Dream Concert無事終了

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

Dream Concert無事終了!
 今日から8月。今年は、6月後半が異常に暑くて、7月は逆に気温が下がったり豪雨だったり雷だったりと不安定だったので、「梅雨が開けてそれ夏だ!」という季節に沿った感動がなく、むしろ「今いつだっけ?」という感じだ。
 ただ「7月31日のコンサート」というのだけは、前々から僕の頭に強く印象づけられていた。我が新国立劇場合唱団が東京混声合唱団と共演するというので、とても楽しみにしていた。

 我が国において定期的に活動している2つの大きなプロ合唱団は、片やオペラ劇場専属合唱団であり、片や邦人合唱曲を委嘱して初演するなどのコンサート活動を軸にしている合唱団だ。
 しかしながら、あまりにレパートリーや活動拠点が違うため、棲み分けができていて、これまでライバル意識を持つこともなく、双方のメンバーがエキストラとして、互いの合唱団の間を行き交うことも少なく、すなわち、互いが互いをほとんど知らなかったのではないかな。

 それだけに東混の方から合同演奏の話が持ちかけられた時は、双方好奇心のかたまりだったに違いない。事実、練習はとてもスムースに始まり、良い雰囲気の中で進んでいった。僕は自分が指揮する第一ステージを、新国合唱団が得意とするオペラの曲目で埋め尽くすこともできたのだが、自分の独断と偏見で、バッハのモテットBWV229、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、ブラームス「ドイツ・レクィエム」第4曲などの作品を並べてみた。せっかくこういう機会があるのだから、双方にとってチャレンジアブルな演目に取り組んだ方が有意義だと思ったのだ。

 演奏会では、まず新国立劇場合唱団が単体で、マスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ」から「オレンジの花の香りは」を演奏した。これは、実際のオペラ公演のみならず、スクール・コンサートなどでも演奏するレパートリーなので、普段の新国立劇場合唱団の声の特性が良く現れていると思う。

 それから合同合唱となる。まず、モテットKomm,Jesu,komm(来てください、イエスよ)K229は、最初、両合唱団とも苦労したが、僕がバロックのビート感の話をし、
「特にバスの声部は、他の声部より硬めに歌って、自分たちの紡ぎ出したビートの上に上声部を乗せるように」
と指示したあたりから、みんなが「分かってきたぞ!」という顔をし始め、バロック的音符の処理とリズム感が際立ってきて、見ていてもどんどんみんなの顔が生き生きしてきた。すると互いに刺激し合って、最終的には僕の目指した躍動感に満ちた仕上がりになった。

写真 リハ―サルを指導する三澤洋史
Dream Concertリハーサル

 練習の休み時間や当日になっても、何人ものメンバーから、
「バッハはこれまで苦手だったんですが、こうやって演奏すると、こんなに楽しいものだって初めて分かりました」
という感想をいただいた。嬉しかった。

 モーツァルトの最晩年の短くも大傑作であるAve verum corpus (まことの御体)KV.618は、名古屋のモーツァルト200合唱団では、毎回コンサートのアンコール曲として演奏している。通常でも僕はかなり遅いテンポで演奏するが、今回は特に遅い。というのは、アマチュアでは絶対できない、腹圧の維持による息の配分と音圧の変化、それによるきめ細かな表情にチャレンジしたからだ。
 前半のin cruce pro homine(人類のために十字架で)のクライマックスに向かう導線、またCujus latus perforatum(その脇腹は刺し貫かれ)のmpから突然ppになってunda fluxit et sanguine(水と血とが流れ出た)の細かい表情変化を通して、この作品が、一般に理解されているように、
「静かできれいな曲ねえ」
などという居心地良い曲などではないことに気付いて欲しかったのである。
 この詩の中にあるキリストの肉体が死に向かう痛ましさ。その一語一語にきめ細かく対応するモーツァルトの陰影に富んだ和声を味わってもらいながら、キリストの聖体を拝領するということの深い意味を感じて欲しかったのである。

 ブラームス作曲「ドイツ・レクィエム」第4曲「あなたの住まいはなんと麗しい」は、本当にうっとりとするほど美しい曲だ。そして美しいだけでなく、重なり合うメロディーやフガートの部分もあり、凝り性であるブラームスらしい立体的な曲の仕上がりとなっているが、聴き終わってみると、後に残るのはブラームスの暖かさと優しさだ。

 そして、「ニュルンベルクのマイスタージンガ-」が来る。オペラ合唱団である新国立劇場合唱団のレパートリー。終幕の合唱ではハイCがソプラノに来る。でも、この流れの中で聴くと、最初のコラールから入って行くこともあり、宗教曲の延長のように感じられるのではないだろうか?それを狙っていた。
 特に、第2曲目のWach auf ! es hahet gen den Tag(目覚めよ、朝が近づいた)は、マルティン・ルターと同時代に実在したハンス・ザックスの詩を元にしたコラール。ザックスはルターの思想に激しく傾倒し、数々の宗教詩も作った。またルターの追求した信仰生活と勤労精神との合体が、「マイスタージンガー」という作品には随所で描かれている。

