僕の年末年始

三澤洋史 

写真 三澤洋史のプロフィール写真

僕の年末年始
 この原稿を書いているのは2023年1月10日火曜日午前中。最後の原稿更新日が12月26日月曜日で、翌週1月2日月曜日は、新年のためお休みして、本当は2週間後の1月9日月曜日に更新原稿を書くべきであったが、昨日まで白馬で「マエストロ、私をスキーに連れてって」2023Aキャンプが行われていたため、今日になってしまった。その間の僕の日程を簡単に列挙してみる。

12月27日火曜日
NHK交響楽団第九演奏会・最終日 於サントリーホール。井上道義さん渾身の出来。みんなも感動しながら演奏した。井上さん!これで最後の第九なんて言わないで、もっとやってよ!

12月28日水曜日
オフ日。明日からの準備をいろいろする。

12月29日木曜日
次女の杏奈とふたりで「あずさ号」に乗って白馬を目指し、午後から五竜「とおみゲレンデ」に出る。

写真 山の上の方が霧の五竜とおみゲレンデ
五竜とおみゲレンデ

上部のアルプス平は霧でけむっているようなので、半日下部で滑る。
さらに、定宿のペンション・カーサビアンカでの夕食が終わってから、ナイターで滑る。
ライトに照らされたゲレンデは幻想的!

写真 ライトに照らされる夕方のゲレンデ
幻想的ナイター準備と圧雪車

夜は、いつも通り「呑み処おおの」で、蕎麦焼酎そば湯割りから始まり、「十九」「亀齢」などの極上の日本酒に舌鼓を打つ。

12月30日金曜日
朝から一日ゲレンデ。
僕と杏奈は、親友の角皆優人君の1日レッスン。
シーズン初のスキーなので、基礎の基礎を学ぶ。でも僕の中には新たな発見があった。ターン初動で新しい外足に乗る時、外足のアウトエッジを意識すると、ターン弧の上部が充実してきて、きれいな円が描けるようになるのだ。

午後から残りの家族が来て、滑り始める。午後のレッスン修了後は、長女志保、孫娘杏樹と共に滑る。
妻の千春は、今年はサポートに徹することを決めたようだ。

12月31日土曜日
五竜スキー場と上部でつながっているHakuba47(フォーティ・セブン)の方へ行って、全員(3.5人)で一日滑る。
全長2500メートルで上部では絶景が広がるルート1を、上部から麓まで滑り降りるのは実に気持ちが良い。
山の中腹では、ハーフパイプやジャンプ台などがあって楽しい。

妻は、安曇野の絵本美術館「森のおうち」まで車を走らせて行ってきた。

夜、8時から、地下の「呑み処おおの」の巨大なスクリーンで、第九を見せていただく。
何度も本番をやったので、今更発見もないだろうと思っていたら、そういえば、前から撮された井上さんの表情は見たことがなかった。
実に表情豊かで新鮮だった。
合唱も、みんな頑張っていたね。ありがとう!

1月1日日曜日
カーサビアンカの朝食でお雑煮が出たのは嬉しかった。
スキー場で迎える生まれて初めてのお正月!
今日は朝から八方尾根スキー場に行く。
実は、こんなに白馬に来ているのに、八方で滑るのは初めてなんだ!角皆君が五竜にいるので、どうしても五竜ばかりになってしまったからね。生まれて初めて尽くしのお正月。

巨大な山全体に様々なゲレンデが広がっているのに驚く。
しかし、その日は朝から強風で、兎平(うさぎだいら)など上部のリフトは動いていないし、僕たちが滑り始めてすぐにゴンドラも止まった。
風は猛烈でゲレンデは雪煙で覆われ、杏樹は簡単に吹き飛ばされた。そのまま空中を飛来していくかと思われて焦った。

写真 八方尾根ゲレンデで強風で転ぶ杏樹
八方上部の爆風

八方は、いろんな意味で「昭和のスキー場」だと思った。
ゲレンデ自体は魅力的なのだが、リフトは遅いし、リフト券のゲートはクワッドで2台、ペアで1台しかない。
しかもゲートを通り抜けたと思ったらリフトまでの距離が極端に近く、すぐ次のリフトが来てしまうので、みんな乗り切れず、混んでいるのに空のリフトが何台も行くのが残念だ。

その点、エスカルプラザという大きなスキー・センターがあり、高速クワッド「スカイ・フォー」で一気にとおみゲレンデ上部まで連れて行ってくれる五竜の近代的設備は、「人にやさしい」と思った。

1月2日月曜日
主にいいもりゲレンデのスカイ・フォーで上部に上がっては、中腹にある、角皆君が初級および中級のコブ・キャンプのために作っておいたコブ斜面に入って行った。
緩いコブとはいえ、孫の杏樹が結構平気で滑ってくるのに驚いた。

スキーを半日で切り上げて、妻の運転で群馬に向かう。
妻のお母さんが独りで住んでいる家で、おせち料理。
カーサビアンカの食事に慣れていたので、実に新鮮!

