、基礎スキー界の大御所の平沢克宗氏と、パワーリフティング世界チャンピオンでチームレスキューという素晴らしく滑るワックスの会社を経営している沖浦克治氏が参加してくれて、とても盛り上がった。ここであらためて御礼を申し上げたい。

***

写真 キャンプ夜の角皆さんによるレクチャー風景
角皆君の講演

写真 キャンプ夜の三澤洋史によるレクチャー風景
僕の講演

 沖浦さんは、ある大会で競技をする前に、突然ある“至福体験”をして、本当に生きていること自体が素晴らしく幸せに感じられて、それから競技もすべてうまくいったと語ってくれた。
 彼は、パラフィンワックス(ロウ)一辺倒だったワックス界に、ポリエチレンという素材を持ちこんだ人で、それだけに飽き足らず、スキー板の滑走面そのものをワックス素材で作って、そもそもワックスを塗る必要のないスキーを開発したり、滑走面に穴を開けて、それが振動を呼び、良く分からないけれど、音波によってわずか空中に浮かせてスピードを出すスキー(理解が間違っていたらごめんなさい。頭悪いもんで)を開発したり、とにかく発想がユニークな人だ。
僕が、
「作曲をしたりバッハを演奏している時にはインスピレーションが降ってくるのです」
などと言った自分の講演が終わってから、沖浦さんに、
「どこから、そういう奇想天外な発明を思いつくのですか?」
と聞いたら、
「降ってくるのです」
と、しゃあしゃあと答えた(笑)。

写真 キャンプ夜の講演会出席者全員
講演後の集合写真

 天気の良い内と、レッスンビデオは一日目だけ撮った。その中で、他のメンバーには失礼ながら、講師の角皆君と、僕の映像だけ、切り取って編集したものを特別限定で皆さんにお見せします。
限定公開

 全員のビデオは以下の通りです。ここでは次女の杏奈もすべっているけれど、このキャンプの常連のようになって参加しているので、随分上達しています。

 二日目の2月27日日曜日は、雪。
「昨日と違ってお天気は良くないですが、みなさん頑張りましょう」
と角皆君は言ったが、まあスキー場だからね、雪はもとより覚悟の内。雨だったら嫌だけど、むしろこの雪に閉ざされた世界というのも、僕は嫌いではない。でも午後には風も随分出てきたから、早めに切り上げて良かった。

 孫の杏樹は、土曜日は、午前中までシュタイナー学校では授業があるため、午後遅くに白馬入りして、滑ったのは日曜日だけ。しかも、僕たちのキャンプではなく、全日本スキー連盟公認の白馬五竜スキースクールのジュニア・クラスに午前午後と放り込んだ。他に同じような子ども達もいて、先生もやさしく、僕たちのレッスンの近くでゼッケンを付けてトレインをやっていたりして楽しそうだった。

 音楽とスキー。このふたつは今の僕の人生において、切っても切り離せないものだ。また来年も絶対やるぞう!コロナ禍が早く明けて、みんな雪山に戻って欲しいと願っている今日この頃です。



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