写真 ドリームコンサート本番を指揮する三澤洋史
Dream Concertから

 さて、第2部は、特にゲネプロ(当日の総練習)の時に、客席でじっくり聴いた。東京混声合唱団だけで歌われる、最初の池辺晋一郎さんの東洋民謡集に強く惹かれた。特に第2曲目のヌビア民謡デッサ・マストータ(緑の少女は行ってしまった)の変拍子と手拍子の効果に圧倒された僕は、すぐに東混の事務局の人にお願いして、楽譜のコピーをいただいた。
 僕は作曲もするので、しっかり勉強してパクって(失礼!でも作曲家はみんな先人の技をパクってそれを自分流に変えて発展させてきたんだ)、いつか、こんな楽しい曲を作ってみたいな。それにしても、こういう作品をやらせたら、東混にかなうものはないな。

 そして再び、新国立劇場合唱団が加わっての合同。今をときめく作曲家である信長貴富氏が構成し作曲した「呼び交わす言葉たち」は、2つに分かれた合唱の第一コーラスが、ドイツ語で歌われるブラームスの子守唄を歌うと、次に第二コーラスが長田弘作詞の日本語の曲「樫の木のように」を歌う。この二曲は和声を共有していて、三回目に両コーラスで合わせて歌うと双方ピッタリとハマるように作られている。二曲は、メンデルスゾーンの「歌の翼に」と「翼ある歌」という曲のコラボ。
 面白いアイデアだ。これは、同じようなものを自分で作りたいとは思わないが、この曲そのものをどこかで演奏してみたい。

写真 ドリームコンサートのステージ上の合唱団
Dream Concertから

 それから同じ信長貴富氏の「くちびるに歌を」と三善晃作曲の唱歌の四季と続いた。みんな親しみやすい曲で、東京混声合唱団が1956年創立(つまり僕が1歳の時)以来、65年以上も続いてきた背景には、こうしたレパートリーを邦人作曲家達と共に創り上げてきた歴史があるんだなと思った。若き俊英キハラ良尚さんの踊るような指揮も表情豊か。

いやあ、充実した一日でした。みなさん、お疲れ様!

写真 ドリームコンサート終演後の全員集合
Dream Concert終演後 充実の一日

「おにっころの冒険」子供との熱い日々
 先週は、7月26日火曜日が高崎で「おにっころの冒険」のワークショップ、27日水曜日が初台の新国立劇場内でDream Consertの練習、28日木曜日が再び高崎、29日金曜日と30日土曜日が初台と、日替わりで高崎と初台を往復した。

 「おにっころの冒険」は、まず26日の2度目のワークショップで、全てのセリフと歌のソロの割り振りをし、立ち稽古を行って、28日は、その内容を深めていった。子供のテンションはもの凄いが、子供の唯一の欠点は、
「何かをやらせればすぐできるが、忘れるのも早い」
ということだ。だから、何度も何度もやって体に叩き込むのみ。こっちもめちゃめちゃエネルギーを使うぜ。

 鬼の大将を演じている桑原康太郎君3年生には演歌調のソロ曲がある。彼は声も大きくて演技も立派なので、扇子を使って和風の踊りを踊ってもらいたいが、どうしようかなあと思っていた。すると、立ち稽古の流れの中で何も言わずに歌い始めさせたら、彼はきちんと振り付け付きで歌っている。
 あまりに素晴らしいので、一同、
「おおー!」
と大歓声。
実は、親が気を利かせて踊りを付けてくれたそうだ。いやあ、みなさん、やる気満々で嬉しいよ。

 畑羽胡(はた わこ)ちゃんと畑帆々(はた ほほ)ちゃんは双子で共に3年生。あまりに似ているので、どっちがどっちだか分からない。それでね、御荷鉾(みかぼ)山頂の鬼の場面では、ふたりには全く同じ鬼の格好をさせて、同じ金棒を持たせて、僕が振り付けのようなものをして、いつも同じ動きをして目立つように仕向けた。こういうのが楽しいんだ!

 7月28日木曜日のワークショップの後は、第2部でソロをしてくれるテノールの田中誠さんが来て、ピアノ伴奏の小林直子さんの伴奏でイタリア歌曲とナポリ民謡の合わせをした。
 外は土砂降りの雨ともの凄い雷で、時折稲妻で田中さんの顔が照らされるほどだが、合わせは淡々と進められた。

 田中さんの歌に独特の味わいがあるのは「きすけのアリア」などでお馴染みだけれど、僕同様にイタリアが大好きな彼から出てくる・・・なんだろうな・・・イタリアへの愛かな・・・それとも・・・うたそのものへの愛かな・・・彼のうたを聴くといつもしあわせになるんだ。早くこれをひとりでも多くのお客様に聞かせたい!

 8月5日金曜日、最後のワークショップがあり、6日土曜日から本会場の高崎市文化会館に入る。本番は8月7日15時から。第一部が「おにっころの冒険」。第二部が、新町歌劇団の「日本のうた」と田中誠さんの「イタリアのうた」。そしてその後のサプライズ!絶対に楽しいから、みんな来てね!

そんなわけで、Dream Concertが終わってもまだまだ、僕の暑い夏は続く!



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