1月3日火曜日
午前中、僕の実家に寄る。
実家は、姉が独りで住んでいる。病に伏していたため、免疫力の弱くなっている姉のためを思って、帰郷を控えていた。
本来僕は長男だから、年末年始は田舎で過ごすべきなのだけれど、今回は帰らずにスキー場で過ごしたというわけ。
それから久し振りに東京の家に帰った。

1月4日水曜日から6日金曜日まで3日間
新国立劇場で、
14時から「タンホイザー」、
18時から「ファルスタッフ」の合唱音楽稽古。
スキー場から帰ってきて、ごくごく普通に、本来の仕事に戻るのに何の違和感も感じない。

第九で、東京オペラ・シンガーズは良く僕の指導に従ってくれたが、こうして古巣に戻ると、すでに20年以上も合唱指揮者として指導している新国立劇場合唱団は、ひとつ言えば「10」分かってくれるから楽ではある。
しかし、ドイツ語の発音から始まり、細かいニュアンスに至るまで、妥協しないで仕上げようとすると、まだまだやることは山ほどある。
「角皆君の目から僕たちのスキーを見ると、きっとこんな風に、ツッコミどころ満載なんだろうな」
と、思いながら指導する。
彼の忍耐強くきめ細かい指導を受けていると、
「まあ、このくらいできれば上出来かな」
と、あきらめてしまうことは、合唱団員を侮ったりことでもあり、かえってプロに対して礼を欠くことだと思って気を引き締める。

 
1月7日土曜日~9日月曜日
またまた白馬に帰って来た。
ペンション・カーサビアンカのマスター大野さんは、僕たちの車が入ってくると、
「お帰りなさい!」
と出迎えて挨拶する。
「ただいま!」
と僕は答える。

今日の午後から3日間の「マエストロ、私をスキーに連れてって2023」Aキャンプだ。



宿泊がカーサビアンカではないため、今回の参加者は少ないが、その分、きめ細かなレッスンが施され、終了時には、各自、明らかな進歩が見られたのは驚きだ。

孫の杏樹は、7日午後の時間は、かつてA級モーグル選手だった松山さんに預けて、コブ斜面の個人レッスンをしてもらった。そうしたら、きちんとストックを突いてコブを落ち着いて滑れるようになっているではないか!

続く8日と9日は五竜のキッズ・スクールの1日レッスンにそれぞれ入れた。そしてまた上手になって帰って来た。やばい、もうすぐ抜かされる!



でもね、かつて、志保にピアノを抜かされた時の記憶が甦ってくる。
ヴォータンが、自分の槍をジークフリートに折られた時の心境だね。ちょっと悔しいけれど、
「行くがいい。もうお前を止められる者は誰も居ない」
という感じ。

角皆君は、「私のスキー教程・第2巻」というDVDを最近作ったが、彼のフォームは完璧だし、彼自身のスキーヤーとしてのテクニックも、僕と同じ歳ながら益々磨きが掛かっている。同時に、それを人に教えることにも同じだけの情熱を持っている。

今回のキャンプでは、全員が声楽に携わっているメンバーだったので、講演は、スキーと歌をつなぐ内容に絞られた。
僕が強調したことは、スキーと音楽をつなぐにあたって、その音楽とは、実はかなり具体的な技術論に限定されることである。

たとえば、「フレーズをどう形成するか?」とか、それについては具体的に、横隔膜や軟口蓋をどう使って、アクセントやクレッシェンドやディミヌエンドなどを調節していくか、といったイメージに、僕自身はスキーのターンの時に使うキレやズレのテクニックをリンクさせるのである。

それから、具体的にベルカント(声楽的テクニック)のことに触れて、レナート・ブルソンやペーター・シュライヤーの歌などを説明付きで聴かせた後、最後にオマケとして、日本の歌手達の中でベルカントのレベルの高い人たちの歌を聴かせた。
これが実は大好評で、みんな、僕の言わんとしていることが良く分かったようだ。

ちなみに僕が例を挙げて聴いてもらった日本の女性歌手達は以下の通り。
   倍賞千恵子
   山本潤子
   白鳥英美子
   夏川りみ
   渡辺真知子

これはまた2月のBキャンプでも披露するつもりだ。さらに2月では弦楽器をやっている人たちも加わってくるので、そちらの方にも話題を広げてみようと思っている。

 ということで、今この原稿を書いている1月10日火曜日からは、またまた「タンホイザー」と「ファルスタッフ」の音楽稽古が始まり、12日木曜日から「タンホイザー」の立ち稽古が始まる。ゲレンデも新国立劇場も僕の中では常にリンクしている。

今年も、全ての事に、誠実に、全身全霊を傾けて、打ち込んでいきたいと決心している「今日この頃」である。

みなさんよろしく!

写真 新国立劇場「タンホイザー」チラシ表 写真 新国立劇場「ファルスタッフ」チラシ表
新国立劇場 「タンホイザー」 「ファルスタッフ」
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